銀河戦記/波動編 第一章 Ⅵ 決行の日


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第一章


Ⅵ 決行の日


 決行の日は、六人のシフトが揃って休みの日に決まった。
 自由時間ということで、三々五々に船内をぶらついて、徐々に飛行甲板へと集まるように向かう。
 ケビンは、一人甲板に向かう。
 おもむろに空戦シミュレーターに近づくと、さっそく海賊達が集まってくる。
「今日もまたやるのか?」
「はい。今回は難度Cに挑戦します」
「難度Cだと?」
 目を丸くする海賊。
「ずげえなあ。Cはまだ誰もクリアしたことがないぜ」
「まあ、見ててくださいよ」
「見せてもらおうじゃないか」
 難度Cという声を聞きつけて、どんどん海賊が集まってくる。

 海賊達が、彼の周りを取り囲んで観戦している。
 画面上に例の難敵である赤い奴が近づいてきているが、今度の難度はCなのでさらに動きが激しく予想の付かない動きをしている。
 固唾を飲んで注視する海賊。
 これまで散々な目にあってきただけに、どう対処するかを見極めようとしていたのだ。


 物陰からこっそりと飛行艇に近づく人影。
 甲板にいる海賊達の視線が、ケビンに向いているのを確認して慎重に、飛行艇の乗船口にたどり着いた。
「扉を開けるぞ」
 フレッド・ハミルトンが開錠操作を行うと静かに扉は開いた。
「よし、音を立てないように乗ってくれ」
 乗り込む少年達。
「やったあ! 無事に乗れたぞ!」
 声を上げて喜ぶブルーノ・ホーケン。
「静かに。ここからが正念場だぞ」
 窘めるアレックス。
「配置に着いてくれ」
 事前に打ち合わせしたとおりに配置に着く少年達。
 操舵席に座るマイケル・オヴェット。
「動かせるか?」
 体育会系のブルーノ・ホーケンが確認する。
「大丈夫だよ。俺が習った機体とほぼ同じだ」
 操舵席に着席したマイケル・オヴェット。
 機械好きのフレッド・ハミルトンが端末を操作して、
「機関チェックします。電力系統OK、燃料十分……。行けますよ」
 ブルーノ・ホーケンは、海賊が乗り込んでくるかもしれないので、乗船口付近で待機して排除する構えを取っている。
 料理が得意なジミー・フェネリーは、することがないので成功するように祈っている。
 準備は完了した。
 船長席に座ったアレックスが号令する。
「よし、エンジン始動!」

「何だこの音は?」
「飛行艇だ!」
 甲板上の海賊達が、異変に気付いて飛行艇へと駆け寄る。
 乗船口を開けようとするが、中から完全にロックされている。
「誰だ! 出てこい!」
 乗船口から中に向かって怒鳴り始める。
 
 空戦シミュレーターのそばには、ケビンただ一人。
 すべての視線が飛行艇に集中しているその隙に、ケビンが管理室へと急ぎ足で向かう。
 ここでも海賊たちは、飛行甲板の騒動に対応していた。
「乗り込んだ者は、誰だ?」
「ガキですよ。そのうちの一部が無断で乗り込んだようです」
「無線で呼び出せ!」
「だめです。応答なし」
 その背後で忍び足で目標物へと近づこうとしているケビンだった。
 そして、エアロックを開くスイッチを起動させた。
 警報が鳴り響く。
「何をしているか!」
 気が付き、振り向いてケビンにとびかかる海賊。
 別の一人は、エアロックを停止させようと操作する。
「だめだ。開ききるまでは停止できない」

 甲板内に警報が鳴り響き、驚く海賊達。
「エアロックが開くぞ!」
「全員、退避だ!」
 船内の空気が抜かれていくと同時に、ゆっくりと開いてゆくエアロック。
 あわてて待避所へと駆け出す海賊達。

