銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅱ 嵐の前の休息
第四章
Ⅱ 嵐の前の休息
アムレス号艦内一般食堂。
広くゆったりとした食堂内で談笑しながら食事をしている乗員達。
通常航海中なら三交代四交代であるが、戦闘警戒態勢のため二交代となっている。休憩とはいえ待機状態で、いざ戦闘となれば総員配備である。
消化の良いスープにパンという軽い食事である。
「初陣でいきなり艦隊戦かよ」
アルフィー・キャメロンが嘆く。
「でもよ、このアムレス号配属で助かったよ」
ライオネル・エムズリーがため息をつく。
「伝説のロストシップだもんな。幾多の戦いを乗り越えてきた艦だし」
ボビー・ハイアットが同調する。
彼らが明るく語らっているのも、やはりロストシップということだろう。
「おう、お前ら速いな」
声を掛けてきたのは、デイミアン・オルコックだった。
食事を乗せたトレーを両手で抱え、彼らと同じテーブルに座った。
「デイムも艦長に任命されて大変だね」
デイムはデイミアンの愛称である。
「一応学生会役員だったし、ハゲ教官が推薦したらしい」
「ああ、ロヴェットの奴か」
ハゲ教官とは、ウォルト・ロヴェット統括教官のことで、士官学校卒業生を指導する教官のトップである。一応准将という位官となっている。
伯爵艦隊旗艦グラスゴー艦橋。
ロヴェット統括教官が、艦隊司令官に報告に来ていた。
「それで候補生達はうまくやっているかね」
ランドルフ・タスカー中将がロヴェット統括教官に尋ねた。
「はい。楽しく勉強していますよ。何せ、伝説のロストシップに乗っているというのが士気を高めています」
「そうか。俺も乗ってみたいよ」
羨ましそうな表情の司令官だった。
誰しも伝説のロスシップに憧れていたのだった。
「司令! 哨戒機より入電しました。敵艦発見! 哨戒機からの映像をスクリーンに流します」
正面のスクリーンに映像が映し出される。
画面を左から右へと移動する艦隊。
「拡大投影!」
映像が拡大されて敵艦の姿がはっきりと映る。
「どうやら侯爵の戦艦デヴァステーションは出向いていないようだな」
「相変わらず部下まかせですね」
副官のアリスター・カークランド少佐は呆れた表情だ。
「それでは、自分は戻ります」
ロベット統括教官が、アムレス号へと戻っていった。
アムレス号艦橋。
「哨戒機七号より敵艦隊の詳しい座標が送られてきました」
哨戒機からの報告を受けて、通信士が報告する。
「敵艦隊まで七十四光秒!」
「全艦戦闘配備!」
アレックスの命令が下って警報が鳴り響き、全艦戦闘態勢へと移行してゆく。
待機要員だった者が、自分の部署へと走ってゆく。
「哨戒機七号には、そのまま監視を継続。他の機体は全機帰還せよ」
艦内の乗員の感情が激しく高ぶってゆく。
「面舵五度、速度そのまま!」
急加速、急転回すると敵艦に悟られる可能性があるので、少しずつ切り換えてつつ相手に接近する。
やがてレーダーの捕捉範囲に到達すると、
「よおし、全艦最大戦闘速度! 全速前進!」
アレックスが全艦放送で叫ぶ。
「さあ、実戦だ!」
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銀河戦記/波動編 第四章 第二部 Ⅰ 作戦会議
第四章
Ⅰ 作戦会議
アムレス号内作戦室にて、各艦長を集めて作戦会議を行っているアレックス。
スクリーンパネルに投影された星図を前に、艦隊参謀長のジェフリー・ウォーカー少佐が演説する。
「敵艦と我が艦の航行速度と両国間の距離から、このヴォルソール星域が主戦場になると見られます」
さらに端末を操作して恒星図に切り替えた。
「主星ヴォルソールは赤色巨星で、五つの惑星が回っています。いずれもケイ酸塩を主体とした岩石惑星」
「惑星には居住地とかあるのか?」
「ございません。かつて鉄鉱石などの採掘場があったのですが、公国分裂以降には経済効果が薄いと判断されて撤退、無人惑星となりました」
「経済効果か。本格的な戦争になれば経済効果なんて言ってられないからな」
