銀河戦記/波動編 第三部 第一章 Ⅱ 会敵

第一章


Ⅱ 会敵


「前方四十二光秒に国際中立地帯!」
 航海長ハリスン・メイクピース中佐が報告する。
「このまま前進する」
 エドワードが下令すると、
「了解。全艦、人命救助のために中立地帯へ進行する」
 ウォーズリー少将が復唱する。
 軍艦が国際中立地帯に入ることは、国際条約違反となるが、人命救助などの行動をとる時に限って許されている。
 命令に従って艦隊は国際中立地帯へと進入する。
 突然警報が鳴り響くが、航海長は警報を止める。
「中立地帯に入りました。このまま進みます」
 航海長が報告する。

 六時間ほど進んだところ、
「右舷15度に感あり!」
 電探手キャスリン・ウォード少佐が叫んだ。
「モニターに映してくれ」
「映します」
 映し出されたのは、ケンタウロス帝国軍の三隻。
「哨戒艇ですね。既にこちらを発見したようです。引き返していきます」
「追いかけますか?」
「必要はない。どうせ海賊基地を囲んでいる艦隊に戻るだけだ」
 高速で引き返す哨戒艇を無視して、海賊基地へと急ぐ艦隊。

 海賊基地が目の前にあった。
 その周囲を帝国艦隊が取り囲んでいた。
 エドワード艦隊に気が付いたのか、一斉に回頭してこちらに向かってきた。
「全艦、戦闘配備!」
 エドワードの命令が下る。
 艦内を駆け回って、それぞれの担当部署に急ぐ兵士達。
「何とか間に合ったようだな」
 ため息をつくエドワード。
「敵の戦力は?」
「戦艦二十隻、駆逐艦百二十隻かと」
「こちらの方が有利だな。落ち着いて当たれば負けはしない」
「戦闘配備完了しました」
「光子魚雷装填!」
 魚雷室では、発射管に光子魚雷が装填されてゆく。
『装填完了!』
 魚雷長が端末に向かって叫び艦橋に伝わる。
「照準合わせ!」
 戦術コンピューターを働かせて照準を合わせる。
 二百隻の艦艇が戦術コンピューターを連動させて、一隻に集中するなど無駄撃ちしないようになっている。
「照準合いました!」
「よし、発射!」
 全艦から光子魚雷が一斉に発射される。

 当然敵艦隊からも魚雷が発射され、中間地点で交差する。
 磁気信管が作動して炸裂する魚雷群だが、無事に通過してこちらや敵艦に向かうものもあった。
「ファランクスで迎撃!」
 高速で接近する魚雷に対しては、射撃指揮システムや火器管制レーダーに任せて自動で迎撃できるようになっている。
 それでも迎撃を搔い潜って命中する魚雷もある。
「味方艦、七隻に被害! 損傷中破なるも航行可能です」
「被弾艦を後方に下がらせよ」
 命令に従って後方に下がる被弾艦。
「敵艦隊の損害状況は?」
「確認できましたのは、撃沈3、大破2、中破4というところです」
「戦力差の違いが出たな」

 やがて両艦隊は距離を縮めてゆくかと思われたのだが、
「敵艦隊が後退を始めました。撤退のもよう」
「深追いはよそう。まずは、基地内の確認が先だ。連絡を入れてくれ」



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銀河戦記/波動編 第三部 第一章 Ⅰ 海賊基地のこと

第一章


Ⅰ 海賊基地のこと


 漆黒の宇宙を突き進む二百隻の艦隊があった。
 その旗艦である戦艦ロイヤル・サブリンの艦橋。
「惑星サンジェルマンまで六時間です」
 航海長が報告する。
「爺に会うのは何年ぶりだったかな」
 尋ね返すのは、アルデラーン公国第一公子のエドワード、後のアレクサンダー二世である。
「七年前、ハルバート伯爵さまの侯爵位授与式でお会いして以来ですね」
 艦隊司令官マーティン・ウォーズリー少将が答える。
 彼は、初めてアムレス号と戦うも散々な目に合わされて、結果鞍替えした指揮官だ。当時の階級は少佐である。
 爺というのは、惑星サンジェルマンの領主ハルバート侯爵である。
 アルデラーン公国が再興された後に伯爵位を返還され、さらに公爵位を授与されたのだ。
 恨みもしたが、自分の孫は可愛いかった。幼い孫が遊びに来るたびに、目の中に入れても痛くないほど溺愛するほどだった。
 侯爵の娘レイチェルには男爵位を持つ婿養子がおり、三人の娘を産んでいた。男子がいないので、なおさらエドワードを愛おしく思う侯爵だった。