 飛行艇内。
「ケビンがエアロックの開放に成功したぞ」
 小躍りする少年達。
「ブルーノ、そこはもういいから席に着いてくれ」
「分かった」
 乗船口を見守っていたブルーノが手近な席に着席した。
「準備OKだ!」
 エアロックが最大に開いた。
「よし、発進だ!」
「了解!」
 マイケルがエンジンを吹かすと同時に、操縦桿を引いた。
 ふわりと浮かび上がり、エアロックから宇宙空間へと飛び出す飛行艇。



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銀河戦記/波動編 第一章 V 脱走計画

第一章


V 脱走計画


 アッデージ船長のもとに、エヴァン・ケイン少年のことが報告された。
「ほう……。それが本当ならパイロットに欲しいな」
 空戦隊長のロドリゴ・モンタナーリが感心したように話す。
「本当ですよ。我々が苦戦してなかなか撃墜できなかった赤い奴を、いとも簡単に撃ち落としてラスボスの母艦まで撃沈させたんですから。それも初見でですよ」
「そうか、訓練次第ではエースパイロットにもなれるかな」
「もちろんですよ!」 
「しかし、シミュレーターではミスしても死なないが、実戦では死ぬ。例え生き残っても捕虜になれば、海賊は即決裁判死刑だ」
「確かです」
「死の恐怖に打ち勝って、作戦遂行できるかな? まだ子供の彼には、荷が重いのではないか? 奴隷となってもまだ生きていられる方がまだ幸せに近い」
「私が、一人前になるように指導します」
「分かった。考慮しよう」
「ありがとうございます」
 礼を述べて退室するモンタナーリ。
「料理長が人手不足で困っています。甲板長も子供たちが働いてくれるので助かると言っていました。慢性的な船員不足この際、子供たちの中から選抜して仲間に引き抜いてはいかがでしょうか?」
 リナルディ副長が意見具申を述べた。
「海賊の仲間になろうと思うかな?」
「奴隷として売られるよりもいいか、と思うのではないですか?」
「そうかな……。ま、人手不足なのは確かだしな。本命の少年以外は、ジョルダーノ甲板長にまかせよう」
「伝えておきます」


 翌日。
 調理場では、料理長の指示のもと幾人かの少年が調理の手伝いをしていた。
 孤児院育ちで、当番制で日ごろの食事の準備をしていただけに、調理は慣れた手つきだった。
 機関室では、機械好きの少年が配置され、物珍しさに目を輝かせていた。
 何の得意を持ち合わせていないものは、引き続き甲板掃除である。

 その頃、エメラルド色の瞳をした少年アレックスは船長室に呼ばれて、アッデージ船長との三次元チェスの相手をさせられていた。
 アレックスが、広場での海戦ゲームを創作し、試合でも作戦巧者であることを少年達から聞いていたからである。だから三次元チェスの相手になると思ったのである。海賊の中では、船長と勝負できる相手がいなかった。
 チェスのルールを知らなかったアレックスであるが、手ほどきを受け二・三戦すると、見違えるように上手になっていった。
「参った!」
 船長が投了する。
「どういたしまして」
 軽く会釈するアレックス。
「理解が早いな、俺と互角以上に戦えるのは君だけだ」
「ありがとうございます」

 それ以来、事あるごとに好敵手となったアレックスとチェスの対戦をする船長だった。
 船長は、アレックスを例の貴族の息子だと確信しているようだった。
 孤児ゆえに自身の身の上を知らないアレックス、ロスト・シップのことも知らないだろう。だが、何らかの接点を有しているに違いない。深層意識のさらに奥深くに記憶が受け継がれているかもしれない。
 基地に戻ったら、精神医に少年の深層意識の調査を行うつもりだった。
「君はなかなか頭が切れるようだ。俺の補佐役(Assistente)につける」
「アシスタントですか?」
「そうだ。船橋で俺のそばにいてくれ」
「僕がですか?……分かりました」
 海賊船には既に副長がいたが、見習いとして使役することにした。
 少年の才能を、自身の目で見極めるためである。


