妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の参
2019.05.24


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪


其の参

 人通りの少なくなった深夜の雨降る街角。
 一人の女性が帰宅を急ぐ姿があった。
 追われているのか、時折後ろを振り向きながら急ぎ足で歩いている。
 突然目の前に現れた人影にぶつかってよろけてしまう。
「すみません」
 と謝って顔を上げたその顔が歪む。
 その腹に突き刺さった短剣から血が滴り落ちる。

 阿倍野警察署。
「連続通り魔殺人事件捜査本部」
 という立て看板が立てられている。
 会議室。
「切り裂きジャックだ!」
 会議進行役を務める大阪府警本部捜査第一課長、井上警視が怒鳴るように声を張り上
げる。
 夜な夜な繰り広げられる連続通り魔殺人事件。
 その惨劇さは、殺した女性の腹を切り開いて内蔵を取り出し、子宮などの内性器を持
ち去ってしまうという事件。
 1888年のロンドンを震撼させた切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)と手口
が全く同じという変質者の仕業であった。結局犯人は捕まらずに未解決事件となった。
 ロンドンでは売春婦が襲われたが、こちらではごく普通の一般女性であるということ。
 広報や回覧板及びパトカーの街宣などによって、夜間の一人歩きの自粛などが流布さ
れて、一部の自治会では自警団が組織されていた。
「心臓抜き取り変死事件と同じだな……やはり彼女の力を借りるしかないようだ」
夢幻の心臓

 土御門神社の社務所。
 応接間にて、春代と蘭子そして井上課長が対面している。
「……というわけです」
 事件の詳細を説明する井上課長だった。
「なるほど、切り裂きジャックですか……」
 蘭子もニュースなどで連続通り魔殺人事件のことは耳にしていたが、直接課長の口か
ら聞かされた内容は衝撃的であった。
「で、わざわざ伺われたのはいかに?」
 春代が実直に質問する。
 来訪目的は、うすうす感ずいているが、聞かずにはおけないだろう。

コメント一覧
コメント投稿

名前

URL

メッセージ

- CafeLog -