銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 Ⅳ
2021.07.15
第八章 トランター解放
Ⅳ
サラマンダー艦橋。
正面スクリーンに投影される戦況。
まばゆい砲撃の光の数々。
その中には撃沈された艦艇の残骸や、艦から投げ出された将兵達の遺影も映し出されていた。
戦争の悲惨さを物語る光景であった。
すでに戦闘は終結を迎えようとしていた。
裏切りともいうべき旧共和国同盟軍の反撃によって、連邦軍はほとんど成す術もなく撃沈されていく。
「連邦軍より入電。降伏勧告を受諾する」
通信オペレーターが静かに報告する。
「よし。全艦戦闘停止」
オペレーター達が一斉に緊張を解いてリラックスする。
我らが指揮官の下、負けるはずがないと信じていたとはいえ、やはり勝利の瞬間は何度でも感動する。
パトリシアが近寄る。
「おめでとうございます」
「時間の問題だっただけだよ」
と言いながら、指揮パネルの通信端末を取り上げた。
受話器の向こうから応答がある。
『レイン少将です』
「ご協力ありがとうございました。おかげさまで勝つことができました」
『当然のことをしたまでですよ。将兵達も連邦軍のやり方には腹を据えかねていましたからね』
「早速ですが、降下作戦の指揮を執って頂きたいのです」
『お安い御用ですよ』
「助かります。作戦概要について協議したいので、こちらへご足労願いませんか」
『かしこまりました』
数時間後。
サラマンダーの作戦会議室にレイン少将を加えて集まった参謀達。
ちなみに、この会議場には皇女艦隊の面々は参加していない。
首都星トランターへの降下作戦は、あくまで解放戦線としての任務である。
皇女艦隊は、トランター周辺にて哨戒任務あたっていた。
パネルスクリーンにレイチェル・ウィング大佐が映し出され、メビウス部隊からの報告伝達が行われていた。
『現在、連邦軍守備艦隊との兵力はほぼ互角。旗艦ミネルバを主力とした攻略部隊を組織して、総統府への総攻撃を敢行しておりますが、市民を人質にして抵抗しており苦慮しております』
「人質か……。敵も必死というわけか」
『しかしながら、地下組織の応援を得て少しずつ市民を解放しつつあります』
「ところで、核弾頭ミサイルはまだ確保しているか?」
『はい。それを奪われ使用されてはトランターの破滅。例の秘密の場所に厳重保管してあります』
「それを聞いて安心した。これから降下作戦に入る。もうしばらく辛抱してくれ」
『了解しました』
レイチェルとの通信が終了した。
くるりと向き直り参謀達との会議をはじめるアレックス。
「……というわけだ。ミネルバ部隊が反抗作戦を開始して二十四時間が経った。補給物資も底をつきかけており、将兵達の疲労度も増している。すみやかに揚陸部隊を出して救援に向かわねばならない」
そこへマーガレットから連絡が入った。
「大変です。連合軍に参戦していた一部の帝国自治領主が、トランターに至る惑星を不正占拠し、簒奪を繰り返しています」
「なに、ほんとうか?」
トリスタニア共和国同盟所領内にあるバルラント星域にある惑星トカレフ。
首都星トランターから銀河帝国へ向かう輸送船などが、物資の補給でたまに立ち寄る程度の寂れた星である。
共和国同盟の敗北により、ここにも連邦軍の監視艇十五隻が派遣されていた。
かつての行政府には、監視艇団の司令官エッケハルト少佐が、連邦軍の命を受けて行政官の任に就いていた。
むろん政策は、連邦軍の法令にそって行われていたが、こんな辺ぴな星を訪れる中央政府役人はおらず、少佐は好き勝手放題の行政を行っていた。
中央に納めるべき税収の一部を着服して私腹を肥やし、さらに独自の税を創設して民衆から搾り取っていた。
行政府のすぐ近くに豪邸を建て、まるで貴族のような生活を過ごしていた。
だが、夢のような生活も終わりを告げようとしていた。
豪邸の一室。
ただ広い部屋の中、大きな窓際に大きな机が置かれてあり、一人の男が書類に目を通している。
バーナード星系連邦軍、バルラント星域監視艇団司令官、ムスタファ・エッケハルト少佐である。
机を挟んで向かい合うように立って報告書を読み上げているのは、副官のフリーデグント・ビッケンバーグ中尉である。
二人とも旧地球ドイツ系連邦人である。
「信じられんな……」
報告を受けて唸るように呟くエッケハルト少佐。
銀河帝国遠征艦隊がランドール艦隊によって全滅させられ、トランター駐留艦隊までもが敗れて、首都星トランターが奪還・解放された報がもたらされたのである。
「事実であります」
淡々と答えるビッケンバーグ。
「どうしたもんかのう」
「と、仰られますと?」
「我々の身の振り方だ」
「そうですね。いずれ掃討作戦が始まるでしょう。この地のように、連邦軍に占領された惑星を奪還しにきます。しかし我々には、この地を放棄しても、連邦に帰る術がありません」
「だろうなあ……」
頭を抱えるエッケハルト。
「答えは一つ。投降するしかないでしょう」
「しかし何もしないで明け渡すのも癪だ。迎え撃とうではないか」
と言いつつ立ち上がる。
「どうせなら、綺麗に終わりたいですね」
「立つ鳥跡を濁さずと言うしな。まかせる」
「了解致しました」
ランドール配下の掃討作戦部隊が刻々と近づいているだろうから時間は切迫している。
ビッケンバーグは、大車輪でその作業に取り掛かった。
惑星トカレフ住民に対して、占領政策の終了の告知。
拘留していた旧政権の首脳陣達の釈放。
授産施設に拘束していた女性達の解放。
バーナード星系連邦においては、非戦闘員たる人民に対しては、丁重に扱うべき国風があった。
それはかつて、スティール・メイスンがバリンジャー星域で見せた、惑星住民完全撤退作戦にみることができる。
数日後、接近する艦隊の報が入ってくる。
「いらっしゃいましたね」
「おうよ、丁重にお出迎えしようじゃないか」
「戦艦を主力とした総勢二百五十隻」
「ランドール配下の同盟軍か?」
「いえ、どうやら帝国軍のようです」
「帝国軍?」
「帝国皇太子となったランドールに迎合する新派の貴族というところでしょう」
「混乱に乗じて領土を広げようという魂胆だな。ついでに戦果を上げてランドールに取り入ろうというとこだ」
「こちらの勢力は約十五隻。数の上では不利ですが」
「なあに、戦争したことのないお飾り艦隊だろう。恐れるに足りずだ。出撃するぞ」
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