銀河戦記/波動編 第二部 第三章 Ⅲ ロベスピエール侯爵

第三章


Ⅲ ロベスピエール侯爵


 惑星サンジェルマンより、たて・ケンタウルス腕の中央付近へ向かったところに惑星アルデラーンがある。
 ロベスピエール侯爵の所領であり、旧アルデラーン公国の首都星でもあった。
 すぐ近くには、かつてロストシップ率いる移民船団が渡ってきた『ルビコンの橋』がある。トリスタニア共和国からの侵略行為や不法移民を監視するための警備艦隊が配置されており、旧公国の軍事要塞となっていた。
 侯爵の宮殿内執務室にて、サンジェルマンからの国際放送を眺めていた。丁度、爵位譲位式の最中だった。
 譲位式には正式に招待されていたが、不参加を決め込んでいた。
 式が進むにつれて、侯爵の顔が紅潮してゆくのが誰の目にも明らかであった。
「アルデラン公国を再興するだと! この俺を差し置いてだ!」
 憤慨する侯爵。
「あやつは伯爵、こっちは侯爵だぞ! 公国を再興するとしたら、この俺の方だろ!」
 思わず手にしていたグラスを床に叩きつけて立ち上がった。
 だがしかし、公国が分裂したのは、百年前ほどの侯爵家が原因だった。
 時の公王が崩御して、後継者として直系尊属のハルバート伯爵が指名されたのだ。『王位継承の証』であるエメラルドの首飾りも、その際に伯爵家へと伝えられた。
 爵位の高い自分が公王になるべきだと、侯爵家が異議申し立てたものの、王室議会から認められなかった。
 そこで軍隊を使って王室議会議員を全員拉致監禁して、自ら公王となることを宣言したのだ。
 こうしてアルデラン公国は二つに分裂して並び立ったのである。
 公国は分裂したまま、やがて廃れていったのである。

「あやつさえ現れなかったら、我が息子のウイリアムが伯爵令嬢と結婚して、あそこの絨毯の上を歩いていたはずなんだ。惑星アルデラーンも我が領地となっていたのだ」
 政略結婚の破断を悔しがる侯爵だった。

「他の自治領主や高級貴族たちはどう動いているか?」
 次官に尋ねる侯爵。
「概ね、伯爵に賛同している者が多いようです。『王位継承の証』があちら側にあることはもちろん、伝説のロストシップを所有していることが決め手となっているようです」
「何が伝説のロストシップだよ。ケンタウロス帝国と戦ったのは確かかもしれないが、所詮歯が立たなくて移民船にして逃げてきたのだろうさ」
 認めたくないのだろう、評価下げする侯爵だった。
「ですが、旧トラピスト星系連合王国で作られてから何百年、今日のこの日まで壊れることなく運用できているのは、我々の知らない科学力を秘めているのは確かです」
 冷静に状況判断して諭す次官だった。
「ともかくこのまま手をこまねいていると、奴に我が国を取られかねん。今のうちに潰しておかねばならん」
「まさか戦争を? それには理由付けが必要ですが?」
「決まっておろう、理由は婚約不履行だ」
「正式には婚約は成立しておりませんが?」
「近隣諸侯では、令嬢との婚約が噂されていた。それだけで宣戦布告には十分だ」
「かしこまりました。伯爵家に対して宣戦布告を致します」

 こうして侯爵家と伯爵家との戦争が開始されるのであった。



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