梢ちゃんの非日常 page.19
2021.08.10

梢ちゃんの非日常(ルナリアン戦記前章譚)


page.19

『真理亜ちゃん、プレートに油を引いてちょうだい』
『わかった』
 テーブルの上のホットプレートに油を引いている真理亜。

 具材は、真理亜の大好きな牡蠣を筆頭に、いか・蛸・シュリンプ・キャベツ・わけぎ・紅生姜、そして豚肉である。
 絵利香の指示に従って、具材を生地に乗せていく二人。

 生地に串を刺して焼き具合をみている絵利香。
『そろそろいいかな……じゃあ、真理亜ちゃん。牡蠣を乗せてもいいわよ』
『うん。乗せるね』
 と、嬉しそうに答えて、牡蠣を一つ一つ乗せはじめる。
『梢にもやらせて』
 真理亜の隣で、その様子を見ていた梢が、じれったそうに頼んだ。
『いいよ。はい』
 牡蠣の入った器を少しずらして梢に取れるようにする真理亜。
 そして、
『熱いから気をつけてね』
 と、まるで絵利香のような口調で注意している。調理手伝いでは、真理亜の方が経験豊富なので、お姉さん気分になっているようだ。
 二人が生地にあたっている間に、グリルオーブンに火を入れる絵利香。お好み生地はプレート一杯に広がっていてひっくり返せないし、電磁プレートの熱量では厚くなった生地の全体に火を通すには力不足で、やはりオーブンが必要だ。


『それじゃあ、真理亜ちゃん。みんなに分けてあげて頂戴』
『はーい』
『あ! それなら私がやります』
 早苗が立ち上がる。
『ああ、いいのよ。真理亜にやらせてあげて。そうしないと納得しないから』
『納得?』
 首を傾げる大人達であったが、すぐに理由を理解することになる。
 真理亜は、お好み焼きをすぐに分けないで、切り身の上に乗った牡蠣を数えはじめたのである。梢も一緒になって数えている。牡蠣を乗せたのは幼児達なので、全体に均一でなく、切り身にもばらつきがある。一応各自三個ずつあての牡蠣を用意したのであるが……。
『1・2……4。じゃあ、これは梢ちゃんにあげるね』
 一番牡蠣の多かった切り身を梢に分けてあげる真理亜。
『ありがとう』
『次ぎは……3。それと半分ね』
 三個と半分では、梢よりも少ない。
 で、どうするだろうかと、一同が見守っていると、
『半分こは、牡蠣さんがかわいそうだから、一緒にしてあげましょうね』
 と言いながら、真理亜は隣の切り身から、残りの半分を箸でつまんで移してしまったのである。擬人法を使って自分の行為を正当化しようとする真理亜の言葉に、思わず吹き出しそうになるのをこらえている大人達であった。
『……4と。真理亜の分は、これでいいね』
 と、一人で納得して、他の人々の分を分けはじめる。自分達で多い所を取ってしまったので、後はどうでもいいらしく適当に皿に盛って各自に配っている。
『配り終わったよ』
『ごくろうさま。ありがとうね』
『どういたしまして』
『さあ、頂きましょうか』
『うん!』
 というと、自分の皿を引き寄せつつ、絵利香の膝の上に這いあがる真理亜。
 いつもなら絵利香の膝に座る梢も、真理亜がいるので梓の膝に座ることになった。
『でも梢ちゃんに先に譲るなんてえらいわよ。真理亜ちゃん』
『だって、お友達だもん』
『そうね。お友達は大切にしなくちゃね』
『うん!』
 真理亜が誉められているのを横目に見ながら、指を加え何か言いたそうな表情をしている梢。その様子を見ていた絵利香が、梢のその心情を察して言った。
『梢ちゃんもね。絵利香のお手伝いしてくれたのよ。とってもお利口なのよ』
『そうなの?』
『うん。梢、お手伝いしたよ』
 ここぞ得たり! といった明るい表情を見せる梢。
『そうか。梢ちゃんもえらいわよ。また一つお利口になったわね』
『えへへ……』
 自分もほめられて、頬を赤らめる梢。
 梢が手伝ったのは牡蠣を並べるなどたいしたことはしていないが、これくらいの年齢では、どれくらいお手伝いしたかということよりも、確かにお手伝いしたのだという記憶しか残っていないものだ。
 絵利香もその辺の子供心はよく理解しているので、事実だけを報告して、梢もほめてもらえるようにしたのである。幼児が二人いる時に、一人だけをほめることは、もう一人をひがませる要因になる。だからどんな些細なことでもいいから、平等にほめてあげることが肝心である。

 親の膝の上で牡蠣の乗ったお好み焼きをおいしそうに頬張る幼児達。
『これ、おいしいね』
 梢が舌鼓を打ち、呟く。
『でしょ。絵利香の作るおやつはとってもおいしいんだ』
 と、真理亜が答える。
 そりゃそうだ。好みの具材や味・食感など、真理亜の好みを知り尽くしているのだから。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
コメント一覧
コメント投稿

名前

URL

メッセージ

- CafeLog -