銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅲ 離陸
第二章
Ⅲ 離陸
訓練艦に乗り込むアレックス達。
艦長 =アレックス
操縦士=マイケル・オヴェット
機関士=フレッド・ハミルトン
魚雷手=ブルーノ・ホーケン
電探手=ジミー・フェネリー
機銃手=エヴァン・ケイン
離着陸時に副操縦士及び通信士を兼務。
事前の打ち合わせ通りに、それぞれ配置に着く。
「みんな、マニュアルは熟読できたか?」
アレックスが尋ねると、
「大丈夫だ」
「OK! OK!」
即答で返事が返ってくる。
「簡単だよ。マニュアル読まなくてもこれぐらいの船は動かせる」
とは、機械好きなフレッド・ハミルトン。
「各装備チェック開始」
「了解」
アレックスの指示で各自持ち場の装備を点検しはじめる。
はじめて操艦する艦なので、準備は十分すぎるほど行われる。
「バッテリー電源オン、電気系統オン、機体後部APU(補助動力装置)始動、確認。電源をAPUに切り替えます。APU電力正常、主エンジン始動します。始動確認。電源供給を主エンジン電力に切り替え。エアー、生命維持装置始動、確認」
船を動かすには機関士がいなければ始まらないし、電力がなければ機器を動かすことすらできない。
主エンジンが始動して、各種機器への電源が繋がれた。
「燃料前方タンクおよび後方タンク満タン正常。燃料加圧コックおよび燃料加圧計正常。発信準備完了!」
フレッドが機関を確認する。
「高度計、昇降計、羅針儀正常機能。旋回計と旋回指示器調整弁正常。操縦桿機能よし。飛行時計及びフライトレコーダー記録開始」
操舵手のマイケルは飛行に関する機器担当である。
「魚雷発射管異常なし。誘導制御機能正常。搭載模擬魚雷数十二発」
「機銃OKだぜ、いつでもやれるぜ」
「レーダー異常なし、前方オールグリーンです」
すべての機器チェックが終了して、出航準備完了となった。
「管制官より、テイクオフクリアランス(離陸許可」
「よろしい。出航せよ」
「了解」
操縦桿横のスロットルレバーを少し上げて(ブレーキ踏んだまま)エンジン回転を上げるマイケル。
エンジン計器のパラメーターを確認し異常がないことを確認するエヴァン。
「スタビライズ!(安定)」
「了解」
スロットルレバーの前方に装着されている TO/GAスイッチを押すと同時にブレーキをリリースする。
ゆっくりと動き出し、次第に速度を上げる艦体。
エヴァンはエンジン計器をモニターしつつ、エンジン推力を表す指標(TPR)が離陸推力まで達したの確認して、
「スラストセット!」
とコールする。
さらに速度が上がり、100ktに達した時、
「ワンハンドレッド!」
とエヴァンがコールし、フレッドも速度計を確認して返答する。
「チェック!」
この時点ではまだ離陸を中断することができる。
だがエヴァンから
「ブイワン!(V1)」
とコールされると以降は、中断することができなくなる。
さらに加速が進み、速度計がローテーションスピード(VR)に達し、
「ローテート!」
とのエヴァンのコールが掛かると、いよいよ離陸である。
フレッドがフライトディレクター(FD)のメーターを見ながら機首を持ち上げてゆく。
ゆっくりと地面から離れ始める艦体。
エヴァンが高度計の目盛りが上昇を始めたのを確認して、
「ポジティブレイト!(Positive Rate)」
と、艦体の上昇率がプラスであることをコールする。
「ギアアップ!」
すかさずランディングギアの格納を指示するフレッド。
やがて上空へと突き進んでゆく。
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銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅱ 学生達
第二章
Ⅱ 学生達
ハルバート伯爵廷から東へ山を越えた先にある広けた海岸線に、ベルファスト士官学校がある。
校庭では、教官の掛け声に合わせて体力鍛錬を行っていた。
宇宙戦士といえども体力は必要である。
無重力の宇宙では、骨のカルシウム溶解が避けられず、日頃からしっかりとカルシウムを蓄積しておかなければ、地上に戻った時に歩けなくなる。
