銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 Ⅲ
2021.07.02

第六章 皇室議会




 正面パネルスクリーンには、勇壮と進軍する統合軍艦隊が映し出されていた。
「しばし後を頼む」
 席を立つアレックス。
「どちらへ?」
「ティータイムだ」
 統合軍の進撃が順調に進んでいるのを見届けて、ちょっと休憩したくなったのであろう。
 第一艦橋を出てすぐの所に、自動販売機コーナーがある。
 立ち寄って販売機にIDカードを挿しいれてドリンクを購入するアレックス。
 湯気の立ち上がるカップを取り出して、そばのベンチに座って口にする。
「うん。自動販売機にしては、結構いける味だな」
 一服している間にも、艦橋要員のオペレーターが立ち寄っていくが、アレックスが任務中なのを知っているので、軽く挨拶をするだけで話しかける者はいない。


 ドリンクを飲み終わり、やおら立ち上がって艦橋とは反対方向へと歩きはじめる。
 向かった先は、通信統制室の一角にある通信ルーム。
 その中の一室に入り、端末の前に着座して、機器を操作している。
「特秘通信回線を開いてくれ」
 端末に向かって話すと、
『IDカードヲ、ソウニュウシテクダサイ』
 と喋り、言われたとおりにIDカードを差し入れると、
『モウマクパターンヲ、ショウゴウシマス』
 レーザー光線が目に当てられて、網膜パターンのスキャンが行われた。
『アレックス・ランドールテイトクト、カクニンシマシタ。トクヒカイセンヲ、ヒラキマス』
 と同時に背後の扉が自動的に閉じられ鍵が掛けられた。
 アレックスは通信相手の暗号コードを入力して短い電文を送信した。

 静かな湖から白鳥は飛び立つ

 たったそれだけであった。
 何かを指示する暗号文なのであろうが、これだけでは知らない人間には通じない。
 おそらく受け取った誰かだけが、その真意を理解することができるのであろう。
 ややあってから、
『ジュシンヲ、カクニンシマシタ。リョウカイシタ』
 という通信が二度返ってきた。
 暗号文が二箇所の相手に伝えられ確認されたことを意味していた。
 通信端末の回線を切るアレックス。
 回線を切ると自動的に扉が開く。
「よし。これでいい」
 立ち上がり、通信ルームを退室する。


 艦橋に戻ると一騒動が起きていた。
 整然と並んでいた艦隊が乱れていた。
「どうしたんだ?」
「はい。地方の委任統治領の領主が参戦したいと割り込んできたのです」
「委任統治領?」
「いわゆる周辺地域をパトロールしていた警備艦隊を引き連れてきました」
「警備艦隊ねえ……」
 警備艦隊は、各地で起こった暴動や反乱などを鎮圧するのが主な任務である。
 つまり艦隊戦の経験がまったくないということである。
 これからやろうというのは、総督軍との艦隊決戦である。
 艦隊戦闘の経験のない艦隊など役に立つどころか足手まといになるだけである。
「ここで名を売っておこうという腹積もりなのではないかと」
「おそらくな」
「どうしますか、追い返します?」
「そう無碍にもできないだろう。何か役に立つこともあるだろうさ」
「索敵にでも出しますか?」
「いや。索敵を甘く考えてはだめだ。勝利の行方を左右する重大な任務に素人を投入するのは危険だ」
「では、後方支援部隊に協力させて、解放した惑星の戦後処理にでも当たらせますか?」
「そうだな……」
 厄介なことになったが、相手は委任統治領の領主でり、土地持ちの上級貴族である。
 今後の銀河帝国における政策にも関わる問題であり、彼らを抜きにしては将来は保証できない。


 変わって首都星アルデランのアルタミラ宮殿。
 皇室議会が召集されていた。
 議場の正面には、パネルスクリーンに銀河帝国統合軍艦隊の勇姿が投影されていた。
「第一皇子殿下が出撃されて十八時間になるが、何か変わったことはないか?」
「特に変わったことは……」
「中立地帯を越えるのは、いつ頃になるか?」
「およそ三日後になるかと」
「しかし、けしからんな。報道機関がこぞって皇太子殿下などと呼称している。我々は、皇太子継承をまだ認めていないぞ」
「そうは言っても、民衆の間ではすでにアレクサンダー第一皇子を皇太子として受け入れているようだ」
「戦争に報道機関を従軍させるとは、何を考えているんだ」
「民衆に対する人気取りに決まっているだろう」
「そうかな。自分には自信の程が窺えるのだが……」
「それにしても、総勢百五十万隻で敵艦隊二百五十万隻と本気で戦うつもりだろうか」
「そうでなきゃ。出撃しないだろう。何せ共和国同盟の英雄だからな。連戦連勝、向かうところ敵なしの無敗の智将。圧倒的に敵が有利な戦をもひっくり返して勝ち続けたという実績もある」
「不意打ちとか待ち伏せ、姑息で卑怯な戦いをするともいうが」
「まさか、一対一で向き合って『やあやあ、我こそは源氏の頭領、源の何がしである……』とか言うのが正論だと言わないだろうな」
 次々と、ぼやきにも似た発言を続ける議員達だった。
 アレックスの悪口ばかりだったが、一人が話題を変えた。
「委任統治領の領主達が、独自に判断して警備艦隊を引き連れて参戦しているようだが」
「摂政派の領主達も参加しているというじゃないか。止められなかったのか?」
「謀反だな。領地没収だな」
「できるのか?」

「今からでも遅くないだろ。呼び戻せないか」
「どうやって?」
「何とでも言えるだろう。公爵殿の意向だと言えば引き返すさ」
「馬鹿言え! 銀河帝国の存亡を掛けて出撃している第一皇子の下に馳せ参じているんだぞ。『帰れ』などと命令できるわけがないじゃないか」
 一同が口を噤んだ。
 摂政エリザベス皇女より、銀河帝国元帥号及び宇宙艦隊司令長官を拝命したアレックス。
 その地位は本来、皇太子殿下にのみに与えられるものである。
 すでにアレックスは絶大なる権限を有し、銀河帝国艦隊を自由に動かすことのできる地位にあるのだ。
 たとえ地方の警備艦隊といえども、アレックスがひとたび命令を下せば従わねばならない規則になっている。
「こうなる前に、戒厳令を布いておくべきだったか」
「誰が予測できたというのだ」
「もし、この戦いでアレクサンダー皇子が勝てば、民衆に対する人気は絶大なものになる」
「そうだな。いくら公爵といえども世論には逆らえまい」
 議論は堂々巡りで進展しない。
 誰かが発言した。
「こうしたらどうだろう。今この時点で論じ合っても詮無いこと、結果が出てからでも遅くないのではないか」
「それもそうだ」
 意見は一致した。
 皇太子擁立問題は、第一皇子の総督軍との決戦を見届けてからということになった。
「それでは、そういうことで閉会とする」

 第六章 了

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.07.02 16:10 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
コメント一覧
コメント投稿

名前

URL

メッセージ

- CafeLog -