妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の陸
2019.06.14


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪(金曜劇場)


其の陸 遭遇

「きゃあ!!」

 暗闇の彼方で悲鳴が起こった。
「あっちか!」
 悲鳴のした方角へと走り出す蘭子。
 やがて道端に蠢く人影に遭遇した。
 女性を背後から羽交い絞めして、人通りのない路地裏に引き込もうとしていた。
「何をしているの!」
 蘭子の声に、一瞬怯(ひるむ)んだようだが、無言のまま手に持った刀子で、女性の
首を掻き切った。
 そして女性を蘭子に向けて突き放すと、脱兎のごとく暗闇へと逃げ去った。
 追いかけようにも、血を流して倒れている女性を放っておくわけにはいかない。
「誰かいませんか!」
 大声で助けを呼ぶ蘭子。
 巫女衣装で出陣する時は、携帯電話などという無粋なものは持たないようにしている
からである。
 携帯電話の放つ微弱な電磁波が、霊感や精神感応の探知能力を邪魔するからである。
「どうしましたか?」
 先ほどすれ違った警察官が、蘭子の声を聞きつけて駆け寄ってきた。
「切り裂きジャックにやられました」
 地面に倒れている被害者を見るなり、
「これは酷いな。すぐに本部に連絡して救急車を手配しましょう」
 腰に下げた携帯無線で連絡をはじめる警察官。
「本部の井上警視にも連絡して下さい」
「わかりました」

 押っ取り刀で、井上課長が部下と救急車を引き連れてやって来る。
 被害者は直ちに救急車に乗せられて搬送されるとともに、付近一帯に緊急配備がなさ
れる。
 現場検証が始められる。
 その傍らで、蘭子に事情を聴く井上課長。
「犯人の顔は見たかね」
「暗くて見えませんでしたが、逃げ行く後ろ姿から若い女性でした。
「女性?」
「はい。確かにスカートが見えましたから」
「そうか……」
 と、呟いて胸元から煙草を取り出し、火を点けて燻(くゆ)らす。
 いつもの考え込むときの癖である。
「発見が遅れていれば……」
 これまでの犯行通り、腹を切り開かれて子宮などの内蔵を抜き取られていただろう。
「心臓抜き取り変死事件では、動機ははっきりしていたが、今回の犯人の目的は一体何
なんだ?思い当たることはないかね、蘭子君」
「はっきりとは言えませんが、やはり胞衣壺(えなつぼ)が関係しているのではないで
しょうか」
「建設現場から持ち去られたというアレかね」
「こんかいの事件は【人にあらざる者】の仕業と思います」
「スカートをはいた魔人だというのか」
「人に憑りついたのでしょう」
「まあ、あり得るだろうな」
 一般の警察官は【人にあらざる者】の存在など考えもしないだろうが、幾度となく対
面した経験のある井上課長なら信じざるを得ないというところだ。
 もっとも、表立って公表できないだけに配下の力は借りずに、大抵自分一人と蘭子と
の共同捜査になっている。
「これ以上ここにいても仕様がないので帰ります」
「部下に遅らせるよ」
「一人で帰れますよ」
「いや、犯人に顔を見られているかも知れないだろう。後を付けられて襲われるかもし
れない。そもそも女子高生を一人で帰らせるにはいかん」
「なるほど、ではお願いします」
 ということで、覆面パトカーに乗って帰宅する蘭子だった。

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