銀河戦記/波動編 第六章 Ⅲ 銃殺
第六章
Ⅲ 銃殺
急降下してくる帝国艦。
危険を感じた少年達は、レンタルシップから離れた。
次の瞬間、帝国艦が銃撃してきたのだった。
岩陰に隠れて様子を伺う少年達。
帝国艦は、破壊されたレンタルシップの近くに降船し、武装した兵士が降り立った。
岩陰で様子を見つめる少年達。
「なんかやばいんじゃないの?」
「僕たち、レジスタンスの仲間と思われているんじゃないかな」
兵士の一人が、空に向かって一発撃ち放って、大声を出した。
「隠れていないで出てくるんだ! 命の保証はする!」
顔を見合わせてから、
「僕たちが乗ってきた船は破壊された。出ていくしかないよ」
とのアレックスの言葉に、ゆっくりと岩陰から出てくるルイーザと少年達。
兵士の前に立ち並ぶ七人だったが、
「これで全員か?」
確認する兵士。
「そうです」
アレックスが答えると、
「射殺指示が出ているのでな」
問答無用に銃を連射した。
銃撃を受けて、地面に倒れる少年達。
「よおし、処理済みだ」
「命の保証をするんじゃなかったのか?」
別の兵士が尋ねると、
「そうでも言わないと出てこなかったよ。レジスタンスは消滅させるのが、我々の任務。時間の節約だ」
と軽く答えた。
どうやら少年達をレジスタンスと思い込んでいたようだ。
こんな辺鄙な小惑星に、一般民間人が立ち寄るはずがないからだ。
「艦に戻るぞ」
銃を収めて、帝国艦に戻る兵士。
そして、発進して上空へ舞い上がり、いずこかへと去っていった。
血を流して倒れている少年達。
そこへどこからともなく陸上車がやってくる。
扉が開いて、一台のロボットが出てきて、少年達を診断した。
『マダ、生命反応ガアリマス。ハイ、回収シマス』
誰かと連絡を取っている様子で、少年達を抱えると車へと収容した。
全員を収容すると、乗車していずこかへと消え去った。
どこかの部屋の中。
生命維持装置かと思われる七基のカプセルに入れられたルイーザと少年達。
壁際に並んだ装置を操作しているロボット。
部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってくる。
「少年達は、どうですか?」
『無事デス。危篤状態ハ脱シマシタ』
「それはよかったわ。それにしても、まさかこんな所に尋ね人が自ら来てくれるとはね」
女性は、一つのカプセルを注視した。
それはアレックスだった。
「お顔も、あのお方に瓜二つね」
数日後。
生命維持装置を外され、カプセルから出されて、普通のベッドに寝かされている少年達。
さらに日をめくるたびに、一人ずつ目が覚めてゆく。
そして最後に目覚めたのはアレックスだった。
「よお。おはようさん」
アレックスのベッドを囲むようにして少年達が寄り添っている。
「エヴァン、生きていたのか」
「ああ、みんな生きているよ」
少年達の顔を見回すアレックス。
「ルイーザは?」
この場にいないルイーザを気に掛ける。
「彼女も生きているよ。別の部屋で、ここの施設の管理人と話し合っている」
「そうか……」
さらに数日後、傷の癒えた少年達が食堂で揃って食事を摂っている。
「なあ……ここってアンツーク星だよな?」
ジミー・フェネリーが尋ねた。
「そうなんじゃないの?」
フレッド・ハミルトンも疑問ながらも肯定した。
「ここの施設は、一体何だろうか?」
ジミー・フェネリーが当然の疑問を抱く。
「たぶん鉱山の中の施設かな」
ブルーノ・ホーケン
「レンタルシップは破壊されちゃったけど、帰ることはできるのかな」
マイケル・オヴェットは帰りの船の事を心配していた。
「人がいるってっことは、連絡船とかあるんじゃない?」
エヴァン・ケインが推察する。
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銀河戦記/波動編 第六章 Ⅱ アンツーク星
第六章
Ⅱ アンツーク星
目的地のアンツーク星が近づいていた。
コクピットには全員が揃って、スクリーンに映る星を見つめている。
「ここがアンツーク星なのね?」
ルイーザが確認する。
「間違いありません」
マイケルが答える。
「着陸して調べてみよう」
アレックスが指示する。
「分かった。降下シークエンス開始!」
「待って、後方より高速接近する艦艇あり! この辺りを巡回している警備艦のようね」
レーダー手のルイーザが叫ぶ。
「相手方より入電!『停船せよ。さもなくば撃墜する』と警告しています」
エヴァンが報告する。
「相手に返信。只今自動での降下シークエンス中なので、地上で待機する」
