性転換倶楽部/特務捜査官レディー メイド修行(R15+指定)
2019.04.25


特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)


(五十三)メイド修行

 遺言状公開は夕刻からである。
 それまでの間は女性警察官に対して、メイドとしての最後の躾けが行われることに
なっていた。
 本当のメイドに付いて手取り足取り実地研修である。
 当日の今日は、当屋敷の正式なメイド服を着てである。
 フリルが施されたペチコートがわずかに覗くふわりと大きく広がったスカートスタ
イル。肩口はたっぷりと余裕を持たせたパフスリーブとなっており、両腕の動きも滑
らかにできて仕事に支障のないように仕立てられている。そして大きなリボン結びの
エプロンドレス姿は、これぞまさしくメイドといった風情がある。
 メイド服としての実用性以上に、豪華なドレスと呼ぶに相応しいものがあった。も
ちろんそれは、磯部邸の屋敷で働くメイドとしての格式でもあったのである。
 このような服を着るのははじめてという女性警察官がほとんどで、メイド服の仕立
ての時はキャピ☆ルン♪状態であった。
 たかが二三日の研修と捜査だけのことだというのに、磯部氏は一人一人全員のメイ
ド服をオーダーで新調してくれたのである。
「あなた達が警察官の制服に誇りを抱いているように、メイド達にも自分達の制服に
誇りと気概を持って働いて頂きたいのです。ですからメイド達全員にオーダーメード
し、心身共々しっかりと働いてもらいたい。それはまた、今回の女性警察官にもその
心情を理解してもらうために新調させて頂きました。健児が訪れたとき、少しでも疑
惑を持たせないようにしてもらいたいからです」
 ということだそうだ。

「俺は周辺地域の確認をしてくる」
 といって、敬は屋敷の外へ出て行った。
 今回の任務において、男性捜査員は屋敷内では活動できない。
 メイド以外には男性職員はほとんどいないからである。
 そこで、屋敷に隣接する住居に立てこもって屋敷の外回りの警備に当たることにな
っていた。
 事あれば、緊急配備や道路封鎖を行う手筈になっていた。
 また特殊傭兵部隊にいた敬にとっては、ビルの屋上から狙撃されるということも念
頭にいれていた。実際にも自分自身がニューヨーク市警本部長を狙撃したようなこと
が、あり得ないとはいえないからである。なにせ磯部氏の莫大なる遺産がからんでい
るのだから、あの健児ならやりかねないだろう。
 屋敷内の事はわたしが取り仕切ることになっていた。
「磯部氏にお会いします。どちらにおいでですか?」
「書斎ですよ」
 何気なく答える女性警察官だったが、
「だめ! メイドならメイドらしく、丁寧な言葉使いをしなさい。もうすでに始まっ
ているのですよ」
 とわたしは強い口調で叱責する。
「あ……。申し訳ございません。……、ご主人様は書斎においでになられます」
 かしこまって改めて言い直す女性警察官。
「そうそう、それでいいのよ。その調子で、今日一日しっかりと頑張ってください」
「かしこまりました」
 と深々とメイド式のお辞儀をするのだった。

「少し心配になってきたわね」
 たかがメイドと思うなかれ。
 作法や躾けはもちろんのこと、言葉使いから歩き方にはじまって、身の振り方一挙
一動に全精神を注がなければならない。
 相手はご主人様であり、大切なお客様なのであるから。

 広い屋敷内を歩き回って……といってもいいくらいの時間を掛けて、やっと書斎に
たどり着いた。
 大きな扉の前に立って、ノックして名前を伝える。
「斉藤真樹です」
 本来なら部屋付きのメイドがいるのだろうが、女性警察官への研修に回っているの
である。
 磯部氏とも了承済みのことである。
「入りたまえ」
 返答があって、扉を開けて中に入っていく。
「遅くなって申し訳ありません」
「構わないよ。君の任務が始まるのは、響子を迎えにいってからだ」
 磯部響子の専属メイド。
 それが今回のわたしに与えられた任務である。
 付きっ切りで身辺警護を担当する。

「響子さんをお迎えに行かれるのは何時からですか?」
「これからです。たぶん午後三時頃には戻ってこられると思います」
「それまでにはこちらの準備を終わらせておきます」
「たのみます」

「ひろしは……いや、響子だったな……。響子は、私を許してくれるだろうか?」
 京一郎氏は、母親殺しに至った孫のひろしに対して、祖父として何もしてやれなか
ったことを後悔していた。実の娘である弘子を殺されたことと、手に掛けたのが孫の
ひろしということで、人間不信に陥ってしまっていたのである。
「磯部さんの気持ちは判ります。響子さんだって、自分のしたこととして反省をすれ、
祖父であるあなたを恨む気持ちなどないでしょう。双方共に許しあい手を取り合えば
気持ちは通じるはずです。血の繋がった肉親ですからね」
「あなたにそういってもらえると少しは気持ちも治まります。ありがとう」
「どういたしまして」
「それでは、響子を迎えに行くことにしましょう」
 ということで、磯部氏は出かけていった。


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