銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅳ 攻撃開始!

第四章


Ⅳ 攻撃開始!


 アムレス号と侯爵艦隊が対峙しているとき、その側面からひっそりと近づく艦影があった。
 ランドルフ・タスカー中将率いる伯爵艦隊本隊である。
 その旗艦、駆逐艦デヴォンシャー艦橋。
「敵艦隊の側面を捕捉しました。敵艦にまだ気づかれてはいないようです」
 レーダー手が報告する。
「流石は伯爵様。自らが囮(おとり)となって、敵艦隊の注意を向けさせてくれたのだ。作戦Aプラン成功だ!」
 ランドルフ・タスカー中将が感心気に呟く。
「戦闘配備は?」
「完了しています」
 副官が答える。
「では、行ってみるか」
 言いながら艦内を見回す。
 応えるようにオペレーター達が頷く。
「行きましょう。今がチャンスです」
 副官が応える。
「よし! 全速前進!」
 全艦が一斉に敵艦隊に向かって突進する。
「それにしてもカーライル子爵配下の艦の動きが気になるな」
 中将が疑心暗鬼になっている。
「駆逐艦グラスゴーのバートルズ中佐でしたかな。あやつは、我々と所属が違うとのことで、閣下の後方で待機してます」
 副官が説明する。
「裏切って背後から狙い撃ちされたら、いくらアムレス号とて無傷では済まないだろう」
「ですが、閣下はそれを承知で彼らを従わせました。何か思案がおありなのでしょう」
「ふむ。我々は閣下を信じて、前面の敵と戦うだけだ」
 腕を組んで、正面スクリーンに投影されたアムレス号の雄姿を見つめていた。
「射程距離に入りました!」
 と、レーダー手のグレゴリー・クロンプトン少尉。
「よし! 全艦、攻撃開始!」
 我に却って攻撃命令を下令する中将だった。
 敵艦隊に向かって突撃開始する伯爵艦隊。


 一方のヘニング男爵艦隊、あちこちの艦艇が攻撃を受けて炎上している。
 旗艦アクティオンの艦橋は騒然となっていた。
「右舷より攻撃! 伯爵艦隊です!」
 悲鳴のような声で叫ぶレーダー手。
「本星に向かったのではなかったのか?」
「ロストシップは囮だったようです。その隙に迂回して側面攻撃を狙ったようです」
「姑息な戦法を取りやがって。回頭だ! 敵艦隊に迎え!」
「しかし、ロストシップに側面を見せることになりますが?」
「ええい。攻撃してこない艦は放っておけ、どうせ何もできん」
 その口調に反論できず、回頭を復唱する副官。
「回頭! 敵艦隊に迎え!」
 ゆっくりと回頭する男爵艦隊。

「敵艦隊が反撃態勢に入りました」
 副長が伝える。
「うむ。逆噴射、両舷半速後進、間合いを保ちつつ後退せよ」
 作戦が変わったようだ。
「全艦に伝達、作戦Cプランに変更!」
 副官が追従する艦隊に伝令を告げる。
 やがて攻撃を続けながらも、じりじりと後退してゆく伯爵艦隊。


 戦況にいら立つヘニング男爵。
「何をしているか! 数ではこちらが勝っているのだぞ。押しまくれば勝てるぞ。全速前進だ!」
 速度を上げる艦隊だが、突出する艦に対して的確に集中攻撃を浴びせられて被弾してゆく。
 さらにいら立ちのボルテージを上げるヘニング男爵。
「ええい。カーライル子爵が差し向けた刺客艦隊は何をしているのだ!」
「は、はあ……。バートルズ中佐の艦隊はロストシップの後方にいるようですが……。チャンスを伺っているのではないでしょうか?」
「何を余裕かましておるのか! 連絡は取れないのか?」
「無理です。通信は傍受されてしまいます」
「ええい。忌々しい!」



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銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅲ 侯爵艦隊出撃

第四章


Ⅲ 侯爵艦隊出撃


 アレックスがアルデラーン公国再興を高らかに宣言した日、ロベスピエール侯爵の宣戦布告の日でもある。
 宮殿会議室に家臣達を集めて、今後の施策を検討していた。
「宣戦布告をしたものの、戦争の準備が始まってもいない。艦隊編成から始まって補給をどうするかなど、ここで討論してもらいたい」
 その後、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を経て、一応の戦略が練り上げられた。
 ともかく侯爵側も戦争の経験のある者は一人もいない。公国分裂以来時勢が落ち着き平和な時代が長く続いて、せいぜい戦闘訓練か机上作戦演習程度しか行ったことがない。
「カーライル子爵の情報では、敵勢力はロストシップの他に駆逐艦十二隻、謀反者のウォーズリー少佐の艦艇五隻、計十七隻+αとなっております」
「ウォーズリーの奴が寝返りしなきゃ、伯爵艦隊など気に掛けるほどのこともなかったのに。捕虜にできたら、反逆罪で処刑しましょう」
「まあ良いわ。去った者は放っておけ! それより早く艦隊編成を急ぐのだ!」
「かしこまりました」

