銀河戦記/波動編 第三部 第三章 Ⅰ 帝国内部へ

第三章


Ⅰ 帝国内部へ


 五年ほど経過して、惑星パウサニアースに駐留する公国軍艦艇の数が三万隻に達した。公国内にある造船所において、次々と艦艇の増産が行われこの惑星へと送り込まれていた。
 アレックスは、この惑星の内政改革を行っていた。軍政から民政への移行として、議会を復興して議員選挙を行い、政治犯を釈放した。市民に対しては税率を下げ、殉職した軍人の家族への遺族年金も厚くした。それらが効して、惑星の治政も落ち着いていた。

 また本星アルデラーンも五万隻が配備されている。ロベスピエール侯爵家には地位を奪われたという恨みがあるので、いつ謀反を起こすかもしれないとの疑いがあるために、軍を外す訳にはいかない。その守備艦隊を治めるのは、アレックスの弟であるジェラルド侯爵である。
 本星の治政の担当は、三男弟のバーナード伯爵となっている。

 ケンタウロス帝国内部への進撃準備が完了していた。
 五千隻を残して、二万五千隻の遠征軍が編成されていた。
 アレックスが全艦に向けて訓示を垂れていた。
「ついに亡き先王の復讐をなす時がきた。これまで銀河の安寧を乱して侵略を続けていた奴らに鉄槌を下すのだ」
 アレックスの言葉を受けて、誰かが叫んだ。
「hip hip hooray!(万歳!)Long live the King!(王様万歳!」
 すると艦内に万歳三唱が繰り広げられた。
 やがて静まった時に、アレックスが下令する。
「全艦、帝国へ向けて進撃せよ!」
「全艦、微速前進! 進路、恒星系ヴィースバーデン!」
 艦隊参謀長のランドルフ・タスカー大将が復唱する。
「微速前進!」
「進路、恒星系ヴィースバーデン!」
 静かに動き出す二万五千隻の艦船。
 これまで侵略に怯えてきたが、逆進行する時が来たのだ。
 かつて滅ぼされた我らが故郷の地、旧トリスタニア共和国をわが手に取り戻す時。


 ヴィースバーデンは、最寄りの帝国の軍事基地である惑星ケムニッツのある恒星系である。赤色矮星であり質量は太陽の12%程度、二つの惑星が公転しており、それぞれ十日と三十日であるが、恒星に近すぎるために潮汐固定されている。潮汐加熱で至る場所で火山が噴火しているが、噴火蒸気によって大気が形成され、ハビタブルゾーン範囲内であることから内側の惑星が居住可能となっている。帝国はここに軍事基地を建設して、惑星パウサニアースへの中継基地としている。
 惑星パウサニアースが侵略されたことを受けて、四方八方から艦艇が集結していた。
 惑星ケムニッツは、帝国中枢部へ向かうための通り道にある。次の目標がこの惑星であることが明白だからだ。迂回して先に進めば、挟み撃ちとなることは必定。
 さらに公国軍が進撃を開始したことから、ワープゲートのあるリューベック恒星系惑星グロベンラーデから援軍が向かってくる予定となっていた。
 援軍が到着するのが早いか、公国軍が到着するのが早いか。
 時間との競争となっていた。



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銀河戦記/波動編 第三部 第二章 Ⅳ ワープゲート

第二章


Ⅳ ワープゲート


 惑星パウサニアースの各家庭のテレビや街頭テレビ、ありとあらゆる映像機器がアレックスの政見放送を流していた。
『惑星パウサニアースの住民に告げる。本日をもって、この惑星は我々アルデラーン公国の支配下に入った。とは言っても、軍部関連を除いて一般住民には今まで通りである』
 市街地の大通りのビルの壁面に据えられた大型ビジョンを見つめる通行人達。軍人政治を国是として、軍人か軍属そしてその家族がほとんどであり、後は子供と引退した老人である。
 一般住民は今まで通りと聞いて、三々五々解散してゆく。
 惑星バウサニアースは、国際中立地帯に最も近い惑星でありワープゲートもある重要基地でもある。がしかし、公国への侵略行動を起こさない平常時には、ただの辺境地となる。一般住民にしては、誰が施政者になろうとも変わりはしないだろう、という思いが強くて関心も薄いようだ。
 軍部側にしても、二千隻を一瞬で失ったというトラウマが尾を引いており、公国への進出に二の足を踏んでいたのだ。
 その間にも公国側は、着々と軍備増強を進めてきたのだった。


