銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅵ 別動隊
第一章
Ⅵ 別動隊
漆黒の宇宙を進撃する十万隻の艦隊。
旗艦戦艦デヴォンシャーの艦橋。
「敵の哨戒機を撃ち落としました」
艦隊参謀長のランドルフ・タスカー大将が報告する。
「うむ、放っておいても構わなかったのだがな」
公王アレックスが呟くように言った。
「惑星トゥーロンの戦力は分かるか?」
「およそ十四万隻です」
副官アリスター・カークランド大佐が答える。
艦橋にいるオペレーター達のため息が聞こえる。
「四万隻の差か……。まあ、何とかなるだろう。惑星までの到達時間は?」
「およそ四時間です」
航海長のヘイデン・グルーコック中佐が答える。
「そうか……よし、乗員達に交代で一時間の休息を与えようか」
「分かりました」
タスカー大将が半舷休息の手配を始める。
「私も休むことにしよう。タスカー大将、後を頼む」
「かしこまりました」
艦内通路、半舷休息を貰った乗員達が三々五々、それぞれの目的地へと歩いている。眠りのために自分の部屋へと向かう者、腹ごしらえのために食堂に向かう者、賭け事に集まる者もいた。
司令官私室。
デスクに座り写真を見つめているアレックス。
写真には、エドワード王子を抱いているキャサリン王妃が映っていた。
しばらく見つめていたが、引き出しに戻し、目覚まし時計をセットしてベッドに横になった。
三時間後。
「戦闘配備完了しました」
タスカー大将が報告する。
目の前には、惑星トゥーロン守備艦隊十四万隻が整列していた。
「全艦、光子魚雷発射!」
発射される光子魚雷、当然相手側からも発射される。
両艦隊の中間地点で相殺して炸裂する光子魚雷。
そこを潜り抜けて両艦隊へと突き進む魚雷群。
「デコイ発射!」
艦長のブレント・ブリンドル中佐が独断でデコイを発射させる。
艦隊全体の指揮はタスカー大将が行うが、それぞれの各艦に対しては艦長が指示を出す。
「全艦、艦載機発進!」
「艦載機全機発進せよ!」
指令はすぐさま艦載機発着場に伝えられて、発艦口から出撃してゆく。
公国艦隊には航空母艦百隻も追従していた。艦載機を百機ほども搭載できる。空母から艦載機が一気に発進する様は、蜘蛛の子を散らしたようだ。
二万機にもなる艦載機群が敵艦隊に向かってゆく。
やがて敵艦隊に取りついて攻撃を開始する。
「敵の艦載機のお出迎えがないようですね」
タスカー大将が報告する。
「十四万隻を相手に、艦載機二万機では心もとないからな。燃料と弾薬が尽きたら帰還させろ。次の作戦に入る」
ひとしきり攻撃を加えて、弾薬が尽きた艦載機が帰還しはじめた。
「艦載機が帰還しました。損害、百八機が未帰還」
「そうか……戦死した乗員は二階級特進」
「分かりました。手続きします」
艦隊参謀次長のジェフリー・ウォーカー大佐が答える。
戦況を見つめながら次の作戦を伝える公王アレックス。
「オルコック少将に繋いでくれ」
デヴォンシャー艦隊から遠く離れた所に別動隊として、オルコック少将に率いるシュトラールズント艦隊が航行していた。五千隻のガラクタ戦艦を曳航している。
旗艦シュトラールズントの艦橋。
「少将殿、旗艦デヴォンシャーから入電です」
通信士ボビー・ハイアット大佐が伝える。
「繋いでくれ」
「かしこまりました」
正面スクリーンに公王アレックスが映し出された。
『首尾はどうだ?』
公王の問いに答えるオルコック少将。
「万全です。順調に作戦通りのコースで進撃中です」
『ご苦労様。そのまま予定通り進めてくれ』
「お任せください」
通信が切れた。
「作戦開始時刻まで、残り二分三十秒です」
副長のアルフィー・キャメロン中佐が伝える。
彼は士官学校卒時には機関士だったが、機関長を経て副長になっていた。
「そうだな。総員配置に着け!」
オルコック少将が命令するが、
「既に配置済みです。いつでもOKです」
「ならば四十秒間、機関全速だ!」
最高速度まで上げて、ガラクタ戦艦を曳航するシュトラールズント艦隊。
「四十秒です!」
キャメロン中佐が合図した。
「全艦、曳航を解け! 離脱しろ!」
その声で、全艦が曳航ビームを解いて離脱を始めた。
ガラクタ戦艦は、慣性に任せてレマゲンの橋方向へと漂流してゆく。
