銀河戦記/波動編 第七章 Ⅶ 転送

第七章
Ⅶ 転送
最後の銅鑼が鳴らされた。
処刑人が、アーデッジに槍先を向けて構える。
その時だった。
上空をフォルミダビーレ号が通りかかる。
「あれは!」
アーデッジの目に、戦闘機に追われているフォルミダビーレ号の雄姿が飛び込んでくる。さらには上空からのレーザー射撃が戦闘機を撃墜していく。
「味方が来ているのか?」
呟くアーデッジ。
その騒ぎで、処刑執行の手が止まっていた。
しかし、
「構え!」
進行役が処刑を促す。
慌てて槍を構えなおす処刑人。
進行役が手を上げる。
その手を振り下ろすと処刑執行である。
進行役が手を振り下ろそうとした、その瞬間だった。
宮殿広場の柱の陰から、一条の光が進行役を襲った。
バタリと倒れる進行役、そして二人の処刑人も倒れてしまう。
光の出所に目を向ける場内の人々だったが、そこには誰もいなかった。
倒れた処刑人を見つめるアーデッジは、一体何事かという表情をしていた。
「助けにきました」
どこからともなく声がした。
「誰だ?」
声のした方に振り向くアーデッジ。
「わたしよ」
と、光学迷彩服のフードを外して顔を見せたのはルイーザともう一人、アレックスだった。
「ルイーザ、大丈夫だったのか!」
「ええ。今、縄を外すわ」
ルイーザが縛り上げている縄を解いている間に、アレックスが近づく兵士を倒しまくっていた。レーザー射撃がアレックスを狙ってくるが、光学迷彩服はレーザーを弾いていた。
「外れた!」
アーデッジを縛り上げていた縄が解けて自由になった。
「これからどうする?」
アーデッジが質問する。
「任せてください」
アレックスはそう言ってから、端末に向かって、
「ロビー、転送してくれ」
『了解シマシタ。転送ビーム照射シマス』
上空から一条の光が、船長ら三人を照らした。
次の瞬間、三人の姿が薄れてゆき消え去った。
アムレス号の転送室。
室内が輝いて三つの影が現れ、それはアレックスら三人の姿となった。
唖然としているアーデッジ船長。
「転送……されたのか?」
一歩足を踏み出すと、そこはアムレス号の船橋だ。
見たこともない計器類が並んでいた。
「ここは?」
船長が尋ねると、
「ロストシップの船橋です」
アレックスが平然と答える。
「ロストシップ? 見つけたのか?」
キョロキョロと周囲を見回すアーデッジ船長。
「見つけたというよりも、向こうから僕らを発見してくれたんです」
アレックスは、アンツーク星にたどり着いてからの詳細を説明した。
「そういうことか……一応でかした、というべきかな」
当初の目的である、『ロストシップの捜索』は完遂したことになる。
「それで、そちらの女性は?」
目の前の美しい女性のことを尋ねる。
「この船の管理者(administrator)のエダさんです」
軽く会釈するエダ。
「自分は、アントニーノ・アッデージ。フォルミダビーレ号の船長です。助けていただき感謝します」
握手を求めるために手を差し出すアーデッジ船長。
それに応えてアーデッジの手を握るエダ。
「フォルミダビーレ号は?」
「この船の隣にいます」
パネルスクリーンに併進するフォルミダビーレ号が映し出される。
「仲間も乗っているのか?」
「トランターに囚われていた仲間は全員救い出して乗船しています」
「そうか……」
その時、警報が鳴った。
『前方ニ艦影アリ!』
ロビーが緊急報告する。
「戦闘態勢に入れ!」
すかさず指令を下すアレックス。
『戦闘態勢ニ入リマス』
「俺の船に行かせてくれないか」
「いいでしょう。この端末を持って転送室へ」
「分かった」
飛び込むように転送室に入るアーデッジ。
受け取った端末は、携帯型受信転送システムで五万キロの範囲内ならどこでも転送できるようにする。
フォルミダビーレ号の船橋に転送されてきたアーデッジ船長。
