銀河戦記/波動編 第五章 Ⅴ 惑星トランター




第五章


Ⅴ 惑星トランター


 惑星トゥーロンから連絡船に乗って『レマゲンの橋』を渡り、対岸の恒星ブレスト第三惑星リモージュに到着。銀河系渦状腕のオリオン腕の中にある経由地であると同時に、橋を渡ってくる敵がいれば迎撃する軍事基地でもあった。
「ここからトリスタニアへの直行便が出ているわ」
 ルイーザが伝えると、
「直行便は三十分後に三十七番ゲートから出発になっています」
 電光掲示板を見ていた乗り物好きのマイケル・オヴェットが案内する。
「そのようね。急ぎましょう」
 手続きもあるし、ゆっくりしていては乗り遅れるので、急いで三十七番ゲートへと向かう一行だった。

 そして終点、恒星トラピスト1の第四惑星、かつての首都星であった惑星トランターにたどり着いた。


 地球から「みずがめ座」の方向およそ四十光年先に、「TRAPPIST-1(トラピスト1)」と呼ばれる恒星がある。赤色矮星のこの星を七つの惑星が公転しており、そのうちの四つがハビタブルゾーンに位置しており、第四惑星トランターを首都とするトリスタニア星系連合王国として発展していた。
 しかし、ケンタウルス帝国の侵略を受けて滅亡した。

 連絡船が首都星トランターに近づいている。
 その映像は、アレックスの潜在意識にあった風景そのものであった。
「トリスタニアは、アレックス君の故郷だと聞いているが、懐かしいか?」
 ルイーザが尋ねる。
「いえ、祖先の故郷というのは真実のようですが、自分には訪れたこともない見知らぬ星でしかありませんから」
 淡々とした表情で答えるアレックス。
 少年達も一度も訪ねた星でもない。
『まもなくトリスタニア空港に着きます。お降りの準備をなさってお待ちください』
 船内放送で案内があった。
『船が着陸態勢に入ります。お客様方々は、着席してシートベルトをお締めくださいませ』
 少年達は、各自の席に座ってシートベルトを締めた。

 やがて、トリスタニア宇宙港に着陸する旅客船。
『終点トリスタニアに着陸しました。どちら様もお忘れ物のないようにお降りくださいませ』
 ゾロゾロと手荷物を持って昇降口へと向かう乗客達。
 それに混じって少年達も動いた。
「やっと目的地到着だな。長かった」
 旅客船を降りてターミナルビルに降り立った少年達。
 両手を精一杯に上に掲げて背伸びする体育会系のブルーノ・ホーケン。
「何を言ってるんだい。ここからが本番の旅じゃないか」
 乗り物好きのマイケル・オヴェットが窘(たしな)めた。
 この星での目的は、レンタルシップを借りて、近隣のグリアント星系内の小惑星帯にあるアンツーク星へ向かうことだった。

 空港旅客ターミナルビル内にあるレンタルスペースシップ社。
 少年達が、レンタルシップを借りるための手続きをしている。
「予約していたルイーザ・スティヴァレッティです」
「少々お待ちください」
 端末を操作して予約リストを調べる係員。
「はい、確かにご予約を受け賜わっております。パスポートか身分証のご提示をお願い致します」
 言われたとおりにパスポートを提示するルイーザ。
「確認致しました。ご予約は『カウンセラー級スペース・クルーザー』ですね」
「その通りです」
「船長はあなたが?」
「いえ、こちらです」
 と、乗り物好きのマイケル・オヴェットを指名した。
「お若いですね。クルーザー級以上の免許証のご提示お願いします」
「はい」
 免許証を差し出すマイケル。
 機械好きのフレッド・ハミルトンも機関士免状を提示した。
 提示された書類を確認する係員。
「結構ですよ。起動バッチキーをお渡しします」
 船体番号札の付いたバッチキーを受け取って、マイケルに渡すルイーザ。
「燃料補給に三時間程かかります。それまで観光に出かけては如何でしょうか。近場でトリスタニア宮殿などは如何でしょう、一般人に開放されていますから」



