銀河戦記/波動編 第二部 第一章 Ⅰ 惑星サンジェルマン

第一章


Ⅰ 惑星サンジェルマン


 惑星サンジェルマン。
 ロバート・ハルバート伯爵の宮殿。
 侍女たちがせわしなく走り回っている。
 今日は伯爵令嬢の十四歳の誕生祝いのパーティーであった。
 大広間には、宮廷音楽隊によって静かな曲が流されている中、招待された貴族や富裕層の人々が、談笑しながらテーブルに並べられた食事に舌鼓を打っていた。
 音楽の曲調が変わり照明が落とされた。
 やがて、正面壇上にスポットライトが当てられる。
 ゆっくりとした足取りで伯爵が現れて壇上に登った。
「ご来賓のみなさま、我が娘の誕生日を祝いにご来訪いただき感謝の極でございます」
 簡単な時候の挨拶をすると、
「では、我が娘レイチェルを紹介しよう」
 広間の袖口から、着飾った女性がしずしずと現れた。
 誰からともなく拍手が沸き上がった。
「この娘レイチェルは、年頃でそろそろ婿殿をと思っております」
 ざわざわと騒ぐ人々。
 そもそもこのパーティーに参加している者の多くが、伯爵令嬢との縁談を目的としているからだ。
 もし一人娘との縁談が結ばれれば、伯爵位と領地が手に入ることになる。
 会場内をゆっくりと歩いて、参加者に挨拶をして回る令嬢だった。
 男子のいる貴族は、逆玉の輿を狙って令嬢に対して愛想よく話しかけていた。
 そんな中、一人だけ雰囲気の違う人物がいた。
 ロベスピエール侯爵である。
 参加者の中では最高位の爵位を持っているので、逆玉の輿には関係ないが、侯爵には別の腹積もりがあるようだ。
 覇権主義思想のある侯爵の狙いは、領土の拡張の一言である。
 子息を令嬢と結婚させて領地を我が物とする魂胆であろう。
 傍に立っているのが三男でイケメンだった。
 令嬢が近づくとすかさず声を掛けていた。
 その表情は、自分は侯爵家で令嬢は伯爵家、自分の方が格上で縁談も間違いないという雰囲気であった。
 一通りの目通しを終えて、伯爵の元に戻る令嬢。


 その頃、惑星サンジェルマンへと舞い戻ってきた少年達を乗せたフォルミダビーレ号とアムレス号。
 フォルミダビーレ号の船橋に集まる少年達。
 正面スクリーンに映し出されている故郷の星。
「この星が僕たちの生まれたところか?」
 惑星の外、宇宙から眺めたことがない少年達が感激するのは当然だろう。
 その時警報が鳴り響いた。
「前方から未確認船が接近中です」
 レーダー手のルイーザが報告する。
「相手船より入電!」
 と、レンツォ・ブランド通信士。
「繋いでくれ」
 通信モニターに相手方が投影される。
『所属と船名を名乗りたまえ。こちらはロベスピエール侯爵様の船である』
 と尋ねられても、フォルミダビーレ号は海賊船であるから所属などない。
「ロベスピエール侯爵の船? ここはハルバート伯爵の領地だろ?」
 何はともかく返答に窮するアーデッジ船長だった。
「船は武装されています。民間船ではなく、戦闘艦のようですね。海賊船だと分かれば撃ってきますね」
「うむ」
 どう答えようかと困っていた、その時だった。
『こちらは、旧トラピスト星系連合王国所属のアムレス号です』
 アレックスがアムレス号から発信していた。
『アムレス号だと? トラピスト星系連合王国とは……ちょっと待て』
 しばらく無音が続いた。
 おそらく船籍リストのデータを検索していたのだろう。
 数百年も前の船である、膨大な船籍リストを遡るのに時間が掛かっているようだった。船籍リストには、所属などの他、船影写真も添付されている。その船影と目前のアムレス号を比較して同一船体であることを確認したようだ。
『アムレス号とは……すると君は王族なのか?』
 伝説のロストシップのことは、船乗りなら誰でも知っている。
『一応、そういうことになっております』
『伯爵と連絡を取る。しばらく待ってくれ』
 通信が途切れた。



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