性転換倶楽部/特務捜査官レディー 手を上げろ!(R15+指定)
2019.04.02


特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(四十三)手を上げろ!

 きしきしとベッドが鳴る。
 男優がすぐ間近に近づいてくる。
 さすがに心臓が早鐘のように鳴り始める。
 あ……ああ。
 捜査のための囮とはいえ、やはり後悔の念がまるでないとは言えない。
 ごめん、敬……。
 貞操を汚されることにたいして、敬には許してもらいたくも、もらえるものではな
いだろう。
 ごめん、敬……。
 何度も心の中で謝り続けていた。

 そしてついに男が身体の上にのしかかってきた。
「おい。頬を引っ叩いて目覚めさせろ。眠っていちゃ、いい映像が撮れねえよ」
 カメラマンが忠告する。
「判った」
 ちょっとお、わたしは敬はおろか、母親にだってぶたれたことないのよ。

 その時だった。
 部屋の扉がどんどんと叩かれたのだ。
「なんだ?」
 一斉に扉の方に振り向く男達。
 そして次の瞬間。
 扉がバーン! と勢い良く開いて……。
 敬だった。
「何だ! 貴様は?」
「おまえらに答える名前はない」
 と背広の内側から取り出したもの。
 拳銃だった。
 え?
 敬、それはやばいよ。
 ここはアメリカじゃないのよ。日本なのよ。
 取り出したのはS&W M29 44マグナムだ。
 敬の愛用の回転式拳銃である。
 その銃口が男達に向けられている。
 さすがに男達も驚き後ずさりしている。
「か弱き女性に手を掛ける極悪非道のお前達に天罰を加える」
 と、問答無用に引き金を引いた。
 一発の銃声が轟いた……。
 ……はずだったが、銃声がまるで違った。
 実弾はこんな音はしないのだが……。
 振り向いてみると、裸の男優の胸が真っ赤に染まっている。
 驚いている男優、そしてそのまま倒れてしまった。
 それを見て、他の男達が怯え震えながら、
「た、助けてくれ!」
「い、命だけは」
 と土下座して懇願している。
 つかつかと男達に歩み寄っていく敬。
「この外道めが」
 と、軽蔑の表情を浮かべ、当身を食らわして気絶させてしまった。
 そして、
「おい、真樹。大丈夫か?」
 と声を掛ける。
「大丈夫も何も……。計画が台無しじゃない」
 ベッドから降りながら、敬に詰め寄る。
「もう……。これじゃあ、こいつらからアジトの情報を得ることができなくなったじ
ゃない。せっかくわたしが囮となって潜入した意味がないわよ」
「だからと言って、真樹が犯されるのを黙ってみていられると思うか? おまえだっ
て俺のそばで他の男に抱かれたいのか?」
「それは……」
 急所を突いてくる敬。
 ここで肯定したら関係がまずくなるのは間違いない。
 声がかすれてくる。
「で、でも……。アジトが判らなくなったわ」
「それなら何とかなるだろう」
 と、後ろから声が掛かった。
 振り返ると、黒沢医師がのそりと部屋に入ってくる。
「先生。それはどういうことですか?」
「説明は後だ。ともかくこいつらを私の仕事場に連れて行く」
「仕事場って……。あそこですか?」
「そう……。あそこだ」
「判りました」
「ともかく目を覚まさないように、麻酔を打っておこう」
 と、手にした鞄を開いている。まったく……用意周到なドクターだ。
 それにしても男優はどうしたんだろう?
 敬の撃ったのは実弾じゃない。
 明らかにペイント弾だった。
「この人はどうしたの? ペイント弾が当たっただけでしょう?」
 胸を真っ赤にして倒れている男優を指差して尋ねる。
 それに先生が答えてくれた。
「ああ、撃たれて真っ赤な血のようなものを目にすれば、誰だって本当に撃たれたも
のと勘違いする。ショックを起こして気絶しても無理からぬことだろう」
「そんなものでしょうか?」
「ああ、銃口を向けられただけでも怯えてしまうくらいだからな」

 やがて麻酔注射を射ち終えた男達を運び出すことなった。
 奴らが乗ってきた車を探し出して分乗して、あそこへと向かうのだ。
 先生は一体何をしようというのだろうか……?

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