すでに戦争は始まっているが、本格的な戦争とは何を示しているのだろうか。
「閣下、シミュレーターの準備が完了しました」
カテリーナが報告する。
「起動してくれ」
「かしこまりました」
会議室の正面に据えられたパネルスクリーンに映像が映し出される。
アレックスが解説する。
「ヴォルソール星域での戦闘を三つほどシミュレーションしてみた。まずはAパターンからだ」
それから、解説しながら三パターンのシミュレーションを再生してみせた。
数時間後。
見せつけられた映像に感嘆のため息をつく艦長達。
「これらのシミュレーションを記録したディスクを渡す。各艦の戦術コンピューターにインストールしておいてくれ」
各艦長にカトリーナがディスクを手渡す。
作戦会議を終了して艦橋に戻ってきたアレックス。
「六時間後にヴォルソール星域に到達します」
エダが報告する。
「哨戒機を飛ばすとするか。カトリーヌ頼む」
「かしこまりました。哨戒作戦発令します」
アムレス号艦載機発着場。
警報音が鳴り響き、
『哨戒機乗員は直ちに発進準備せよ!』
艦内放送が艦内に響いている。
手回し良く、哨戒機がいつでも発進できる状態で、十二機甲板上に用意されていた。操縦士・電探手兼通信士・機銃手の三人体制で乗り込む。
「エンジン良好、燃料満タンです」
整備士がパイロットに伝える。
「ありがとう」
言いながらコクピットに乗り込むパイロット。
「重力加速度計・磁気感知計などすべて正常だぜ」
先に乗って敵艦隊を発見する機器を調整していた電探手が伝える。
「こっちもOKだ」
とは、機銃手。
「発進準備完了だな。管制室に連絡する」
十数分後。
アムレス号の艦載機発着口が開いて哨戒機が宇宙空間へと飛び出してくる。
「こちらブルーリーダー。配置につきました」
『了解。各機、予定のコース取りで哨戒任務に当たって下さい』
カトリーナの指示で、各機が扇状に十度間隔、都合前方百二十度の範囲を索敵を開始した。
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銀河戦記/波動編 第二部 第三章 XI 発射!
第三章
XI 発射!
陽イオン粒子砲発射制御室でも訓練は続いていた。
こちらでは、ブラスの電荷を持つ核子(バリオン)、主として陽子を扱う施設である。電子に比べて桁違いに重い粒子を扱うため、何段にも分けて加速させる必要がある。前段直線加速装置である程度加速させてから、円形加速器でさらに加速しさらに終段加速に直線加速を使用する。
そのまま単独で発射させても、陽子砲として破壊力は甚大であるが、磁場のある場所では使用は制限される。
また、陽電子も扱うことができるという優れものである。電子・陽電子対消滅による光子砲(γ線)として使用できる。
この二つの荷電粒子砲において、二基による対消滅砲とするか、単基で陽電子砲などとして戦うかを多種選択できる。
アムレス号艦橋。
「粒子砲発射準備完了しました!」
カトリーナが報告する。
「小惑星帯に向かってくれ。どこでも良い」
「了解。取り舵十五度、小惑星帯に向かう」
「取り舵十五度」
ジャレッド・モールディング操舵手が復唱する。
ゆっくり移動して小惑星帯へと向かうアムレス号。
「小惑星帯が見えてきました」
「停船せよ。中性粒子砲を撃つ! 陽子・電子粒子加速器を開け! 目標前方の小惑星帯!」
「停船します」
「粒子加速器に陽子及び電子を投入!」
荷電粒子砲発射制御室では、本番の発射体制に入った。
「陽子加速器準備完了!」
「電子加速器準備完了!」
すぐに双方から準備完了が伝達される。
「秒読み! 十秒から」
アレックスの指示の下、カトリーナが秒読みを開始する。
「発射十秒前。九、八……二、一」
「発射!」
アムレス号艦首から一筋の眩い光が放たれ小惑星帯へと突き進む。
小惑星の一つを直撃して、その表面を木っ端みじんに破壊した。
「命中しました!」
結果報告するカトリーナ。
「続いて、反陽子・陽電子衝撃砲を試してみる。ロビー頼む」
『了解シマシタ』
反陽子も陽電子も反物質である。
取り扱いには厳重な管理が必要であるから、人的ミスを防ぐために原則コンピューター制御される。
