銀河戦記/波動編 第六章 Ⅱ アンツーク星



第六章


Ⅱ アンツーク星


 目的地のアンツーク星が近づいていた。
 コクピットには全員が揃って、スクリーンに映る星を見つめている。
「ここがアンツーク星なのね?」
 ルイーザが確認する。
「間違いありません」
 マイケルが答える。
「着陸して調べてみよう」
 アレックスが指示する。
「分かった。降下シークエンス開始!」
「待って、後方より高速接近する艦艇あり! この辺りを巡回している警備艦のようね」
 レーダー手のルイーザが叫ぶ。
「相手方より入電!『停船せよ。さもなくば撃墜する』と警告しています」
 エヴァンが報告する。
「相手に返信。只今自動での降下シークエンス中なので、地上で待機する」
 アレックスが指示する。
「分かった」
 言われたとおりに、相手に返信するエヴァン。
 降下してゆくレンタルシップを追うように、警備艦も降りてくる。

 数時間後、地上に降下したレンタルシップと横付けされた警備艦。
 レンタルシップから降りて、警備兵の尋問を受ける少年達。
「責任者は誰だ?」
 目の鋭い兵士が尋ねた。
「私です」
 すかさず答えるルイーザ。
 年長者なので当然と言える。
「では、尋ねる。この小惑星を訪れた理由を教えてくれ」
「簡潔明瞭に言えば、トラピスト人の末裔である私達のルーツ探しですよ」
「ルーツ探しだと?」
「昔々、トラピスト星系連合王国がケンタウルス帝国に敗れ去った折に、一隻の船がこの地から現れてトラピスト人を引き連れて、別天地に誘(いざな)ったと言われています」
「その話は、自分も聞いたことがあるが……この地にあったという基地は、完全に破壊されたという。もはや何もないはずだ」
「それでも良かったのです。いわば巡礼の旅ですから」
「巡礼も良いが、さっさと帰還することだな。最近はこの辺りも物騒になってきているから」
「物騒な事件でもあったのですか?」
「帝国に対して反旗を掲げる『シャルルマーニュ』という組織があるのを知っているか?」
「レジスタンスですか? 聞いたことはあります。いつの時代でも、政権に不満を抱いて転覆を図ろうとする輩は途絶えませんね」
「この星は、奴らの活動範囲に入っている。奴らの餌食にならないように、早いとこ帰還した方がいいだろう」
「ご忠告ありがとうございます」

 数分後、警備艦が離陸する。
 その様子を船内から見つめている少年達だったが。
 次の瞬間だった。
 警備艦が炎上し爆発してしまったのだ。
「なんだ?」
 驚く少年達。
 上空を見ると、爆発した警備艦から離れたところに一隻の船が航行しているのが見えた。
「あの船から攻撃されたのか?」
「どうやらレジスタンスの船みたいだ」
「その船から通信が入っています」
 エヴァンが伝える。
「繋いでください」
 通信を接続するエヴァン。
『君たちの所属を言いたまえ』
 相手が尋ねてくる。
「アルビエール侯国サンジェルマンの民間人です。ルーツ探しの旅をしています」
『アルビエールだと? 随分と遠くからやってきたのだな』
「あなた方は、シャルルマーニャですか?」
 帝国の警備艦を撃ち落としたことで、レジスタンスと判断したようだ。
『よくわかったな。その通りだよ。我々とアルビエール人は、遠い親戚同士で同族だ。どうだ、我々の仲間にならないか?』
「それは遠慮いたします」
『そうか……仕方がないな。ルーツ探し頑張ってくれたまえ……おっと、帝国の連中がやってきたようだ。警備艦が撃沈されたのを察知されたようだ』
 通信が途切れた。
 急加速して現場を離れようとする船と後方から接近する帝国艦隊。
 追撃戦が始まるが、帝国艦の一隻が隊を離れて惑星に降下を始めた。