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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅴ 防衛戦
第一章
Ⅴ 防衛戦
メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン。
その後背には、渦状腕ペルセウスからオリオンへと渡る海峡『レマゲンの橋』が口を広げていた。そこを通過すれば、その対岸ブレスト恒星系第三惑星リモージュに到着する。リモージュもトゥーロンも橋を守るために要塞化されている。
「グロベンラーデが陥落しただと? しかも遠征艦隊の大部分が敵に寝返ったとはどういうことだ?」
司令官ノルベルト・ギーゼブレヒト大将の怒号が艦内に響く。彼は、ペルセウス方面軍最高司令官でもある。
「給料を倍出す、とか言われたんですかね」
副官のラインホルト・ブルーメンタール准将が揶揄する。
「馬鹿な! いくら給料が良いからって、味方を裏切るものかっ!」
「ともかく迎撃の準備を致しましょう。間違いなく、次はここにやってきますから」
「当然だ!」
どちらの方角から攻めてくるか分からないため、惑星を中心に扇状に戦列を組んでいた。戦列の両端に高速艦を配置し、いつでも直ぐに方向転換できるようにして、敵艦隊を囲い込む態勢である。
「艦隊の配置、完了しました」
「うむ、索敵機を飛ばしてくれ。方位角十五度間隔で複数な」
「分かりました」
数時間後、索敵機が発進して、来るべき敵艦隊の捜索に出た。
「敵艦隊の勢力が分かりました。総勢十万隻です」
「十万隻だと? どこからかき集めたんだ? 遠征に出た時は三万隻だったはずだ」
「本国から呼び寄せたのでしょう」
「本国はもぬけの殻ということか?」
「そうなりますね」
「では、今すぐ艦隊を組んで攻め込めば、本国を落とせるということか?」
「どうやって行くのですか? ペルセウス方面はほぼ公国の支配に落ちました。トリスタニア共和国側の『ルビコンの橋』を渡るしかないのですがね」
「その前に『タルシエンの橋』があるだろ」
宇宙空間を進む索敵機。
機内は三人乗りで、操舵手・電探手・機銃士である。
通信は手の空いてる者が担当。
「こちらトネ4号、サンダーバードどうぞ」
機銃士が連絡する。
『こちらサンダーバード、トネ4号どうぞ』
「こちらトネ4号、探索の終端まで来ましたが、敵艦隊は見当たりません」
『こちらサンダーバード、トネ4号帰還せよ』
「こちらトネ4号、了解。帰還します」
その時、電探手が叫んだ。
「待って! 前方に感あり!」
『トネ4号、正体を確認せよ』
「こちらトネ4号、了解」
惑星トゥーロンの艦隊参謀室。
「索敵機、トネ4号の通信が途絶えました。敵に見つかって撃墜されたものと思われます」
ブルーメンタール准将が報告する。
「距離は?」
ギーゼブレヒト大将が尋ねる。
「三十二光秒です。方角左十五度」
「戦列を左十五度回せ!」
「了解。戦列を左十五度回します」
これから始まるのは防衛戦である。
艦隊を前進させて迎撃に出るのは無能者がやることである。
惑星の傍で防衛戦に固執すれば、艦が損傷すれば直ちに惑星に降りて、簡単な修理や人員補充ができる。
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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅳ ガラクタ戦艦
第一章
Ⅳ ガラクタ戦艦
リューベック恒星系惑星グロベンラーデの衛星軌道に待機する公国艦隊。
衛星カトラーズとのラグランジュ点に位置するワープゲートから続々と艦艇が現れた。アルデラーン公国からの五万隻である。さらにエセックス侯国から一万五千隻の友軍が加勢していた。
エセックス侯国のエルバート侯爵は、ここで恩を売っておいて後の褒美を期待しての援軍派遣なのであろう。
進軍艦隊は総勢十万隻にも膨らんだ。
戦艦デヴォンシャー艦橋では、通信士が各艦艇と艦隊編成の調整指示を忙しく伝え続けている。
「壮観ですな。十万隻の艦隊など初めてみましたよ」
正面スクリーンに映し出された艦艇群を見て、タスカー大将が感慨深げに言った。