アレックスが指示する。
「分かった」
言われたとおりに、相手に返信するエヴァン。
降下してゆくレンタルシップを追うように、警備艦も降りてくる。
数時間後、地上に降下したレンタルシップと横付けされた警備艦。
レンタルシップから降りて、警備兵の尋問を受ける少年達。
「責任者は誰だ?」
目の鋭い兵士が尋ねた。
「私です」
すかさず答えるルイーザ。
年長者なので当然と言える。
「では、尋ねる。この小惑星を訪れた理由を教えてくれ」
「簡潔明瞭に言えば、トラピスト人の末裔である私達のルーツ探しですよ」
「ルーツ探しだと?」
「昔々、トラピスト星系連合王国がケンタウルス帝国に敗れ去った折に、一隻の船がこの地から現れてトラピスト人を引き連れて、別天地に誘(いざな)ったと言われています」
「その話は、自分も聞いたことがあるが……この地にあったという基地は、完全に破壊されたという。もはや何もないはずだ」
「それでも良かったのです。いわば巡礼の旅ですから」
「巡礼も良いが、さっさと帰還することだな。最近はこの辺りも物騒になってきているから」
「物騒な事件でもあったのですか?」
「帝国に対して反旗を掲げる『シャルルマーニュ』という組織があるのを知っているか?」
「レジスタンスですか? 聞いたことはあります。いつの時代でも、政権に不満を抱いて転覆を図ろうとする輩は途絶えませんね」
「この星は、奴らの活動範囲に入っている。奴らの餌食にならないように、早いとこ帰還した方がいいだろう」
「ご忠告ありがとうございます」
数分後、警備艦が離陸する。
その様子を船内から見つめている少年達だったが。
次の瞬間だった。
警備艦が炎上し爆発してしまったのだ。
「なんだ?」
驚く少年達。
上空を見ると、爆発した警備艦から離れたところに一隻の船が航行しているのが見えた。
「あの船から攻撃されたのか?」
「どうやらレジスタンスの船みたいだ」
「その船から通信が入っています」
エヴァンが伝える。
「繋いでください」
通信を接続するエヴァン。
『君たちの所属を言いたまえ』
相手が尋ねてくる。
「アルビエール侯国サンジェルマンの民間人です。ルーツ探しの旅をしています」
『アルビエールだと? 随分と遠くからやってきたのだな』
「あなた方は、シャルルマーニャですか?」
帝国の警備艦を撃ち落としたことで、レジスタンスと判断したようだ。
『よくわかったな。その通りだよ。我々とアルビエール人は、遠い親戚同士で同族だ。どうだ、我々の仲間にならないか?』
「それは遠慮いたします」
『そうか……仕方がないな。ルーツ探し頑張ってくれたまえ……おっと、帝国の連中がやってきたようだ。警備艦が撃沈されたのを察知されたようだ』
通信が途切れた。
急加速して現場を離れようとする船と後方から接近する帝国艦隊。
追撃戦が始まるが、帝国艦の一隻が隊を離れて惑星に降下を始めた。
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銀河戦記/波動編 第六章 Ⅰ テイクオフ
第六章
Ⅰ ローリング・テイクオフ
コクピットに入った少年達。
操縦席にマイケル・オヴェット、副操縦席にはエヴァン・ケイン、そして機関操作席にはフレッド・ハミルトンが座った。
起動キーを機器に差し込んで、船を始動させるマイケル。
前面の機器や照明に電源が入った。
「エンジンを始動させるよ」
機関士のフレッドがエンジンを始動させると、船内全体が微かに震動して低い唸り音を上げた。
「エンジン始動確認!」
「分かった」
副操縦士のエヴァンが空港管制塔に連絡をとる。
すでに滑走路の使用許可は事前に受けていた。
「こちらUF3012、発進の許可願います」
『こちら管制塔、UF3012へ。第四滑走路への侵入を許可する』
「了解。第四滑走路に入ります」
通信を終えて、滑走路へと機体を移動させる。
「こちらUF3012、第四滑走路に到着。発進準備完了しました」
『こちら管制塔、UF3012へ。発進を許可する。前方オールグリーンだ』
「了解。発進します!」
振り返り、後方の少年達に合図をするマイケル。
皆が頷くのを確認してから前に向き直り、操縦桿を握りしめた。
「出発進行!」
ゆっくりと前進を始める機体。
「エンジン出力50%」
フレッドが伝える。
傍らのスロットルレバーを引いて、エンジン回転数を上げてゆく。
エンジン音と震動がコクピットに伝わってくる。
窓の外の景色が流れてゆく速度が速くなってゆく。
「離陸推力に到達!」