そんな風景を校舎内から眺めるアレックスと案内係りのカトリーナ・オズボーン士官候補生。
続いて立ち寄ったのは、戦術シミュレーション作戦室で、筐体に入って仮想敵艦隊との戦闘訓練を行っていた。
「よお、カトリーナ」
通路の向こう側から歩いてくる一団が声を掛けてきた。
「デイミアン!」
どうやら知り合いのようである。
「編入入学者の案内か?」
「いいえ……」
カトリーナが次の言葉を紡ぐ前に、
「こいつ、例のロストシップの関係者じゃないすか?」
後ろにいた学生が、校庭に駐船している船を指さした。
「なるほど、美女が船に乗ってやってきたとか言っていたみたいだが、そいつのガキか? 七光りで編入試験なしで入学してきたのか」
リーダー格の学生が睨みつけてくる。
「所属希望はどこだ? まさか戦術士官志望じゃないだろな」
「こんな奴が指揮する艦に乗った奴は無駄死にするな」
「せいぜい主計科給仕係りがいいとこだろう」
次々と軽口を吐いて笑い出す学生達。
「何を言っているの! この方は……」
と真実を言おうとしたカトリーナを制止するアレックス。
「いいでしょう。あなた方の能力を知りたいので、模擬弾装填した訓練艦で戦闘訓練を実地で行いましょう」
アレックスが提案する。
「模擬弾?」
「実地戦闘訓練だろ?」
ガハハハッと腹を抱えて大笑いする学生。
それには耳を貸さずに、
「カトリーナさん。訓練艦はありますよね?」
と尋ねるアレックス。
「はい。ございますが、使用には校長の許可が必要です」
「なら結構、多分大丈夫でしょう」
学生達に向き直って、
「あなた達と自分の信頼する仲間とが訓練艦に乗船して戦闘訓練を行います。準備が整い次第開始しますので用意しておいてください」
しっかりとした眼つき口調で言い放つアレックスだった。
「おいおい、本気かよ」
「いいじゃないですか、滅多に実地の戦闘訓練なんてできないんですから」
「よおし、やってやろうじゃないか、艦を用意できるならやってみな。相手になってやるよ」
学生達も本気になってきたようだ。
「カトリーナさん、校長室に戻ります」
「分かりました」
戦闘訓練として、士官学校用意の訓練艦ということになったが、もし用意できなければフォルミダビーレ号のバウンティー号とアムレス号搭載の大型戦闘機を使用するつもりだった。
しかしそれでは、アレックス達に絶対有利となるところだった。
校長は目を丸くして驚いた。
「訓練艦を用意することはできますが、大丈夫なのですか? 一人では動かせませんよ」
「大丈夫。信頼できる船乗りなら揃っていますから」
エダに目配せするアレックスだった。
三日後、士官学校に隣接する軍用空港に二隻の訓練艦が並べられた。
教官と整備士達に見守られながら、二隻の間に立ち並ぶ学生達とアレックスの仲間達。
もちろんアレックスの列に並ぶのは、エヴァン・ケイン以下の少年達で、戦闘経験豊富な海賊仲間は一人もいない。
居並ぶ少年達を訝しげに見つめる学生達。
「まだ子供じゃないか。いいのか?」
自分達より若い少年を見て、デイミアンが質問する。
「大丈夫です。皆、戦闘経験はありますから」
アレックスが平然と答える。
「戦闘経験、まさか実戦じゃないだろうな」
「もちろん生死を分ける実戦ですよ」
「ケンタウロス帝国の軍艦とも戦って勝ったぜ。リーダーの指揮でね」
マイケル・オヴェットが横やりを入れる。
「ほんとかよ?」
疑心暗鬼の学生達。
「とにかく心配はいりません」
「そうか、分かった」
相槌を打つデイミアンだった。
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銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅰ 士官学校
第二章
Ⅰ 士官学校
数日後、アムレス号にいるアレックスの元に、伯爵から爵位譲位式の日程表が送られてきた。
「これで、この惑星は君のものになるのだな」
アーデッジ船長が、右手で顎をなでるようにして呟いた。
「まだこれからですよ。国民の信頼を得なければ、まともな政治は行えません」
「政治か……君の口から、そんな言葉を聞けるとはね。出会ったばかりの頃からでは信じられない大変貌だな」