「そうですね。大将では指揮系統に支障がでますね。上級大将の階級を創設して昇級しましょう」
「上級大将ですか?」
「はい。本国に戻ったら正式に任命式を行います」
「ありがとうございます」
公国軍の階級は大将が最高位である。名誉職としての元帥はあるが実働部隊を率いるものではない。
また準男爵の貴族位も授けられているが、そうそうポンポンと爵位を与えられるものでもない。
「艦隊編成、完了しました。いつでも発進できます」
副官のカークランド大佐が報告する。
アレックスが宣言する。
「時期は満ちた! 進むのみだ!」
タスカー大将が呼応する。
「全艦、微速前進! 進路、メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン!」
「微速前進!」
艦長ブレント・ブリンドル中佐が復唱する。
「進路、メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン!」
とは、航海長のヘイデン・グルーコック中佐。
静かにゆっくりと動き出す艦隊。
史上最大の艦艇数、十万隻の進撃であった。
デイミアン・オルコック少将の巡航艦シュトラールズント艦橋内。
「動き出したな」
オルコック少将が呟く。
「こちらの首尾はどうだ?」
「遅れています。しかし、航行中になんとかします」
機関長のアルフィー・キャメロン大佐が答える。
「分かった。ともかく我々も出発させよう」
「出発します」
操舵手のジャレッド・モールディング中佐が復唱する。
オルコック少将に任されているのは、およそ五千隻のガラクタ戦艦である。
何とか動かせるが戦闘できない戦艦、動かせないが外装をカモフラージュすればそれなりに見える戦艦などである。
それらのガラクタ戦艦を、頑丈なロープなどで一括りにして曳航してゆくのだ。動き始めは莫大なエネルギーが必要だが、一旦動いてしまえば慣性で動いてゆく。コース変更も少しのエネルギーで済む。
ともかく初動は、シュトラールズント艦隊五千隻で曳航を始める。
ガラクタ艦隊は、あちこちでぶつかり合いながらも引き摺られてゆく。もし空気があれば壮大な音響を立てているであろう。
「機関全力! 進路、メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン!」
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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅲ 惑星トゥーロン
第一章
Ⅲ 惑星トゥーロン
公国艦隊旗艦デヴォンシャーの艦橋。
正面スクリーンにプラール中将が出ている。
「惑星グロベンラーデの治政を、惑星ケムニッツと同じように公国の支配下となるように尽力してくれ」
『自分がですか?』
「ドゥーゼ中将にやらせたんだ。君もやらなくてどうする?」
『分かりました。やってみます』
通信が切れた。
「ドゥーゼ中将は元々駐留艦隊ですが、プラール中将は遠征ですから、やりづらいでしょうね」
タスカー大将が同情するように言った。
「軍事国家だしな。一般住民は施政者が誰であろうが同じだろうし、軍人は階級しだいだしな。そう難しいほどでもないだろ」
作戦会議室に集まった参謀達。
「次の目標はどちらへ?」
副官のアリスター・カークランド大佐が尋ねる。
「メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロンだ」
「トゥーロン……ということは、遂に『レマゲンの橋』攻略ですね」
「そうだ」
銀河系渦状腕ペルセウス腕とオリオン腕の間に掛かる航行可能な宙域を『レマゲンの橋』と呼ぶ。
軍事的要衝のために、橋の両端の近くにある惑星は軍事要塞化されている。トゥーロンはそんな惑星だった。
「しかし、我々が次々と帝国惑星を攻略しているのを知れば、守りをガッチリと固めてきていると思いますよ」
「固められる前に攻略するまでだ」
「どうやって?」
「アルデランに残している五万隻をこちらに回す」
「本国の防衛は大丈夫なのでしょうか? ロベスピエール公爵が謀反を起こすことも考えられますが……」