 惑星サンジェルマンに近づいてゆく艦隊。

「殿下、本星より入電しました」
「繋いでくれ」
「繋ぎます」
 通信用モニターに公王アレックスが映し出される。
「陛下。いかがなされましたか?」
『緊急だ。すぐさま国際中立地帯の海賊基地へ向かってくれ』
「海賊基地ですか?」
『そうだ。ケンタウロス帝国が奇襲を仕掛けてきたのだ。緊急通信が入った』
「これから向かって間に合いますか?」
『向こうも籠城戦で頑張っているようだ。開城される前に蹴散らしてくれ』
「わかりました」
『私もすぐにアムレス号で応援に向かう』
 通信が途切れた。
 一息ついてから、下令するエドワード。
「進路変更! 海賊基地へ向かう」
「進路変更、進路海賊基地!」
 ゆっくりと転進を始める艦隊。
「間に合うといいんですけど」
 ウォーズリー少将が心配する。
 だがその言葉の裏には、戦いの経験の少ない将兵が多い自分の艦隊の心配でもあった。
 このような日が必ずくると訓練は欠かさず行ってきたが、実戦となると思いもよらない事件はおこるものだ。最悪なのが敵前逃亡だ。命が掛かった戦いから逃げ出したくなるのは当然だから。
「アーデッジ船長がいるから大丈夫だと思う」
 エドワードが幼少の頃、アムレス号に乗って海賊基地に遊びに行っていた。なので、頭領アッカルドやアーデッジ船長とも顔馴染みになっていた。海賊船フォルミダビーレ号にも乗せて貰ったこともある。
 父アレックスがフォルミダビーレ号に乗り活躍していたことも知っている。海賊達は、常日頃から海賊行為において、戦いの連続を生き抜いてきているのだ。
 ケンタウロス帝国艦隊とて、全員が戦闘馴れしているとは限らない。艦隊編成した時に戦闘未経験の艦もいると思われる。
 そう簡単に負けるはずがない。



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銀河戦記/波動編 第二部 第五章 Ⅵ アルデラーン公国の再興

第五章


Ⅵ アルデラーン公国の再興


 惑星アルデラーンの領主となり公爵位となったアレックスは、アルデラーン公国再興に奔走することとなった。
 まずは重税に苦しむ市民のために税金の軽減、貴族だけの国会を見直して国民参加の議会設置、大商人が独占していた市場開放などなど、民衆のための政治を始めた。

 それらの新しい政策を大臣に任せて、自身は外交の旅へと出発した。
 銀河系渦状腕「たて・ケンタウルス腕」の端から端まで隈なく回って、アルデラーン公国の再興と公爵位に着いたことを報告・承認して貰った。
 一飛び一万光年ワープできるアムレス号ならではの巡航だった。

 一通りの外交を終えて、アルデラーンへと戻ってくると、空港で市民たちの歓迎コールが鳴り響いていた。
「公爵様万歳!」
「我らが国王さま!」
「アルデラーンに栄光あれ!」
 理不尽ともいうべき交代劇で、新領主となったアレックスことアレクサンダー公爵だったが、国民にしてみればロベスピエール侯爵を追い出したことに感謝していたのだった。
 侯爵の治政は、悪徳領主と言えるもので、政治上での重税や、経済上では賄賂・収賄の横行、異を唱える者を拘禁し暴行に及ぶなど、民衆は虐げられていた。
 宇宙艦隊が、いとも簡単に降伏したのも、これ以上侯爵の傍若無人な扱いに我慢ならなかったというものだった。
 この星では代々、侯爵の治政が続いていた。貴族政治では、民衆は税金を搾り取られる存在でしかなく、貴族の思い通りの治政が行われていた。
 新しい領主は孤児院育ちで貧しい庶民だったから、今度こそ民衆のための政治を行ってくれる。
 と思っていたら、早速減税や議会普通選挙など矢継ぎ早に政策を改めたことから期待は大いに膨らんでいた。

