銀河戦記/鳴動編 第一部 第九章・コレット・サブリナ Ⅵ
2021.01.21

第九章・コレット・サブリナ 犯人を探せ




 とここまで調べた時、レイチェルがランドールの幼馴染みということを思い出した。
「ついでだから、ウィング大尉が中佐と仲が良かったという幼少の頃を見てみますか」
 コレットは、アレックスとレイチェルのさらなる過去についての資料を探しはじめた。

 アレックス・ランドール。一歳の時、銀河帝国及びバーナード星系連邦そして共和国同盟三国の絶対中立地帯において、擬装海賊商船「マスカレード号」に捕われているところを、辺境警備艦隊によって救出される。俗に「マスカレード号事件」と称されている。

 救出された幼児は、当時着用していたよだれ掛けに刺繍されていたイニシャルから、アレックス・ランドールと命名される。六歳の時、軍の里親制度によって、警備艦隊司令官トライトン・アズナブル中佐の元に引き取られる。同時に、共和国同盟軍幼年学校に入隊。以降、下士官養成学校、上級士官学校、高等士官学校、高等士官学校専攻科目へと順次進級する。
 所見として、深緑色の虹彩と褐色の髪の形態から、銀河帝国皇族に繋がる血筋と推測される。
「この一歳の時の、マスカレード号事件の詳細が不明にされているのよね」

 マスカレード号事件。
 銀河帝国と共和国同盟そしてバーナード星系連邦の三国が接する領域には中立地帯が設けられていた。
 国際法規上、中立地帯への立ち入りと戦闘行為が禁止されている軍艦が、海賊船を追い掛けてその境界を越えて進入し、戦闘に至った事件である。
 当時、銀河帝国や共和国同盟の辺境惑星近隣では、武装した海賊船団が各惑星を襲っては、物資略奪や婦女子誘拐を繰り返し、軍艦の追撃をかわして三国境界中立地帯へ逃げ込むという事件が多発していた。
 海賊船は、火器を減らして高速性能を高めた改造戦艦を使用していた。そのスピードに追いつける軍艦は数少なく、誘拐した婦女子を人質に取られていては成す術もなかった。
 海賊船はバーナード星系連邦の戦艦を改造していると見られていた。その背後には連邦が関与しているか、或は連邦軍人が直接携わっているかも知れないと憶測されていた。
 惑星が略奪にあった時、これまでは軍艦がその惑星へ赴いていたが、時既に遅く逃げ去った後で、事後処理にあたるだけという具合であった。
 その対策のために高速駆逐艦を主力とした討伐隊が編成された。トライトン中佐率いる辺境警備艦隊の誕生である。彼は略奪された惑星には赴かずに、海賊の逃走ルートに先回りしてこれを叩くようにしたのである。あるいは海賊が出て来そうなところに待ち伏せして一気に壊滅したこともあった。略奪された惑星を放っておいて海賊ばかり追い掛けていると不評を買ったが、確実に海賊は討伐されていった。
 そんな折り、海賊船団の族長が乗っていると見られる「マスカレード号」を、とうとう追い詰めてもう少しで撃破というところで、中立地帯に逃げ込まれた際に、さらに境界を越えてこれを追跡撃破ついには拿捕に成功した。
 共和国同盟軍は、その事件を軍事機密として封印した。中立地帯への越境・戦闘行為が、国際法規委員会の審議にかかることになれば、敵国のバーナード星系連邦の有利に働くからである。
 それがゆえに、アレックスの素性も解明されないままとなり、今日に至っているというわけである。出生不明かつそのエメラルド色の瞳から、銀河帝国からの流浪者とかスパイとか風潮されるのも仕方のないことであった。
「軍が秘密にしている限り、ランドール司令の出生の秘密も蚊帳の外ということね。もう二十年以上も前の話しだから、覚えている人も少ないし、当のトライトン中佐も軍上層部からの鉗口令に従って口を閉ざしている。その幼児の里親としてトライトン中佐が選ばれたのも流言を避けるためだと言われているわね」
 今になって、目覚ましい戦果をあげて昇進著しいランドール司令のことを調査するためにスパイが派遣されたと考えられる。

「さてそれはさておいて、ウィング大尉の方も調べてみましょうか」

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2021.01.21 07:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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