銀河戦記/波動編 第二部 Ⅶ 決着の後
第二章
Ⅶ 決着の後
宇宙空港へ戻ってきたアレックス達の訓練艦。
双方の艦から乗員が下りてきて、両艦の中間で向かい合った。
「君達の実力はよく分かった。今後を馬鹿にして悪かったよ」
デイミアンが頭を下げた。
「いえ、いえ。仕方ありませんよ、当然の反応です」
言いながら右手を差し出すアレックス。
それに応えて握手するデイミアン。
「この学校に編入する気なら歓迎するよ。意地悪な上級生がいたら連絡しな。いつでも援護してやるよ」
どうやら彼は、アレックスが編入のために来校したと思っているようだった。
そこへ、カトリーナ・オズボーンが小走りでやってくる。
「アレックス様、校長がお呼びです。伯爵様からご連絡が入ったとのことです」
顔を紅潮させて連絡してきた彼女だが、おそらくアレックスと伯爵との関係を知ったものと思われる。
「伯爵?」
デイミアンが首を傾げて不思議がっている。
「分かりました」
アレックスは、返事をしてから、
「君達は、片づけをしてから、フォルミダビーレ号に戻っていてください」
エヴァン達に指示した。
「分かったよ」
エヴァンが答えて、もう一度訓練艦に戻っていった。
校長室に入室するアレックス。
「戦闘訓練の結果が届いていますよ。さすがは殿下と配下の者達です」
アレックスの顔を見るなり、お世辞を述べる校長だった。
「連絡がはいりましたか。で、伯爵からは?」
肝心の要件を聞き促すアレックス。
「ああ、はい。爵位譲位式の準備が整ったとのことです」
「そうでしたか。やっとですね」
言いながら襟元を正すアレックスだった。
「爵位についたら、軍の組織を強化し軍艦も造船します。もちろんこの士官学校への予算を大幅に増やします。士官候補生の育成のほどよろしくお願いいたします」
アレックスが今後の方針を述べた。
「ありがたいお話です。その説には、誠心誠意に候補生の育成に尽力しましょう」
深々とお辞儀をする校長だった。
「私は、トリスタニア共和国からケンタウロス帝国まで渡り、帝国を端から端まで巡ってきました。その内情もある程度理解しているつもりです」
「凄いですね。ほぼ銀河を一周したということではないですか」
「その旅路の果てで、この船を見つけ管理者であるこちらのエダに出会ったのです」
「管理者……ですか?」
「正直にいいますと、彼女はアンドロイドです。船を守るために永遠の命を与えられています」
「アンドロイド、永遠の命ですか……」
「ですから、旧トラピスト星系連合王国の王子であり、この旧アルデラーン公国を興した人物とも知り合いです」
「納得いたしました。そして殿下は、先祖の意思を継いで、ケンタウロス帝国と戦うと仰るのですね」
「その通りです」
きっぱりと肯定するアレックス。
「分かりました。すべて納得した上で尽力します」
「よろしくお願いいたします」
お互いに納得しあった上での協力関係が成立した。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅵ 勝敗
第二章
Ⅵ 勝敗
接近する魚雷を避けようと急速転回するデイミアン艦。
艦橋では息を飲んで成り行きを見守っている。
最善の手順を取ったはずだ。
「魚雷接近中!」
全員が祈った。
その祈りが通ったのだろうか、魚雷はかすれ通った。
「魚雷、通過しました。艦に損傷なし!」
全員、ホッと胸を撫でおろした。
「敵艦の位置は?」
「下方左舷七時の方向。こちらに向かって来ます」
「迎え撃つ! 回頭!魚雷装填!」
「魚雷接近中! 第二波」
「速い! 行動が読まれているのか?」
「低軌道にいる奴らの方が、加速・転回が素早くできますからね」
衛星軌道上を動く物体には、GMm/rという位置エネルギーと1/2mv2乗という運動エネルギーを持っている。(ケプラーの第二法則)
全エネルギー=(1/2)mv2 + GMm/r = -GMm/2r が全エネルギーとなる。
無限遠点を基準(0)とすると、軌道上の人工衛星の位置エネルギーはそれより低いので、式の上では「マイナス」になります。
G=万有引力定数、M=惑星・衛星質量、m=物体の質量、v=物体の速度、r=軌道半径。
低軌道に人工衛星を打ち上げるには低エネルギーの小型ロケット(イプシロンロケット)でも良いが、より高軌道(静止軌道など)に打ち上げるには多段ロケットなどの大型ロケット(H2・H3ロケット)が必要なのはこのためである。
艦に激震が走った。
警報が鳴り響く。
「魚雷命中!」
魚雷が命中したものの、それは模擬弾であり、船は訓練艦である。
多少艦がへこむだけだが、その衝撃指数を計測して艦内の戦闘コンピューターが実弾だった時の想定被害を算出する。
『魚雷機関部ニ被弾シマシタ。航行不能、直チニ戦列ヲ離脱スルヨウニ』
合成音声が流られたかと思うと、自動的に戦闘システムがダウンした。
「出会ったばかりなのに、やられたな」
「嵌(は)められましたね」
「相手方より入電しました」
ボビー・ハイアット副操縦士が伝える。
「繋いでくれ」
『勝負は付きました。空港に戻りましょう』
アレックスだった。
「分かった。空港でな」
通信が途切れた。
「よおし、戻るぞ」
デイミアンが指示する。
「了解。空港へ帰還します」
衛星ロナンを離れて、士官学校併設空港へと進路を変えた。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅴ 魚雷発射!
