銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ III
2019.06.02


 新型モビルスーツを奪回せよ


                 III

 バイモアール基地に隣接されたカサンドラ訓練所。
 その全貌を見渡せる小高い丘の上に、身を隠すようにして崖縁から様子を伺っている
者達がいる。
 搾取された最新鋭のモビルスーツ奪回するために潜入している特殊工作部隊である。
 その一人が手にした双眼鏡の視界には、訓練所内で行き来する士官候補生達の動きを
捉えていた。

 水飲み場で顔を洗い、水を飲んでいる生徒がいる。
 小脇に出席簿を抱えた教官が声を掛ける。
「アイクとジャンはどうした?」
 体育教練に出なかった二人を探し回っている風であった。
「さあ……。どこかで昼寝してるんじゃないですか」
「またか、どうしようもない奴らだな」
「なんすかねえ。あのランドール提督の真似してるんじゃないすかね。提督も体育教練
をよくサボっていたっていうじゃないすか」
「馬鹿もん! 提督は、学力も運動神経も人並みはずれた能力を持っていたんだぞ。た
だそれを前面に出したくなくて、人知れず『能ある鷹は爪を隠す』をやっていたんだ。
しかしトライトン提督や士官学校の先輩であるガードナー提督は、その内面から溢れる
才能を見抜いてランドール提督を重要なるポストに抜擢したんだ。ランドール提督はそ
の期待に応えた」
 陶酔したような表情を浮かべて、ランドール提督を賞賛する教官だったが、
「あの……ランドール提督は敵になったのでは……」
 という生徒の言葉に、気を取り戻して軽く咳払いしながら、
「とにかく、二人を見かけたら私のところに来るように伝えろ」
 罰が悪そうに立ち去る教官であった。
 総督軍にとっては敵将となったとはいえ、英雄と称えられる数々の功績を打ち立てた
ランドール提督を真に敵視する者は、生徒はもちろんのこと教官の間でも誰一人として
いなかったのである。

 小高い丘の上。
 特殊工作部隊のいる場所から少し離れた所に、空を覆いつくすように広々と枝を伸ば
している巨木がある。
 木漏れ日が差し込むその根元で惰眠をむさぼっている二つの人影があった。
 養成所の訓練生であるアイクとジャンであった。
 大きな欠伸をして目を覚ますアイク、その動きにジャンも目を覚ました。
「こんなにいい天気の日に体育教練など野暮ってもんだな」
「格闘技でもあるまいし、全自動のプログラムが動かしてくれるんだ。体育教練などや
っても無駄じゃないか」
 青い空に流れる雲を目で追いながら、アイクがそう呟いたときだった。
「ほう……。たいした自信だな」
 突然女性の声がしたかと思うと、仰いでいた空が黒い影で遮られた。
 それは人の影だった。
 明るい所に目が慣れていたせいと、逆光のせいでその素顔を確認できなかったが、そ
の体格からしても女性に間違いない。
 しかし、顔面に突きつけられたのは自動小銃の銃口。
「そのまま動くな。でないと頭に大きな穴が開くことになる」
 身動きできなかった。
 周囲で物音がしているところをみると、他にも数人いるようだ。
 寝転がったままの状態で、身体を調べられている。
 おそらくジャンも同じ境遇だろう。
「武器は持っていないようです」
「よし、縛って木の根元にくくり付けろ」
「了解!」
 その人物が銃を降ろして後ずさりしたかと思うと、数人がかりで縛られた。
「立て!」
 そして引っ立てられるように巨木の根っこにくくりつけられた。
 何がなんだか判らないうちに……。
 そんな感じだった。
「隊長、暗号文が入電しています」
 下から上がってきた兵士が伝えてきた。
「判った、今行く。そいつらから目を離すな。監視を一人付けておけ」
「了解」
 逃げられて特殊部隊の存在を、訓練所に連絡されて困る。任務完了までは縛っておく
に限る。
 隊長と呼ばれた女性士官は下へ降りていって、岩陰に設営されたテントに潜り込んだ。

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