銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 V
2019.06.08


第三章 第三皇女


                 V

「共和国同盟の婚姻制度は非常に複雑なのですが……。他国の制度でみれば結婚状態に
あると言えます」
「婚姻制度のことは、私も存じております。そうですか、ご夫婦ということですね」
「そう考えていただいて結構です」
 アレックスが二人の間柄を結論づけた。
「ということであれば、お休みなられるお部屋もご一緒でよろしいですね」
 艦隊内では別室である二人だが、夫婦であることを認めた以上、断る理由もなかった。
 インヴィンシブルが首都星へ着くまでの間、三人はそれぞれの国家における風習や、
出来事などについて語り合った。
 そして出生についての話題が持ち上がった。
「つかぬことをお聞きいたしますが、提督の瞳ですが……。エメラルド・アイは銀河帝
国皇家にのみに、遺伝的に継承されてきたことをご存知ですか?」
「存じております。それを有するものは、帝国皇族に繋がる血統の証でもあると」
「その通りです。エメラルド・アイは限定遺伝する特殊な例の一つで、瞳をエメラルド
に誘導する発色遺伝子をX性染色体に持ち、かつまたその遺伝子を活性化させる遺伝子
をY染色体に持っています。そしてこの両遺伝子が揃ってはじめて、エメラルド・アイ
が出現するのです。ゆえに必ず男性のみに遺伝していきます。その出現率は非常にまれ
で、血縁同士の婚姻が常識のようになっている皇族においてこそのものなのです。つま
り私と提督とは親戚関係にあると言えます」
 その言葉は将来にも関わる重大な事実を意味するものであった。
 実際にもジュリエッタは、アレックスの人となりを考えると、銀河帝国の祖である
ソートガイヤー大公にも似た面影を見出していたのである。その戦闘指揮能力はもちろ
んのこと、人を活用させる術にも長けていることなども……。

 首都星アルデランが近づいてきた。
 さすがに首都星を守る艦艇の数も増えてくる。
「総勢百万隻からなる首都星の防衛を担う統合軍第一艦隊です。銀河帝国摂政にして第
一皇女のエリザベス様の指揮下にあります」
 やがてインヴィンシブルは、ゆっくりと首都星アルデランへと降下をはじめた。そし
て皇族専用の宇宙港へと着陸態勢に入った。
 宇宙港には、物々しい警備体制が敷かれており、空を対空砲が睨み、蟻一匹入れない
ように戦車隊や歩兵がぐるりと周囲を取り囲んでいた。
 戦争のない平和なはずの首都星における厳重な警備に、タラップを降りてきたアレッ
クスも、驚きの声を上げるしかなかった。
「この状況はどういうことですか?」
 思わず尋ねるアレックスだが、
「その件に関しましては、摂政の方からお話があると思います」
 ジュリエッタ皇女は、即答を避けた。
 何やら複雑な事情があるようだ。
 一行はインヴィンシブルに横付けされている皇室専用大型ジェットヘリに移乗し、宮
殿へと向かうことになった。
 数分後、眼下に広大な敷地を有した豪華な宮殿が見えてきた。
「アルタミラ宮殿です」
 立憲君主国制を敷く帝国における政治と軍事の中枢であり、皇族たちの住まいでもあ
る。

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