第二章
Ⅴ 魚雷発射!
アレックス達の訓練艦。
衛星ロナンの軌道に入っていた。
「敵艦の位置は?」
アレックスが確認する。
「後方約十五万キロ、時間差にして十二分です」
十分のハンデを貰ったのだから、時間差で十分となるのは当然だが……。
若干遅れているのは、アレックス達の艦の速度がすでに第三宇宙速度に達しているのに対して、彼らの艦はまだ加速中だからである。
「敵艦との相対位置で、衛星の裏側に入ります。減速しつつ衛星軌道に入ります」
操舵手のマイケル・オヴェットが報告する。
「よろしい。そのまま進行」
衛星軌道に入る訓練艦の視界から敵艦の艦影が消えうせた。
「敵艦消失、衛星の裏側に入りました」
と、電探手のジミー・フェネリー。
「敵艦が衛星軌道に入る時間は?」
「十分後です。我々とは反対方向から軌道進入するもようです。会敵予想
十三分後!」
「よし、戦闘配備につけ!」
「了解!」
各自が緊張して装備をチェックした。
「戦闘準備完了!」
最後の一人の報告を確認して、
「そのまま待機」
ゆっくりと衛星軌道を進行するアレックス艦。
「まもなく会敵します」
ジミーの声に呼応して下令するアレックス。
「減速してさらに低軌道へと移動する。魚雷一号から四号まで装填!」
「魚雷装填します」
「魚雷一号二号、照準仰角十二度、雷速三分の一に設定」
「魚雷設定完了しました」
息を飲む瞬間であった。
「敵艦発見! 高度4000キロ、速度6.8km/秒」
ジミーが叫ぶ。
「魚雷照準補正、仰角ブラス3度」
「仰角ブラス3度! 合わせました!」
「魚雷一号二号発射!」
号令に従って魚雷発射ボタンを押すブルーノ。
「一号二号、発射!」
発射される魚雷二発は、一直線に敵艦へと直進してゆく。
「加速して中軌道へ移動する。その後転回して正面から攻撃だ」
「了解。エンジン一杯、加速します」
機関士のフレッド・ハミルトンがエンジン出力を上げる。
惑星軌道上、高軌道をデイミアン艦が進み、低軌道を反対方向に進んでいるアレックス艦。
やがて上下ですれ違いつつ転回する双方の艦。
「魚雷、外れたもようです」
敵艦は減速しておらず、高速で転回移動していた。
「想定内だ。三号四号発射用意!」
冷静に次の行動に移るアレックス。
「了解。発射準備、完了!」
すかさず反射準備を終えるブルーノ。
「敵艦の位置は?」
「正面、二時の方角、仰角十二度です」
ジミーが答える。
「艦首回せ!」
「了解。面舵六十度、上ゲ舵十二度!」
マイケルが操舵して敵艦に艦首を向ける。
「軸線合いました。敵艦正面!」
正面には、艦底を曝け出して無防備に進む敵艦。
「魚雷、発射!」
敵艦に向かって一直線に突き進む魚雷。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅳ 追跡
第二章
Ⅳ 追跡
もう一方の士官学校生が搭乗する訓練艦。
すでに各自配置に着いている。
艦長 =デイミアン・オルコック
機関士=アルフィー・キャメロン
操縦士=ジャレッド・モールディング
電探手=ライオネル・エムズリー
魚雷手=ボブ・ゴドウィン
機銃手=ボビー・ハイアット
兼務=副操縦士・通信士
「奴らが出発してから十分が経ったぞ」
ボビーが時計を見ながら言った。
「よおし、こっちも出発しようぜ」
アルフィーが答えると、各自最終チェックに入った。
「何の支障もなく離陸したな。ハンデを与える必要もなかったのじゃないか?」
ジャレッドが疑問を伝える。
「奴らが訓練艦を操作するのは初めてだ、というのは確かだろうからなハンデを与えるのは疑問ではないだろう」
疑問に答えるデイミアン。
時間差の出発は、アレックスの申し出で、
『始めての艦だから、操艦に慣れるまで十分ほど時間をください』
とのことで、ハンデを与えたのである。
「まあいい。どうせすぐに追いつくさ、出発するぞ!」
デイミアンの声で、離陸体制に入る。
やがてゆっくりと離陸し上空へと飛翔する。
「成層圏を突破した」
高度計を見ていたボビーが報告する。
「奴らはどこだ?」
デイミアンが尋ねると、
「今、探している」
電探手のライオネルが答える。
しばらく探していたが、
「いた! 今、第二衛星ロナンに向かっている」
と、モニターに映像を映し出した。
惑星サンジェルマンには二つの衛星が回っている。
大きい方がロナン、小さい方はロペスという。
そのロナンに向かっているアレックス達の艦がモニターに映っている。
「小賢(こざか)しい奴らだ。衛星の陰から不意打ちでもしようと考えているのだろう」