「僕もエダさんから告げられるまでは、孤児院育ちの一般少年でしかなかったですからね」
「それもこれも、私が君を浚ったことが発端だ。感謝したまえ」
「はいはい。感謝しますよ」
「さてと、これからどうするのかな」
「まずは譲位式を終わらせてからです。それからでないと何も始められませんから」
その日から、譲位式に向けての準備を進めれると同時に、爵位相続人として、ある程度の国家権力を与えられたのを機に、ケンタウロス帝国に対抗するための軍備増強計画を立て始めた。
その足でまず最初に訪れたのは、軍の士官学校であった。
軍士官学校は、伯爵廷や市街のある場所から遠く離れた場所の海沿いにあった。
学校の上空に突如として現れた超巨大な宇宙船に、校舎・校庭にいる学生達は、驚きの表情を隠しきれない。
上空の船を指さしながら、互いに見つめ合うしかできなかった。
船から一隻の舟艇が飛び出して、校庭に舞い降りる。
乗船口から降りてくるアレックスとエダ、そして護衛役のマルキオンニ隊長。
すると、校舎から軍服を着こんだ教官らしき男達が出てきて、アレックスを取り囲む。
すかさず銃を身構えるマルキオンニ隊長。
「おっと、何も致しません。銃を納めて下さい」
アレックスが頷くのを見て、銃を納める隊長。
「私は、当士官学校の校長、スティーヴ・ウィンストンです。王子殿下でいらっしゃいますね?」
「はい。アレックスと申します」
「王子殿下、このような場所にはいかような御用でしょうか?」
「うん。優秀な学生をトレードしにきました」
「トレード? ともかく中へ入りましょう」
案内される道中、出会う学生達が立ち止まり校長に対して敬礼をしつつ、通路の陰では興味津々でアレックス達を伺っている。
校長室の前に近づくにつれ、教官達が意外な人物の登場に驚きの表情を隠しきれない様子だった。
案内されて校長室の応接間に入るアレックス達。
「それでは改めて伺いましょうか」
「自分の船は、極端な人手不足でしてね。ここで人材募集をしようと思います」
「人材募集ですか?」
「特に、戦闘機乗りが沢山必要です」
「パイロット? 何人ほど必要ですか?」
「そうでね……百五十人、他に甲板要員。航海・船務要員など総勢三百人は必要ですね」
「パイロットが百五十人! まるで空母クラスではないですか! ほとんどパイロットなどのいない状態で航行していたのですか?」
「そうです。船は全自動航行システムを搭載してので、ほぼ無人でも操舵できて、単純な戦闘も可能なのです。だが、本格的な戦闘となると航空戦力が必要となります」
「しかし、ここは士官学校です。即戦力となる人材とはならないと思いますが?」
「それは船の中で実地・実戦で育成していけばいいでしょう。もちろん教官も一緒に同乗してくれれば完璧です」
「なるほど……動く学校ということですな」
「その通りです」
ドアがノックされる。
「入り給え」
ドアが開いて一人の女性が、テーブルワゴンを押して入室してきた。
静かに二つのカップにお茶を注いで二人の前に差し出した。
「ああ、カトリーナ君すまないね」
「どういたしまして」
軽く会釈するアニタと呼ばれた女性。士官学校の制服を着ていた。
「この子は、カトリーナ・オズボーン、戦術専攻科の二年生。この学校で優秀な成績を収める模範生です」
しげしげと見つめるアレックスに気づいて頬を赤らめる女生徒。
明らかに自分よりも若いと思われる少年が、空に浮かぶ巨大宇宙船から降りてきたことに興味も抱いている様子だった。
「必要な人材のリストを後日送りましょう」
「分かりました。こちらも大まかな人選を進めておきます」
「よろしくお願いいたします」
「校舎内の査察などいかがですか? 案内させますよ」
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銀河戦記/波動編 第二部 第一章 Ⅶ 爵位譲渡
第一章
Ⅶ 爵位譲渡
宮廷内に轟く銃声に恐れ慄く参列する人々。
その視線は、銃撃に倒れた衛兵に注がれている。
邸内での銃撃事件など目にしたことがないのだろう。
血が流れる様に震えている。
衛兵が瞬く間に倒され、外からも狙撃手がこちらを睨んでいると知らされた伯爵は降参するしかなかった。
「分かった……爵位を譲渡しよう」