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銀河戦記/波動編 第五章 Ⅳ 連絡船



第五章


Ⅳ 連絡船


 ゲートウェイ拠点都市コリダロスを出航し、幾度かのワープを重ねながらペルセウス腕宙域を渡ること、時間にして六十三時間。
 ついに銀河系渦状腕、ペルセウス腕とオリオン腕の間を連絡する『レマゲンの橋』に到着した。
 旅客船は終点である惑星トゥーロンに停船した。
「ここからは、レマゲン橋連絡船に乗り換えるわよ」
 ルイーザが立ち上がる。
 少年達も後について昇降口へと向かう。
 銀河系渦状腕間隙を一飛びできるワープ技術はまだ開発されていないので、レマゲンの橋内にある星々を伝って渡るしかなかった。
 しかも星々は、いわば大河の激流の中に浮かぶ岩のような状態で、頑丈な船体構造を持つ連絡船でないと渡れなかった。
 少年達が乗ってきた旅客船は、整備と燃料補給を済ませてから、ここで折り返し運航することになっている。

 銀河系渦状腕間隙に渡された橋には開発順に、
 ケンタウルス帝国(オリオン腕)とトリスタニア共和国(たて・ケンタウルス腕)の間に架けられた『タルシエンの橋』
 トリスタニア共和国とアルビオン共和国の間の『ルビコンの橋』
 そして『レマゲンの橋』という三つが存在する。
 そのいずれも軍事的戦略的に重要なので、橋の出入り口には、それぞれの国家が軍事基地を置いており、通行にはパスポートや通行許可証などが必要であった。

 レマゲンの橋は、両端が同一国なのでパスポートは必要ないが、通行証が必要だった。
 少年達の所持する旅券は、トラピスト行きなので通行証が付随していた。
 旅客船を降りて、時折すれ違う帝国兵士の群れに怯えながら、連絡船乗り場へと移動する少年達。
「ちょっとお、何を怯えているのよ。兵士を見るたびに、そんなんじゃ逆に不信感を抱かせるだけよ」
 ルイーザが注意した。
「ごらんなさい。アレックス君は、全く動じていなわよ」
「仕方がないよ。偽造パスポートを持ってれば、誰でもバレないかと挙動不審になるよ」
 少年を代弁してアレックスが答えた。
「とにかく、堂々と胸を張って歩いてね」
 搭乗手続きカウンターにてチェックインして、何とか無事に搭乗口から、連絡船に乗り込むことに成功した少年達。
 ここから先にはワープゲートはなく、亜光速航行と連絡船自身のワープ機能で進んでゆくことになる。
 連絡船は、今まで乗っていた旅客船と違って、展望ルームや遊技場などの施設は一切なく、目的地到着まで指定席に座ったままである。
 一応はリクライニングシートなので、席を倒して仮眠を取ることはできるし、目の前のモニターにて映画や外宇宙の映像を見れるし、機内食も出される。
 それなりに快適な船旅を楽しむことはできるようだ。
 少年達は目的地到着までの間、椅子を対面に動かしてトランプゲームなどで時間を潰すことにした。



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銀河戦記/波動編 第五章 Ⅲ ワープゲート



第五章


Ⅲ ワープゲート


『お客様各位にお伝え致します。まもなく一回目のワープに入ります。ご自身のお席にお戻りになり、シートベルトをしてお待ちください』
 船内放送があって、乗客がゾロゾロと移動を始めた。
「私達も、席に戻りましょう」
 ルイーザに促されて、席に戻るために展望ルームへと向かう少年達。
「僕、船でのワープの経験ないんですよね。どんな感じなのですか?」
 ゲーム好きのエヴァン・ケインが質問する。
「ワープに突入する時に少し震動があるけど、後は普通に船に乗った時と同じですよ」
 ルイーザが解説する。
 彼女とて、船自体が有するワープ機能での経験はあるが、ワープゲートによる長大距離ワープの経験はなかった。
 それでも、全くワープ経験のない者よりは安心感を持っていた。
「さあ、席に戻りましょう」
 他の乗客の後を追って自席へと歩き出す少年達だった。

『まもなくワープに入ります。ワープ五分前、シートベルトの再確認をお願いします』
 緊張で手が震えながらも、座席のシートベルトを締める少年達。
『ワープ三分前です』
 着々とワープ態勢が進む旅客船。
『ワープ一分前です』
 そして、カウントダウンが始まった。
『十秒前、九、八……三、二、一。ワープします』
 一瞬機体がガクンと揺れ照明も落ちたが、すぐに元通りに戻った。

