性転換倶楽部/性転換薬 XX (二)
2019.05.08



性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(二)

 そして翌日だった。
 その研究員がスカートを履き、化粧して出社してきたのだ。産婦人科医であり社長
の私が、性同一性障害者に理解があると判断しての決断だろう。
 いわゆるカムアウト宣言だ。
 当然上司の課長は当惑して、上役の部長へ意見具申する。自分じゃ判断できないか
らと、さらに上の常務に、そして専務の英二の所へと届く。
「ああ、こんな用件なら社長に廻してくれ。親父の方が専門分野だからな」
 と結局、私の所まで上がってきたのである。
「社長、いかがいたしましょう」
 意見具申の相談を持ってきた、常務が尋ねる。
「常務。我が社の給与体系は知っているな」
「もちろんです」
「男女格差はあったかね」
「いいえ、ありません。当社は、新入社員から定年近いものまで、すべて能力主義を
通して給与を決定しています。男子と女子と一切区別をつけていません」
「そうだろう。ならば、性別不適合な人物がいても、それを理由にして彼を排除する
わけにはいかないだろう。どんな格好をしていても、優秀で会社の利益になる結果を
出す人間なら大いに結構じゃないか。こんなことぐらいで社長の私の所へ意見具申す
るなんて、君の判断能力を疑わなければならないな。優柔不断、決断力の欠如、経営
者側にいる重役としての資質に劣るかも知れない。君は世間体を気にしているようだ
が、断固として信念を突き通す彼の方が、よっぽどいいぞ」
 資質に劣ると言われて、常務の身体が緊張して震えているのが判った。能力主義と
いう会社の方針は、重役だろうが容赦はしないからだ。
 能力主義による給与体系から外れているのは、会社の株式を過半数押さえて経営権
を握っている、代表取締役にある私と副社長、そして専務の英二の三人だけだ。

 性同一性障害者とはいえ、研究所内でも類を見ないほど優秀な人材だ。何せ、里美
に投与したあの「ハイパーエストロゲン」と「スーパー成長ホルモン」を開発成功し
たんだからな。もっともあれ一人分を作るには天然ホルモン千人分が必要なのだ。だ
からそう簡単には作れない、未だ実験段階のまま、里美が最初で最後の成功例という
わけだ。引き続き、化学合成やバイオ技術で大量生産できるように、研究するように
指示している。彼女も、自分達と同じ悩みに苦しんでいる人々の為に、日夜鋭意努力
研究を続けている。もちろん研究に没頭できるように、社長直属の特別研究員として
研究室をあてがってやった。これなら誰も文句を言えないだろう。
 そして裏の組織での臓器摘出している時に、彼女と免疫型が一致する検体があった。
社内検診には血液を採取するから、ついでにHLAも調べ上げていたのだ。
 翌日、早速彼女を呼び寄せて言った。
「もし君が望むなら、性別再判定手術をしてあげよう。しかも脳死した女性の生殖器
を移植するという、正真正銘の性転換術だ。成功すれば、性行為はもちろんのこと、
妊娠し子供を産む事も可能だ。だが失敗の可能性もある。移植した性器がちゃんと機
能せずに、退縮してしまうかも知れない。その時は、再手術して通常の性転換術を施
す。どうだ、やる気はあるか? 今、この場で結論を出してくれ。臓器は保存できな
いからだ」
 すると即座に答えたのだ。よほど真剣に女性になりたかったのだろう。
「手術してください」
 というわけで、研究員は女性に生まれ変わり、戸籍も手配して女性にしてあげた。
 その後の彼女は、結婚して二児の母親となっている。当然勤務時間も、きっかり九
時から五時までで、一切残業はしない。次女の雪菜はまだ四ヶ月なので、社内託児所
に預けて、母乳を与える為に時折研究室を抜け出してくる。
 私は社長であると同時に、産婦人科医でもあるから、そんな子供を持つ女性達には
理解があるつもりだ。安心して研究に打ち込める環境を作ってあげている。

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