銀河戦記/波動編 第二部 第五章 Ⅱ 大気圏突入
第五章
Ⅱ 大気圏突入
惑星アルデラーンに近づく伯爵艦隊。
念のためにと、偵察艦を衛星軌道に配置させた。
やがて惑星上の陸海空の様子が映像として上がってきた。
「惑星内は大騒動みたいですね」
カテリーナが確認する。
「どうやら宇宙空間を攻撃できるのは、地上基地のミサイルだけのようだな」
「攻撃される前に、地上基地を叩きますか?」
カトリーナが尋ねる。
「その必要はないな。大した攻撃は出来なさそうだし、窮鼠(きゅうそ)猫を嚙むというしな。あくまで平和的に交渉を進めたいのでね。まあ、攻撃してきたら対処するけどね。アムレス号だけで地上に降りる。他の艦は待機させておいてくれ」
「かしこまりました」
カテリーナが、その指令を全艦に伝えた。
たった一隻で向かうことに誰も意見するものはいない。
アムレス号の性能を信じて疑わなかった。
「衛星軌道に入りました」
操舵手のジャレッド・モールディングが報告する。
「大気圏突入態勢! 減速降下せよ!」
アレックスが決断する。
復唱するオペレーター達。
「大気圏突入態勢!」
「減速降下!」
全員が緊張する瞬間である。
「ジェット水流噴射ノズル準備!」
「準備OKです」
「噴射!」
艦首部分にあるノズルから水をジェット噴射させると、水がたちまち沸騰しながら艦体に凍り付いた。熱防御システム(アブレータ)として水の融解熱と蒸発熱を利用している。とにかく超安上がりな耐熱対策である。
「噴射終了!」
アムレス号は氷塊となって大気圏に突入開始する。
高速で大気に接触することで、氷が水となり水蒸気となり、艦体は水蒸気で覆われ巨大な雲塊となって突き進む。
大気圏は、宇宙空間に近い方から、熱圏・中間圏・成層圏・対流圏となっており、それぞれに温度が上がったり下がったり繰り返す。各層で恒星からの紫外線の吸収の仕方や、大気の密度が異なるからである。
やがて進行速度も低下して安定してくる。
「成層圏に入りました」
ここに至って、艦体にへばり付いていた氷塊はすべて熔け切っていた。
「よし、まずはアルタミラ宮殿へ向かう」
アルタミラ宮殿は、旧アルデラーン公国時代の政治の中枢であったが、ロベスピエール侯爵家が実権を握って以来、当家の持ち物となった。
「戦闘機多数接近!」
電探手のライオネル・エムズリーが叫ぶ。
「おいでなすったか……ハイアットに適当にあしらってもらうか」
ボビー・ハイアットは機銃手。
「任せてください」
機銃は、一基一人で扱えるが、全自動で艦橋からモニターを操作して一人でも扱える。
ハイアットの目の前にあるモニターに無数の戦闘機の機影が投射されている。それらに照準を合わせるのも自動で出来て、動き回る戦闘機群に最も照準が合った時に、マークが赤く点滅して発射タイミングを知らせてくれる。
「発射!」
アムレス号から次々と機銃が掃射されて戦闘機が撃墜され、緊急脱出するパイロット達。
まるで蚊取り線香の煙に当てられた蚊が舞い落ちるように。
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豆知識
宇宙船が大気圏に突入する速度は、通常秒速7.8キロメートル(第一宇宙速度)以上の超高速となる。断熱圧縮加熱された空気が超高温となり、アムレス号を真っ赤に染め上げる。その温度は三千度から数万度にも達して、融点の最も高い金属タングステン(融点3387度)さえも熔かしてしまう。
なので熔けないように苦心しても無駄なので、いっそ熔かせて融解熱・気化熱に変換させて艦体を守る方法がある。地球歴1966年代におけるアメリカ合衆国NASAの開発したアポロ宇宙船の司令船が、地球帰還の際の大気圏突入時に、外壁のアルミニウムの四層ハニカムパネルの耐熱シールが解けることによって、本体を熱破壊されるのを防いだ。
水(氷)は、地球上における常温・常圧で液体または固体の物質中で比熱が最も大きい。融解熱(凝固熱)気化熱(凝縮熱)が最大であるから冷却材として最適で、しかも無尽蔵に入手できる。
高山に上って気圧が下がり水の沸点が下がるのは誰でも知っている。
そして真空に近い状態となると、水の沸点と融点が0.01度程度しか違わないために、一気に昇華して氷となる。これを応用したものが真空凍結乾燥(フリーズドライ)である。
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