 数分後。
『お客様にお伝えします。本機は無事にワープゾーンに進入しました。目的地到着ワープアウトは、およそ六時間後になります。それまで席を離れて船内を移動しても構いません。ごゆっくりと船旅をお楽しみください』
 シートベルトを外して席を立つ乗客達。
 各自それぞれ、船内の施設であるカフェバーやシアター、カジノ、遊技場などへと移動を始めた。
「遊技場へ行かないか?」
 旅客船のパンフレットを眺めていた、ゲーム好きのエヴァン・ケインが誘った。
「いいね。そうしよう」
 乗り物好きのマイケル・オヴェットが賛同した。
 それから座席に戻るまでの数時間ほど遊技場で興じる少年達だった。

『お客様にお伝えします。まもなくワープアウト態勢に入りますので、お席にお戻りになり、シートベルトをして待機してください』
 船内放送に従って、自分の席に戻る少年達。
「目的地のトラピストについたのかな?」
 機械好きのフレッド・ハミルトンが尋ねると、
「まだよ。一度で目的地に飛べるワープゲートはないから、幾つかの都市にあるゲートを経由してゆくのが普通よ。経由地の一つであるゲートウェイ拠点都市のコリダロスに到着したのよ。まだまだ道行半ばというところ」
「そうなんだ……」
 三十分後に旅客船は、コリダロスに到着して、四十八時間ほど停泊することになっていた。ワープゲートの点検と燃料供給に必要な時間でもある。
 コリダロスは、ゲートウェイ拠点都市であると同時に、有数の観光都市惑星でもあった。
 旅客船から降り立ち、ひと時の惑星観光へと向かう乗客達。
 その中に混じって少年達もいた。



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銀河戦記/波動編 第五章 Ⅱ 展望ルームにて



第五章


Ⅱ 展望ルームにて


 しばらくして機内食が届けられて、空腹を満たした一行は、展望ルームへと向
かった。
『只今通過しております惑星パウサニアースは、国際中立地帯境界周辺を警備す
るケンタウルス帝国軍艦隊の駐留基地となっております』
 船内アナウンスが告げていた。
『軍事基地のために、民間船及び民間人の着陸は許可されておりませんが、軌道
上からの眺めをお楽しみください』
 各国の国際中立地帯境界近辺には、それぞれが辺境警備艦隊を配置していた。
 ペルセウス腕ケンタウルス帝国には、パウサニアース。
 いて・りゅうこつ腕トリスタニア共和国には、デュプロス星系超巨大惑星カリ
スの衛星『ミスト』に軍事基地がある。
 たて・ケンタウルス腕辺境惑星国家サンジェルマンにも軍事基地がある。
「しかし、軍事機密があるのに何で軍事基地の傍を通るんだろうね」
 体育会系のブルーノ・ホーケンが首を傾げている。
「それは、基地のラグランジュ点にあるワープゲートを利用させてもらっている
からよ」
 ルイーザが解説する。
「へえ。民間船に軍事施設を利用させるなんて不思議だね」
「中立地帯から隣国へ艦隊を派遣したり、逆に防衛のために艦隊集結するのに必
要なのがワープゲートだよ。でも民間船のためのゲートを、ラグランジュ点を潰
してもう一つ建設するのも費用対効果で無駄だから。貴重なラグランジュ点は別
の戦艦建造・修理ドッグになっているよ」
 アレックスが答えるが、軍事情報の事は士官学校試験勉強で習った事項なので
あろう。

『お知らせします。只今より、ワープ前の国境警備隊による検札を行います。パ
スポートと搭乗券をご用意してお待ちください』
 船内放送があってしばらくすると、ガヤガヤと展望台入口付近で騒ぎが起きて
いた。
 一同が振り返ると、軍服を着た兵士がゾロゾロと入って来ていた。
 入口に銃を携えた二人の兵士を立たせて、検札を開始しはじめた。
「空港でやったのに、またやるの?」
 体育会系のブルーノ・ホーケンが尋ねた。
「空港のは民間船に乗るための通常の手続きで、ここでの船上での検札は、軍の
施設であるワープゲートを使用させてもらうための手続きよ」
「検札って……。僕たちのパスポートは偽造だよね、バレたらやばいんじゃない
の?」
 マイケル・オヴェットが怯えている。
「大丈夫よ。海賊ギルドの偽造技術を信じなさい。そうやって怯えていると余計
にバレることになるのよ。堂々としていなさい」
 ルイーザが窘(たしな)める。

