銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅷ 和平交渉
第四章
Ⅷ 和平交渉
惑星アルデラーン。
「なんだと! 遠征した艦隊が全滅したと申すのか?」
飲んでいたワインを床に叩きつけて立ち上がり、怒りを露にするロベスピエール侯爵だった。
「いえ、全滅ではなく降伏したのです」
次官が訂正するも、
「奴を阻止する艦隊がいなくなった以上、どちらも同じであろう」
と意に介していない。
「ヘニング男爵はどうなった?」
「捕虜になったようです」
「自ら艦隊司令官に名乗り出たのに、情けないやつだ」
「伯爵に迎合する諸侯貴族達が、我も我もと自治艦隊を派遣して合流しはじめています。現在、伯爵艦隊は総計五十隻になろうとしています」
「カーライル子爵が派遣した艦隊は?」
「寝返ったもようです」
「くそっ! どいつもこいつもが儂に歯向かいやがって」
苦虫を嚙み潰したような表情でいら立つ侯爵。
「奴らが迫ってきています、如何いたしましょうか?」
とはいっても、こちらの戦力は旗艦である戦艦デヴァステーションと駆逐艦八隻のみ。数で勝てる見込みはなかった。
「こ、こうなったら和平交渉だ!」
「和平交渉ですか?」
一方的に先に宣戦布告をしておいて、情勢が不利になった途端に、和平交渉などとは、虫が良すぎるとは思わないのだろうか?
「そうじゃ、和平じゃ」
「ですが、相手はアルデラーン公国の復興を望んでおります、すなわち自身は公爵(duku)となることを意味すると思います。侯爵(marquess)様の上位爵位となることをお認めになられるのですか?」
「し、仕方あるまい。そうじゃ、孫娘のローザを嫁がせようぞ、さすれば姻戚となり、我が家系も安泰じゃ」
「ローザ様はまだ八歳であられますが?」
「かまわん。所詮女子は、政略結婚のためにあるのだ」
「はあ、そうでございますか」
ロベスピエール侯爵には長男がいるので、爵位継承には何の問題もない。さすれば女子には用がない、どこぞの貴族に嫁がせれば良いと考えているようだ。自分の爵位以下の貴族ならば、手懐ける格好の餌となりうる。カーライル子爵も自分の娘を嫁がせて、今の位に就かせて味方に取り入れたという実例もある。
「デヴァステーションのカルヴァート将軍に連絡して和平交渉に当たらせろ。もちろん丁重に迎え入れるのだ」
「かしこまりました。さように伝えます」
惑星軌道上に待機する戦艦デヴァステーションの艦橋内。
「助かったな」
艦隊司令官アーネスト・カルヴァート中将は、和平交渉の連絡を受けてほっと溜息をついていた。
「侯爵のことだから全滅しようとも絶対死守しろとか言い出すと思ってましたよ。伝説のロストシップとなんかとは戦いたくありませんよ」
副官のアルフィー・マクラウド少佐も同様の意見のようだ。
「和平交渉ということは、彼が公爵に着位することを認めるということですよね」
「そういうことだな。いずれ我が艦隊も彼の配下に加わることになるだろう」
「同じ部下になるなら有能な指揮官の下で働きたいですね」
「同感だ。それより与えられた任務をこなすとしよう」
「かしこまりました」
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銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅶ 戦いの後で
第四章
Ⅶ 戦いの後で
ヴォルソール星域会戦の戦果は、アムレス号率いる伯爵艦隊の勝利に終わった。
戦果として、侯爵艦隊の巡洋艦二十四隻に対して、撃破四隻、大破三隻、中破五隻、小破七隻、残りの艦は軽微のまま降伏となっている。
一方の伯爵艦隊の損傷は、先頭で突撃した旗艦デヴォンシャーの中破が最大損傷を受けただけで他は軽微ばかりだった。
アムレス号に参謀と各艦の艦長が集められて論功行賞を兼ねての作戦会議が開かれていた。
「タスカー中将、旗艦はこのまま航行できます?」
タスカーは、『我に従え!』とばかりに先陣突撃を切ったので、敵艦から集中砲火を浴びていた。