それを見た仲間達が、
「船長! お帰りなさい」
口々に叫びながら駆け寄ってくる。
「挨拶は後にして戦闘配備だ!」
「了解!」
そう言って自分の部署に戻っていった。
「機関部のシステムを遠隔操作にセットしろ」
「了解。機関部システムを遠隔にセットします」
フォルミダビーレ号には、船橋要員の幹部だけしかおらず、機関部などの下々の船員は乗船していないからである。
「敵艦隊の勢力分析は!」
「戦艦二隻、巡航艦七隻、駆逐艦十三隻です」
すでに調べていたのであろう、即座に答える電探手のルイーザ。
その後、アンツーク星から態勢を整えて追撃してきた艦隊が後方に迫っていた。前門の虎後門の狼、挟み撃ち状態であった。
「分かった。ロストシップに繋いでくれ」
「繋ぎます」
と、レンツォ・ブランド通信士。
スクリーンにアレックスが映し出される。
「ここはどうするかね?」
ロストシップにいるアレックスに、徹底抗戦するか、速力差でとんずらするかを尋ねる。
というよりも、ロストシップの戦闘性能を知りたいという欲求もあった。
「正面突破しましょう」
徹底抗戦でもなく、敵艦隊の正面に穴を開けての突破作戦である。
「分かった」
「こちらの攻撃で敵艦隊に穴を開けます。全速力で抜け出しましょう」
「了解した」
「ロストシップから敵艦に向けて通信が行われています」
「通信内容は?」
「はい。『道を開けよ。さもなくば殲滅する』です」
「敵の反応は?」
「『ふざけるな!』です。そしてロストシップからは『それでは強引に開かせていただきます』と答えていました」
「なるほどな」
数分後、ロストシップからミサイルが発射される。
敵艦から迎撃ミサイルが発射されるが、ことごとく回避してゆき目標戦艦に襲い掛かった。クラスター爆弾だったらしく、接近直前に子弾頭が四方に散って周囲の艦船をも巻き込んだ。
「前方に空域発生しました」
「よし! 全速前進で開いた穴に飛び込め!」
速度を上げたフォルミダビーレ号に続いて、ロストシップも加速して追従する。
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銀河戦記/波動編 第七章 Ⅵ 救出作戦
第七章
Ⅵ 救出作戦
宮殿前広場。
銃を突き付けられながら、X型張り付け台に両手両足を縛り付けられるアーデッジ。
二人の重厚な槍を携えた処刑人が両脇に立って待機している。
その傍の銅鑼の前には、腕時計を気にしている進行役と思われる役人が時間を気にしている。
処刑は槍を突き刺して死に至らしめる方法のようだ。
銅鑼が鳴らされ、法務官と思われる人達が広場に現れた。
ゆっくりと歩いて、一人がお立ち台に上がり、死刑執行の宣誓書を読み上げる。
宣誓書を読み上げる法務官。
「この者は、国際法違反である海賊行為を行った罪状によって、公開処刑される裁定が下った。よってここにおいて処断されることとなった」
ここで再び銅鑼を鳴らす進行役。
処刑執行人が槍を構えて、アーデッジの足元に歩み寄った。
その頃、牢獄内に突如として現れた四人の少年達。
アムレス号の転送装置によって、瞬時に送り込まれたようだった。
「流石はロストシップだぜ。船内に転送システムがあるなんてな」
ジミー・フェネリーは驚いて言った。
「まだまだこれからだよ」
というと、ブルーノ・ホーケンは光学迷彩服のフードを被った。メタマテリアル素材で出来た、姿を消すことのできる服である。
「先輩達の囚われている場所は?」
フレッド・ハミルトンが尋ねると、
「今調べる」
ベルトに止めていた端末を開いて電源を入れるエヴァン・ケイン。
画面に牢獄のマップが表示され、目標と思われる場所へのルートが指示されていた。
「よし、行くぞ!」
ブルーノがスタンガンを構えて、ゆく先々で出会う兵士を眠らせながら進んでゆく。
