性転換倶楽部/性転換薬 XX(九)順調に転換中
2019.05.21


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(九)順調に転換中

 若返りのスピードが、この頃最大になっている。女性化のスピードとほぼ同調して
いるようだ。一日に二歳くらいの割合で若くなっている。
 現在のところ、見掛けじょうの年齢は四十歳くらいだ。都合十五歳は若くなった計
算になる。

 万が一を考えて、父親の病院に入院する事にした。
 あまりの急変貌に、体調もすぐれない日々があるからだ。それに、自分一人では治
療のできないこともある。父親なら、実情を知られても何ら問題はない。
 ただ、入院当初はわたしが息子の英一郎だということを信じて貰えなかった。親子
の間だけでしか知り得ない事柄や、幼い頃に負った火傷痕(消え掛けていたが)や、
例の記録写真を見せて、やっと信じてくれた。
「おまえが、性同一性障害者とは知らなかったな」
 誤解していると思ったが、説明するのが面倒なのでそういうことにしておく。性転
換など性同一性障害者しかしないからな。

 すでに睾丸は見当たらない。
 発生の過程で陰嚢に降りてきた逆のルートをたどって、体内に戻っていってしまっ
たものと思われる。やがて所定の位置に納まり、卵巣へと変化していくのであろう。
性転換であるから身体に吸収されて消滅したのではなさそうだ。ただ、たとえ卵巣に
なったとしても、染色体はXYのまま、つまり睾丸卵巣のはずであるから、果たして
生殖能力があるかどうかが問題だ。特殊な事例としてXY染色体の真正半陰陽の女性
が、妊娠したという報告もあるが、性転換薬がどこまで効果を発揮してくれかを観察
しよう。
 陰嚢はぺたりと肌に張り付いている感じで、脂肪が沈着して厚みを増していた。お
そらく今後は、女性の大陰唇として発達していくものと思われる。

 基礎体温表をつけることにする。
 卵巣や子宮の機能状態を調べるには絶対に必要なことだ。もっと早くからやってお
くべきだったが、うっかり忘れていたのだ。診察の判断材料にするために、病院の外
来患者に口が酸っぱくなるほど、体温表をつけてくださいと言い続けている医者が、
これじゃあ失格だな。医者の不養生というやつだ、反省しなければ。
 血中ホルモン濃度の測定。正常値よりかなり高いが、女性化の最中なので当然だろ
う。
 婦人科で行われる診察や治療が日常的になった。
 ちょっとふざけて妊娠検査をやってみたら陽性とでた。
 毎日女性ホルモンを投与しているし、内分泌器官から多量の女性ホルモンが出てい
る。早い話し性転換には、ホルモンバランスが妊娠状態にあったほうが都合が良いと
いうわけであろう。丁度妊娠三ヶ月くらいの妊婦に近い血中濃度がある。
「おめでとうございます。三ヶ月ですよ」

 由香里が、女物のパジャマを持ってきてくれた。
 家から持ってきていたパジャマは男物で、今の体形ではだぶだぶになってしまって
いたからである。
 しかし……。こんな可愛い柄着れないよ。
「似合ってますよ。おとうさん」
 とは言ってくれるのだが。
 まあ、一応個室なので病室にいる間は問題ないのだが、トイレに立つ時が恥ずかし
い。
 通路で行きかう患者はすべて女性だ。しかもほとんどが大きなお腹を抱えている。
 一般的には産婦人科と呼び慣わされているが、実際には産科と婦人科とに分かれて
いる。だから妊婦や産辱婦だけでなく、重度の月経困難症や子宮筋腫などで入院して
いる患者もいるが数は少ない。みんな総合病院などの大きなところへ行ってしまうか
らだ。
 それは当然のこととして、このわたしを見てどう感じているのだろう。性転換はか
なり進行しているとはいえ、まだまだ進化の途上にある。はたして女性としてどこま
で認知されるかどうか。
「大丈夫ですよ。ちゃんと女性に見えてますよ」
 と由香里は言ってくれているのだが……。
 それはさておいても……。
 立ちションができない!
 産婦人科だから男子トイレがあるはずもなく、便器は妊婦の利用を考えてすべて腰
掛式になっている。腰掛けて用を足すことになる。
 ペニスは小指の第一関節くらいの大きさにまで退縮して、まともに摘まむ事さえで
きなくなっていた。皮があつく被っており、そのままではとんでもない方向に小水が
飛んでしまう。何度便器や床をトイレットペーパーで拭った事か。
 しようがないので、その皮を剥いて尿道口を露出させて何とか無事に用足しができ
る。あまり良い感覚ではない。
 さらに、一度小水を出しはじめると、膀胱内のもの全部が排出されるまで、止める
事ができなくなっていた。どうやら、精管と尿道の合流点にあって、逆流を防ぐ弁の
働きをする前立腺が退縮して、その機能を失ってしまったようだ。

 若返りは、ついに三十五歳くらいにまでにたどり着いたが、そのスピードが鈍化し
てきた。女性化が進んで、完成に近づきつつあるせいだろう。それでも娘達より若く
なってしまいそうである。


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