銀河戦記/波動編 第二部 第一章 Ⅱ 王族の末裔

第一章


Ⅱ 王族の末裔


 ハルバート伯爵邸パーティー会場。
 会場内に慌てた様子で従者が入ってきて、伯爵に耳打ちした。
「なんだと! それは本当か?」
 来賓客に聞こえないように、小声で確認する伯爵。
「はい。侯爵様のお船から連絡が入りました」
「侯爵の船だと?」
 会場を見れば、ロベスピエール公爵にも従者が近づいて耳打ちしているようだった。
 かと思うと、ツカツカと伯爵の方へと近づいてくる。
「聞かれましたか?」
「はい。侯爵様のお船がら連絡が入ったそうで、これから通信室に参ります」
「うむ。私も同席させてくれ」
「分かりました」
 それから会場に向かって、
「皆さま、急用が出来ましたのでしばらく席を外させていただきます。戻るまでご自由に食事など堪能していてください」
 と申し送って中座する伯爵だった。

 通信室に入る伯爵と侯爵。
 すでに通信設備は、侯爵家の船と繋がったままになっていた。
「どういうことだ。もう一度詳しく説明してくれ」
 侯爵が、船の指揮官に尋ねた。
「相手側は、数百年前に滅んだ旧トラピスト星系連合王国の王族だと言っています」
「トラピスト星系連合王国だと? それは我々の祖先でもあるはずだが」
「もちろんですが。まずはこれを見てください」
 というと、目の前のスクリーンに、宇宙空間に停止している船が映し出された。
「この船は?」
「アムレス号です。過去の船籍リストを確認しますと、かつてケンタウロス帝国の追撃を避けて、トラピスト星系連合王国から銀河渦状腕間隙『タルシエンの橋』そして『ルビコンの橋』を渡って、この『たて・ケンタウロス腕』にたどり着いた時の伝説の船です。すなわちトラピスト王国の船で、乗船している者が王族ということになります」
 その説明を聞いてロベスピエール侯爵が言った。
「わしも聞いたことがあるぞ、伝説のロストシップのことは。この『たて・ケンタウロス腕』にたどり着いて最初の国家を興した後、いずこかへと消えたとかいう船だな」
 侯爵は興味津々という表情をして語った。
「その船は、代々王家の者が所有していたと聞くが……」
 伯爵も多少なりとも由縁を聞きかじっていたようだ。
「つまり、その船には今も王家の者が乗っているということだよな。相手の船に繋いでくれ」

 画面が切り替わって、アムレス号の船橋、そして船長席に座ったアレックスが映し出された。
 その姿というか若さに驚く二人。
「まだ、子供じゃないか!」
 それにもまして伯爵を驚かしたのは、隣に控えている女性だった。
 見たことあるようで、しばらく見つめていたが、
「貴様は! 娘が生まれた時に姿を晦(くら)ました召使じゃないか!」
「覚えておられましたか。私の本当の名前はエダと申します』
「と、ということは? その少年は?」
 双子が生まれた時に、身体障碍者として捨て子にした男児ではないか。
『その通りです。伯爵さま、あなたのご嫡男ですよ』
「まさか……あの時の子供か……」
『思い出されましたか?』
「あ、ああ、それで今更連絡してくるとは、なんの魂胆だ?」
『魂胆もなにも、トラピスト星系連合王国の再興を考えております』
「王国の再興だと?」
『ここに、王位継承の証であるエメラルドの首飾りがあります』
 といいつつ、大きな緑色のエメラルドを中心にダイヤが散りばめられた首飾りを手にしていた。
「そ、それは、あの時盗まれたもの!」
『この首飾りは、正統なる王位継承者に代々受け継がれてきた国宝です』
「そうだったのか?」
『トラピスト星系連合王国を離れて数百年、王位継承の証というこの宝石を持って王国を再建するため、こちらのアレクサンダー様が戻ってこられたのです』



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銀河戦記/波動編 第二部 第一章 Ⅰ 惑星サンジェルマン