 数時間後、少年達はそれぞれの船内での受け持ち担当を正式に与えられ、牢を出されて海賊達と同様に六人部屋をあてがわれた。
 アレックスは、部屋の班長に指名された。
 海戦ゲームの創案者であり、大将・監督として采配を振るっていたことは周知のことであったから最適任と判断されたのである。
 アレックス(副長見習い)の他は、
 ゲーム好きのエヴァン・ケイン(パイロット候補生)
 機械好きのフレッド・ハミルトン(機関室部員)
 料理が得意なジミー・フェネリー(厨房課員)
 体育会系のブルーノ・ホーケン(白兵部隊要員)
 乗り物好きのマイケル・オヴェット(操舵見習い)
 の六人だ。

 それぞれ役割を与えられて任をこなしているが、軍人ならともかく海賊として働くことに違和感を覚えている者も多いようだ。
 強制連行されて逃げ道もないので、仕方なく働いている状況である。
 軍人なら家族にも保障があるし退役すれば恩給も出るが、海賊にはそれがなく逮捕されれば即決裁判死刑が待っている。
 孤児院育ちの者は諦めもつくが、家庭育ちの者は諦められなかったようだ。

「俺たちを連れてきた飛行艇が甲板にあるけど、あれで逃げられないかな」
 マイケル・オヴェットが口を開いた。
「動かせる人がいるのか?」
「俺の親父が恒星間レースの艇長でさ。赤ん坊のころから、親父の隣で運転をみていたから、だいたいのことは分かるし、甲板掃除の際に飛行艇のコクピット見たけど、ほぼ同じだった。だから多分大丈夫だ」
 マイケルは、任せろと胸を張った。
「だとしても、飛行艇は一人では動かせないよ」
「エンジンなら、僕に任せてよ」
 機械好きで、機関部員になっているフレッド・ハミルトンが名乗り出た。
「宇宙に出るには、管理棟からエアロックを開ける操作が必要じゃない? つまり誰かが残ってやらなきゃいけない」
「なら、それは僕がやってやるよ」
 とは、パイロット候補生のエヴァン・ケイン。
「いいのか?」
「ここの居心地がよくってさ。海賊もいいなと思っているから気にすることはない。大目玉を食らうだろうけど、たぶん大丈夫だよ」
 パイロットを欲しがっているからという判断のケインだった。
「しかし、宇宙に出られても、航路が分からなければ迷子だぞ。航続距離も分からない」
「それなら大丈夫。操舵見習いやっているから星図と航路図を覚えているんだ。燃料も近くの有人惑星にたどり着けるだけの分はあると思うよ」
 マイケル・オヴェットが答える。
「なら、後は実行あるのみだな」
 と、班長のアレックスを見つめる。
 他の者も同様に、決断を委ねるように見つめ返してくる。
「僕個人の意見としては反対だけど、皆が賛成なら同意しようと思う」
 アレックスは決断した。
「他の班にも声を掛けるか?」
「いや、心苦しいがやめた方がいい。六名ならともかく、二十数名が同時に行動を起こしたらさすがにばれる」
「分かった」
 決断されたことで、綿密なる作戦行動案が練られることとなった。


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銀河戦記/波動編 第一章 Ⅳ 少年

第一章



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Ⅳ 少年


 海賊船牢屋の中で、暗い表情で座り込んでいる少年たち。
 中には、鉄格子に被りついてわめいている元気な子もいるが……。
「ぼくたち、どうなるの?」
 一人の少年がか弱い声で呟くように尋ねた。
「決まってるよ。ここは海賊船の中、奴隷商人に売られちゃうんだよ」
「いやだよー」
 震えて縮こまる少年たち。
 しばらく沈黙の時間があった。
 やがて足音が近づいてくる。
 モレノ・ジョルダーノだった。
「これから、一人ずつ尋問をはじめる」
 牢の鍵を開けて、中に入り少年たちを見まわしてから、
「よし、おまえからだ」
 と、一人の少年を指さした。
 このような状況でも落ち着いた表情をしている緑色の瞳の少年だ。
 指さされた少年は、黙って立ち上がる。
「よし、俺についてこい」
 別室に案内される少年。
 そこには、凛々しい姿の青年が机を挟んで座っていた。
「始めようか。座ってくれ」
 言われたとおりに対面するように腰かける少年。

