銀河戦記/拍動編 第一章 Ⅰ 王女イレーヌ
2022.11.05
第一章
Ⅰ 王女イレーヌ
太陽系地球は、西暦二十一世紀に勃発した第三次世界大戦で核兵器使用により灰燼に帰し、放射能汚染でまともに住めない星となった。数百年の年月を経て生き残った人々によって国家は再建された。
再び戦火を交えることのないようにとの強い願いから、すべての民族が一つに纏まり、統一政府地球連邦の成立となった。
さらに数百年後、月や火星などの地球外惑星などへの植民が開始され、それぞれ新たな惑星都市が誕生した。
それらをまとめ上げ、太陽系連合王国を設立させたのが、現国王クロードの直系で初代の女王、クロード・ド・ヴァロワ陛下である。
小高い丘の上に燦然と輝くアースウィンド城。
城を見上げる麓に広がる城下町の郊外にアースウィンド宇宙空港がある。。
空港に向かう道路には、黒山のような人だかりがあって、遥か先に空港が見えている。そこへ護衛艦七隻を引き連れたセルジオ艦が、今着陸しようとしているところだった。
砂塵を舞い上げながら、空港に着陸するセルジオ艦。
と同時に、昇降口にタラップが掛けられて、空港職員が空港ロビーまでの間にレッドカーペットを敷き詰めた。
空港ロビーからクロード王、イサドラ王妃、そしてイレーヌ王女が従者を引き連れて、タラップ下に並んで、弁務コミッショナーを出迎えている。
やがて、艦の乗船口が開いてセルジオが降りてくる。
「これはこれは、セルジオ閣下。こんな遠い所へ、わざわざ足を運んで頂いて誠に恐縮です」
クロード王が丁重な言葉で挨拶する。
「うむ。ところで、おまえがイレーヌか?」
イレーヌの方を向くが、黙ったまま答えない。
「はい。これが娘のイレーヌでございます。これ、ご挨拶なさい!」
イサドラ王妃が、焦ったような表情で、イレーヌを促す。
仕方なくといった表情で、軽く礼をするイレーヌ。
「ふむ。少し気の強いところがあるようじゃの」
「申し訳ありません。躾が至りませんで」
平謝りするイザベル王妃。
「気にするでない。なよなよし過ぎるのも面白みがないからの」
「は、はあ。その通りで……」
平謝りするクロード王。
とある酒場の密室。
テーブルを囲んで五人の男たちが話し合っている。
「やはり駄目だ! どうしてもセルジオに近づけない」
頭を抱える男。
「何を弱気なことを言っているんだ。どんなに警戒厳重でも、人間どこかに落とし穴があるもんだ」
「しかし、どうやってその落とし穴を見つけられるんだ」
「だから、それを探しているのじゃないか。とにかく、今回のチャンスを逃せば、二度とセルジオを倒すことは出来なくなるんだ! おい、アレックス! おまえはどうなんだ?」
後ろの暗闇に向かって男が叫ぶと、のっそりとアレックスが出てくる。
一同がアレックスに注目する。
「まず宮殿内にいるセルジオを討つことは出来ないだろう。やるならばセルジオが帰る時、宮殿から空港へ向かう途中だ」
理路整然と答えるアレックス。
「そうだ。その時以外に奴を倒すことはできない」
扉の外で、ゴトンと音がした。
皆が一斉にそちらを向く。
次の瞬間に扉が吹き飛び、銃を構えた兵士たちがなだれ込んでくる。
一人が銃を構えようとするが、兵士の銃撃がそれを弾き飛ばした。
苦痛に歪む男。
一同、兵士に銃を突き付けられ身動きできず、声をたてる者もいない。
「諸君らを反逆罪で逮捕する」
隊長らしき兵士が冷たい表情で銃を突きつける。
手錠を掛けられて連行されていくアレックス達だった。
王女の間。
「いやよ! 絶対に嫌!」
「イレーヌ。そんな事言わずに『はい』と答えておくれ」
王妃が懇願する。