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
銀河戦記/波動編 第六章 Ⅰ テイクオフ



第六章


Ⅰ ローリング・テイクオフ


 コクピットに入った少年達。
 操縦席にマイケル・オヴェット、副操縦席にはエヴァン・ケイン、そして機関操作席にはフレッド・ハミルトンが座った。
 起動キーを機器に差し込んで、船を始動させるマイケル。
 前面の機器や照明に電源が入った。
「エンジンを始動させるよ」
 機関士のフレッドがエンジンを始動させると、船内全体が微かに震動して低い唸り音を上げた。
「エンジン始動確認!」
「分かった」
 副操縦士のエヴァンが空港管制塔に連絡をとる。
 すでに滑走路の使用許可は事前に受けていた。
「こちらUF3012、発進の許可願います」
『こちら管制塔、UF3012へ。第四滑走路への侵入を許可する』
「了解。第四滑走路に入ります」
 通信を終えて、滑走路へと機体を移動させる。
「こちらUF3012、第四滑走路に到着。発進準備完了しました」
『こちら管制塔、UF3012へ。発進を許可する。前方オールグリーンだ』
「了解。発進します!」
 振り返り、後方の少年達に合図をするマイケル。
 皆が頷くのを確認してから前に向き直り、操縦桿を握りしめた。
「出発進行!」
 ゆっくりと前進を始める機体。
「エンジン出力50%」
 フレッドが伝える。
 傍らのスロットルレバーを引いて、エンジン回転数を上げてゆく。
 エンジン音と震動がコクピットに伝わってくる。
 窓の外の景色が流れてゆく速度が速くなってゆく。
「離陸推力に到達!」
「フラップ角度5度、機首を上げる」
 機体前部が持ち上がってゆく。
「エンジン出力65%」
「よし! テイクオフ!」
 少し操縦桿を手前に引くと機体が浮き上がって離陸してゆく。
「離陸した! このまま上昇!」
 地上から大気圏、そして宇宙空間へと上がってゆく。

「大気圏突破!」
 と言いつつ、大きなため息をつくマイケルだった。
「ご苦労様でした。休憩室でしばらく休んでていいわよ」
 その肩に手を置いて労うルイーザだった。
「後は僕が引き継ぐよ」
 そう言って副操縦士のエヴァンが、操縦システムを自分の方に切り替えた。
「分かりました」
 立ち上がって、後部にある睡眠ルームへと移動した。
「自動航行装置に、アンツーク星の位置情報を入力します」
「これで眠っていても目的地に着けるのね」
「そうはいきませんよ。航行途中で何が起こるか分かりませんからね」
 アレックスが注意した。
「あら、そうなの?」
「アンツーク星到着予定は、八時間後になります」
 エヴァンの言葉に、アレックスが伝える。
「ここは僕とエヴァンで見守っているから、他の皆は休憩していいよ。僕らはマイケルが戻り次第休むから」
「分かった。居眠りはしないでね」
 ブルーノ・ホーケンが念押しして、少年達は休憩室へと向かった。
 アレックスは、正操縦席に着席する。



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


銀河戦記/波動編 第五章 Ⅵ トリスタニア宮殿



第五章


Ⅵ トリスタニア宮殿


 レンタルシップの燃料補給が終わるまでの空き時間を利用して、トリスタニア宮殿を拝観することにした一行だった。

 かつてクリスティーナ女王が統治していた頃には、多くの臣下や女官が動き回っていただろうが、今は観光客がゾロゾロと徘徊しているだけだった。
 トリスタニア王国は、女王退位の後にはケンタウルス帝国傀儡の王権となり、やがて完全に帝国の支配下となった。
 宮殿の主は不在となり、観光資源として一般公開されるようになった。

 王(女王)の間に入室した一行。
 一段高い場所に玉座があり、居並ぶ大臣達を前にして、国政を担っていたのだろう。
「王権を滅亡させられてから、王族はどうなったのかな?」
 エヴァン・ケインが質問した。
「歴史的には、侵略や革命で政権が倒れた場合、王族は一族郎党が処刑されるのが常だよね」
 フレッド・ハミルトンが応える。
「有名なのが、地球18世紀フランスのマリーアントワネットが革命政府に断頭台処刑された奴だね」
 マイケル・オヴェットが続ける。
「女王は処刑されていないよ。王位を譲渡した後、東宮にて隠居したらしい。正確には幽閉されたってこと」
 と、ジミー・フェネリー。
「国民から慕われていたから処刑できなかったんだよね。処刑したら暴動に発展したかも知れないから」
 そして、アレックスが推察する。
「あらあら、よく勉強したわね」
 ルイーザが感心する。
 実は宮殿入口で無料配布されていた案内冊子に書かれていたのであった。