「私の名前はアントニーノ・アッデージ、この船の船長だ。まずは君の名前を聞こうか」
「アレックスです」
「姓は?」
「ありません。孤児院では姓は養子縁組が決まった時に決まります」
「なるほど、養子親の姓が付けられるわけか」
「それと、成人して孤児院を出る時に、自分で自由に付けられます」
「ところで、君の瞳の色はエメラルド色だね」
「そうですね。惑星サンジェルマンの人々は、青色の瞳がほとんどです」
「虹彩異色症? いや、オッドアイとは違うが、遺伝子病なのだろうな」
「そうらしいです」
「それで、君のご両親は?」
「分かりません。捨て子ですから」
「そうか、分かった。では、君から尋ねることはあるかね?」
「はい。これからの僕たちの処遇です」
「そうだな。金持ちの子供は、身代金を要求するし、孤児院の子供は奴隷商人に売るさ」
「でしょうね」
「しかし、君は落ち着いているな」
「泣きわめいたところで、事態が変わるわけありませんから」
「まあ、そうだな……今日は、こんなところか。牢屋に戻ってもらおうか」
 控えていたジョルダーノに合図を送る船長。
 少年に手錠を掛けて、牢屋へと連れ戻すジョルダーノ。

 数時間後、全員の聴聞が終了したところで、少年達に食事が出された。
 パンとスープとひと切れの肉が出された。
 満腹には程遠いが、空腹を凌ぐには十分だった。
 食事が終わると、ドメニコ・ボノーニが、
「食事が済んだら仕事だ! ただ飯食わすわけにはいかないから、お前らには甲板掃除など働いてもらうぞ」
 というと、掃除道具を各自に手渡した。
 少年それぞれに分担役割を与えて、広い船内甲板掃除を指示した。
 渋々だが、言われたとおりに掃除を始める少年達。
 ここは宇宙の彼方の宇宙船内、外へ逃げ出せるわけもなく、抵抗して印象を悪くすれば奴隷商人に売られるのが早くなるだけである。
「よーし、今日はここまでだ。全員牢屋に戻れ!」
 指示された通りに牢に戻る少年達。

 船内の掃除や後片付け、荷物運び、食堂の給仕などの雑用に、少年達が駆り出される日々が続く。
 今日も甲板掃除していた少年が、片隅で海賊達が騒いでいる場面に注視した。
 戦闘シミュレーションで、空中戦の訓練をしている最中だった。
「やられちまったー!」
 頭を抱えて喚く海賊。
「ドジ! 三分も持たねえのかよ」
「そうは言っても、赤い奴がめっぽう強ええんです。しかも通常の三倍の速さだから」
「どれ、俺にやらせろ!」
 と、先の人を押しのけて筐体に乗り移ったのは、空戦隊長のロドリゴ・モンタナーリだった。
 勢いよく筐体に着席したが、ものの二分で撃墜されてしまった。
 頭を掻きながら降りてくる海賊。
「ほれみたことか。今回のステージは毎回攻撃パターンが変わって難度が高いんですよ」
「ちぇっ」
 舌打ちする海賊。
「ねえ、僕にやらせてよ」
 と少年が声を掛ける。
「なんだと。難しいんだぞ」
「見てたけど、僕なら簡単だよ」
 と愛嬌振りまくように話す少年。
「いいだろう。やってみな」
 降りて席を譲る空戦隊長。
「見ててね」
 そういうと、少年は席に座りシミュレーターを起動した。
 画面には、次々と襲い掛かる敵戦闘機群の攻撃が繰り返される。
 それらをいとも簡単に搔い潜りながら攻撃を加えて撃墜してゆく。
 海賊達が難敵とする赤い戦闘機の出現にも、攻撃を見切りながら反撃する。
 そして、ものの見事にこれを撃墜したのである。
 さらに進撃し続け、ラスボスである敵母艦を目標に捉え、数分で遂に撃沈させて作戦終了、クリアしたのであった。
「す、すごい!」
 いつの間にか集まって来ていた海賊達から驚愕の声があがる。
「おまえ、やるな。パイロットの経験者か?」
 凄腕さに尋ねる海賊。
「まさか、僕はただの学生だよ」
「そうか? 腕前は本職のパイロットだよ」
「実は、シューティングゲームが好きでね。毎日やっているから、こういうのには慣れているんだ」
「なるほど……おまえの名前を聞いておこうか」
「エヴァン・ケインだよ」
「船長が、戦闘機乗りを欲しがっていたんだ。上申しておくよ、OKならパイロットになれて、奴隷商人に売られずに済む」
 その発言に、周りの海賊たちが窘める。
「おい、おい。ゲームと実戦は違うぞ!」
「まあ……それは、船長が決めるさ」



