銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅱ 惑星間戦争
2022.11.12

第一章


Ⅱ 惑星間戦争


 時間は遡る。


 漆黒の宇宙空間。
 激しく明滅する光の乱舞。
 宇宙戦艦同士の戦いが繰り広げられていた。。
 優勢に戦闘を続けるケンタウルス帝国軍。
 対するは圧政からの解放を唱えるネルソン提督率いる反乱軍だった。

 ネルソン提督の乗艦するオリオン号。
 艦体の損傷激しく至る所で炎と煙を噴き出している。
「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!」
 機関長が悲鳴にも近い声で報告する。
「もはやこれまでか……。撤退する」
 全艦に撤退命令が出される。
「提督! 私がしんがりを務めます!」
 駆逐艦の艦長が進言して、帝国軍の前に立ちはだかって、オリオン号の撤退を促すようにしながらも、敵艦隊に攻撃を開始した。
 激しい攻撃に晒されながらも、提督を逃がそうと奮戦する駆逐艦。
 しかし集中砲火を浴びて、奮戦むなしく撃沈してしまう。
 その間に、オリオン号は無事に戦線の離脱に成功するのだった。
 艦の後方で閃光が広がるのを、唇を嚙みながら見つめるネルソン提督。
「君の尊い犠牲は無駄にしない」
 と駆逐艦が消えた宇宙空間に向かって敬礼する。


 太陽系連合王国首都星地球。
 アースウィンド城から小道がゆるゆると続く丘の上。
 一本の木がポツンと生えているその枝の上に一人の青年が腰かけてハーモニカを吹いている。
 と、丘の下の方から白馬に乗った女性が駆け上がってくる。
 木の下で馬を降りて、木の上を見上げながら、
「アレックス! また、ここにいらしたのね。降りてらっしゃいませ」
 声を掛ける。
「今、降ります」
 ゆっくりと木を降りようとする青年だったが、途中で枝がポキリと折れて地面に落下する。
「キャー!」
 悲鳴を上げる女性。
 地面に伏していた青年、土ぼこりを払いながらゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
 心配そうに見つめる女性。
「ええ、大丈夫……いっつ!」
 思わず肩に手を当てる。
 小枝で傷ついたのだろう、肩口から血が流れている。
「た、たいへん!」
 女性はポシェットの中からハンカチを取り出して傷口に当てがった。
 それだけでは流血が止まらないだろうと、青年はシャツの袖を引きちぎって、止血するように肩口をきつく巻いた。
「たぶんこれで大丈夫だ」
 ふと見ると、その肩口に、紋章のような痣(あざ)があった。
「これは?」
「この痣かい? 物心ついた頃から、すでに付いていたんだ」
 と言いながら痣を一撫でする。


 オリオン号提督室。
 スクリーンに映るアンツーク星を見つめている提督。
 艦の修理と資材調達を行うために、立ち寄ることにした星である。
 ヴィジホーンが鳴る。
 振り向いて操作スイッチを入れる。
「なんだ?」
『本国より入電。女王様が提督をお呼びです』
「うむ。繋いでくれ」
 やがてヴィジホーンのパネルに女王の姿が映し出される。
 提督、姿勢を正して敬礼する。
『戦時の急務の最中、わざわざお呼びして申し訳ありません』
「いえ。女王様のためなら、このネルソン。いついかなる時も、命を捨てる覚悟にございます。して、ご用件のほうは?」
『アムレス号の行方を極力手を尽くして探させていますが、今だ何一つ手がかりが掴めません。そちらでは何か掴めていませんか?』
「残念ながらこちらでも同様でございます「
『そうですか……。では、何かちょっとした事でも分かった時は直ちに連絡して下さい』
「かしこまりました」
 通信が途切れた。


 トラピスト星系連合王国首都星トランター、トリタニア宮殿。
 豪華に飾られた大広間の壇上に鎮座する女王。
 その周りを囲む大臣達。
 皆正面の大パネルスクリーンを見つめている。
 そこにはネルソン提督が映し出されている。
『それでは女王様。何かありましたら、至急ご連絡差し上げます』
「くれぐれも宜しくお願いします」
『はい。かしこまりました』
 ネルソン提督の姿が次第にぼけてゆき、パネルスクリーンは漆黒の宇宙空間に切り替わった。
「女王様。フレデリック様は、きっとご無事でございます。あの星々のどこかに、アウゼノンの手を逃れて生きていらっしゃいます。いつの日か、必ずお会いになれますとも」
 大臣の一人が慰めるように言った。
「そうだといいんだけど……」
 宇宙の遠方をどことなく見つめている。