 数時間後。
「こちらの艦隊の勢力が整いました。巡洋艦二十四隻すべてを投入します。ルビコンの橋の防衛ですが、現在トリスタニア共和国はケンタウロス帝国と戦っていますので、こちらから侵略してくる可能性はありません」
「分かった。では、肝心の艦隊司令官は誰にするか?」
 ロベスピエール侯爵が尋ねると、一人の臣下が歩み出て跪(ひざまず)いた。
「私め、ブランドン・ヘニングにお任せを」
「ヘニング男爵か」
「さようにございます。この私めにお任せくだされば、こましゃくれた小僧の艦隊など一捻りにして差し上げます」
「心強い言葉だ。いいだろう、男爵に艦隊を預けよう」
「ありがたき幸せ。必ずや小僧の首を召し上げてみせましょう」
 館内にどよめきが沸き起こり、拍手喝采となった。


 漆黒の宇宙を突き進む侯爵家分艦隊。
 旗艦アクティオンにはヘニング男爵が坐乗している。
「小僧目らの艦隊の位置はまだ分からないのか?」
 遭遇予定位置のヴォルソール星域に到達しても敵艦の姿が見当たらないのに焦っている。勝敗はどちらが先に発見して攻撃を仕掛けるかに掛かっていると理解しているからである。
「レーダーに感あり! 前方二万宇宙キロ!」
 レーダー手が叫ぶ。
「でかした! モニターに映せるか?」
「かしこまりました!」
 すぐに正面モニターに敵艦が映し出される。
 そこに映っていたのは、アムレス号だった。
「まさか……あれが伝説のロストシップ……なのか?」
「全長約3000メートルの化け物です!」
「3000メートルだと! この艦隊最大の我が艦アクティオンですら900メートルだぞ!」
「他に艦隊はいないのか?」
 副官がレーダー手に聞き返す。
「見当たりません。一隻だけです」
「まさか一隻で足止めして、残りの艦隊がアルデラーン本星を目指しているのでは?」
「小癪な作戦を……。ええい、いくら巨大でも全艦で攻撃すればひとたまりもないだろ。射程に入り次第、総攻撃だ!」
 接近し合う艦隊とアムレス号。
 やがて、火花を散らし始める。



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銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅱ 嵐の前の休息

第四章


Ⅱ 嵐の前の休息


 アムレス号艦内一般食堂。
 広くゆったりとした食堂内で談笑しながら食事をしている乗員達。
 通常航海中なら三交代四交代であるが、戦闘警戒態勢のため二交代となっている。休憩とはいえ待機状態で、いざ戦闘となれば総員配備である。
 消化の良いスープにパンという軽い食事である。
「初陣でいきなり艦隊戦かよ」
 アルフィー・キャメロンが嘆く。
「でもよ、このアムレス号配属で助かったよ」
 ライオネル・エムズリーがため息をつく。
「伝説のロストシップだもんな。幾多の戦いを乗り越えてきた艦だし」
 ボビー・ハイアットが同調する。
 彼らが明るく語らっているのも、やはりロストシップということだろう。
「おう、お前ら速いな」
 声を掛けてきたのは、デイミアン・オルコックだった。
 食事を乗せたトレーを両手で抱え、彼らと同じテーブルに座った。
「デイムも艦長に任命されて大変だね」
 デイムはデイミアンの愛称である。
「一応学生会役員だったし、ハゲ教官が推薦したらしい」
「ああ、ロヴェットの奴か」
 ハゲ教官とは、ウォルト・ロヴェット統括教官のことで、士官学校卒業生を指導する教官のトップである。一応准将という位官となっている。