宮殿前警備に回されているのか、牢獄内の兵士は少なく感じた。
一方アムレス号船橋では、ロビーがフォルミダビーレ号のコンピューターにアクセス開始していた。
『フォルミダビーレ号ニ、接続成功シマシタ』
「よっしゃー! 船のコントロールをこちらに回して下さい」
操舵士のマイケル・オヴェットがガッツポーズを見せてから、遠隔自動操縦装置に手をつけた。
『コントロール、回シマス』
「補助電源使用可能。エンジン始動します!」
船を動かすには電力が必要であるから、まずエンジンを始動させて電力を生み出す。
「船内に人の姿はなし! 乗船口のドアロック施錠」
船のエンジンが掛かったのに気づいて集まってくる兵士達だが、乗船口が閉じられてはなすすべもなかった。
「浮上開始!」
噴射ガスを避けるために退避を始める兵士達。
『倉庫内シャッター、ヲ遠隔操作開放シマス』
閉じられていたシャッターがゆっくり開いてゆく。
「前方クリアー。微速前進」
浮上して前進するフォルミダビーレ号。
『倉庫内ヨリ出マシタ』
「全速前進! 衛星軌道へ向かいます」
急上昇するフォルミダビーレ号。
その後を追いかけるように、地上発進の戦闘機が向かっている。
『敵戦闘機、フォルミダビーレ号ニ急速接近中デス』
「こちらから迎撃してください。船には当てないでね」
『了解。レーザーパルス照射シマス』
操舵と迎撃の両方をマイケル一人では不可能なので、船に纏わりつく戦闘機は上空のアムレス号が担うこととなった。
軌道上からの攻撃に態勢を崩す戦闘機群。
その間に、成層圏を越えて衛星軌道上まで上昇するフォルミダビーレ号。
もはや追撃は不可能となり、基地へと帰還してゆく戦闘機群。
代わって宇宙艦隊の発進準備が開始されていた。
牢獄内。
囚われた仲間達が座り込んで暗く落ち込んでいる。
牢の前に立つ兵士が突然倒れた。
「なんだ?」
不思議な表情になる仲間達。
「助けにきました」
そこへどこからともなく聞いたような声がする。
「誰だ?」
声のした方に尋ねる、すると。
「僕達ですよ」
光学迷彩服のフードを降ろして顔を出す少年。
その顔を確認して、
「ブルーノじゃないか!」
驚くモレノ・ジョルダーノ甲板長だった。
他の少年達もフードを降ろして顔を見せた。
仲間達が立ち上がって鉄格子の傍に駆け寄る。
「どうしてお前たちが? それにその服は光学迷彩か?」
「話は後です。一刻も早く脱出しましょう」
急かしながら、倒れている兵士から鍵を取り上げて牢の錠前を開けるブルーノ。
「分かった!」
開いた牢獄からゾロゾロと出てくる仲間達。
「こっちです」
端末に表示される脱出ルートに従って案内するエヴァン。
大急ぎで駆け出し、途中で出会う兵士を倒しながら脱出行へと急ぐ。
裏庭に続く最後の扉を開けて外に出た。
空を仰ぐと、こちらに向かってくる小型艇が飛んでくる。
「バスタード号だ!」
指さしてから、
「おおい! こっちだ!」
大きく手を振る海賊達。
そして目の前に着陸した。
乗船口が開いて、マイケルが顔を出した。
「早く乗ってください!」
「マイケルか、船長は?」
ここにはいないアーデッジを気遣う海賊達。
「船長は、アレックスが救出に向かっています」
「分かった。みんな急いで乗れ!」
モレノが合図すると、少年と海賊達はバスタード号に乗り込み、各自の持ち場に着いた。
全員が乗船したのを確認すると、
「発進します!」
「後方に感あり! 戦闘機接近中!」
ルイーザが叫ぶ。
フォルミダビーレ号の追撃を諦めた戦闘機が、引き返して回ってきたのであろう。
「俺に任せろ!」
甲板長でありながら砲手でもあるモレノが応える。
後部砲台に着席して、迫りくる戦闘機を迎撃するモレノ。
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銀河戦記/波動編 第七章 V 再びトランター