 やがて兵士が、少年達の元へと近づいてきた。
「パスポートと搭乗券をご拝見よろしいですか?」
 若々しい青年将校が声を掛けた。
「はい、どうぞ」
 ルイーザが率先して、書類を手渡す。
「拝見します」
 書類を受け取って確認する将校。
 他の少年達も、別の兵士達から検札を受けていた。
 ややあってからそれを返しながら、
「結構です。ご旅行をお楽しみください。失礼しました」
 敬礼して、少年達から離れて別の旅客に向かった。
 冷や汗を流しながらも安堵する少年達。
「無事に通過できましたね。流石はギルドの偽造技術ですね」
 アレックスも感心しきりだった。

 展望ルーム内の検札が終了して解放される旅客者達。
 何事もなく兵士達が退室してゆく。
 展望ルームからは、基地へと戻ってゆく国境警備隊の船が映し出されている。
 やがて旅客船は、惑星パウサニアースを離れつつあり、衛星カトラーズとのラ
グランジュ地点にあるワープゲートへと向かっていた。



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銀河戦記/波動編 第五章 Ⅰ 国際空港にて

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図=Wikipedia 銀河系より

第五章


Ⅰ 国際空港にて

 国際中立地帯から最寄りの惑星リモージュの国際宇宙ステーションは、ハブ空港としてトリスタニア共和国、ケンタウルス帝国、そして惑星サンジェルマンへの中継施設として、中立的な立場から運営されていた。三か国からの資本投資がなされており、どの国を問わず利用が可能であった。
 その第十四桟橋に停船している飛行艇から少年達が降りてくる。
「ひええ! でっけえ空港だなあ」
 最初に感嘆の声を上げたのは、ゲーム好きのエヴァン・ケインだった。
 空港など見たこともなかったのだろう、辺りをキョロキョロと忙しく見まわしている。
 その姿は明らかにおのぼりさんという風情だった。
「あれは、最新型の長距離高速船だよ」
 たった今入港した船を見て感心しているのは、乗り物好きのマイケル・オヴェット。
 恒星間レース優勝経験者の父親の影響を受けて、船に関しては熟知していた。
「たぶん、あれがケンタウルス行きだと思うよ」
「さあ、手続きをしましょう」
 すでにオンラインで搭乗チケット予約済みなので、受付の自動チェックイン機で搭乗券を発行してもらうだけだ。
 その後、手荷物カウンターで荷物を預け、保安検査場を経て出国審査、そして搭乗口へと向かう。丁度その時、
「お客様にお伝えいたします。まもなく、レマゲン橋経由ケンタウルス行き808便の搭乗手続きを、8番ゲートにて開始いたします」
 場内アナウンスが繰り返し伝えていた。
「僕たちの船だね。急がなくちゃ」

 こうして、全員無事に宇宙船に乗り込むことができ、座席に着席できたのだった。
「それにしても、この船は帝国回りだけど共和国から行く方が近いんじゃなかったっけ?」
 機械好きのフレッド・ハミルトンが尋ねた。
「そうね。確かにいて・りゅうこつ腕に渡って、トリスタニア共和国内を通った方が近いには近いけど……」
 ルイーザが答えようとすると、
「帝国と共和国の間にあるタルシエンの橋が封鎖されているからだよ」
 アレックスが実状を解説する。
「両国は、長年紛争状態にあってさ。帝国の圧政に苦しんだ人々が、タルシエンの橋を渡って建国したのがトリスタニア共和国。その橋の出口を封鎖して強固な防衛陣を敷いているから、一般人は通行禁止になっているんだよ」
「詳しいのね」
「士官学校入学試験では必ず出る問題ですから」
「なるほどね」
 皆が納得したところで、
「僕、お腹すいたな。食事はいつ出るの?」
 料理が得意だが、いつも腹ペコなジミー・フェネリーが質問する。
「機内食は、通常離陸後一時間から三時間で出るはずよ」
「そうかあ……今すぐ食べたいのに……」
 言うが早いか、彼のお腹がグウと鳴った。
 その音が結構大きくて、周囲の一般乗客がクスクスと笑っていた。
「我慢我慢、大人しく待っていなさい」
 窘(たしな)められるジミーだった。



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