銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 V
2021.07.16
第八章 トランター解放
V
惑星トカレフに接近しつつある艦隊がある。
サセックス侯国内のサウサンプトン城主ニコラ・カーペンター伯爵率いる二百五十隻の艦隊である。
「惑星トカレフが見えてきました」
正面のスクリーンに漆黒の宇宙に浮かぶ青い惑星が映し出されていた。
「ほう、これが新しい領地か」
「しかし殿下の許可を得なくて大丈夫でしょうか?」
「これからの戦いは、殿下のなされている共和国解放の一役を担うものなのだ」
と、侵略行為を後付けで正当化しようとしていた。
バーナード星系連邦の敗退により、首都星は共和国同盟解放軍の手によって陥落したが、地方の領域には今まだ連邦軍が駐留して支配下に治めていた。
そんな地方に向けて、帝国の貴族達がアレックス殿下の共和国解放の名の下に、侵奪をはじめたのである。
「トカレフより戦艦。その数十五隻」
「さっそくお出迎えですか。しかし十五隻とはね」
「ここは首都星から遠く離れた辺境ですから。そんなに重要視していなかったのでしょうう」
「ふむ、ともかく戦闘配備だ」
連邦旗艦艦橋。
「おいでなすったぞ!」
と指揮官が叫ぶと同時に、
「全艦戦闘態勢!」
副官が応答する。
「十五隻対二百五十隻か……」
「どうしますか?」
「まともに戦ってはひとたまりもない。かといって、トカレフを放棄して撤退しようにも、帰る場所は既にない」
全滅しかない状況に、艦橋オペレーターは押し黙っていた。
「作戦どうこう言う状況ではないし、この際敵中のど真ん中に突入して暴れるか」
「いいですね。ランドール戦法とやらをやってみますか」
「ランドール戦法か」
「どうせ相手は、まともに戦ったことがないのです」
「よし!存分に暴れてやろう。全艦突撃!」
「全艦突撃!」
指揮官の号令に、副官が復唱して戦闘が開始された。
伯爵の戦艦艦橋ではひと悶着が起きていた。
彼らが普段から軍事訓練してきた戦法は、離れて向かい合って砲撃し合うというものだった。
「無茶苦茶だ!」
「戦闘というものを知らないのか?」
いわゆるランドール戦法は、手慣れていないと同士討ちになることもある。。
もっとも連邦側にしてみれば、それが狙いなのだ。
「全艦全速前進! 敵の中央に潜り込め!」
艦艇の絶対数で劣っている連邦としては、乱撃戦に持ち込んで同士討ちに誘い込むしかない。
連邦の作戦行動に驚愕の反応を見せる伯爵。
「馬鹿な、ありえない!」
「多勢に無勢、気がふれましたか?」
戦闘訓練では、向かい合っての撃ち合いが基本の帝国軍には、往来激戦など理解できなかった。
懐に飛び込まれて右往左往する間に同士討ちを始めた。
「思った通りだ。これで少しは長生きできるな」
「いつまで持ちますかね」
「ま、神に祈るだけの時間は稼げるさ」
「祈るのですか?神を信じているなんて意外です」
「俺は信じてはいないが、部下の中には一人ぐらいはいるだろう」
「ですかね」
「さてと、そろそろ反撃が来る頃だな」
冷静さを保っている艦及び冷静さを取り戻した艦を中心に反撃を開始した。
十五対二百五十では、まぐれ当たりでも損害率には大きな開きが出る。
次々と撃沈されていく連邦艦。
「味方艦全滅!この艦のみになりました」
「敵艦にどれくらいの損害を与えたか?」
「およそ八十隻かと」
「まあ、よくやったというべきだろうな」
帰る道を閉ざされている以上、降伏か玉砕しか選択肢はない。
「ようし!全速で敵旗艦へ迎え。ぶち当ててやる!」
「特攻ですか?」
「今更、降伏もないだろうからな」
「了解!機関全速、取り舵十度!」
「真っすぐ向かってきます!」
正面スクリーンに、猛スピードで迫りくる敵艦に、伯爵艦は慌てふためいている。
「回避しろ!」
「取り舵全速!」
「だめです。間に合いません!」
パネルスクリーンに目前に迫る敵艦。
「衝突警報!総員、何かに掴まれ!」
と同時に激しい震動が艦内を襲った。
艦内の至る所で、衝撃を受けて転倒する者が続出した。
「みんな無事か?」
「は、はい」
「艦内の損傷をチェックしろ」
「今調べているところです」
「敵艦はどうしたか?」
「粉々に砕け散ったもようです」
「こちらの装甲がより厚かったというところだな」
「それに敵艦はかなり損傷を受けていましたしね」
被弾した艦艇に残る将兵達の救助が始められた。
ある程度作業が進んだ頃合いを見てから、
「救助艦を残して残った艦艇を再編成してトカレフに向かうぞ」
侵略を開始した。
惑星トカレフ軌道上に展開して、揚陸作戦を開始する伯爵艦隊。
次々と降下してゆく揚陸艦の姿を、艦橋の正面のパネルスクリーンで確認する伯爵。
「守備艦隊はいないか?」
「いないようです。先ほど戦った相手が最後のようです」
「なら安心して占領できるな」
「占領とは……直接な言い方ですね」
「言いつくろっても仕方あるまい」
「ですな」
「降下部隊より連絡有り」
「報告しろ」
「行政府、放送局などの主要施設の掌握完了しました。惑星のほぼ三分の一を制圧しました」
惑星から次々と占領報告が上がってくる。
「そろそろいいだろう。艦を降下させろ。私自ら、陣頭指揮に立つ」
部下に先鋒を任せ、自らは後方に陣取って動かない。
安全が確保されと知るや、今度は自分の手で武勲を横取りしようというのである。
アレックスとは対照的な人物のようである。
宇宙港に着艦した旗艦の搭乗口が開いて伯爵が姿を現す。。
太陽が眩しいのかサングラスを掛け、パイプを咥えながら昇降エレベーターを降りてくる。
旧日本占領軍司令官ダグラス・マッカーサーさながらの、トカレフの第一歩だった。
降り立った伯爵を待ち受けていたのは、先鋒隊が現地調達で用意した車だった。
向かう先は放送局だった。
有線・無線を問わずすべての映像チャンネルが独占的に使用された。
数多くのTVカメラやマイクに囲まれて政見放送を行う伯爵。
「本日をもって、この惑星トカレフは銀河帝国アレクサンダー皇太子殿下の名の下に、我がニコラ・カーペンター伯爵の領地とする」
そんな政見放送を見つめる住民達の関心事は、税金をどれくらい取られることになるのか、増えるのか減るのか? という一点だけである。
他国によって侵略されているということに変わりはなく、それが連邦から帝国に変わっただけである。
かつての司令官エッケハルト少佐が住んでいた豪邸で、占領祝賀パーティーが開かれることとなった。
招かれた惑星各地の豪商や政治家達。
新しい支配者に媚びる姿勢は、いつの時代でも同様なことが繰り返される
酌み交わされる祝杯。
ただ一つ、朗報というべきものがあった。
バーナード星系連邦が占領地に設営していた、とある施設が廃棄されることとなったのだ。
授産施設である。
当地の女性を徴用して人口殖産に励むことを強制する連邦の制度。
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