 豪華な調度品に感嘆しながら、宮殿内を散策少年達だった。
「ねえ、玉座とか見て何か感ずることはない?」
 ルイーザがアレックスに耳打ちする。
 精神科医としてアレックスの深層意識にダイブして、祖先の記憶映像を探り出していた。
「いいえ。仮にご先祖様だったとしても、数百年も経っていますからね」
 飄々と答えるアレックス。
「だよねえ……」
 やはりという表情をするルイーザ。

 一通りの観光を終えた少年達が、レンタルショップの元へと戻った頃には、燃料補給と整備が完了していた。
「観光はいかがでしたか?」
 係員が声を掛ける。
「絢爛豪華な宮殿が、今は使われていないというのが残念ですね」
 ルイーザが答えると、
「軍事国家には不必要と思われているみたいです」
 解説する係員。
 専制君主制の象徴である宮殿を単なる観光資源化したのは、それまでクリスティーナ女王など王族に親しみを持っていた国民を宥めるためであろう。
 実際にも、宮殿の清掃から修繕にいたるまで、『宮廷保全隊』と呼ばれるボランティアによる民間組織が運営を担っていた。
「それでは、起動キーをお渡しします」
 起動キーを受け取って、握りしめるマイケル・オヴェットだった。
 これから自らの腕で船を操縦しなければならない緊張感からである。
「良い旅を」
 係員に見送られながら、タラップから船に乗り込む少年達。
 軽く手を振って、昇降口の扉を閉めて施錠した。



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


銀河戦記/波動編 第五章 Ⅴ 惑星トランター




第五章


Ⅴ 惑星トランター


 惑星トゥーロンから連絡船に乗って『レマゲンの橋』を渡り、対岸の恒星ブレスト第三惑星リモージュに到着。銀河系渦状腕のオリオン腕の中にある経由地であると同時に、橋を渡ってくる敵がいれば迎撃する軍事基地でもあった。
「ここからトリスタニアへの直行便が出ているわ」
 ルイーザが伝えると、
「直行便は三十分後に三十七番ゲートから出発になっています」
 電光掲示板を見ていた乗り物好きのマイケル・オヴェットが案内する。
「そのようね。急ぎましょう」
 手続きもあるし、ゆっくりしていては乗り遅れるので、急いで三十七番ゲートへと向かう一行だった。

 そして終点、恒星トラピスト1の第四惑星、かつての首都星であった惑星トランターにたどり着いた。


 地球から「みずがめ座」の方向およそ四十光年先に、「TRAPPIST-1(トラピスト1)」と呼ばれる恒星がある。赤色矮星のこの星を七つの惑星が公転しており、そのうちの四つがハビタブルゾーンに位置しており、第四惑星トランターを首都とするトリスタニア星系連合王国として発展していた。
 しかし、ケンタウルス帝国の侵略を受けて滅亡した。

 連絡船が首都星トランターに近づいている。
 その映像は、アレックスの潜在意識にあった風景そのものであった。
「トリスタニアは、アレックス君の故郷だと聞いているが、懐かしいか?」
 ルイーザが尋ねる。
「いえ、祖先の故郷というのは真実のようですが、自分には訪れたこともない見知らぬ星でしかありませんから」
 淡々とした表情で答えるアレックス。
 少年達も一度も訪ねた星でもない。
『まもなくトリスタニア空港に着きます。お降りの準備をなさってお待ちください』
 船内放送で案内があった。
『船が着陸態勢に入ります。お客様方々は、着席してシートベルトをお締めくださいませ』
 少年達は、各自の席に座ってシートベルトを締めた。

 やがて、トリスタニア宇宙港に着陸する旅客船。
『終点トリスタニアに着陸しました。どちら様もお忘れ物のないようにお降りくださいませ』
 ゾロゾロと手荷物を持って昇降口へと向かう乗客達。
 それに混じって少年達も動いた。
「やっと目的地到着だな。長かった」
 旅客船を降りてターミナルビルに降り立った少年達。
 両手を精一杯に上に掲げて背伸びする体育会系のブルーノ・ホーケン。
「何を言ってるんだい。ここからが本番の旅じゃないか」
 乗り物好きのマイケル・オヴェットが窘(たしな)めた。
 この星での目的は、レンタルシップを借りて、近隣のグリアント星系内の小惑星帯にあるアンツーク星へ向かうことだった。