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銀河戦記/波動編 第一章 Ⅲ 海賊船

第一章



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Ⅲ 海賊船


 惑星サンジェルマンから離れつつある海賊船内、牢屋に押し込まれている少年たち。
 まだ催眠剤が効いているのか、床に倒れたまま眠り続けている。
 牢の監視室でモニターを見ながら談話する海賊たち。
 下っ端らしき一人が隣の人物に尋ねている。
「兄貴、孤児なんかさらってどうするんですかい?」
「おまえ、ロストシップを知っているか?」
 唐突に話題を振る兄貴分。
「ロスト……知りませんなあ」
「銀河系史上最強の戦艦と言われた船だ」
「孤児と戦艦と、どういう関係があるんですか?」
 首を傾げて尋ね返す下っ端の名前は、ドメニコ・ボノーニ。
 兄貴と呼ばれたのは、甲板長のモレノ・ジョルダーノである。
「まあ、話は最後まで聞け。……その船の持ち主の子孫が流れ流れてこの惑星にたどり着いたらしいのだが、船はいつの間にか行方不明となってしまった」
「だからロストシップと呼ばれるのですね。しかし、何百年も前のものなんでしょう? 見つかったとしても、故障や経年劣化で動くかもわからないじゃないですか」
「修理や復元できるかもしれないぞ。そうすれば、俺たち宇宙最強の海賊の誕生だ」
「つまりそのためには、船の行方を知っているかもしれない持ち主の子孫を捜していると?」
「そういうことだ。船主の子孫のとある貴族が、子供の一人を孤児院に捨てたということだ」
「捨てた? なんで?」
「どうやら障碍児だったらしい。貴族の沽券に関わるということじゃないか」
「なるほど、プライドですか」
「そういうこと」
「でもそれもあの中の一人だけでしょ? 他の子はどうするんですかい?」
「奴隷商に売り飛ばすだけだ」
「可哀そうに……」
 その時、警報が鳴り響いた。
『総員戦闘配備せよ!』
 繰り返していた。
「追手?」
「ドメニコ、配置につくぞ」
「OK!」
 二人は海賊船の砲手でもあった。
 持ち場へと駆け出してゆく。

 海賊船の船橋。
 前方の壁一面のパネルスクリーンに、惑星サンジェルマンを背景に接近してくる艦隊が映し出されている。
「船尾魚雷室に魚雷戦発令!」
 船長席に陣取るアントニーノ・アッデージが命令を下している。
「了解。船尾魚雷室に、魚雷戦用意!」
 復唱する副官フィオレンツォ・リナルディ。

 船尾魚雷室では、魚雷の装填作業が行われている。
 魚雷を装填し、筒内の空気を抜いて、
「魚雷発射準備完了!」
 と、魚雷長のアキッレ・フラスカーニが船橋へ連絡する。