 六時間後、ワープゲートによる最初のワープ実験が行われた。
 総参謀長室のモニターで、その様子を見つめるアレックス。
「まもなく始まります」
 艦隊参謀長のランドルフ・タスカー大将が伝える。
「ウォーズリー准将より入電しました」
「繋いでくれ」
『こちらワープゲート、一回目のワープ試験まで五分です』
「分かった。上手くやってくれ」
「かしこまりました」
 ワープの時間となる。
『ワープ開始、一分前』
 通信で秒読みを伝えてくる。
 ワープゲートが輝きだした。
 ゲートに莫大なエネルギーが入力されているからだ。
『十秒前……五、四、三、二、一、ワープ!』
 ややあって、ワープゲート前面の空間が歪む。
 そして十隻の無人艦が姿を現した。
『成功しました。点検整備の後、二回目のワープに入ります』
 准将の声が弾んでいた。
 ワープゲートは、艦艇をより多く、かつ素早く送り込むことができる。
 敵国が艦隊を派遣してきたら、いつでも好きなだけの艦艇を送り込んで迎撃できることになる。
「よろしく頼む」
『はっ! お任せください』
 通信が途切れた。

 幹部士官を集めて会議が行われた。
 まず最初の議題が惑星リモージュについてだった。
 リモージュには国際宇宙ステーションがあり、三か国のハブ空港となっており、国際中立地帯の延長上にあった。
「もはや帝国とは戦争状態、自由な往来を許していたら、スパイによって重要機密も漏れる可能性があります」
「そうです。ステーションは我が国の占有とするべきです」
「トリスタニア共和国とは友好通商条約が締結されています。施設の利用を拒否することはできません」
「それは帝国側のみ制限すればよいだろう」
 協議一時間、帝国側のみ航路閉鎖ということで決着した。



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銀河戦記/波動編 第三部 第二章 Ⅲ 占領政策

第二章


Ⅲ 占領政策


 総参謀本部内の第一会議室。
 帝国士官達が項垂(うなだ)れ暗い表情で座っている。
 その周りを銃を構えた公国軍兵士が注意深く見張っている。
 扉が開いて警備兵を従えたアレックスが入室してくる。
「全員起立!」
 デイミアン・オルコック大佐が号令する。
 一斉に立ち上がる帝国士官達。
 そんな士官達をぐるりと見まわしてから着席する。
「全員着席!」
 全員が着席したのを確認して、アレックスが教示する。
「すでにワープゲートは制圧した。援軍は当分来ない」
 どこからともなくため息が漏れた。
「私は、アルデラーン公国の公爵アレクサンダー二世である」
 毅然とした態度で身分を明かすアレックス。
「公爵だと?」
「つまり王様だよな」
「なんで王様が最前線にいるんだよ」
 口々に驚きの声を上げる帝国士官達。
「さて、諸君らには二つの選択肢がある。一つは捕虜として暮らすか、もう一つは帝国を捨てて公国軍に鞍替えするかだ」
 士官達は顔を見合わせて迷っている。
「公国軍に入れば、現在の階級より一ランク上に昇進させ、給与も帝国よりも厚遇する」
 帝国の軍人給与が公国軍より一ランク低いことは承知の上での待遇である。
「その気になったら、手近な者にいつでも声を掛けてくれたまえ」
 そういうと立ち上がるアレックス。
「全員起立!」
 立ち上がる士官達に見送られて会議室を出るアレックス。

