銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅳ
2021.02.04

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 十数分後、艦橋にアレックスが戻ってきた。
「現在の状況は?」
 アレックスの入室を認めて、指揮官席を譲るために立ち上がるスザンナ。敬礼しながら報告事項を伝える。
「旗艦サラマンダー並びに全部隊航行異常ありません。現在位置はスハルト星系第八番惑星軌道上を巡航速で航行中。敵艦隊は、スハルトの向こう側第六番惑星軌道上です」
「うむ。ご苦労様」
「司令。参謀達が揃いました。」
 パトリシアが報告する。
「わかった。スザンナ、君も一緒に来てくれ」
「判りました。では、艦の指揮を第二艦橋に移行します」
 第二艦橋は、第一艦橋が機能しなくなった時のための補助的な部署で、司令補佐のアンソニー・リーチフォーク大尉が指揮を執っている。毎度のことながら作戦会議にスザンナを出席させるアレックスに従い、指揮官のいなくなる第一艦橋に代わって、その機能を第二艦橋へ移行させたのだ。

 第一作戦司令室に集まった参謀達。
 パトリシアが勢力分布図を指し示しながら状況説明をしている。
「……というわけだ。ここはどうすべきだと思うか?」
 アレックスは皆に意見を聞いている。
「ここはスハルトの重力圏内です。コース変更には敵艦隊に位置を知られる危険性を伴います。どうやら敵は気づいていないようですから、このままのコースを維持していけば敵と交戦することなく離脱できるでしょう。現在の状況では戦うよりも逃げるのが得策だと思います」
 最初に口を開いたのはカインズだった。
「わたしも、カインズ少佐のおっしゃる通りかと思います。戦うとなれば敵にも位置を知られて正面決戦となるのは必至。艦数がほぼ同数なら、被害も同数になるでしょう。ニールセン中将に睨まれていて、艦艇の補充がままならぬ現状での消耗戦は避けるのが尋常かと思います。奇襲を掛けてというのでなければ……」
 と賛同を表明したのはジェシカだった。
 その他の参謀達の意見も一致していた。奇襲でなければ戦闘は避けるべきと言うものだった。
「スザンナ、艦長としての君の意見を聞こうか」
 突然、オブザーバーとして参列しているスザンナに意見を聞くアレックス。
「はい。恒星系の重力圏内でコース変更を行い、加速して敵艦隊に追い付くには、かなりの燃料を消費することになります。しかも重力加速度計に感知されますから、奇襲は不可能です。位置関係を保ちつつ、最大速度で恒星系を脱出するのが常套で得策かと」
「まあ、そうだろうな。一番無難だ」
「ですが……敵を叩く策がないでもありません」
「言ってみたまえ」
「よろしいのですか? ここには参謀の方々もおられますし、一艦長でしかない私が口を挟むのは、越権行為かと思います」
「気にしないでいい」
「それでは……」
 といいつつ、指揮パネルを操作するスザンナ。
「進行ルートを表示します」
 前方のスクリーンに恒星系のマップと艦隊相関図、そして部隊の進行ルートが示された。
「敵艦隊に追いつくために加速すれば、敵の重力加速度計に検知されてしまいます。まずは、第七惑星を利用して重力ターンとスイングバイによる加速を行い、さらに第三惑星でも同じようにスイングバイ加速を行って、恒星スハルト近接周回軌道に乗ります。近日点通過と同時に機関出力最大で加速して、背後から敵艦隊を追尾開始。この際にも恒星を背にして行動しますので、恒星の磁場や恒星風などの影響を受けて探知は難しいはずです。悠々と敵の背後を襲うことが可能でしょう」
「随分と遠回りをすることになるな」
「ですが、敵艦隊に対して常に恒星の影となるコースを取ることになりますので、察知される危惧を最少に防ぎながら接近することが可能です。スイングバイや重力ターンによる加速や軌道変更では重力加速度計では探知できません」
「急がば回れということだな」
「はい」
「ふむ……パトリシア。作戦参謀としての君の意見は?」
「ベンソン艦長のプランは十分遂行可能だと思います。問題があるとすれば、近日点付近を通過する際、恒星からの熱に各艦の耐熱シールドがどこまでもつかということです」
「ということらしいが、その辺のところはどうだ。スザンナ」
「はっ。もちろんそれは、旗艦サラマンダー以下、最も軽備な駆逐艦に至るまで、安全限界点を踏まえたうえで、十分考慮してコースを設定します」
「ふーむ……」
 と少し考えてから、
「ゴードンはどうだ?」
「いいんじゃないですかね。もしスザンナの言う通りに奇襲を掛けられるというのなら反対はしません」
 一同を見回してその表情から賛否の意志を読み取ろうとするアレックス。
「我々の勢力圏内を行動しているのは何か特殊な任務を帯びている可能性があるということだ。黙って見過ごすわけにはいかない。決定する。スザンナの作戦を決行し、敵艦隊を叩く」
 ほう!
 全員がため息をついた。
「よし。コース設定は、スザンナ。君にまかせる」
「はい!」
「パトリシアは、作戦立案のやり方を教えてやってくれないか」
「わかりました」
「敵艦隊との推定接触時間は?」
「およそ、十八時間後です」
「そうか、では第一種警戒体制のまま、乗員に交代で休息を取らせてくれ。私も六時間ほど昼寝させてもらおうか。スザンナ、それまでの指揮を任せる」
「第七惑星での最初の重力ターンは三時間後になりますが……」
「それくらいの指揮なら、君にできるはずだ。いいな」
 毅然とした態度で、指揮権をスザンナに託すアレックス。
 そこまで信頼されては、期待に応えるしかないだろう。
「わかりました。指揮を執ります」
「うん。じゃあ、頼むよ。以上だ、解散する」

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2021.02.04 07:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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