 船橋。
「船尾魚雷発射準備完了しました」
 乗員達は単に魚雷と略称しているが、光子魚雷のことである。
 その基本原理は、物質と反物質が別々のパケットに分けられており、目標到達と同時にパケットが混合されて、対消滅と同時にエネルギー(光子)を放出させて、対象物を破壊する。
「発射!」
 船長の一声で、船尾から光子魚雷が発射された。
 赤い光弾が敵艦隊に向かって一直線に進んでゆく。
 やがて敵艦隊に到達して炸裂する。
 一瞬にして前衛艦隊を壊滅させた。
「命中しました」
 リナルディー副官が報告する。
「敵艦の後方から新たなる艦隊反応あり!」
 と、レーダー手のアンジェラ・トリヤッティ。
 モニターには、散乱した敵艦の残骸を越えて進軍してくる艦隊が映っていた。
「敵艦にエネルギー反応あり」
「撃ってきます。どうしますか?」
 リナルディー副官が尋ねる。
「しつこいな。逃げるぞ、機関全速!」
 数に勝る敵と戦うのは無理筋。ここは撤退に限る。
「機関全速! 全速前進!」
 副官の復唱と共に、速度を上げる海賊船。
 見る間に敵艦との距離を離してゆく。
 海賊船だけに逃げ足抜群、高速性能はぴか一である。


 数時間後、海賊船はサンジェルマン軍艦隊を完全にまいて、国際中立地帯へと逃げ込んでいた。
「ここまでくれば大丈夫だ。戦闘配備を解除して、半舷休息させてくれ。私は、ガキの様子を見てくる。リナルディ、後を頼む」
「了解」
 船橋を退出するアッデージ船長。
「船長に変わって、自分が指揮を執る。半舷休息を取らせるので、まずは第一班から第四班までとし、三時間後に残りの班を休ませる」
 指揮を任された副長が指示を出した。


 牢屋のある監視室に入室する船長。
「ガキはどうしてる?」
 砲塔から戻ってきていたジョルダーノに尋ねるアッデージ船長。
「ついさっき目覚めたばかりです」
 と言いながら、モニターの音声をオンにした。
『ここはどこだ!』
『出してよ!』
 などといながら、牢の鉄格子に被りついている。
「元気だな」
「みたいですね」
「一人ずつ別室に連れ出して身辺調査を開始してくれ。例の貴族の息子を洗い出すんだ」
「全員外れだったら?」
「いつもの通りだ」
「分かりました」



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銀河戦記/波動編 第一章 Ⅱ 海戦ゲーム

第一章


Ⅱ 海戦ゲーム


 十五年の時が過ぎ去った。

 とある小さな村。
 村はずれの広場で、子供たちが二チームに分かれて『海戦ゲーム』なる遊びをしていた。
 戦闘域である広場の東西両端にある本陣と、南北両端にそれぞれ砦が配置されている。

 大まかなルールは、
① 広場を駆け回って球をぶつけ合って、球が当たれば退場。
② 球は各自二個、本陣と砦で補充できる。但し、本陣は三十個、砦は十個まで。
③ 指揮官は本陣から出ることができず、球を当てられた時点でチームの負け。

 ちなみに、球は端切れの布を縫い合わせてお手玉のように作り、チョークの粉が仕込んである。当たれば相手の身体に付着するから、当たり判定を明確にできる。
 北チームは、隣接する町の学校のサッカーチーム。
 南チームは、この村の孤児院の児童だった。
 遊び場を巡っての広場の争奪戦だった。
 勝った方が一週間の広場使用権を得ることができる。

 元々は孤児院の児童たちの遊び場だったのだが、隣町からサッカーチームがやってきて、強引に占拠するようになった。
 黙って見過ごすことのできない孤児院側との喧嘩が日常茶飯事となり、双方とも怪我が絶えなくなった。
 そうした時、解決策を出した少年が現れた。
 綿密なるルールに則った海戦ごっこなる遊びを考案したのである。
 彼は、正々堂々と試合をして勝った方に、一週間の使用権を与えるというものだった。

 孤児院育ちの者は、栄養不足気味で体力と持久力で不利だった。
 直接組み合うのでは勝敗は、すでに決まったようなもの。
 間接的にボールを投げあうことで、体力差などをカバーできるようにした。