「奴らは衛星ロナンの自転方向回りに移動しています」
ライオネルが言う。
「ならば、こちらは逆方向回りで、正面から当たってやろうじゃないか」
「了解。コース変更! ロナンへ向かう」
ジャレッドの操艦で、衛星ロナンへと進路変更した。
数時間後、予想遭遇点に接近したが、アレックス達の艦影が見当たらなかった。
「いないぞ!」
モニターを見つめていたジャレッドが叫ぶ。
「下だ! 下から魚雷接近中!」
ライオネルが叫ぶ。
「回避! 面舵一杯、エンジン一杯!」
デイミアンが下令し、ジャレッドとアルフィーが応答する。
「面舵一杯!」
「エンジン一杯!」
ゆっくりと転回する艦体、接近する魚雷。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング
銀河戦記/波動編 第二部 第二章 Ⅲ 離陸
第二章
Ⅲ 離陸
訓練艦に乗り込むアレックス達。
艦長 =アレックス
操縦士=マイケル・オヴェット
機関士=フレッド・ハミルトン
魚雷手=ブルーノ・ホーケン
電探手=ジミー・フェネリー
機銃手=エヴァン・ケイン
離着陸時に副操縦士及び通信士を兼務。
事前の打ち合わせ通りに、それぞれ配置に着く。
「みんな、マニュアルは熟読できたか?」
アレックスが尋ねると、
「大丈夫だ」
「OK! OK!」
即答で返事が返ってくる。
「簡単だよ。マニュアル読まなくてもこれぐらいの船は動かせる」
とは、機械好きなフレッド・ハミルトン。
「各装備チェック開始」
「了解」
アレックスの指示で各自持ち場の装備を点検しはじめる。
はじめて操艦する艦なので、準備は十分すぎるほど行われる。
「バッテリー電源オン、電気系統オン、機体後部APU(補助動力装置)始動、確認。電源をAPUに切り替えます。APU電力正常、主エンジン始動します。始動確認。電源供給を主エンジン電力に切り替え。エアー、生命維持装置始動、確認」
船を動かすには機関士がいなければ始まらないし、電力がなければ機器を動かすことすらできない。
主エンジンが始動して、各種機器への電源が繋がれた。
「燃料前方タンクおよび後方タンク満タン正常。燃料加圧コックおよび燃料加圧計正常。発信準備完了!」
フレッドが機関を確認する。
「高度計、昇降計、羅針儀正常機能。旋回計と旋回指示器調整弁正常。操縦桿機能よし。飛行時計及びフライトレコーダー記録開始」
操舵手のマイケルは飛行に関する機器担当である。
「魚雷発射管異常なし。誘導制御機能正常。搭載模擬魚雷数十二発」
「機銃OKだぜ、いつでもやれるぜ」
「レーダー異常なし、前方オールグリーンです」
すべての機器チェックが終了して、出航準備完了となった。
「管制官より、テイクオフクリアランス(離陸許可」
「よろしい。出航せよ」
「了解」
操縦桿横のスロットルレバーを少し上げて(ブレーキ踏んだまま)エンジン回転を上げるマイケル。
エンジン計器のパラメーターを確認し異常がないことを確認するエヴァン。
「スタビライズ!(安定)」
「了解」
スロットルレバーの前方に装着されている TO/GAスイッチを押すと同時にブレーキをリリースする。
ゆっくりと動き出し、次第に速度を上げる艦体。
エヴァンはエンジン計器をモニターしつつ、エンジン推力を表す指標(TPR)が離陸推力まで達したの確認して、
「スラストセット!」
とコールする。
さらに速度が上がり、100ktに達した時、
「ワンハンドレッド!」
とエヴァンがコールし、フレッドも速度計を確認して返答する。
「チェック!」
この時点ではまだ離陸を中断することができる。
だがエヴァンから
「ブイワン!(V1)」
とコールされると以降は、中断することができなくなる。
さらに加速が進み、速度計がローテーションスピード(VR)に達し、
「ローテート!」
とのエヴァンのコールが掛かると、いよいよ離陸である。
フレッドがフライトディレクター(FD)のメーターを見ながら機首を持ち上げてゆく。
ゆっくりと地面から離れ始める艦体。
エヴァンが高度計の目盛りが上昇を始めたのを確認して、
「ポジティブレイト!(Positive Rate)」
と、艦体の上昇率がプラスであることをコールする。
「ギアアップ!」
すかさずランディングギアの格納を指示するフレッド。
やがて上空へと突き進んでゆく。
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

ファンタジー・SF小説ランキング