銀河戦記/脈動編 第十二章・追撃戦 Ⅱ
2022.09.10

第十二章・追撃戦





 戦闘宙域から後方に下がった空間に特務哨戒艇Pー300VXが浮かんでいる。
「データは取れたか?」
 艇長が確認すると、機器を操作していたオペレーターが答える。
「ばっちりですよ」
 右手に親指を立てるようにして掲げる。
「帰還命令が出ています」
 と、通信士のモニカ・ルディーン少尉。
「分かった。サラマンダーに戻るぞ」

 サラマンダー艦橋。
「哨戒艇、帰還しました」
 と、副長のジェレミー・ジョンソン准尉。
「よし。スヴェトラーナのワープ先は計算できたか?」
「はい。大丈夫です」
 技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が答える。
「ワープ準備しろ! スヴェトラーナを追うぞ!」
「了解しました」
 艦隊をクラスノダールに残したまま、サラマンダーの追跡行が続く。

 データ解析室。
 スヴェトラーナが、W.V.ハンブルグに対して行った戦闘記録を解析している技術者。
 その傍らでは、トゥイガー少佐が眺めている。
「どうだ?」
「はい。最初に出くわした時の戦闘記録と、今回のP-300VXが記録した分と合わせて解析していますが、今少しデータが足りないようです」
 申し訳なさそうに答える技術主任だった。
「もう一回やり合えば、データが揃うか?」
「ええ、まあ……たぶんですが」
「そうか、分かった。ともかく戦術コンピューターに入力しておいてくれ」
「かしこまりました」

 艦橋に戻ったトゥイガー少佐。
「まもなくワープアウトします」
 航海長のラインホルト・シュレッター中尉が伝えた。
「総員警戒しろ! ワープアウトで何が起きるか分からんからな」
 念のために警戒態勢を指示するトゥイガー少佐。
「了解。総員警戒態勢!」
「ワープアウトします」
 艦橋内に緊張が走る中、サラマンダーはワープを終えて、見知らぬ空間に姿を現わした。
「追ってきたは良いが、ここは初めてだな」
 トゥイガーが呟くと、
「周囲に反応ありません」
 レーダー手のフローラ・ジャコメッリ少尉が答える。
「重力震を感知しました」
 重力震とは、質量のある物体が爆発した時など、地震のように重力波(衝撃波)が伝搬する現象である。戦艦などが爆沈した時などに発生する。
「方角は?」
「ベクトル座標、x124・y236・z458です」
「よし、航路変更! 現場へ向かえ!」
「了解」

 現場急行したところ、あたり一面に撃沈した艦の残骸が散らばり浮遊しており、近くの恒星の重力に引かれて流れていた。
「戦闘は終わったのか?」
「どちらが勝ったのでしょうか?」
「残骸を確認しましたところ、アルビオン艦がほとんどのようです」
「奇襲を受けて、反撃の余裕もなかったか。それとも例の超能力ワープに翻弄されたのか?」
「その両方ではないでしょうか」

「左舷十一時の方角に戦火!」
「スクリーンに映してくれ」
「スクリーン望遠にします」
 映し出された宇宙空間の中で戦っている艦艇の姿。
「アルビオン軍旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグです」
 その周りを軽巡洋艦スヴェトラーナが、超能力ワープを駆使して攻撃を続けていた。
「近づいてみよう。取り舵三十度!」
 ゆっくりと転回しつつ、戦場へと向かうサラマンダー。

 戦場の後背には、恒星の光を受けて緑色に輝く惑星があった。
「あの緑色は植物か、それとも鉱物か?」
「調べてみます」
 生物学者のコレット・ゴベールが惑星地表を光学スペクトル分析を始めた。
「クロロフィルを確認しました。地表を多くの植物が覆っています」
「大気組成も動植物が生存可能な環境にあります」
 大気を調べていた技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が報告する。
 酸素21%、窒素77%、アルゴン0.8%、二酸化炭素0.04%などとなっており、地表温度35度、湿度20%、風速3m、恒星から受ける放射照度800W/m2……と、一見地上で宇宙服を着こむことなく暮らすに十分な環境であった。



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