 宮殿謁見の間に戻ってきたアレックス。
「お疲れ様でございます」
 侍従長が近寄ってきて労(ねぎら)った。
 その名はヘクター・ダヴェンポート、先任の侍従長が侯爵と共に去ったので、宮廷官僚だった彼が後釜に入った。
「各諸侯国から高等弁務官事務所の開設願いが出されています」
「そうですか。構わずすべて受諾してください」
「かしこまりました」
 大使館ではなく、高等弁務官事務所であるのは、かつてアルデラーン公国の下に連邦制を取っていたからだ。

 こうして、銀河系渦状腕「たて・ケンタウルス腕」において、アルデラーン公国の再興が果たされたのだった。

第二部 了



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銀河戦記/波動編 第二部 第五章 Ⅴ ロベスピエール侯爵

第五章


Ⅴ ロベスピエール侯爵


「通信が途切れました」
「逃げたか。それでは直接会いに行こう。エダ、一緒に来てくれ」
 というと、エダを連れて転送装置に入った。
「それと、長机と椅子を転送する準備をしておいてくれ。署名台とするから停戦協定用の書類も一緒にな」
「かしこまりました。手配します」
 カトリーナが応じる。
「謁見の間へ!」
 装置が輝いて二人の姿が消えた。


 謁見の間。
 その一角が輝いて、二人が現れた。
「何者だ!」
 衛兵が二人を取り囲んで、銃を突きつけたが、次の瞬間、倒れてしまう衛兵。
 その様子を見てロベスピエール侯爵が唸る。
「何をした?」
「ちょっと眠ってもらっただけですよ。危害は与えておりません」
 実は二人の周囲には、目に見えないバリアーが張り巡らされており、触れた途端に電気ショックを与えるというものだった。腰にぶら下げている携帯転送装置がバリアー発生装置でもあった。
 カツカツよ侯爵の面前まで歩いてゆくアレックス。
「さてと……侯爵様の艦隊は降伏して、私の艦隊に編入されました。宇宙艦隊には侯爵様に従う将兵もおりません。改めて停戦協定を結びましょうか」
 そう言うと、携帯通信機でアムレス号に、
「例の奴を送ってくれ」
 と伝えた。
『わかりました。直ちに送ります』
 カトリーナが応答してしばらくすると、長机と椅子と書類二部が転送されてきた。
「さてと手続きを始めましょうか」
 書類の一冊を手に取り、侯爵に手渡す。

 書類を手渡されて目を通す侯爵だったが、次第に頬を赤らめて興奮しだす。
「なんだこれは!」
 侯爵が憤慨するのは当然のことで、特命全権公使が携えてきた書状を読み上げた内容の真逆のことが掛かれていた。
 特に、次の条項は耐え難い内容であろう。

〇転封のこと 侯爵の所領地である惑星アルデラーンを没収して、ウエストランドへの領地替え。

 ウエストランドは、侯爵家の出自たる恒星系である。
 旧公爵家の継承争いのゴタゴタの隙をみて惑星アルデラーンを乗っ取ったのである。
「この惑星アルデラーンは元々は公爵家の所領です。そして公爵の継承権を持つ自分の所領であります。返してもらうだけです」
 冷静に説明を続けるアレックス。
 そして大声で、館内にいる貴族達に向かって問いただした。
「ここに『王位継承の証』があります。公爵家を継承する由緒あるもので、これを所有する自分は公爵家を受け継ぐ権利があります。これに異議を唱えるものはいますか?」
 エメラルドの首飾りを掲げ上げて、貴族達を見渡すアレックス。

 静かだった。
 誰も異議を唱えるものはいない。

 ツカツカと侯爵の目前まで歩き出すアレックス。
「その席を譲っていただきましょうか?」
 催促するが侯爵は拒否する。
「い、いやだ。この惑星アルデラーンは私のものだ。絶対に渡さない」
 と椅子にしがみ付いた。
 仕方がないなといった表情で、
「誰か、侯爵をどかせてくれませんか?」
 館内の貴族達に依頼した。
 すると、二人の貴族が前に出て、侯爵を排除にかかった。
「や、やめろ!」
 しかし二人掛かりでは抵抗のしようがなかった。
 引き剥がされるように、椅子から排除される侯爵。
 そして扉前に待機していた近衛兵に引き渡した。
「私室に軟禁してください」
 アレックスが指示する。
「了解しました」