これほど勇気ある行動を取れるのは、彼が国境警備隊出身で、国境付近を荒らす海賊との戦闘を何度も繰り返して、経験を重ねた叩き上げの将軍であるからだ。その腕を買われて艦隊司令官へと上り詰めたのである。
「はっ。兵装はかなり損傷を受けましたが、エンジンには被弾しておりませんから、航行には支障はありません。艦首魚雷が無事ですのでまだまだ戦えます」
「随行は可能なのですね」
「可能です」
「それでは引き続き、随行をお願いします」
「御意!」
その後、功績に応じた行賞が与えられた。
幾人かの士官が昇進し、ウォーズリー少佐は中佐となり、鹵獲した艦船を加えて十二隻の部隊となり、正式に伯爵艦隊所属の重鎮となった。
タスカー中将は、すでに高位にあるので、準男爵の爵位を与えられ『Sir』の称号を得た。
数時間後、謁見の間にて降伏した敵艦の艦長らとの謁見が開始された。
まず最初に、引き出されたのは艦隊司令官たるブランドン・ヘニング男爵だった。
「私は、ブランドン・ヘニング男爵だ。捕虜として扱うなら、貴族としての待遇を要求する」
戦争に負けたにも拘わらず、相手を見下しつつ横柄な態度で高待遇を要求する男爵。
「あなたは確かに貴族かもしれないが、軍人としての士官たる資格を持ち合わせてはいないようです。国際戦時捕虜条例に照らし合わせても、交戦者資格を持たない民間人です。民間人が積極的に戦闘行為を行い捕縛された場合は刑法犯として処遇するのが原則です」
「なんだと! 私をテロリストだというのか? この餓鬼が」
立ち上がり掴みかかろうとするが、両脇にいた兵士に制止されてしまう。
「そうですね。かくいう私も爵位を得たばかりで、士官学校にも入っておらず、軍人としての階級を持っていない民間人です。逆の立場で、私が捕虜になっていた場合、処刑されてもおかしくなかったでしょう」
民間人という言葉に、あたりの将兵達に多少の疑問符がついたようだ。
確かに、どこからともなくやってきて、あれよあれよという間に伯爵の地位に付いて、いつの間にかサンジェルマン艦隊を指揮するようになっていた。
「ただ、あなとの違いは、私はこのロストシップの所有者だということです。かつて、『タルシエンの橋』『ルビコンの橋』を渡って二つの国家を興した人物の継承者です」
続いて召喚されたのは、カーライル子爵からの派遣部隊長のボールドウィン・バートルズ中佐。
「何故、私が捕虜の扱いなんだ! 援軍として加わったのだぞ」
手錠をはめられて連れ出されたので憤慨していた。
「それでは問いかけます。本船が荷電粒子砲を撃ち放った直後に、あなたは何をされましたか?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる中佐。
「言いましょう。あなたは、この船に攻撃を仕掛けましたね。そしてウイルスに引っかかったと」
言い訳は通用しないと悟る中佐。
「その通りです。私は、子爵から隙を見て寝首を搔けと命じられていました」
素直に白状する中佐だった。
「正直でいいですね。命令に従っただけというなら、あなたの反逆も許されても良いですね。そこで提案です」
「提案?」
「我が艦隊が鹵獲した艦艇で編成した新部隊の指揮官を務めてみませんか」
「主君を乗り換えよと?」
「能力ある者を失いたくないのでね。ケンタウロス帝国との脅威に対するには、一人でも有能な軍人が欲しいのです」
中佐は考えた。
暗殺に失敗した以上、子爵の元には帰れない。自分の居場所はないだろう。
しかし、目の前の相手は自分を暗殺しようとしたのに、自らの配下に取り入れようとしている。
心の広い人物なのかもしれない。
「分かりました。ぜひ、あなたの下で働かせてください」
こうしてアレックスの元に、また一人有能な士官が増えたのであった。
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銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅵ それぞれの戦い
第四章
Ⅵ それぞれの戦い
「発射!