「フラップ角度5度、機首を上げる」
機体前部が持ち上がってゆく。
「エンジン出力65%」
「よし! テイクオフ!」
少し操縦桿を手前に引くと機体が浮き上がって離陸してゆく。
「離陸した! このまま上昇!」
地上から大気圏、そして宇宙空間へと上がってゆく。
「大気圏突破!」
と言いつつ、大きなため息をつくマイケルだった。
「ご苦労様でした。休憩室でしばらく休んでていいわよ」
その肩に手を置いて労うルイーザだった。
「後は僕が引き継ぐよ」
そう言って副操縦士のエヴァンが、操縦システムを自分の方に切り替えた。
「分かりました」
立ち上がって、後部にある睡眠ルームへと移動した。
「自動航行装置に、アンツーク星の位置情報を入力します」
「これで眠っていても目的地に着けるのね」
「そうはいきませんよ。航行途中で何が起こるか分かりませんからね」
アレックスが注意した。
「あら、そうなの?」
「アンツーク星到着予定は、八時間後になります」
エヴァンの言葉に、アレックスが伝える。
「ここは僕とエヴァンで見守っているから、他の皆は休憩していいよ。僕らはマイケルが戻り次第休むから」
「分かった。居眠りはしないでね」
ブルーノ・ホーケンが念押しして、少年達は休憩室へと向かった。
アレックスは、正操縦席に着席する。
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銀河戦記/波動編 第五章 Ⅵ トリスタニア宮殿
第五章
Ⅵ トリスタニア宮殿
レンタルシップの燃料補給が終わるまでの空き時間を利用して、トリスタニア宮殿を拝観することにした一行だった。
かつてクリスティーナ女王が統治していた頃には、多くの臣下や女官が動き回っていただろうが、今は観光客がゾロゾロと徘徊しているだけだった。
トリスタニア王国は、女王退位の後にはケンタウルス帝国傀儡の王権となり、やがて完全に帝国の支配下となった。
宮殿の主は不在となり、観光資源として一般公開されるようになった。
王(女王)の間に入室した一行。
一段高い場所に玉座があり、居並ぶ大臣達を前にして、国政を担っていたのだろう。
「王権を滅亡させられてから、王族はどうなったのかな?」
エヴァン・ケインが質問した。
「歴史的には、侵略や革命で政権が倒れた場合、王族は一族郎党が処刑されるのが常だよね」
フレッド・ハミルトンが応える。
「有名なのが、地球18世紀フランスのマリーアントワネットが革命政府に断頭台処刑された奴だね」
マイケル・オヴェットが続ける。
「女王は処刑されていないよ。王位を譲渡した後、東宮にて隠居したらしい。正確には幽閉されたってこと」
と、ジミー・フェネリー。
「国民から慕われていたから処刑できなかったんだよね。処刑したら暴動に発展したかも知れないから」
そして、アレックスが推察する。
「あらあら、よく勉強したわね」
ルイーザが感心する。
実は宮殿入口で無料配布されていた案内冊子に書かれていたのであった。
豪華な調度品に感嘆しながら、宮殿内を散策少年達だった。
「ねえ、玉座とか見て何か感ずることはない?」
ルイーザがアレックスに耳打ちする。
精神科医としてアレックスの深層意識にダイブして、祖先の記憶映像を探り出していた。
「いいえ。仮にご先祖様だったとしても、数百年も経っていますからね」
飄々と答えるアレックス。
「だよねえ……」
やはりという表情をするルイーザ。
一通りの観光を終えた少年達が、レンタルショップの元へと戻った頃には、燃料補給と整備が完了していた。
「観光はいかがでしたか?」
係員が声を掛ける。
「絢爛豪華な宮殿が、今は使われていないというのが残念ですね」
ルイーザが答えると、
「軍事国家には不必要と思われているみたいです」
解説する係員。
専制君主制の象徴である宮殿を単なる観光資源化したのは、それまでクリスティーナ女王など王族に親しみを持っていた国民を宥めるためであろう。
実際にも、宮殿の清掃から修繕にいたるまで、『宮廷保全隊』と呼ばれるボランティアによる民間組織が運営を担っていた。
「それでは、起動キーをお渡しします」
起動キーを受け取って、握りしめるマイケル・オヴェットだった。
これから自らの腕で船を操縦しなければならない緊張感からである。
「良い旅を」
係員に見送られながら、タラップから船に乗り込む少年達。
軽く手を振って、昇降口の扉を閉めて施錠した。
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