 太陽系連合王国首都星地球、アースウインド城。
 満々と水をたたえた湖があり、湖畔には美しく咲き乱れる草花が生い茂っている。
 イレーヌとアレックスが白い馬に跨ってやって来る。
 イレーヌを抱えるようにて、アレックスが手綱を取っている。
「アレックス。もう痛くない?」
「大丈夫です」
「でも、どうして木に登ったりしたの? 危ないでしょ、もう二度と登っちゃだめよ」
 アレックス、しばらく黙っていたが、
「僕は赤ん坊の頃、あの木の根元に捨てられれていた所を、たまたま通りがかった王妃さまに救われて、貴女の遊び相手として育てられ今日まできました。しかし、幼い頃の僕は、いつしか母親が迎えにくるのではと、あの大木の側でずっと立っていました。僕は幼少の頃を大木と共に生き、共に遊びました。だからあの大木は僕にとって、母に似たものであって、この年になっても、今だ離れられないのです」
「アレックス……」
 空を見上げる二人。
 その空の一角が一瞬輝いたと思うと、やがて黒光りした宇宙戦艦が現れ、二人の頭上を大音響を上げて通り過ぎてゆく。
 イレーヌ、耳を塞ぎながら、
「お父様がお帰りになったんだわ」
 アレックス、黙って戦艦を凝視して動かない。
 やがて戦艦は丘の彼方宇宙空港のある方へと消えてゆく。
「アレックス、馬を出して。早く宮殿に戻って、お父様をお迎えしなくちゃ」
「分かりました。飛ばしますから、しっかり掴まっていて下さい」
「ええ」
 白馬に跨った二人は、宮殿の方へと急いでゆく。


 宮殿王女の間。
 椅子に腰かけたままイレーヌが髪を梳かせている。
「イレーヌ様。今宵の晩餐のお召し物はこちらなどいかがでしょうか? とってもお似合いでございますよ」
 従者がイレーヌの前にドレスを翳(かざ)してみせる。
「私の好みの色じゃないわ。別のにして頂戴」
「そうですかねえ。お似合いだと思いますけど……」
「いいから、別のにして」
 強い口調で断るイレーヌ。
「は、はい。では、こちらなど」
 とっかえひっかえドレス選びを続けるイレーヌだった。


 宮殿食堂。
 大広間の中央に大きな食卓があり、沢山の豪華な料理が並べられている。
 その上座にクロード王、角を挟んで王妃イサドラが座っており、その向かい側が王女イレーヌの席である。
 食卓を囲い込むように従者が並んでおり、末席にアレックスの姿もあった。
「イレーヌはまだか?」
 クロード王は苛立っていた。
「はっ。まもなくお見えになりますので……あ、只今お見えになりました」
 イレーヌ入ってくる。
 アレックスをチラリと見つめつつ、父親の側へ。
「おお。イレーヌか」
「お父様、お帰りなさいませ」
「うむ。お前はいつ見ても美しい。いや、前よりも増して美しくなった。まるで女神さまのようだ」
「ありがとうございます」
 従者が王女の椅子を引いて座らせる。


 晩餐が始まる。
 ふと思い出したように切り出すクロード王。
「そうだ! イレーヌに良い話があるぞ」
「まあ、いいお話とは何でございましょう」
 尋ねてはいるようだが、実は知っているような口調と表情のイサドラ王妃だった。
「実は、イレーヌの縁談じゃよ」
「縁談ですって!」
 驚きの表情を見せるイレーヌだった。
「その通り。相手は、アウゼノン陛下の甥にあたるお方だよ」
「まあ! 皇帝陛下の甥ですって?」
 相手の事までは知らされていない風の王妃。
「どうだ! 素晴らしい話だろ」
「ほんと、夢みたいなお話ですわ」
 イレーヌ、先ほどから黙り込んだままで、時々アレックスの方に訴えかけるような視線を投げかける。
「どうしたイレーヌ。嬉しくないのか?」
「え、ええ……」
「イレーヌには、結婚ということがまだピンと来ないのでしょう」
「そうだな。本人に会ってもいないし、喜べといっても無理なことかも知れぬ。とにかく祝杯だ!」
「おめでとうございます。イレーヌ王女様」
 従者一同が祝いの言葉を述べる。
 その中にあって、イレーヌとアレックスだけが見つめあったまま微動だにしなかった。


 宮殿庭内。
 イレーヌ、庭木の根元でしょんぼりと座っている。
 アレックスは、木にもたれかかるようにして、静かにハーモニカを吹いている。
「アレックス……」
 イレーヌの声掛けに、笛を吹くのを止めて、
「何でしょうか?」
「私、どうしたらいいのかしら……」
 ボソリと呟くイレーヌに返答の仕様がないと困ったように答える。
「どうしたらって?」
「結婚のことよ。このままだと私、皇帝陛下の甥とかいう方と結婚させられてしまうわ」
「そ、それは……」
 返答のしようがないアレックス。
 宮殿に住まわせて貰っているとはいえ、アレックスは一介の従者でしかないのだから。
「アレックス。平気なの? 私が、他の男性と結婚してもいいの?」
 イレーヌ、アレックスの目を見つめ、迫りよる。
 たじろぐアレックス。
「私、他の男性と結婚するくらいなら、死にたいわ」
「イレーヌさま……」
「どうして国王の娘として生まれてきたのかしら……」
 高貴な身分に生まれたことを嘆く王女だった。
 自分の意にならない政略結婚を迫られるのも高貴であるから。



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