銀河戦記/波動編 第二章 Ⅴ ストリートギャング

第二章



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V ストリートギャング


 およそ二十年ほど時を遡り、アントニーノ・アーデッジの少年時代。
 とある街角、ゴミが散乱しビルの壁には落書きがされており、路上には薬中毒の男女が暗い表情で徘徊している、まさにスラム街のような風景だった。
 その一角の廃ビルの地下室にたむろしている少年達がいた。
 各自それぞれ手持ちの拳銃や自動小銃の手入れをしている。
 そこへ扉が開いて、一人の少女が入ってくる。
「もうじき来るよ! トニー」
 彼女は見張り役のルイーザ・スティヴァレッティ。
 トニーと呼ばれたのは、リーダーのアントニーノ・アッデージ少年だ。
「よし! 行くぞ!」
 サブマシンガンを肩に担いで立ち上がるトニー。
 部屋を出て、入口の前に止めてあった車に乗り込む少年達。
「出発する!」
 全員が乗り込んだところで、運転席のフィロメーノ・ルッソロが車を発車させる。
 少し走った所、とあるビルの裏口で車を停車させた。
「配置につけ!」
 トニーが指示を出す。
「分かったわ」
「了解」
 ルイーザともう一人、エルネスト・マルキオンニが車を降りて路地裏に入った。
 残った者は、頭を低くして車内に隠れるようにうずくまる。
 やがて一台の車がビルの裏口へと入ってきた。
「来たぞ!」
 と同時にルイーザが裏口から飛び出し、エルネストが後を追いかける。
「きゃあ! 助けてー!」
 車の前を塞ぐように立ち止まるルイーザ。
「逃げるんじゃない!」
 抱きつくエルネスト。
 目の前で繰り広げられる暴漢現場だが、車に乗った運転手はドアを開けずに、無線でどこかに連絡しているようだった。
 当然の行動だろう。
 その車は防弾仕様の現金輸送車である。
 何があってもドアを開けたり降りたりしてはいけない。
「しようがねえなあ」
 そういうと、サブマシンガンを構えるトニー。
 それを見て驚いた表情を見せる運転手。
「やっちゃえ!」
 ルイーザが囃し立てる。
「ちょっと離れてろ!」
 と皆に注意してから、ドアの錠あたりに弾を撃ち込んだ。
 一発の跳弾がトニーの右頬をかすめ通るが、ピクリともせずにカッと目を見開いたかと思うと、ドアを強く蹴飛ばした。
 反動でドアが弾けるように開く。
 すかさずエルネストが銃を突き付けて、
「降りるんだ!」
 と運転手に促す。
 しぶしぶ車を降りる運転手。
 その瞬間、背後から拳銃の銃底で殴り倒された。
「鍵は?」
 車内のダッシュボードのあたりを見回す。
「こいつが持っているよ」
 ルイーザが、運転手の腰ベルトに鍵の束が吊り下げられているのを発見した。
 その鍵束を奪って、車のサイドドアの鍵を開ける。
 と突然、中から発砲される。
 しかし事前に察知していたトニーは、狙いを澄まして反撃して相手を倒した。
「殺したの?」
 ルイーザが心配そうに尋ねる。
 強盗はしても殺人はしないのがチームの鉄則としていた。
「いや、急所は外している。肩口を撃っただけだ」
「よかった」
「さあ、手っ取り早く片付けようぜ」
 現金の詰まったジュラルミンケースを運び出して、乗ってきた車に移し替える少年達。
「しかしなんで金庫を積まずにボディーガードを乗せてんだろうな」
 本来なら現金輸送車には堅牢重厚な金庫を搭載し、車ごと奪われないようにエンジンの非常停止装置が組み込まれているのだが。
「知るかよ。経費削減じゃないのか?」
 そうなのだ。
 強盗計画も、金庫を積んでいないことを確認していての犯行だったのだ。
「よし、積み終わったぞ。ずらかるぞ!」
 全員、車に乗り込んで現場から立ち去った。


 アジトに戻った少年達。
「いくらくらいあるの?」
 開いたジュラルミンケースの中の現金を見つめながら、目を輝かせてルイーザが尋ねた。
「そうだな。ざっと十三億ってところかな」
 トニーが答える。
「それでこれからどうするんだ? 今頃警察が必死になって捜しまわっているぞ」
 エルネストが心配そうな顔をしている。
「いいかげんこの街にいるのは危険だ」
「高跳びか?」
「以前から話していたが、この惑星を離れることにする」
「どうやって? 俺達顔バレしているから、空港に行けば捕まるのは必至だぜ」
「輸送船に紛れ込んで脱出する」
「上手くいくかな?」
「逃がし屋に頼むことにする。一億ほど金を掴ませればやってくれる」
「一億?」
「妥当な金額だよ。奴らだって、俺達が強盗で金を奪ったくらいの情報は得ているはずだからな」
「分かった。残りの金はどうする? 現ナマを持ち運ぶのはヤバいからな」
「闇商人に会って、宝石に換えてもらうさ」
「それなら、ポケットに入れて運べるな」
「いいわね。Go ahead よ」
 少年達は意見が一致して、密航による惑星脱出が決まった。

 惑星脱出行だったが、まさか乗り込んだ輸送船が海賊に襲われるとは夢にも思わなかったのだ。



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