銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 索敵 Ⅲ
2020.11.21

第一章 索敵




「私が指揮する限り、配下の将兵に無駄死にを強要させる愚かな戦闘は避けたい」
 パネルの戦力分析図を凝視しながら呟くように言った。
 その時、索敵機から連絡が入った。
「少尉。マザーグース三号機が敵艦隊を発見しました」
「よし、映像をスクリーンに映せ」
「は、ただいま」
 数秒あってパネルスクリーンに映像が映しだされた。
 パネルスクリーンを凝視するアレックス。明滅する光点は、同盟に対して全戦全勝を続けて無敵艦隊の名を欲しいままにしている第一機動空母部隊の雄姿であった。向かうところ敵なし、ナグモの進軍を止められる軍は同盟には存在しないといっても過言ではないであろう、と噂される強敵である。
 主戦級の主力空母が団子状の塊になっている。その塊にたいして護衛艦がぐるりと取り囲んでいるという変形的な球形陣だ。
「普通、空母一隻を中心にして周囲に護衛艦を配する球形陣をとるのが普通なのにな」
「その分全体としての防御力は厚く強固です。戦艦はおろか戦闘機一機すら中心の空母に接近することすら不可能でしょう」
「そうかな……一端中を割られてしまったらまったくの無防備といってよい」
「そりゃそうですが……」
「少尉。いかがいたしましょう」
 アレックスは冷静に分析を続けていた。
 スクリーンの分析図は二次元の映像として現されている。アレックスは頭の中に三次元宇宙を想定して、そこに敵主力空母と護衛艦との位置関係およびその戦力とを正確な三次元座標に描き直していたのである。膨大な計算がなされて三次元分析図が完成されていく。
 やがて、アレックスは急に立ち上がり、
「見ろ!」
 とパネルを指差した。
「空母と空母の間にはわずかながらも間隙がある。小部隊ならここを通過し攻撃を加えることが可能だ」
「攻撃って、まさか……」
「そのまさかだ。敵のど真ん中にワープアウトして総攻撃を敢行するのだ」
「無茶です。たった十数隻で何ができます」
「玉砕するのが関の山ではないですか……」
「誰が玉砕すると言った」
「ですが」
「我々の目の前に敵艦隊が何も知らないでいるんだ。しかも見たところ艦載機さえも全機出撃させて、防御をすべて護衛艦に委ねているようだ。敵空母の懐に飛び込んで戦いをしかければ、こちらに被害を被ることなく、敵空母だけを撃沈させることも可能だ。敵戦闘機に邪魔されることなく、また護衛艦の攻撃も空母を盾にとって行動すれば無力に等しい」

「しかし、それでは索敵の任務から逸脱しはしませんか」
「ふ。確かに、私に課せられた任務は、索敵だが……敵艦隊と接近遭遇した場合、采配はすべて一任するとの指令も頂いているのだよ」
「准将がそんな指令を?」
「つまり、索敵を続行するもよし、中断して引き返すもよし。しかし、一任されている以上、敵艦隊と一戦交えても可、と判断しても構わないのではないか」
「それは、過剰判断ではありませんか」
「ぐだぐだ、いってんじゃねえよ。一任されている以上、何やろうと勝手なんだよ」
 その時索敵の指揮から戻ってきたゴードンがアレックスに同調した。
「みんなはどう思う?」
 アレックスがオペレーター達の意見を確認した。
「やりましょう! 隊長」
「賛成です」
 オペレーター達から黄色い声が返ってくる。全員一致で賛同だ。何せ全員士官学校同期卒業生で、アレックスの人となりをよく知っているからだ。
「このまま引き返しても友軍の敗走は必至です。下手すりゃ全滅して我々の帰る場所がなくなっているかもしれません。この機会を逃せばそれこそ無敵艦隊の呼称を
みすみす許すことになり、今後ナグモの進撃を止めることは出来なくなるでしょう」
「よし、決定する。我が小隊は敵空母艦隊に総攻撃を敢行する」
 作戦が決定されれば、もはや部下に口出しは無用である。
 小隊の全艦に作戦が伝達され行動は開始された。
「いいか、敵艦隊中心部に突入したら、ありったけの攻撃を加えるんだ。ミサイルの一発たりとも残すんじゃない。全弾を撃ちつくし、全速力で駆け抜け、そしてワープで逃げる」
「了解」
「全艦、ワープ準備だ。艦載機は発進準備のまま待機。いつでも発艦できるようにしておけ」

 フライトデッキでは、戦闘班長ジミー・カーグ准尉から、パイロット達への命令伝達・注意がなされていた。
「いいな、目標は空母だけだぞ。護衛艦は相手にするな。戦闘空域に留まる時間は、ジャスト五分間だ。艦載機は発進後、五分以内に必ず戻ってこい。一秒でも遅れたら、その場に置いてきぼりにするからな」
「まもなく、ワープアウトします」
「往来撃戦用意。艦載機、エンジン始動準備。着艦口が開くと同時に発進せよ」
 アレックスの戦闘指示を受けたオペレーターの声が艦内にこだまする。
「艦載機発進デッキの空気を抜きます。整備員は総員退去してください」
 ノーマルスーツに身を包んだ係留係員や管制誘導員を除いて、平服の整備員達は艦載機から離れて待避所に移りはじめた。フライトデッキから空気が抜かれていく音が次第に小さくなっていく。真空中では音が伝わらないからである。
「ワープアウトです」
 艦内にオペレーターの声が響いた。
 もはや引き返すことのできない状況に突入したのである。
「艦載機、エンジン始動!」
 戦闘機の乗員及びフライトデッキ管制員に対しては、ヘルメット内にある送受機によって無線で指示が伝えられていく。
「よし、着艦口開け!」
「艦載機、全機発進!」
「エドワード編隊は右舷側。アックス編隊は左舷側を攻撃せよ」
「エドワード、了解」
「アックス、了解しました」

 敵空母艦隊のど真ん中にアレックス達の部隊が出現した。
「全艦、砲撃開始」
 アレックスはワープアウトと同時に戦闘開始を命令する。
 全艦から一斉に攻撃が開始される。
 着艦口から次々と艦載機が発進して、回りの空母に取り付き攻撃を加えはじめる。まず戦闘機が敵空母舷側の砲塔を破壊、続いて雷撃機による魚雷攻撃が加えられる。これらはすべて球形陣の内側それも空母を盾とするような最内側で行われていた。護衛艦の射程に入ってしまう外側よりには決して移らなかった。
 艦船も負けずに粒子ビーム砲を敵艦にお見舞いした。真空中を切り裂くような閃光が走り、標的に当たった瞬間そのエネルギーが解放されて敵艦を粉々に破壊した。さらには空母と空母の僅かな間隙を縫うようにミサイルが放たれ、周囲の護衛艦を餌食にした。
 こうなっては護衛艦はまるで役に立たなかった。撃てば司令官の搭乗する旗艦空母を、自らの攻撃で撃沈させることになる。そして唯一攻撃可能な戦闘機は一機も存在しない。 アレックス達は、畳み掛けるように攻撃を繰り返し、周囲の主力空母を次々と破壊していった。

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2020.11.21 13:25 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
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