『反陽子・陽電子衝撃砲、発射準備完了シマシタ』
ロビーが手っ取り早く手配する。
「よし、撃て!」
『発射シマス』
再び、眩い光の筋が突き進むが、今回は反物質なので宇宙空間に微かに存在する物質と反応している。
やがて小惑星に到達した途端、丸ごと完全に蒸発させた。
砲撃の瞬間は、艦内の至る所のモニターに映し出されていた。
「すごい! 一撃だ!」
感嘆の声を上げる乗員達。
また惑星ベルファストでも、その映像は受信されていた。
カーライル子爵のいる宮廷でもたちまち話題騒然となった。
「我が艦でも、あれくらいの小惑星を破壊できるか?」
軍部大臣に尋ねる子爵。
「いえ。あれほどの破壊力のある兵器は搭載されていません」
「そうか。で、あの武器の詳細は分かるか?」
「おそらくは、荷電粒子砲でしょう」
「イオン粒子を電磁気で加速してぶっ放すという奴だな」
「その通りです」
「しかし、なんでこんな映像を流すんだ。軍事機密だろ?」
「自国の軍事力を見せつけたかったのでしょう」
「なるほど。逆らえば我が星もあの小惑星のようになるぞ、と脅迫か」
「御意にございます」
深いため息をつく子爵だった。
思いは一つ。
選択を間違えたかな……
ということだった。
今からでも伯爵陣営に鞍替えした方がいいかも知れないと心変わりしているようだった。
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豆知識
荷電粒子砲は、イオン粒子などを電磁気力などによって加速射出してそのエネルギーで対象物を破壊する。
兵器としてではなく、エネルギーを推進力に変えて利用したのがイオンエンジン。小惑星イトカワ&リュウグウへのサンブルリターンを成功させた人工衛星「はやぶさ」「はやぶさ2」に搭載された。
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銀河戦記/波動編 第二部 第三章 Ⅹ 荷電粒子砲
第三章
Ⅹ 荷電粒子砲
惑星ベルファスト近縁を通過するアムレス号と追従艦隊。
「惑星軌道上に三隻の艦艇!」
レーダー手のライオネル・エムズリーが報告する。
「相手艦より入電しました」
ボビー・ハイアット通信士が続く。
「繋いでくれ」
「了解!」
ハイアットがアレックスの端末モニターに通信を繋いだ。
『こちら惑星ベルファスト艦隊、駆逐艦グラスゴー指揮官ボールドウィン・バートルズ中佐です。カーライル子爵より閣下の指揮下に入るように命令されました』
敬礼して挨拶する中佐が映し出されていた。
「お疲れ様です。子爵様よりお話は伺っております。よろしくお願いします」
『こちらこそ、よろしくお願いいたします』
「艦隊司令官ランドルフ・タスカー中将の指揮下に入って頂きます」
「かしこまりました」
こうしてカーライル子爵配下の艦艇がアレックスの艦隊に加わった。
そうこうするうちに、惑星ベルファストを離れつつあった。
「ベルファストの絶対国防圏を離脱しました」
カトリーナが報告する。
「そうか……。ここいらで一発粒子砲を試射してみるか」
「粒子砲? 主砲ですよね」
「そうだ。いざとなって使い方が分からないでは済まされないからね。一時間後だ」
ロビーを通してコンピューター全自動でも動かせるのだが、人力で動かすことにも挑戦する必要もある。
人力で動かすには手順が必要だ。
「分かりました」
納得してから艦内伝達を行うカトリーナ。
「総員に告ぐ。これより荷電粒子砲の発射テストを行う。各自、マニュアルを熟読して待機せよ。発射一時間前である」
そして警報ボタンを作動させた。
陰イオン荷電粒子砲発射制御室。
カトリーナが告げる艦内放送に耳を傾ける乗員達。
教官が自分に配られたマニュアル用タブレットを表示して見ている。
各項目から訓練・発射テストを探し出して、
「よおし、各自の操作盤の表示が訓練・試射モードになるように設定しろ!」
と指示する教官。
「了解!」
返事をして手元の操作盤を動かす乗員達。
そして、
「設定しました!」
とすぐに手を挙げる。
「よし、次に……」
