梢ちゃんの非日常 page.20
2021.08.11

梢ちゃんの非日常(ルナリアン戦記前章譚)


page.20

雪だるま

 三十年ぶりの大雪が東部アメリカ一帯を襲った。梓達の住むニューヨークでは大停電によるパニックが起こっていた。
 ブロンクスの篠崎邸では、使用人達が総出で雪かきや雪下ろしの真っ最中であった。広い邸内に降り積もった大量の雪を処理するため、除雪車が雪をかき集めて後続のダンプに積載し、除雪車の通れない箇所ではブルドーザーがうなりをあげていた。機械が入らない所は、人力で行われている。そして、かき集められた大量の雪を積んだダンプは何処かへと運んでいく。
 これらの除雪機械部隊は、真条寺国際空港を抱える梓のところから、滑走路保全施設隊の一小隊が応援に差し向けられたものである。来訪のついでに、両家を結ぶ道路もついでに除雪してきたらしく、一条の道筋がきれいになっている。篠崎家にも建設機械メーカーや建設会社が配下にあるので、ブルドーザーなどを出すことが出来るのだが、いかんせんこの大雪で機械オペーレーターが足留めされているために、出動することが出来ないでいるのだ。各会社の倉庫・車両置場や建設現場には、”オペレーターいなけりゃただの鉄屑”と化した建設機械が、虚しく横たわったままになっている。
『こんなことならオペレーターを全員当直させればよかったわ。まさかこんなに降り積もるなんて予報は出てなかったもの。最近の気象は異常すぎる』
 とは、今朝になってその大雪に驚いた絵利香の後悔の弁である。
 とにもかくにも、篠崎重工アメリカのCEOである花岡一郎氏とも相談の上、ニューヨークとその近隣にある篠崎グループ各社に対して、緊急災害援助の大号令を発令する絵利香だった。篠崎グループの常任取締役に与えられた権限を発動したのである。

 大勢の人々が忙しく雪かきに汗を流しているその傍らで、絵利香と真理亜が雪だるま作りに精を出していた。二人で力を合わせて雪の球を転がしている。
 朝一番には緊急災害援助を発令した絵利香だが、後の事は現場の責任者達に任せておけばいいので、こうして真理亜の遊び相手を務めている。
『真理亜ちゃん。寒くない?』
『寒くないよ。ほら、汗もかいてるもん』
 そう答える真理亜の格好は、頭から毛糸の帽子にイヤーマッフルを被り、フード付きの防寒ジャケットにマフラー、手袋に防寒ブーツを履いて完全装備である。それで大丈夫だと思って絵利香が着せてあげたのだが、念のために本人に確認したのである。
 確かに真理亜はうっすらと額に汗をかいている。子供は風の子という通り、動きまわっている限りには心配無用のようだった。
 ころころ転がすたびに大きくなっていく雪だるまに、まるで魔法を見ているかのごとく真理亜を驚嘆させ、面白がって一所懸命に球を押して転がしている。
『こんなもんでいいんじゃない』
 絵利香が言っても、
『もっともっと大きくしようよ! 絵利香、力一杯押して』
 と催促する。
 やがて雪だるまは大きく重くなって、二人掛りでは動かせなくなった。
『これが限界よ、真理亜ちゃん。これくらいにしましょう』
『うーん。しかたないね』
 残念そうに動かなくなった雪だるまを見つめる真理亜。
『じゃあ、次ぎは頭の部分を作りましょう。今度は真理亜ちゃんひとりで作ってみて』
『うん!』
 絵利香に教えられた通りにまず芯を作ってから、それを転がして大きくしていく真理亜。
『もう動かないよ』
 小さな真理亜の体力ではそう大きな球は作れないので、頭の部分に丁度良い大きさになるだろう。そう思って一人で作らせたのだが、まだ少し小さかった。止まった位置からさらに大球のところまで転がして適当な大きさになったところで、大球の上に乗せることにする。
 下準備として大球の上部にくぼみを作っておくことも忘れてはいけない。そして、手が滑ったり、大球の上から転がり落ちて、真理亜に危害が及ばないように声を掛ける。
『真理亜ちゃん、危ないから少し離れていてね』
『わかった』
 真理亜が離れたのを確認してから、ぎっくり腰にならないように、十分腰を落として、呼吸をととのえ力をためて、
『よっこいしょ』
 といっきに持ち上げる。頭の部分は無事に胴体の上に乗り、雪だるまは出来上がった。
『すごーい! 絵利香、力持ち』
 パチパチと真理亜が拍手する。
『さあて、仕上げにお顔を作っておててをつけてあげましょう』
『うん!』
 早速用意しておいた顔の部品を雪だるまに張り付けていく真理亜。
 暖炉の付け火用の炭が眉毛、ゴムのカラーボールが目玉、三角に固めた雪をくっつけて鼻として、乾電池の口である。
 最後に古びた帚とはたきを突き刺して両腕にし、バケツを被せて帽子とした。
『ようし。こんなもんでしょ』
『うん! 完成だね』
 真理亜も満足げに自分達が作り上げた雪だるまを見つめている。
『記念に写真を撮りましょう』
 と、雪かきをしていた使用人を呼び止めてスマートフォンを持たせて、ポーズをとる絵利香と真理亜。雪だるまの斜前で、カメラに向かってピースサインを送っている真理亜、しゃがみ込んでその両肩を抱くようにしている絵利香。
『はい、結構ですよ。撮り終わりました』
『ありがとう』
『どういたしまして、それでは雪かきに戻ります』
 スマホを絵利香に戻して、一礼して自分の持ち場に戻る使用人。

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