 伯爵艦隊旗艦グラスゴー艦橋。
 ロヴェット統括教官が、艦隊司令官に報告に来ていた。
「それで候補生達はうまくやっているかね」
 ランドルフ・タスカー中将がロヴェット統括教官に尋ねた。
「はい。楽しく勉強していますよ。何せ、伝説のロストシップに乗っているというのが士気を高めています」
「そうか。俺も乗ってみたいよ」
 羨ましそうな表情の司令官だった。
 誰しも伝説のロスシップに憧れていたのだった。
「司令! 哨戒機より入電しました。敵艦発見! 哨戒機からの映像をスクリーンに流します」
 正面のスクリーンに映像が映し出される。
 画面を左から右へと移動する艦隊。
「拡大投影!」
 映像が拡大されて敵艦の姿がはっきりと映る。
「どうやら侯爵の戦艦デヴァステーションは出向いていないようだな」
「相変わらず部下まかせですね」
 副官のアリスター・カークランド少佐は呆れた表情だ。
「それでは、自分は戻ります」
 ロベット統括教官が、アムレス号へと戻っていった。


 アムレス号艦橋。
「哨戒機七号より敵艦隊の詳しい座標が送られてきました」
 哨戒機からの報告を受けて、通信士が報告する。
「敵艦隊まで七十四光秒!」
「全艦戦闘配備!」
 アレックスの命令が下って警報が鳴り響き、全艦戦闘態勢へと移行してゆく。
 待機要員だった者が、自分の部署へと走ってゆく。
「哨戒機七号には、そのまま監視を継続。他の機体は全機帰還せよ」
 艦内の乗員の感情が激しく高ぶってゆく。
「面舵五度、速度そのまま!」
 急加速、急転回すると敵艦に悟られる可能性があるので、少しずつ切り換えてつつ相手に接近する。
 やがてレーダーの捕捉範囲に到達すると、
「よおし、全艦最大戦闘速度! 全速前進!」
 アレックスが全艦放送で叫ぶ。
「さあ、実戦だ!」



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銀河戦記/波動編 第四章 第二部 Ⅰ 作戦会議

第四章


Ⅰ 作戦会議


 アムレス号内作戦室にて、各艦長を集めて作戦会議を行っているアレックス。
 スクリーンパネルに投影された星図を前に、艦隊参謀長のジェフリー・ウォーカー少佐が演説する。
「敵艦と我が艦の航行速度と両国間の距離から、このヴォルソール星域が主戦場になると見られます」
 さらに端末を操作して恒星図に切り替えた。
「主星ヴォルソールは赤色巨星で、五つの惑星が回っています。いずれもケイ酸塩を主体とした岩石惑星」
「惑星には居住地とかあるのか?」
「ございません。かつて鉄鉱石などの採掘場があったのですが、公国分裂以降には経済効果が薄いと判断されて撤退、無人惑星となりました」
「経済効果か。本格的な戦争になれば経済効果なんて言ってられないからな」
 すでに戦争は始まっているが、本格的な戦争とは何を示しているのだろうか。
「閣下、シミュレーターの準備が完了しました」
 カテリーナが報告する。
「起動してくれ」
「かしこまりました」
 会議室の正面に据えられたパネルスクリーンに映像が映し出される。
 アレックスが解説する。
「ヴォルソール星域での戦闘を三つほどシミュレーションしてみた。まずはAパターンからだ」
 それから、解説しながら三パターンのシミュレーションを再生してみせた。
 数時間後。
 見せつけられた映像に感嘆のため息をつく艦長達。
「これらのシミュレーションを記録したディスクを渡す。各艦の戦術コンピューターにインストールしておいてくれ」
 各艦長にカトリーナがディスクを手渡す。

 作戦会議を終了して艦橋に戻ってきたアレックス。
「六時間後にヴォルソール星域に到達します」
 エダが報告する。
「哨戒機を飛ばすとするか。カトリーヌ頼む」
「かしこまりました。哨戒作戦発令します」

 アムレス号艦載機発着場。
 警報音が鳴り響き、
『哨戒機乗員は直ちに発進準備せよ!』
 艦内放送が艦内に響いている。

 手回し良く、哨戒機がいつでも発進できる状態で、十二機甲板上に用意されていた。操縦士・電探手兼通信士・機銃手の三人体制で乗り込む。
「エンジン良好、燃料満タンです」
 整備士がパイロットに伝える。
「ありがとう」
 言いながらコクピットに乗り込むパイロット。
「重力加速度計・磁気感知計などすべて正常だぜ」
 先に乗って敵艦隊を発見する機器を調整していた電探手が伝える。
「こっちもOKだ」
 とは、機銃手。
「発進準備完了だな。管制室に連絡する」

 十数分後。
 アムレス号の艦載機発着口が開いて哨戒機が宇宙空間へと飛び出してくる。
「こちらブルーリーダー。配置につきました」
『了解。各機、予定のコース取りで哨戒任務に当たって下さい』
 カトリーナの指示で、各機が扇状に十度間隔、都合前方百二十度の範囲を索敵を開始した。

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