銀河戦記/脈動編 第十一章・共同戦線 Ⅲ
2022.08.20

第十一章・共同戦線




旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルク(戦列艦)
 司令   =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐
 艦長   =ランドルフ・ハーゲン上級大尉
 副長   =ゲーアノート・ノメンゼン中尉
 レーダー手=ナターリエ・グレルマン少尉
 通信士  =ヴィルヘルミーネ・ルイーゼ・ショイブレ少尉
戦列艦フリードリヒ・ヴィルヘルム
 ヴェルナー・シュトルツェ少佐


 クラスノダールの奪還に成功したアルビオン軍艦隊。
 惑星周辺に展開して、敵艦隊が引き返してくるかと警戒態勢を執っていた。
「ミュー族艦隊が、奴らを追いかけ戦闘になったもようです」
 副長のノメンゼン中尉が報告する。
 戦闘によって発生するエネルギー波を検知する計測器に反応する数値を読み取ったからだ。
「思い通りだ。互いに潰し合ってくれればいいんだがな」
 ケルヒェンシュタイナーが呟くように言う。
「ミュー族に情報を流した甲斐がありました」
「まあ、元々ミュー族も復讐戦を挑むつもりだったろうからな。情報に乗ったというところだろう」
 敵の両国を鉢合わせさせることに成功して、ほくそ笑む二人だった。
「奴らはいずれ戻ってくるでしょう。それまでに十分な迎撃態勢を敷いておく必要がありますね」
「後方の基地に応援を呼んである。奴らが引き返してくる前に到着するだろう」


「それよりも、基地の状態はどうなっているか?」
「滑走路はもちろんのこと、洞窟内も派手に破壊されている模様です」
「探査艇を降ろしてみるか……」
「たぶん奴らも探査していたでしょうね」
「そうだろうな。簡単にここを放棄したところをみると、利用価値がほとんどないと判断したのだろうしな」
「でも、奴らの探索隊が居残っているかも知れません」
 一応確認のためにと、探査艇が降ろされる。
 しばらく探査した結果、居残り組はいないことを確認した。
 その後、探索艇は艦に戻った。
 撤退した艦隊が戻ってくるかもしれないからである。


「本国より入電しています。暗号通信、只今解読しています」
「分かった。暗号解析室に行く。それまでここを頼む」
「了解」
 艦橋を離れて暗号解析室へと向かうケルヒェンシュタイナー。
「どうだ? 解読できたか?」
 暗号解析室に入ってくるなり尋ねるケルヒェンシュタイナー。
 エニグマ暗号解析機を操作していた通信士が、解読電文が記された紙をを手渡す。
 受け取って、黙読するケルヒェンシュタイナー。
「ふむ。やはり、そうきたか……」
 読み終えて、傍らの裁断機に投げ入れて退出し、艦橋へと戻ってゆく。

「どういう連絡でしたか?」
 ノメンゼン中尉が尋ねる。
「この惑星は、ミュー族及び天の川人に対しての防衛拠点となりうる。是が非でも死守せよとの命令だ」
「当然の反応ですね」
「応援の艦隊が到着するのは、二百五十六時間後とのことだ。それまで何とか守り抜くぞ」
「ミュー族と戦闘して艦隊数を減らしてくれていればいいのですけど」

 約三十時間後。
 レーダー手のナターリエ・グレルマン少尉が気づく。
「前方に感あり! 艦影多数!」
「なんだと! 奴らが、もう戻ってきたのか?」
 信じられないという表情をするケルヒェンシュタイナーだった。
「早すぎます。ミュー族との戦闘があったのなら、こんなに早く戻れるはずがありません」
「とにかく、戦闘配備だ!」
 慌てて艦内を掛け回る乗員達。

「敵艦隊内に、サラマンダーを確認!」
「何だと? 生き残っていたのか」
「軽巡洋艦スヴェトラーナも……確認しました」
「馬鹿な! 奴ら共闘するつもりなのか?」
 驚愕するケルヒェンシュタイナー。
「サラマンダーから映像通信が入っています」
「何だと?」
 通信士ヴィルヘルミーネ・ショイブレ少尉の言葉に、戸惑いを見せつつも、
「つ、繋いでくれ」
 通信回線を開く様に指示する。
 通信パネルに姿を現わすトゥイガー少佐は、静かに言葉を申し送った。
『さてと、申し開きをお聞きいたしましょうかな』
 その質問に間髪入れず答えるケルヒェンシュタイナー。
「この惑星は、元々我らが先に入植したものだ。それをミュー族に横取りされ、さらにお前らに奪われた。取り返して当然ではないか」
『なるほど……』

 トゥイガー達の首都星イオリスの先住民は、どうやらアルビオン共和国の人々であろうし、タランチュラ星雲にまで踏破していたことを鑑みるに、彼の主張の道理は通っている。
 マゼラン銀河を時計回りと反時計回りと、銀河人とミュー族とがそれぞれ移民開拓競争を続けて、この地で出くわした。
 つまりこの惑星は、両国にとっては重要拠点となる地でもあるから、例え居住に適さなくても、是が非でも確保したいということだ。



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