手順書通りに発射テストに向けての行動を続ける乗員達だった。
もし手順を間違えると、警告表示が出て訂正するように指示がでる親切設計となっている。
手順は進んでいき、
「発射準備完了しました!」
「よし、経過時間二十分だな。時間があるし、もう一回やってみよう」
と、教官が進言する。
今回彼らがテストしているのは、陰イオンとは言っても最も基本の電子を扱う回路系だった。電子顕微鏡やレーダーに使われる電界型進行波管から電子を打ち出してさらに加速させるものである。
ただし、陰イオン荷電粒子砲の真骨頂は、反陽子を使用する場合である。反物質を使用するので扱いは超厳重でなければならない。万が一の人間のミスも許されないので、この時だけはコンピューターによる完全自動化によって使用される。
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銀河戦記/波動編 第二部 第三章 Ⅸ 巡航
第三章
Ⅸ 巡航
惑星ベルファストへ向かう途中途中で、逐次ワープや戦闘訓練を行って経験を重ねてゆく訓練生。
『マモナク、惑星ベルファスト、ニ到着シマス』
「よし、亜光速三分の一に減速せよ」
「亜光速、三分の一!」
機関士のアルフィー・キャメロンが復唱する。
「カーライル子爵に連絡を入れてください」
「了解!」
通信士のボビー・ハイアットが答える。
訓練試合では機銃手担当であったが、ここでは通信士専属となっている。この艦には機銃手として多くの士官候補生が乗艦しているからだ。
「子爵が出ました」
「スクリーンに映してくれ」
「了解」
やがて正面のスクリーンに映し出されるカーライル子爵。
『マクシミリアン・カーライル子爵です』
「はじめまして、自分はアレクサンダー・ハルバート伯爵です。お見知りおきを」
『して、その伯爵様が如何な御用でありましょうか?』
子爵は、公国の覇権を巡っての戦争が起きていることは知っているはずだが、しらばっくれるつもりのようだ。
「いえ、ちょっと近くを通るので挨拶をしたかっただけですよ」
飄々とした表情で答えるアレックス。
『挨拶……だけですか?』
拍子抜けの子爵だった。
「はい。防空識別圏の外側を航行しますのでご安心を」
『それはそうと、侯爵様と戦争状態に入られたそうですよね』
「その通りですが」
『でしたら、援軍として三隻ほどですがご用意致しましょうか?』
「それは有り難い。是非、お願いしますよ。一隻でも多い方が助かります」
『では早速手配致しましょう』
通信が途切れた。
子爵の公邸。
通信を終えて、手筈通りにいったと安堵の表情をしていた。
速やかに軍艦三隻の艦長を呼び寄せて、計略を伝える。
「味方になったと見せかけて、隙あらば背後から攻撃せよ、と仰るのですね」
一人の艦長が言うと、
「そういうことだよ」
「しかし、上手くいったとしても周りは伯爵の艦隊だらけです。我々に逃げ道はありません。復讐となって我々に襲い掛かってきます」
別の艦長が尋ねる。
「だから、最後尾についていつでも逃げられるようにしておくのだ。攻撃と同時に全速力で離脱すれば」
「そう簡単にいくでしょうかねえ」
三人目の艦長は疑心暗鬼である。
「だからこそ、我が国で最も高速艦艇である君達の艦を呼んだのだ。上手くいっても失敗しても、二階級特進を約束しよう。万が一でも、家族に対しても十分な補償をするつもりだ」
「分かりました。やってみましょう」
二階級特進という言葉に、意思を固めたような艦長達だった。
アムレス号艦橋では、フォルミダビーレ号のアントニーノ・アッデージ船長とビデオ会話するアレックス。
『子爵の艦艇が合流するらしいな』
「その通りです」
『気をつけろよ。子爵は食わせ者だ』
「どういうことですか?」
『端的に言えば、子爵は侯爵の腰巾着ということ。祖先が侯爵から爵位を与えられたからな。上には逆らえない』
「分かりました。気を付けます」
『うむ。頑張れよ』
通信が途切れた。
アーデッジ船長は、今回の遠征には参加せず海賊基地で待機していた。
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