銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 Ⅱ
2021.07.01

第六章 皇室議会

      


 謁見の間は、相変わらず紛糾していた。
 アレックスの意見具申に対しことごとく反対意見を述べる大臣達。
 いつまでも結論が出ず、結局最後は摂政裁定で議決されるという有様だった。
 ここにはいないロベスピエール公爵の意向がすべてを左右していた。
 傀儡かいらい政権の大臣達には公爵に逆らえるわけがなかったのである。
「統合軍第四艦隊及び第五艦隊に対し出撃を命令し、先行する第二艦隊と第三艦隊の後方支援の任務を与えます」
 アレックスが意見具申を申し出てから、今日の裁定に至るまで七日という日が無駄に費やされていた。
 皇女が直接指揮権を有する皇女艦隊と違って、一般の統合軍艦隊は国防大臣(艦隊運用)及び国務大臣(予算配分)の配下にあった。どちらも摂政派に属しているために、いろんな理屈を並べて首を縦には振らなかったのである。
 議論は平行線をたどった挙句、直接戦闘には参加しない後方支援ということで、やっとのこと日の目をみたという次第だった。
「皇女様に対し敵艦隊との矢面に立たせて、第四・第五艦隊は安全な後方支援とはいかなる所存か?」
 第四艦隊・第五艦隊司令官からも、なぜ自分達は後方支援なのだという意見具申が出されていた。
 しかし大臣達は、戦闘経験のない艦隊を最前線に出すわけにはいかないという一点張りで対抗した。

 謁見の間から、統制官執務室に戻ったアレックスだが、思わず次官に対して愚痴をこぼしてしまう。
「まったく……頭の固い連中を相手にするのは疲れるよ」
「お察し致します。総督軍が迫っていると言うのに、相も変わらず保身に終始していますからね。総督軍との戦いに敗れれば、皇族も貴族もないのに」
「で、艦隊編成の進み具合は?」
「大臣達のお陰で何かと遅れ気味でしたが、燃料と弾薬の補給をほぼ完了して、やっとこさ一週間遅れで出撃できる次第となりました」
「一週間遅れか……。何とか間に合ったと言うところだな」
「後方支援ですからね。ぎりぎりセーフでしょう」
「ともかく後方かく乱されることなく、先行することができるようになったわけだ。一日でも早く先行する艦隊との差を縮めるようにしたまえ」
「かしこまりました」
 背を向けて窓の外の景色を眺めるようにして、腕組をし考え込むアレックス。
 しばしの沈黙があった。
 やがて振り返って命令する。
「第二艦隊及び第三艦隊に出撃命令を出せ。四十八時間以内に共和国同盟に向けて出撃する」
「了解。第二艦隊及び第三艦隊に出撃命令。四十八時間以内に共和国同盟へ進撃させます」
「よろしい」
 ついに迎撃開始の命令を出したアレックス。
 次官はデスクの上の端末を操作して、統合軍総司令部に命令を伝達した。
 艦隊数にして百五十万隻対二百五十万隻という敗勢必至の状況ではあるが、手をこまねいているわけにはいかなかった。
 数で負けるならば、それを跳ね除けるような作戦が必要なのであるが……。


 サラマンダー艦橋。
 指揮官席に、腕を組み目を伏せているアレックスが座っている。
 周囲からは管制オペレーター達の出撃準備の指示命令が聞こえている。
「全艦隊へのリモコンコードを送信する確認せよ」
「帝国旗艦アークロイヤルへ、サラマンダー左舷への進入を許可する」
「インヴィンシブルは右舷で待機せよ」
 前面のパネルスクリーンには、サラマンダーを中心に展開を進める統合宇宙艦隊の姿が映し出されている。
 サラマンダーの左側にマーガレット皇女の乗る攻撃空母アークロイヤル、右側にジュリエッタ皇女の巡洋戦艦インヴィンシブルが並進しており、後方には修理を終えたばかりのマリアンヌ皇女の戦艦マジェスティックが控えていた。
「同盟軍、全艦隊出撃準備完了しました」
「よろしい!マーガレット皇女を呼んでくれ」
「了解」


 アークロイヤル艦橋。
 艦隊司令官のトーマス・グレイブス少将がてきぱきと艦隊指揮を執っていた。
 正装したマーガレットが皇女席に腰掛けている。
 皇女として常に凛々しい姿を見せるために、戦闘服などいう野暮ったいものは着ていない。しかし、実際には皇女席の周りには、対衝撃バリアが張り巡らされていて、いざという時には床下から緊急脱出艇へ、着席したまま移動できるようになっていた。
「殿下がお出になっておられます」
「繋いでください」
「かしこまりました」
 正面パネルスクリーンにアレックスの姿が映し出された。
「そちらの準備はいかがですか?」
「ちょうど出撃準備が完了したところです」
「まもなく出撃します」
「判りました、こちらはいつでも構いません」