「そうだぞ。何が不服なのかね。セルジオ閣下は、皇帝陛下の甥なのだよ。この話がまとまれば、我が王家も安泰を保証されたのも同然なのだよ。属国としてではなく、血縁で結ばれた対等の王国として認められることなのだ」
クロード王が説得する。
「何と言われても嫌なものは嫌!」
「イレーヌ! おまえという奴は!」
国王が平手でぶとうとするが、何者かによってその手を封じられる。
振り向いてみると、そこにいたのは……。
「セルジオ閣下!」
「どうやら随分と嫌われたようだな」
「申し訳ございません」
平謝りするしかない二人。
「いやいや、益々気に入ったぞ。じゃじゃ馬をならすのもまた楽しいものだ」
と高らかに笑うセルジオ。
二人も恐縮して苦笑するしかない。
「失礼します」
近衛兵が入ってきて、報告書をセルジオに手渡す。
それに目を通して、
「うむ。これは面白い」
とニヤリとほくそ笑むセルジオ。
「いかがいたしましたか?」
「今しがた入った報告によると、我らがアウゼノン皇帝陛下に反抗する地下組織の一味を捕えたそうだ」
「地下組織ですって!」
驚きの声を上げるイザベラ王妃。
「まさか我が王国に皇帝陛下に背く者などいるはずが……」
クロード王も冷や汗をかいている。
「だが事実として、こうして一味を捕えておるのじゃ」
「信じられません」
「無理もないな。宮殿内にスパイがいた事にも気づかなかったのだからな」
「スパイ?」
セルジオはイレーヌの方を向いて意味深な言葉を吐く。
「ところでおまえの側近は、今どうしておる? ほれ、背の高い若者だよ」
イレーヌ驚き、セルジオの言わんとしていることに気づく。
「まさか……アレックスが……?」
「そう、そのアレックス君だよ。ここに呼んできてはくれまいか?」
「あの……。今、城の外に……。ちょっと用事があるからって……」
イレーヌを嘗め回すように、
「ほう。城の外ねえ……」
と含み笑いをする。
牢獄の廊下。
暗く冷たい感じの牢獄の廊下。
所々に歩哨が立っている。
その廊下の向こうから数人がこちらへと歩いてくる。
その顔は分からない。
独房内。
暗く汚い部屋。
壁際に作り付けのベッドのようなものがあるだけ。
そのベッドの上にアレックスが腰かけている。
廊下の方で足音がする。
その音にドアの方に振り向くアレックス。
扉が開いてイレーヌが入ってくる。
「イレーヌ様!」
驚くアレックスと涙するイレーヌ。
「アレックス」
イレーヌ、アレックスの前に跪くように崩れ、見上げるように声を絞り出す。
「どうして……どうしてなの?」
アレックスが収監されていることを信じられない表情だ。
見つめあったまま動かない二人。
「私、お父様にお願いしてみます。出してもらえるように」
「それは無理だな」
背後から声がして、二人が振り向くとセルジオが立っていた。
「セルジオ様……」
セルジオ、一歩前に出ながら、
「こやつは反逆者だ。明朝に即決裁判に掛けられる。まあ、死刑は免れないだろうな」
「そんな……」
貴賓室。
壁一面のガラス窓から美しい夜景を見つめているセルジオ。
その後方で立ち尽くすイレーヌ。
セルジオ、振り返りながら、
「すると何かね。アレックスを釈放してくれというのかね」
「はい。それが叶えられないと仰るなら、せめて死刑だけはお許し下さい、お願いします」
「いくら王女の願いでも、これだけは難しいな。国家反逆罪は死刑というのが決まりなのだよ」
「そこを何とか……。もしお許し下さるならば、私……」
「うむ」
「私、セルジオ様との結婚を承諾しても……。だからアレックスをお許しください」
「イレーヌ。おまえと私との結婚は、すでに決まっているのだ。それを交換条件に出されてもなあ……」
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