 アレックスが去った会議室。
 オルコック大佐が士官達に伝達する。
「これから書類を配る。氏名・所属・階級・主な経歴、そして身の振り方として転向・捕虜・引退の何れかを選択したまえ」
 順番に書類を配る兵士。
「ここで決めることはない。兵舎でじっくり考えて選択してくれ。解散する」
 その後、捕虜用として誂(あつら)えた兵舎に収監される士官達だった。

 総参謀長室を臨時の執務室としたアレックス。
 次々と報告を持って入室してくる配下の者との対応を続けていた。
「ワープゲートを完全に掌握しました。惑星サンジェルマンのワープゲートに接続完了。経由して惑星アルデラーンとも通行可能です」
 ウォーズリー准将が一番に訪問した。
「うむ、ご苦労様でした。これで援軍派遣も楽になります」
「とりあえず、十隻ほどの無人艦で転送実験を行います」
「まかせます」
 ウォーズリー准将が出ていくと、代わりに放送機材を持ち込む一団が入室してくる。
 放送局を制圧に行った将兵だった。
 カメラやマイクなどの機材を設置してゆく。
「テスト、テスト!」
 試験を繰り返して、準備完了。
「陛下、放送の用意ができました」
 放送局員が報告する。
「ありがとう」
 マイクが机の上、アレックスの目の前に置かれた。
「それでは……3・2・1・Q」
 惑星の受信機に対して、アレックスの政見放送が流される。



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銀河戦記/波動編 第三部 第二章 Ⅱ 揚陸部隊

第二章


Ⅱ 揚陸部隊


 宇宙空間に漂う帝国警備艦隊の残骸。
 補給・支援部隊が、生存者の捜索と救助を行っている。
 旗艦戦艦ロイヤル・サブリンの艦橋。
 指揮官席に鎮座し、てきぱきと指示を出しているアレックス。
「ウォーズリーに繋いでくれ」
 通信士ジュリアナ・ワイズ少佐に伝えると、
『ウォーズリーです』
「ウォーズリー准将、君の部隊はワープゲートを制圧してくれ」
 少佐から准将に昇進したマーティン・ウォーズリー、千隻の艦艇を与えられ第二部隊を率いていた。彼は、かつて惑星サンジェルマンの守備艦隊の指揮官だった人物だ。
「かしこまりました」
 配下の部隊を引き連れてワープゲートへ向かうウォーズリー准将。

「揚陸部隊を投入しますか?」
 艦隊参謀長のランドルフ・タスカー大将が進言する。
「よろしく頼む」
「はっ! 早速」
 アレックスの許可を得て、揚陸部隊に出撃を命じるタスカー大将。
 大気圏突入できる特殊揚陸艦部隊が動き出した。
 断熱圧縮加熱で真っ赤になりながら大気圏突入していく揚陸艦八百隻。

 大気圏突入を無事にクリアして、地上平定を始める揚陸部隊。
 部隊の旗艦フィアレスの艦橋。
「全艦、無事に大気圏突破しました」
 副官のカトリーナ・オズボーン少佐が報告した。
「敵地上空軍の戦闘機が、こちらに向かっています。およそ百二十機」
 電探手のライオネル・エムズリー少佐。
「こちらも艦載機発進だ!」
 司令官のデイミアン・オルコック大佐が下令する。
「艦載機発進せよ!」
 各艦から次々と戦闘機が発進する。
 その数、三千二百機という圧倒的な数で撃滅させた。
「上々だな。よし、作戦通りに各班に分かれて目標攻略だ」
 部隊が、それぞれの目標に向けて分散してゆく。
 軍事基地はもちろんのこと、国会議事堂、放送局、金融省庁などの主要設備を抑えるのが目的だ。
 各場所で落下傘による降下兵が制圧に掛かっている。
 その一方で、ミサイルサイロや通信施設などの軍事施設には爆雷攻撃を敢行して、反撃力を削いでいく。

