銀河戦記/脈動編 第三章・第三勢力 Ⅰ
2021.11.06

第三章・第三勢力




 調査班からの報告を受けて、滅亡惑星は『イオリス』と名付けられた。
「イオリスを調査した班の報告では、このマゼラン銀河には敵対する二つの国家勢力が存在することが判明した。我々は、第三勢力としてその中に分け入るということになる」
「その勢力って、地球人類なのでしょうか?」
「彼の地の住民のDNA分析によると、地球人類のソレと同一性が確認されたので、その可能性は高い」
「我々より遥か以前に、移住してきたというわけでしょうか? 戦争難民的に……」
「それはまだ分からない。彼の地にあった書物、特に歴史書の解読が現在進行中である。おいおい、彼らの歴史もいずれ判明するだろう」


「敵対国家勢力がある以上、我々もその火中の栗を拾うことになりそうだ。今後は、惑星探索も戦艦を同行させる必要がある」


「イオリスを放っておくのはもったいないので、何とかして例の胞子殲滅計画を科学部に依頼する」
「殲滅って……。惑星を丸ごと焼却するしかないのでしょう?」

「胞子の存在しない地下とか水中とかに都市を作るって方法もありますけど」
「イオリスのことを、ここで議論しても詮無い事。科学部に任せることにして、我々は探索計画を進めようじゃないか」
「例の好戦的な勢力と遭遇したらどうしますか? 言語が分からなければ交渉もできないですよね」

「マゼラン銀河の橋頭保である、このニュー・トランターは是が非でも守らなければならない。敵が襲来した時のために、戦艦の造船と守備艦隊の編成が急がれる。また、シャイニング基地のような絶対防衛システムの構築も必要かもしれない」
「それも必要でしょうが、まずは好戦国の人口や軍事力を知る必要があるでしょう」
「当然だ。イオリスの歴史記録を調べれば判明するだろう。胞子殲滅の前にな」


 ニュー・トランターから大型輸送船の一部が回送されてきた。
 イオリスを居住可能な惑星にするための、胞子殲滅作戦が始動する。
 ニュートランターのシアン化水素を除去するよりも短期間で済むだろうと判断されたためだ。
 シャイニング基地と同様のエネルギーシールド発生装置が増築された。
 通常エネルギーシールドは衛星軌道上に発生させるのだが、これを大気圏内で発生させると雷放電のごとく周囲を数万度という高温にすることができる。
 雷撃で胞子を焼き尽くそうという作戦であり、胞子殲滅の後にはシールドを衛星軌道上まで上げて、惑星防衛に当たらせることになる。
 胞子がある間は、人間は地上に降りられないので、シールドタワーは大型輸送船の中で組み立てられて地上に降ろされる。
 無人の作業機械が、降ろされたシールドタワーを、定位置に設置してゆき、それぞれをケーブルで繋いでゆく。
 最後に核融合発電機を乗せた数隻の大型船が降下して、それらのケーブルを接続して準備完了である。

 作業に入ってから三年の月日が流れていた。

 イオリスから遠く離れた場所で、サラマンダー艦橋に置かれたエネルギーシールドの起動スイッチを操作する指揮官メレディス少佐。
 好戦的な国家勢力の存在が知られて以降、各植民星には最低一個小隊二百隻規模の艦隊が配備されることになったのだ。
 イオリスの警護担当となったメレディスには、胞子殲滅作戦の指揮も委ねられていた。
「準備完了です」
 副官のセリーナ・トレイラー少尉が、エネルギーシールドの配備完了を報告した。
「これまで結構時間が掛ったな」
「胞子のせいで人間が立ち入れなくて、遠隔操作ロボットによる作業ですからね。時間が掛るのは当然でしょう」
「胞子が殲滅できれば、シャイニング基地並みの基地を造成することも可能になるな」
 警報装置がカウントダウンを始めた。
『一分前……五十秒前……』
 そして、
『5,4,3,2,1』
「よし、ポチッとな」
 起動ボタンを押すと同時に、正面スクリーンに映るイオリスを見つめた。
 しばらく何の反応も見せないが、発動するまで時間が掛かるようだ。
「胞子殲滅まで何時間掛かるのでしょうか?」
「地上から上空に向かって、スキャンするようにシールドを上げながら焼却するからなあ……。ま、終了すればシステムが報告してくれるから待つだけだ」


 胞子殲滅作戦のために、大気は灼熱となっており地上も焼けて真っ赤に燃えている。
 放熱のために、一旦シールドを解除する。
「後は大気が冷えるのを待つだけですね」
 指揮官席でイオリスを眺めるメレディスの所に、サンドイッチとお茶を乗せたワゴンを運んでくるセリーナ。
「ああ、済まないね」
 サンドイッチを受け取って頬張りながら、
「冷えるには一か月は掛かるかな」
 と推測する。
 実際の所は、大地や海そして大気の比熱によって、冷却時間はそれぞれ違うだろうが、計算が終了するまえに決行日が来てしまったのだ。
「いい加減なんですね」
「敵勢力の存在があるからな。一刻も早く開発を終える必要があるんだ」
「早く終わるといいですね」
 二人静かにイオリスを見つめるのだった。

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