小声で答えるその身体は小刻みに震えていた。
「しかし、なぜだ……。なぜ今になって姿を現した?」
「危機がすぐそこまで迫っているからですよ」
「危機?」
「ケンタウルス帝国です」
銀河渦状腕『ペルセウス腕』の向こうの端から開拓を続けてきて、ついに『たて・ケンタウルス腕』の端にある惑星サンジェルマンのすぐそばまでやってきたケンタウルス帝国。
それが百年ほど前だが、その頃はまだ開拓の真っ只中で、『いて・りゅうこつ腕』にて発展したトリスタニア共和国との間に国際中立地帯を設けて不可侵条約を結んだ。
その間にも、侵略のための軍事力増強を進めてきたのだ。
中立地帯を縄張りとする海賊達を手懐けて、惑星サンジェルマンから先の旧アルデラーン公国の偵察と海賊行為を行わせていたのである。
「帝国は着々と侵略のための軍事力増強を進めており、中立地帯から最寄りの惑星リモージュには軍事基地が建設されており、侵略開始は時間の問題です」
「手をこまねいている余裕はないということなのか?」
「その通りです」
しばらく考え込んでいる風の伯爵だったが、
「分かった。譲位式の日取りなど追って連絡する。これでいいだろう」
といいながら、あっち行けというような手振りで退室を促した。
「分かりました。吉報をお待ちしております」
マルキオンニ白兵部隊長に目配せすると、くるりと踵を返して元来た道を戻っていった。
招かざる客を見送った伯爵は、大きなため息をつくと、
「とにかく、譲位式を執り行う手続きを始めてくれ」
と、側近に命令した。
「かしこまりました」
疑問の余地もなく従う側近だった。
この場に参列した大臣・諸侯達も同じ思いだった。
旧トラピスト星系連合王国の末裔の王族であり、トリスタニア共和国の創設者、そしてこの地アルデラーン公国をも興した人物の子孫。何より、ロストシップと呼ばれる伝説の宇宙船アムレス号に乗って、宇宙を航行してやってきた人物なのだ。
少なくとも宇宙空港を取り囲む報道機関や野次馬などの一般民衆にとっては、空港に停泊する巨大宇宙船の雄姿を見ただけでも、それを所有しているという人物の評価は爆上がりであろう。
アムレス号に舞い戻ってきたアッレックス。
「いかがでしたか?」
転送装置を使ったのだろう、いつの間にか来ていたルイーザが尋ねる。
「はい、想定通りでした。後日爵位譲位式の日取りを伝えてくれるらしいです」
答えるアレックス。
「一応、うまくいったようね。譲位式が終わるまでは安心できないけどね」
「そうですね。それはそうと、一隻の船が惑星を飛び立ちました」
「それはたぶん、ロベスピエール侯爵でしょう。謁見の間から姿を消していましたから」
「自分の護衛艦隊を見捨てて?」
「損傷して動かない艦船など無用だと思っているのだろうね」
「無慈悲な」
「ともかく、その護衛艦隊と連絡を取ってくれ」
「了解」
数時間後、アレックスの元に護衛艦隊司令官が訪れていた。
ここへ来るまでに、アムレス号の船内施設を脅威の目で見つめてきたらしく、現ると同時に口を開いた言葉が、
「信じられません。この船はまるで未来から来たような設備のようです。前回は直接転送されてきましたが……」
と目を輝かせて興奮していた。
司令官とて、この船が数百年前に建造されたロストシップと呼ばれるものだとは知っていたが、自身が操船する艦船とは比べることすら出来ないほどの科学力を見せつけていた。
その船の所有者であるアレックスが進言する。
「以前も言った通り、あなた達の艦船の修理はこの惑星で行うことを保証します」
「ありがとうございます」
「さて、君達の主君であるロベスピエール侯爵は、配下の損傷した艦隊を放っておいて自国へと立ち去ったようです。何か思うことはありますか?」
質問を投げかけるアレックス。
「どうやら私達は見捨てられたようです。侯爵は部下をぼろ布のように使い捨てにする人物です。主を失った我々を、殿下の配下に入れて貰えないでしょうか?」
「いいでしょう。ケンタウロス帝国の脅威が迫っている今、軍の再編成は喫緊の課題ですから」
「感謝いたします」
こうしてアレックスの配下に、侯爵配下の艦船が加わった。
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