駆逐艦グラスゴー指揮官バートルズ中佐が叫ぶ。
「発射します」
砲撃手が復唱しつつ、発射ボタンを押した。
「?」
しかし、発射されることはなかった。
「どうしたのだ?」
中佐が怒鳴る。
「わ、分かりません」
砲撃手は、改めて発射ボタンを押し下げる。
やはり艦砲は沈黙を続けていた。
さらに、異変は続く。
突然艦内の照明が消えた。
「どうした?」
「エンジンが……エンジンが停止しました」
「補助バッテリーに切り替えろ!」
真っ暗では何も分からない。
「補助バッテリーに切り替えます」
再び照明だけは点灯した。
しかしそれだけで、戦闘継続は不可能だった。
エンジンが動いていなくては、兵器を稼働させることはできない。
「なぜだ? なぜ止まった?」
憤慨する中佐に副官が答える。
「おそらく、伯爵から与えられてインストールしたディスクプログラムにウイルスが仕込まれていたのではないでしょうか?」
「ウイルスだと? では、伯爵は我々を最初から信用していなかったというのか?」
「そういうことになります」
「何故、ディスクをインストールした?」
「そうしないと、作戦概要も暗号通信解読も分からず、身動きがとれなくなります」
「畜生!
地団太踏む中佐だった。
ほぼ同時刻、侯爵艦隊旗艦戦艦デヴァステーション艦橋内。
「左舷に高エネルギー反応!」
「奴らが撃ってきたのか? 回避せよ」
「ま、間に合いません!」
アムレス号から発射された中性粒子ビームが襲い掛かる。
当たればひとたまりもない。
息を飲む乗員達だった。
しかし、ビームは艦隊を逸れてしまった。
「は、外れたのか?」
安堵のため息をつく中佐だった。
「今のは、荷電粒子砲でしたね。砲撃手が素人だったのでしょうか?」
副官が推理する。
「ともかく、一発撃てば再充電に時間が掛かるはずだ。しばらく撃ってはこないだろう。正面の敵艦隊に集中するんだ」
と正面の敵艦隊に向き直った。
約五分後だった。
「右舷に反応あり!」
レーダー手が叫ぶと同時に激しい震動に見舞われた。
「どうしたのだ?」
「隕石です。いや、無数の岩石が飛んできました」
「岩石だと?」
「先ほどのビームが外れた先に惑星があり、表面の岩石が粉砕されて飛んできたものと思われます」
「まさか、艦隊を直接狙ったのではなく、間接的な岩石流として攻撃してきたというのか?」
「そのようです」
「小癪な真似をしやがって!」
憤り収まらぬ中佐だった。
一方の対戦相手の伯爵艦隊旗艦デヴォンシャー艦橋では、タスカー中将が目を見張っていた。敵艦隊に襲い掛かった岩石流からは避難できる場所に位置していた艦隊。
「今のを見たか?」
副官のカークランド少佐に声を掛ける。
「見ましたよ。最強の援護射撃です。我々に殊勲を上げさせるために手助けしてくれているようです」
「よし、期待に応えることにしよう。敵艦隊の戦型が乱れている今がチャンスだ! 紡錘陣形で突撃する」
号令一下、一糸乱れず敵艦隊中央に向かって突撃する艦隊。
敵艦隊は、岩石群によって艦に損傷をきたして、機動レベルを維持できない艦が続出して隊列を乱していた。
艦艇数が多くても士気レベルが低くなっては勝てるものも勝てない。
数時間で決着は着いた。
侯爵艦隊は白旗信号を打ち上げて全艦エンジン停止したのだった。
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銀河戦記/波動編 第二部 第四章 Ⅴ 謀反
第四章
Ⅴ 謀反
アムレス号の後方に待機している駆逐艦グラスゴー以下の三隻の艦艇。
