銀河戦記/鳴動編 第二部 第十三章 カーター男爵 Ⅱ
2021.06.12

第十三章 カーター男爵




「男爵の旗艦より発砲!」

「ジュリエッタ皇女が御座します(おわします)艦に対して発砲するとは!」
 艦隊司令のホレーショ・ネルソン提督が怒りを顕わにしていた。
「今のを見ましたか? 殿下ご自慢の艦が守ってくれていたようですね」
 はじめてみた情景に、皇女が感心する。
「確か、特殊哨戒艇でしたでしょうか。歪曲場透過シールドですね」
「密かにお守りくださっていたとは……」
「とにかく男爵とはいえ、皇女様に刃を向けたとなれば大問題です。
「そうですね。少しおしおきをしなくてはいけませんね」
 その言葉を聞いて、ネルソン提督が反応する。
「男爵の艦に対して威嚇攻撃を行う! 随伴艦に当たっても構わん」
 さらに副長が呼応する。
「主砲発射準備! 軸線を右へ五度ずらす」
 オペレーターがテキパキと主砲発射準備を始める。
「発射準備完了しました!」
 ジュリエッタの方を見て、頷くのを確認した提督。
「発射!」


 巡洋戦艦インビンシブルから一条の光跡がほとばしり、男爵の艦へと向かう。
 男爵の艦の艦橋。
「う、撃ってきました!」
 副官の言葉に、怯えとまどう男爵がいた。
 光跡は、艦のそばを掠め通って、被害は出なかったが、
「護衛艦に着弾! 被害軽微!」
 後続の艦に損傷を与えてしまったようだ。
「引き続き停戦を繰り返しています」
 軍事行動において、停戦とは降伏に等しい。
 とはいえ相手は正規の艦隊であり、火力差がありすぎる。
 勝てる相手ではなかった。
「し、しかたあるまい。停戦しろ」
「了解! 機関停止します」
 機関が止まり、艦内を静けさが覆いつくす。


「男爵の艦が停戦しました」
「カーター男爵をここへ連れてきてください」
 指令を受けて、一隻の艦が艦隊から離れて、男爵艦へと近づいてゆく。
 やがて男爵を連れ出したのだろう引き返してきた艦から、連絡艇が発進してインビンシブルの着艦口にたどり着いた。
 数分後、マーガレット皇女の前に引きだされた。
「さて、申し開きを聞こうか?」
 厳かに皇女が尋ねる。
 すると信じられない言葉が男爵の口から発せられた。
「私は、公爵に命じられて、言われるがままに行動しただけです」
 まさしく責任転嫁を羅列しはじめたのだった。
 自分は悪くない、すべては公爵の図り事なのだと。
 もはや逃げ道はない。
 保身のためなら土下座もする勢いだった。

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2021.06.12 06:56 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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