銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅳ
2022.09.24

第十二章・追撃戦





 惑星アグルイスに近づくサラマンダー。
 すでに戦闘は終了したようだった。
「全滅させられたのか?」
「惑星大気の中に、大火球を確認しております。地上に降り立った可能性があります」
「逃げ落ちたかな」
「衛星軌道に国際遭難信号を出しているブイが回っています」
「敵味方を問わず助けを求めている者の声に応えないのは、海の男として恥ずべき行為だ。救助に向かうぞ、衛星軌道に入るコースを取れ!」
 進路変更した時だった。
「前方にワープアウトの反応があります」
 重力加速度計を監視していたオペレーターが警告した。
 進路を塞ぐように現れるミュー族旗艦スヴェトラーナ。
「スヴェトラーナより入電!」
「繋いでくれ」
 通信モニターに族長ドミトリー・シェコチヒンが映し出される。
「どういうつもりだ?」
 と怪訝そうなドミトリーだった。
「それはこちらが聞きたい」
 オウム返しに聞き返すトゥイガー少佐。
「アルビオンを助けるつもりだな」
 とのドミトリーの質問に、
「もちろんだ!」
 きっぱりと答える。
「奴らは、我らの宿敵だ。一人残らず根絶やしにするのが、我らの宿願。奴らを助けるというのなら、ここで戦うのも辞さずだ」
「助けを求めている者を見放さないのが我々の信条です」
「そうか、ならば仕方がない」
 そういうと通信が途切れた。

「奴さんはやる気ですね」
 ジョンソン准尉が緊張した声で言う。
「戦闘配備!」
 仕方がないなといった表情でトゥイガー少佐が応える。
「カニンガム中尉は、スヴェトラーナの行動パターンを記録しろ!」
 技術主任のジェフリー・カニンガム中尉に指示する。
 ドミトリーの行動の癖を記録して、ワープする場所を先読みできるようにするためである。
「回避行動を戦術コンピューターの量子乱数自動制御にしろ!」
「了解! 量子乱数自動制御にします」
 操舵手のジャクソン・フロックハート中尉が応える。
「回避行動をドミトリーに読まれないようにですね」
 副官のジェレミー・ジョンソン准尉が察知。
「戦闘配備完了しました!」
 艦長のマイケル・ヤンセンス大尉が立ち上がって報告した。
「どこから現れるか分からん。警戒を怠るな!」
 いつ戦闘が始まるのか?
 と息を飲むオペレーター達。
 額から汗が滴り落ちる。
 非情な時間だけが過ぎていく。

「右舷後方四時の方向に感あり! 何かがワープアウトしてきます」
「回避行動!」
「了解」
 操舵手が、量子乱数自動制御のスイッチを入れた。
 即座に自動制御による回避運動が始まる。
 ドミトリーは相手の考えていることを読み取る能力を持っているから、回避行動を先読みされたら意味がない。量子乱数による自動回避が必要不可欠なのである。
 サラマンダーは、姿勢制御ブースターを噴射して、糸の切れた凧のように乱れ飛んでいた。
 スヴェトラーナも現れては消えを繰り返して、サラマンダーを射程に捕らえようと苦心しているようだった。
「舷側砲塔の修理状況はどうなっているか?」
「左舷三番、右舷二番のレールガンが修理完了しています」
 輸送艦から呼び寄せた兵装技術官が報告した。
 舷側砲塔は、左舷には奇数番号と右舷には偶数番号が割り振られている。
「分かった。一旦作業を中止して、戦闘が終わり次第残りの砲塔の修理を続けてくれ」
「かしこまりました」
「二番・三番砲塔は、敵艦が目前に現れたら一斉射撃せよ」

 しばらく両艦のいたちごっこが続いていた。
 両舷の砲塔が適時火を噴くが、中々敵艦に命中できないでいた。

 激しい衝撃が艦橋を襲った。
「どこをやられた?」
「エンジン部に被弾! 火災発生! 出力ゲイン低下します!」
「機関要員は消火活動に専念しています」
「エンジンをやられたら奴の動きに合わせられません」
 ジョンソン副官が焦った様な声を出した。
「仕方がない。後方円盤部を切り離して、前方戦闘艦橋で戦う」
 そういうとトゥイガー少佐は、指揮官席を離れて前方部にある戦闘艦橋に通ずる転送装置に飛び込んだ。
 ゆっくりと円盤部が切り離されてゆくサラマンダー。
 円盤部の指揮を任された航海長のラインホルト・シュレッター中尉。
「円盤部切り離し完了! これより後方に下がる」
 戦闘宙域から離脱しはじめる円盤部。
 非戦闘員の多く残るこちら側を狙い撃ちされたらひとたまりもないが、国際人道法の順守を相手方が守ってくれることを祈るだけである。


 戦闘艦橋にたどり着くと同時に
「格納式三連装レールガンを出せ!」
 と即座に下令するトゥイガー少佐。
 艦尾よりからレールガンを載せた旋回砲塔が出現する。
「このレールガンは、奴さんも気づいていないはずだ」
 トゥイガーの潜在意識を読まれたとしても、封印していたこの兵装のことまでは読めてはいないだろうと考えたのだ。
 射程範囲は水平三百六十度、垂直方向百八十度、艦体をぐるりと回せば死角はない。

「スヴェトラーナのワープのデータが揃いました」
 カニンガム技術主任が声を上げた。
「よし、待ちかねたぞ。次に奴がワープしたら、出現予想地点に砲口を向けるように旋回せよ」
「了解」
 砲塔が旋回しはじめ、敵艦の予想出現ポイントに方向を向けて静止した。
「敵艦ワープアウト!」
「予想地点です!」
「撃て!」
 三連装レールガンが火を噴いた。



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