 空港旅客ターミナルビル内にあるレンタルスペースシップ社。
 少年達が、レンタルシップを借りるための手続きをしている。
「予約していたルイーザ・スティヴァレッティです」
「少々お待ちください」
 端末を操作して予約リストを調べる係員。
「はい、確かにご予約を受け賜わっております。パスポートか身分証のご提示をお願い致します」
 言われたとおりにパスポートを提示するルイーザ。
「確認致しました。ご予約は『カウンセラー級スペース・クルーザー』ですね」
「その通りです」
「船長はあなたが?」
「いえ、こちらです」
 と、乗り物好きのマイケル・オヴェットを指名した。
「お若いですね。クルーザー級以上の免許証のご提示お願いします」
「はい」
 免許証を差し出すマイケル。
 機械好きのフレッド・ハミルトンも機関士免状を提示した。
 提示された書類を確認する係員。
「結構ですよ。起動バッチキーをお渡しします」
 船体番号札の付いたバッチキーを受け取って、マイケルに渡すルイーザ。
「燃料補給に三時間程かかります。それまで観光に出かけては如何でしょうか。近場でトリスタニア宮殿などは如何でしょう、一般人に開放されていますから」



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
銀河戦記/波動編 第五章 Ⅳ 連絡船



第五章


Ⅳ 連絡船


 ゲートウェイ拠点都市コリダロスを出航し、幾度かのワープを重ねながらペルセウス腕宙域を渡ること、時間にして六十三時間。
 ついに銀河系渦状腕、ペルセウス腕とオリオン腕の間を連絡する『レマゲンの橋』に到着した。
 旅客船は終点である惑星トゥーロンに停船した。
「ここからは、レマゲン橋連絡船に乗り換えるわよ」
 ルイーザが立ち上がる。
 少年達も後について昇降口へと向かう。
 銀河系渦状腕間隙を一飛びできるワープ技術はまだ開発されていないので、レマゲンの橋内にある星々を伝って渡るしかなかった。
 しかも星々は、いわば大河の激流の中に浮かぶ岩のような状態で、頑丈な船体構造を持つ連絡船でないと渡れなかった。
 少年達が乗ってきた旅客船は、整備と燃料補給を済ませてから、ここで折り返し運航することになっている。

 銀河系渦状腕間隙に渡された橋には開発順に、
 ケンタウルス帝国(オリオン腕)とトリスタニア共和国(たて・ケンタウルス腕)の間に架けられた『タルシエンの橋』
 トリスタニア共和国とアルビオン共和国の間の『ルビコンの橋』
 そして『レマゲンの橋』という三つが存在する。
 そのいずれも軍事的戦略的に重要なので、橋の出入り口には、それぞれの国家が軍事基地を置いており、通行にはパスポートや通行許可証などが必要であった。

 レマゲンの橋は、両端が同一国なのでパスポートは必要ないが、通行証が必要だった。
 少年達の所持する旅券は、トラピスト行きなので通行証が付随していた。
 旅客船を降りて、時折すれ違う帝国兵士の群れに怯えながら、連絡船乗り場へと移動する少年達。
「ちょっとお、何を怯えているのよ。兵士を見るたびに、そんなんじゃ逆に不信感を抱かせるだけよ」
 ルイーザが注意した。
「ごらんなさい。アレックス君は、全く動じていなわよ」
「仕方がないよ。偽造パスポートを持ってれば、誰でもバレないかと挙動不審になるよ」
 少年を代弁してアレックスが答えた。
「とにかく、堂々と胸を張って歩いてね」
 搭乗手続きカウンターにてチェックインして、何とか無事に搭乗口から、連絡船に乗り込むことに成功した少年達。
 ここから先にはワープゲートはなく、亜光速航行と連絡船自身のワープ機能で進んでゆくことになる。
 連絡船は、今まで乗っていた旅客船と違って、展望ルームや遊技場などの施設は一切なく、目的地到着まで指定席に座ったままである。
 一応はリクライニングシートなので、席を倒して仮眠を取ることはできるし、目の前のモニターにて映画や外宇宙の映像を見れるし、機内食も出される。
 それなりに快適な船旅を楽しむことはできるようだ。
 少年達は目的地到着までの間、椅子を対面に動かしてトランプゲームなどで時間を潰すことにした。



↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v



ファンタジー・SF小説ランキング

- CafeLog -