第七章
V 再びトランター
恒星トラピスト1第四惑星、旧トラピスト星系連合王国首都星トランター。
その衛星軌道上にアムレス号がワープアウトして出現した。
「見つかるとやばいな」
アレックスが呟くと、
「船影を消去しましょう。船が目視やレーダーに映らないようにします」
エダが応えた。
「やってください」
「分かりました。超越量子光学迷彩を発動!」
『了解。Hyper Quantum stealth mode ニ入リマス』
光を含む電磁波の反射方向を制御したり閉じ込めたりする『メタマテリアル(meta-material)』という人工物質がある。いわゆる光学迷彩または透明マントというもので、それで物体を覆えばまるで姿が消えたようにみえるという技術である。
『システム動作確認シマシタ』
「消去終了。これで見つかりません」
エダの報告に言葉を返すアレックス。
「よし、しばらくこのままで情報収集しよう。アーデッジ船長や仲間達そしてフォルミダビーレ号の居場所をね」
「かしこまりました」
そんな二人と一機の会話を着ていた少年達。
「エダさんとアレックスが、大昔の関係を引き継いで主従関係にある事と、この船の所有者が彼であることも理解しました。船長達の救出に僕達も参加させてください」
熱弁する少年にエダがアレックスに確認する。
「いかがいたしますか?」
「もちろんだ。仲間を全員救出するには一人でも多い方が良い」
アレックスが同意すると、
「よしっ! やったぜ」
と、拳を握る少年達だった。
数時間後、惑星の放送聴取やネット探索によって、アーデッジ船長の処刑日や仲間の所在が確認された。
「ロビーはフォルミダビーレ号の運用コンピューターに侵入アクセスして自動操縦で離脱させよ」
『了解。フォルミダビーレ号ニ、アクセスヲ試ミマス』
「マイケル、船の自動操縦装置のアクセスコードは覚えているよな」
フォルミダビーレ号の副操縦士を担っていたマイケル・オヴェットに確認する。
「もちろんだぜ」
答えてロビーにコードを伝えるマイケル。
「残りの四人は、仲間が捕らえられている牢獄に潜入して救出すんだ。リーダーはブルーノだ」
「分かった」
体育会系で白兵部隊要員だったブルーノ・オヴェットが承諾する」
「僕とルイーザさんは、船長を救出する」
「分かったわ」
淡々と役割分担を決めるアレックスだった。
普段は無口で頼りない感じの彼だったが、こういう時の判断力と決断力そして指揮能力にかけては、他に並ぶ者はいなかった。
「能ある鷹爪を隠す」
と誰かが言っていた。
救出決行の時刻が迫っていた。
地上の放送局では、アーデッジ船長の公開処刑準備の様子が流されていた。
『まもなく海賊アーデッジ船長の処刑が行われます。ご覧ください、これが処刑台です』
処刑場となる宮殿前広場には、X型の張り付け台が設置され、囚人の到着を待つばかりとなっている。
周囲には、公開処刑を見届けようと民衆が集まっていた。
必要以上に内側へ乗り出さないように、兵士達がバリケードを張っている。
視点が変わって牢獄が映し出される。
『ここは死刑囚が収監されている監房です』
重厚な扉が開いて、捕縛され両脇の兵士に連れ出されるアーデッジ。
『あ、船長が出てきました。これから死刑台へと連行されてゆくところです』
どうやら死刑までの一部始終を放送する許可が出されているようだった。
後ろについている兵士に銃を突きつけられ逃げ道はない。
再び視点は処刑場へと移る。
『まもなく公開処刑の時刻が近づいています。あ、只今船長の姿が現れました。兵士に連行され、心なしか緊張しているのでしょうか? 船長の目には処刑台はどのように映っているのでしょうか?』
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