指揮官ボールドウィン・バートルズ中佐は焦っていた。
カーライル子爵から、伯爵艦隊の応援として差し向けられたものの、その実「隙をついて裏切り、その寝首を搔くのだ」と騙し討ちを命令されたのだ。
伯爵艦隊にやってきて、旗艦であるアムレス号の雄姿に出鼻を挫(くじ)かれた。
「まさか、こんな巨大な艦とは聞いてないぞ!」
度肝を抜いて、自分達の艦で相手にできるのだろうかと自問自答していた。
これまでチャンスを伺いながらも、中々隙を見つけることができないまま決戦の場までやってきてしまったのだ。
「今頃、子爵さまは吉報を待っているはずなんだ」
「我々だけロストシップの後方に布陣させられたせいで、目立ちすぎますから下手な動きができないせいです」
「しかし、いつまでもジッとしていられまい。何か動きを見せた時がチャンスだ」
あくまでも子爵の命令に従おうとする中佐だった。
その頃、アレックスは味方艦隊の奮戦を見届けていた。
アムレス号の強力な荷電粒子砲を使用すれば一撃必殺なのであるが、それでは参戦する配下の武将達の手柄を奪うことになる。
「味方は善戦していますが、数で押されているようです」
カトリーナが戦力分析を報告した。
「まあ、しようがないな。少し加勢するか。荷電粒子砲用意だ。陽子電子対消滅でいこう」
「陽子電子粒子加速器準備! 艦隊へ作戦Bプラン発令!」
カトリーナが復唱する。
粒子加速器発射制御室では、実戦配備に張り切っていた。
「さあ、実戦だ! みんな閣下の期待を裏切るなよ」
指導教官が発破を掛けていた。
「了解!」
「任せてください!」
乗員達も威勢よく答える。
駆逐艦グラスゴーにも作戦司令の報が届いていた。
「アムレス号が動くようです。作戦Bプラン発動です」
副官が伝える。
「よし。やっとチャンス到来だ! 戦闘配備だ。寮監に暗号電文送れ!」
「了解!」
艦内を駆け回る乗員達。
各種砲台に着席して発射準備をしてゆき、魚雷発射管では光子魚雷が装填されてゆく。
「戦闘準備完了しました」
「よし。アムレス号が荷電粒子砲を発射した直後が最大の攻撃チャンスだ。アレは莫大な電力を消費するからな。一時電力喪失して防御力もかなり減少するはずだ」
千歳一隅のチャンスを逃すことはできなかった。
成功すれば昇進できるし、平民ながらも準男爵という世襲できる爵位を与えてくれるという約束も取り付けていた。
アムレス号艦橋。
「後方のグラスゴーに動きが見られます」
カトリーナが報告する。
「そうか。例のディスクをインストールしたか?」
「はい。インストール完了の信号が届いています」
「なら、心配ない。前方の敵艦隊に集中しよう」
後方の艦隊が反乱の動向を見せているのに、平然としているアレックスだった。
「荷電粒子砲、発射準備完了しました」
「うむ」
と呟いて、パネルスクリーンを見つめるアレックス。
恒星ヴォルソール第二惑星を背景に戦闘を続けている双方の艦隊。
「目標、第二惑星表面に設定せよ」
指示を出すアレックス。
「目標、第二惑星表面に設定します」
一瞬なんでそこなの? という表情を見せたが、指示通りにするジャレッド・モールディング操舵手。
荷電粒子砲は艦首固定なので、目標設定は艦体の方を動かして艦首を目標に向けなければならない。
「目標設定完了。発射準備完了!」
「よし、撃て!」
アムレス号から発射される中性粒子ビーム。
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