「大丈夫だろうよ。今の公爵に謀反を起こす気概はないし、仮にあったとしても百戦錬磨の我が艦隊が舞い戻れば足が震えて逃げ出すだろう」
端末が鳴り出し、秘書官が出る。
「閣下、オルコット少将から連絡が入っております」
「スクリーンに出してくれ」
秘書官が端末を操作すると、オルコット少将が出る。
『オルコットです。生存者の救助終了しました。これより、そちらに向かいます』
「オルコット少将、例の奴の方の首尾の方はどうだ?」
『はい。ともかく修理すれば自力で動かせる艦が三千隻集まりました。動かせないけど外見上それなりに見える艦が千五百隻で曳航すれば何とかOKです』
「ご苦労だった。何とかこっちまで運んでくれ」
『了解しました』
オルコット少将は、戦闘領域で生存者の救助活動を行う他に、漂流する艦艇の調査も行っていたのだった。
通信を終えると早速カークランド大佐が尋ねてくる。
「ガラクタ集めてどうなさるおつもりですか?」
「使い方次第でガラクタも役に立つものさ」
意味深に笑みを浮かべる公王アレックスだった。
「惑星トゥーロン侵攻作戦を発動させる」
その一言で、侵攻作戦の準備が始まった。
侵攻ルートの策定から艦隊編成。
これまでの戦闘で損傷した艦艇の修理と乗員の補充。
そしてガラクタ戦艦の改造である。
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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅱ 迎合
第一章
Ⅱ 迎合
公国艦隊旗艦デヴォンシャーの艦橋。
「帰国艦隊三千隻が出発しました。残る五千隻も出航準備完了!」
参謀として赴いたプラール中将が報告した。
「うむ、ご苦労さま」
まるで古株であるかのように応対する公王アレックス。
「全艦、惑星ケムニッツへ進路を取れ!」
新たなる指令を下した。
「了解。惑星ケムニッツへ迎え!」
タスカー大将が全艦に下令し、プラール中将も配下の五千隻に命令を下した。
「惑星ケムニッツです」
正面スクリーンに映された惑星を指さすプラール中将。
「そうか……」
しばし惑星を見つめる公王アレックスだったが、
「プラール中将!」
「はっ!」
「この惑星は君の配下の艦隊を使って、公国の領土となったことを流布してくれ」
と、作戦を伝える。
「私達に任せると?」
「そうだ。税金とか、治政に関してこれまで通りとする」
「分かりました。旗艦ヴェルテンベルクのヘンドリック・ドゥーゼ中将にやらせましょう」
「任せる。貴官は一旦自分の艦に戻ってもいいぞ」
「御意!」
こうしてプラール中将は、旗艦戦艦アルミニウスへと戻っていった。
「中将を解放して良かったのですか?」
タスカー大将が尋ねた。
「情勢を違(たが)えるような御仁ではないよ」
「そうでしょうか?」
「ケムニッツはドゥーゼ中将に任せて、惑星グロベンラーデへ向かう」
「了解。進路、リューベック恒星系惑星グロベンラーデ」
艦長のブレント・ブリンドル中佐が復唱する。
惑星ケムニッツに向かうプラール中将率いるアルミニウス艦隊、惑星グロベンラーデに向かう公王率いるデヴォンシャー艦隊。二手に分かれて移動を開始した。そして、デイミアン・オルコック少将のシュトラールズント艦隊が捜索救助活動として居残った。
「先の帰国艦隊は、ワープゲートをちゃんと残してくれますかね」
副官アリスター・カークランド大佐が危惧する。
「行けば分かるさ」
タスカー大将が答える。
九時間後。
惑星グロベンラーデに到着した。
「ウォーズリー少将にワープゲートを任せる」
公王が命令を伝えると、
『OK、任せてください』
小躍り勇んでワープゲートに向かうウォーズリー少将だった。
惑星パウサニアースでもワープゲート担当だったので経験済みだからだろう。
「さてと、地上はどうかな?」
アレックスが呟くと、
「帰国艦隊の人が、事情を話してくれているとありがたいのですが?」
副官カークランド大佐が呟くように言った。
「まあ、無理だろうな。負け戦でしょげていて、一刻も早く帰りたかっただろう」
「ですね……」
「プラール中将に繋いでくれ」
「繋ぎます」
通信士のデイヴィッド・シモンズ少佐が答える。
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