 インヴィンシブル艦橋。
 こちらの艦隊司令官はホレーショ・ネルソン中将である。
 同じく正装姿のジュリエッタが、アレックスと交信していた。
「これからの戦いは今までの相手と違って、手加減はしてくれません。正真正銘の殺し合いになりますが、将兵達の士気はいかがですか?」
「士気は上がっております。殿下の期待に十分応えられると存じます」
「結構ですね。それでは全艦の準備が終わり次第、出撃します」
「かしこまりました」

 再びサラマンダー艦橋。
「帝国艦隊、全艦隊出撃準備完了です」
「よし、足並み揃った。行くとするか……」
 傍に控えるパトリシアに目配せしてから、全軍に指令を下すアレックス。
「統合軍、全艦隊出撃開始せよ!」
 アレックス指揮以下の宇宙艦隊が進軍を開始した。
 するとどこからともなく民間の宇宙船が集まってくる。
 TV局の報道用宇宙船であった。
 報道宇宙船が追従を続ける。
『我等が皇太子殿下のお乗りになられる旗艦サラマンダーであります。最大戦闘速度は、戦艦では銀河系随一の俊足を誇り、火力の射程距離も最大級。艦体に彩られた図柄は、伝説の火の精霊。連邦軍はその艦影を見ただけで、恐れをなして逃げ出すといわれております。その両翼にはマーガレット皇女さまのアークロイヤル、ジュリエッタ皇女さまのインヴィンシブルが並進し、まるでご兄妹仲の良さを現しているかのようであります』
 また別のTV局も負けじと報道合戦を繰り広げる。
『帝国二百億の皆様。ごらんください。皇太子殿下率いる、共和国同盟解放軍および銀河帝国軍の混成連合艦隊の雄姿であります。総勢百五十万隻の艦隊が一路、共和国同盟の解放を目指して進軍を開始しました。かつてのトリスタニア商業組合連合が帝国からの分離独立を果たした第二次銀河大戦以来、二百年ぶりの国境を越えての本格的な軍事介入となります。その目的が独立阻止から民衆解放と変わったとはいえ、歴史の一ページを飾る大きな出来事といえます』
『伝説の火の精霊に彩られた旗艦サラマンダーは、これまで皇太子殿下が幾多の戦いを乗り越えられ勝利されてきた名誉ある戦闘艦です。そして今また、銀河帝国の存亡の危機を救わんと殿下自らが艦隊を率いて共和国同盟総督軍との戦いに臨まれます』
 さらにサラマンダー艦内にもTV局の報道陣が入っていた。軍艦であるから厳重なる軍事機密があるはずなのにである。
『ここは旗艦サラマンダーの居住区であります。皇太子殿下より特別許可を許されまして、はじめて報道のカメラが入りました。但し、乗員への取材は厳禁となっております。今カメラの視野に入っておりますのは病院です。乗員たちの健康を維持し、体力を増進させます。医療機器も最新の設備を誇り、臓器移植さえ可能なスタッフを揃えています』
『さて、とっておきの映像をお届けしましょう。なんと! 旗艦サラマンダーの第一艦橋内部の映像です。皇太子殿下が御座なさり、全艦隊への勅命を下される司令塔であります。とは申しましても、残念ながら一箇所にカメラを固定されてのワンカット映像のみで音声もありません。艦橋内は最高軍事機密ですので、乗員達の素顔や最新鋭の計器類を撮影することは許されておりません。しかしながら、背中越しとはいえ、艦橋内の緊迫感は伝わってくるかと思います』

 パネルスクリーンに投影されている報道局の宇宙船を眺めながらパトリシアが尋ねる。
「しかし、提督はどうしてTV局の追随を許可なされたのですか? しかも艦内撮影まで許可なされるとは」
「民衆にたいする宣伝だよ」
「宣伝?」
「そうだ。いかに帝国皇太子といえども、民衆の支持なくしては、政治を円満に推し進めることはできないし、第一、皇室議会からは未だ正式な皇太子継承の承認を受けていないからな。頭の固い大臣達だって、民衆の声を無視するわけにはいかないだろう」
「民衆を味方につけるわけですか」
「保身に走りたがる貴族よりは、民衆のほうがよっぽど銀河帝国の将来を心配しているのが実情だ。虐げられているとはいえ、民衆の気持ちは大切にしたいからね」
「それで……。そこまでのことをする限りは、この戦いに勝つ算段が十二分におありなんでしょうね」
「まあ、それなりのことはするつもりだよ。もし敗れれば、逆効果となって、帝国内部で再び騒乱が起きる可能性もででくるかもしれないがな」
「摂政派の連中が、それ見たことかと冗長するでしょうね」

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2021.07.01 08:19 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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