 主のいなくなった玉座。
 アレックスが玉座に近づいて、貴族達を見回しながらゆっくりと玉座に着席した。
 貴族達の吐息が微かに館内に広がった。
「これをもって、自分は公爵としてこの地を治める。意義あるものは?」
 再度確認を求めるアレックス。
「ありません!」
「公爵位着位おめでとうございます」
 先ほどの二人の貴族が肯定の言葉を発した。
「そちらの名前を伺ってよろしいか?」
 と尋ねると、
「セドリック・エイムズ男爵です。お見知りおきを」
「フランク・フェザーストン子爵です」
 名前と爵位を名乗った。
「ありがとうございます」

 こうして公爵位を認められ、惑星アルデラーンはアレックスの所領地となった。
 また、二人の貴族のうちフェザーストン子爵は、恒星ウォルソール第二惑星ベルフォールをカーライル子爵に代わって領地となった。
 エイムズ男爵は、ブランドン・ヘニング男爵に代わって、惑星ボーンマスの領主となった。



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銀河戦記/波動編 第二部 第五章 Ⅳ 大気圏戦闘

第五章


Ⅳ 大気圏戦闘 


「地上基地よりミサイルが発射されました」
 ライオネル・エムズリー電探手が報告する。
「迎撃ミサイル発射!」
 カトリーヌが下令する。
 副長でも、ある程度の指令を出すことが許されていた。
 もし間違っていれば、訂正命令を下せばよい。
 部下に判断させ実行させることも大切である。
 司令官が命令しなければ何もできないようなら、副官などは必要なくなる。
 采配を任せることで、経験を積み重ねて有能な士官へと成長できる。
「迎撃ミサイル、発射します」
 ボブ・ゴドウィン魚雷手が応じる。

 艦首から放たれる迎撃ミサイル。
 地上ミサイルに確実に命中して粉砕してゆく。
 それでも交わして向かってくるミサイルは、レーザーカノン砲が撃ち落としていた。
「艦載機を発進させて、地上基地を黙らせろ」


 発着場では、すでにスクランブル待機中だったので、いつでも発進できる状態だった。
 ゆっくりと開いてゆく発進口。
『全機発進せよ!』
 管制官の声が艦内に響く。
「了解。発進する!」
 編隊リーダーが先陣切って飛び出し、それに続いて続々と発進する戦闘機。敵の戦闘機はほぼ壊滅させており、抵抗なく発進できていた。
 迫りくるミサイル群を潜り抜けて地上基地を急襲する。

 ものの十数分で、地上基地は炎上して使い物にならなくなっていた。

 アムレス号艦橋。
「地上基地、破壊完了しました」
 カトリーナが伝える。
「よし、全機帰投させてくれ」
「了解、帰投させます」

 帰投を始める戦闘機群が、アムレス号の発着口から着艦を始める。
「全機、帰投しました!」
「着艦口を閉じろ!」

 地上基地を無事に通り越して、アルタミラ宮殿へと向かうアムレス号。
「宮殿の真上で止めてくれ」
 宮殿の周囲には、たくさんの高射砲が取り囲んでいる。
 一つ一つ相手にするのは面倒だ。
 宮殿上空に停止していれば、攻撃が至難となることを見込んだのである。万が一にも宮殿に砲弾が当たったり、アムレス号が機関停止で下降してしまうと宮殿を押しつぶしてしまう。
 目の前にいるのに手が出せない状況であった。

「宮殿上空です」
「よし、停船しろ」
「了解。メインエンジン停止!」
 宮殿上空で停止するアムレス号。
 通常の翼を持った航空機は、前進することで揚力を得て空を飛ぶことができるが、エンジンを止めると墜落してしまう。が、アムレス号はリニアモーターでおなじみの超伝導磁気浮上システムを利用して浮上状態を維持している。
 物質を絶対零度近くまで冷却すると、完全反磁性である「マイスナー効果」を発生して磁力に反発するようになる。惑星アルデラーンには地磁気があり、地磁気に反発して浮上できるというわけだ。
「停止しました」
「一応、侯爵に挨拶するか。繋いでくれ」
「繋ぎます」
 ボビー・ハイアットが、謁見の間にある通信モニターに接続を試みる。
「繋がりました。相手が出ます」
 驚いた表情のロベスピエール侯爵が映りだされた。
『な、なんだ?』
「惑星サンジェルマンでは、お会いできなくて残念です」
『何が残念だ、無作法にも伯爵位を強奪しやがって。私の侯爵位も奪うつもりだろ』
「まあまあ、通信で話しても仕方ないので、そちらへ伺いますよ」
『勝手にしろ!』
 通信が途切れた。



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