第一章


Ⅰ 惑星サンジェルマン


 惑星サンジェルマン。
 ロバート・ハルバート伯爵の宮殿。
 侍女たちがせわしなく走り回っている。
 今日は伯爵令嬢の十四歳の誕生祝いのパーティーであった。
 大広間には、宮廷音楽隊によって静かな曲が流されている中、招待された貴族や富裕層の人々が、談笑しながらテーブルに並べられた食事に舌鼓を打っていた。
 音楽の曲調が変わり照明が落とされた。
 やがて、正面壇上にスポットライトが当てられる。
 ゆっくりとした足取りで伯爵が現れて壇上に登った。
「ご来賓のみなさま、我が娘の誕生日を祝いにご来訪いただき感謝の極でございます」
 簡単な時候の挨拶をすると、
「では、我が娘レイチェルを紹介しよう」
 広間の袖口から、着飾った女性がしずしずと現れた。
 誰からともなく拍手が沸き上がった。
「この娘レイチェルは、年頃でそろそろ婿殿をと思っております」
 ざわざわと騒ぐ人々。
 そもそもこのパーティーに参加している者の多くが、伯爵令嬢との縁談を目的としているからだ。
 もし一人娘との縁談が結ばれれば、伯爵位と領地が手に入ることになる。
 会場内をゆっくりと歩いて、参加者に挨拶をして回る令嬢だった。
 男子のいる貴族は、逆玉の輿を狙って令嬢に対して愛想よく話しかけていた。
 そんな中、一人だけ雰囲気の違う人物がいた。
 ロベスピエール侯爵である。
 参加者の中では最高位の爵位を持っているので、逆玉の輿には関係ないが、侯爵には別の腹積もりがあるようだ。
 覇権主義思想のある侯爵の狙いは、領土の拡張の一言である。
 子息を令嬢と結婚させて領地を我が物とする魂胆であろう。
 傍に立っているのが三男でイケメンだった。
 令嬢が近づくとすかさず声を掛けていた。
 その表情は、自分は侯爵家で令嬢は伯爵家、自分の方が格上で縁談も間違いないという雰囲気であった。
 一通りの目通しを終えて、伯爵の元に戻る令嬢。


 その頃、惑星サンジェルマンへと舞い戻ってきた少年達を乗せたフォルミダビーレ号とアムレス号。
 フォルミダビーレ号の船橋に集まる少年達。
 正面スクリーンに映し出されている故郷の星。
「この星が僕たちの生まれたところか?」
 惑星の外、宇宙から眺めたことがない少年達が感激するのは当然だろう。
 その時警報が鳴り響いた。
「前方から未確認船が接近中です」
 レーダー手のルイーザが報告する。
「相手船より入電!」
 と、レンツォ・ブランド通信士。
「繋いでくれ」
 通信モニターに相手方が投影される。
『所属と船名を名乗りたまえ。こちらはロベスピエール侯爵様の船である』
 と尋ねられても、フォルミダビーレ号は海賊船であるから所属などない。
「ロベスピエール侯爵の船? ここはハルバート伯爵の領地だろ?」
 何はともかく返答に窮するアーデッジ船長だった。
「船は武装されています。民間船ではなく、戦闘艦のようですね。海賊船だと分かれば撃ってきますね」
「うむ」
 どう答えようかと困っていた、その時だった。
『こちらは、旧トラピスト星系連合王国所属のアムレス号です』
 アレックスがアムレス号から発信していた。
『アムレス号だと? トラピスト星系連合王国とは……ちょっと待て』
 しばらく無音が続いた。
 おそらく船籍リストのデータを検索していたのだろう。
 数百年も前の船である、膨大な船籍リストを遡るのに時間が掛かっているようだった。船籍リストには、所属などの他、船影写真も添付されている。その船影と目前のアムレス号を比較して同一船体であることを確認したようだ。
『アムレス号とは……すると君は王族なのか?』
 伝説のロストシップのことは、船乗りなら誰でも知っている。
『一応、そういうことになっております』
『伯爵と連絡を取る。しばらく待ってくれ』
 通信が途切れた。