 海戦開始の時間が迫った。
 広場の中央に各チームが向かい合って並んで挨拶し、それぞれの陣に向かう。
 そして五分間の作戦タイム。

 孤児院チームの大将(提督)は、アレックスという少年だった。
 海戦ゲームを提案した人物でもある。
 深い緑色の澄んだ瞳をしている。
 円陣を組んで細かく指示を出している。

「それでは始めます!」
 審判が戦闘開始のホイッスルを鳴らした。

 大将が倒れれば勝敗が決まるので、いかにして大将を守るか、倒すかがポイントである。
 またボールを補充できる砦を奪い守ることも重要だ。

 サッカーチームは試合開始と同時に本陣を守る十隻を残して、五隻が東の砦、五隻が敵本陣に向かって突進を始めた。
 孤児院チームは、本陣に五隻のみを残して、砦奪取は無視して迎撃のために五隻、残りを本陣突入に当てた。
 サッカーチームは、自陣に十隻が突入するのをみて驚いた。
 砦をまず先に占領するのがセオリーだったからだ。


 そんな両チームを広場の脇にあるベンチから眺めている人物がいた。
 サッカーチームの監督であった。
 と、そこへ声を掛けてきた者がいた。
「どうなっていますか?」
 振り返ると、初老の婦人が近寄ってきた。
「これは、院長先生」
 孤児院の院長であった。
「今、二戦目に入ったところです」
「初戦はどうでしたか?」
「孤児院チームの勝ちです」
「そうですか」
 といいながら、監督の隣に腰を降ろす。
「孤児院チームはなかなか試合巧者ですな」
「どうしてですの?」
「大将役の少年が、的確な作戦を出しているようで、こちらのチームが翻弄されています。まあ、何せこのゲームを発案した人物ですから、利点も弱点も知り尽くしています」
「そうですのね。優秀な子ですから、裕福な家庭への養子縁組の話が絶えないのですけど、何故か彼は皆断っているのですよ」
「どうしてですか?」
「士官幼年学校への入学を希望しているからです」
「軍人になりたいと? 海戦ゲームを発案したのも納得できますね」
「侵略国家ケンタウルス帝国と戦うために尽力するから、養子には行けない、とね」
「国家のために戦うと?」
「そのようですわ」
 ため息をもらす院長であった。

「あれは、なんだ!」
 突然、広場で興ずる少年が動きを止めて、天空の一角を指さした。
 真っ青な空に黒い物体が現れたかと思うと、急速にその大きさを増してゆく。
「こっちへ来るぞ!」
 その船体には、国家や機関などの所属を示すマークが一切ない不明船だった。

「海賊船だ!」
「近頃、この惑星付近を荒らしまわっているとかいう奴だ!」
 海賊船は、急降下で接近してくる。
「こっちへ来るぞ!」
「逃げろー!」
 逃げ惑う少年たち。
 船から発射されるミサイル。
 少年たちのいる広場の上空で炸裂して、小さなカプセル状のものをまき散らす。
 それがさらに割れて出た液体が少年たちに降りかかる。
 と、バタバタと倒れてゆく少年たち。
「助けなきゃ……」
 ベンチで見ていた院長や監督が駆け寄ろうとしたが、叶わずに同様に倒れてしまう。
 広場にいた者全員が倒れた頃、海賊船から飛行艇が飛び出して着陸する。
「全員回収するのか?」
 降りてきた防毒マスクを被った数人の乗員が少年たちを次々と抱え上げて飛行艇に乗せている。
「誰が本命か分からないからな。ひとまず全員回収して、船の中でじっくり吟味するらしい」
「面倒だな……」
「ブツブツ言ってないで早くしろ!」
「へいへい。で、こっちの大人の方は?」
「子供しか聞いていない。放っておけ」
「へい」
 広場に倒れている少年全員を乗せ終わると、
「よし、ずらかるぞ!」
 飛行艇を発進させた。
 やがて飛行艇を回収した海賊船は、再び宇宙へと飛びたった



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