「国会議事堂と放送局、制圧しました」
 次々と制圧の報告が届く。
「いいぞ。我々の目標は目の前だ」
 そこには、軍部の中枢である総参謀本部庁舎があった。
「降下兵が本部入り口に取りつきました」
「援護射撃で、二三発ぶち込んでやれ」
「了解、艦首ミサイル1号2号発射!」
 庁舎がミサイルで破壊され、瓦礫が吹き飛ぶ。
 それを合図に突入する降下兵。

 二時間後、総参謀本部は陥落した。



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銀河戦記/波動編 第三部 第二章 Ⅰ 惑星パウサニアース

第二章

 ペルセウス腕+オリオン腕=ケンタウロス帝国
 いて・りゅうこつ腕   =トリスタニア共和国
 たて・けんたうるす腕  =アルデラーン公国


Ⅰ 惑星パウサニアース

 あれから二十年ほどの年月が流れた。

 二千隻もの艦艇を失ったケンタウロス帝国は、侵略行為を一時中断して艦艇の増産・再編成を余儀なくされた。
 公国側も再侵略を未然に防ぐために、艦艇の増強を図っていた。
 またトリスタニア共和国も同様に艦艇増産を忘れていない。
 三か国の所有艦艇数は、帝国が四万二千隻、公国が二万八千隻、共和国が四万九千隻となっていた。
 資源面で見ると、銀河系外縁部は若い星が多くて水素ヘリウム以外の重元素が少ない。中心部には古い星が多いせいでこれらの星が超新星爆発を繰り替えてきた結果、鉄、クロム、マンガンなどの重元素が多く生成・蓄積されていた。
 オリオン腕から外縁部のペルセウス腕へと渡ったケンタウロス帝国は、慢性的な資源不足に陥っていた。
 同じく中心部のいて・りゅうこつ腕に渡ったトリスタニア共和国には資源豊富で艦艇を増産することができた。その軍事力で『タルシエンの橋』の片側を押さえており、帝国の侵入を完全に阻止していた。
 さらに内側のたて・ケンタウルス腕に渡ったアルデラーン公国は、資源は豊富にあったが建国の歴史が浅いので資源開発が遅れていた。帝国の侵入を抑えてきたのは、ひとえにアムレス号の存在によることが大きかった。


 惑星サンジェルマン。
 衛星軌道上に約一万隻の艦艇が待機していた。
 その艦隊旗艦、戦艦デヴォンシャー艦橋。
「艦隊編成完了しました。いつでも出撃できます」
 艦隊参謀長のランドルフ・タスカー大将が報告する
「うむ。微速前進!」
 エドワード改め公王アレクサンダー二世が下令する。
 *以降アレックスと略称する。
「了解。微速前進!」
 静かに動き出す艦隊、その数七千隻。
 残りの艦艇は惑星の防御に回る、惑星を空にするわけにはいかないからだ。二十年前の悲劇を繰り返すことはできない。
「惑星リモージュを経由して惑星パウサニアースに向かう。ワープゲートを是が非でも確保する」
 惑星リモージュには国際宇宙ステーションがあり、三か国のハブ空港となっている。そして惑星パウサニアースは、帝国軍国境警備艦隊の基地であり、ラグランジュ点にはワープゲートが浮かんでいる。

 惑星リモージュを通過して惑星パウサニアースに近づくと、国境警備艦隊が現れた。その数およそ二百隻。
『こちらパウサニアース警備隊である。そちらの所属と目的を述べよ』
 相手艦から通信が入った。
「こちらはアルデラーン公国である。無駄な戦闘はしたくない。降伏して素直に惑星とワープゲートを明け渡して欲しい」
 アレックスが降伏を進言するが、はいそうですか分かりました、とは言えないだろう。
「冗談は止めたまえ」
 断固拒否する構えのようだ。
 ある日突然やってきて降伏しろと言われても従える訳がない。
 そして撃ってきた。
「仕方がない、反撃せよ!」
 七千隻の艦隊が攻撃をはじめた。
 二百隻対七千隻、圧倒的な戦力差で勝敗は決した。



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