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銀河戦記/波動編 第八章 Ⅶ 身の振り方

第八章


Ⅶ 身の振り方


 海賊基地内桟橋に横付けされているフォルミダビーレ号とアフォンダトーレ号。それぞれに修理班が取り付いて復元作業を行っている。
 頭領の部屋に、ミケーレ・ナヴァーラ若頭・ガスパロ・フォガッツィ・アントニーノ・アッデージが揃い、目の前の席には解放されたアントニノ・ジョゼフ・アッカルド頭領が座っている。
「さてと、決闘の結果として頭領は自由になってここにいる。ガスパロ君、君は帝国艦隊を招き入れて叛乱を起こした首謀者として処断されるはずだった。だが、決闘を受けたことで、その権利として君の身分は保証される」
 ナヴァーラ若頭が説明し、
「とは言っても、反乱者はここには置いておけないので、出て行ってもらうしかない。仲間達が許さないだろうからな」
 とアッカルド頭領が捕捉する。
「分かった。出ていけばいいんだな?」
 ガスパロが納得して答えた。
「燃料と食料も補給してから行ってくれればいい」
「そうさせてもらう」

 数時間後、修理を終えたアフォンダトーレ号が、海賊基地を出立してケンタウロス帝国の方角へと進路を取った。
 その姿を、フォルミダビーレ号の船橋モニターで見つめるアーデッジ船長だった。
「行ってしまったな」
 誰に言うともなく呟くアーデッジ。
「当然の報いを受けただけですよ」
 リナルディ副長は憤慨していた。
 やつのせいで、処刑されるところだったのだ。

 数時間後、アレックス含むフォルミダビーレ号の仲間達が、会議室に集まって今後の方針を検討することとなった。
「全員無事にこの基地に帰還できたことはハッピーだった。それもこれも少年達の活躍があってのこそ。今一度、命の恩人である君達に、謝を述べよう」
 誰ともなく拍手が沸き上がった。
 照れる少年達。
「さてと、そのお礼として君達には里帰りを許そうと思う」
 意外な言葉に驚く少年達。
 なぜなら、アレックスが本命だったのだが本人が分からず、元々奴隷として売られるために誘拐されたのだ。それなのに飛行艇奪取と脱走事件をきっかけに、海賊の仲間入りを果たしたのだが。
「そろそろ家族に会いたくなっただろう。故郷に戻してやろう」
「いいのですか?」
 少年達が声を合わせて尋ねた。
「構わないぞ。そのまま船に戻らなくても良い」
「つまり解放ということですか?」
「そういうことだな」
 命の恩人に対するご褒美というところなのだろう。
「僕は、この船に残りますよ」
 そう言ったのは、孤児院育ちのジミー・フェネリーだった。
 親族はいないし、孤児院に戻ったところで、成人すればどうせ出なければならない。
 孤児院組の三人は居残りとなった。
「僕達も残りますよ」
 富裕層組の三人も居残りを選んだ。
「奴隷商人に売られていった仲間のことを考えると、自分達だけ助かるなんてできません」
「僕達以外の友達の家族は、何故僕達だけ帰ってこれたのだ? とかいろいろ追及されますよね」
 全員が下船することを望んでいないようだった。
「分かった。好きにしていいよ」
 少年達の意外な返答に呆れた表情のアーデッジ船長。
「ところで、アレックス君はどうなんだ?」
 他の少年達と違って、アレックスは王族出身であることは間違いのない事実だった。
 何と言っても、ロストシップという旧トリスタニア連合王国ゆかりの船の相続所有者らしい。
「僕ですか?」
「そうだ。君は、惑星サンジェルマン領主のロバート・ハルバート伯爵の子供であることは明白だと思う」
「どうしてそう思うのですか?」
「何の情報もなく、君のことやロストシップを捜しまわっていたのではないさ」
「?」
「君が生まれた時、その緑色の瞳を見て遺伝子異常だと思った伯爵は、女中に命じて孤児院送りにした、ということが分かっている。さらにその女中が家宝の一つを持って、行方を晦ましたことも」
 アレックスの出自を事細かに説明するアーデッジ船長。
「何が言いたいのですか?」
「はっきり言おう。ハルバート伯爵には、男子が生まれなかった。嫡男である君は、惑星サンジェルマンの次期領主であるのは間違いない。ということだ」
「僕が次期領主ですか?」
「そう。どうだ、一度伯爵に会いに行ってみないか?」
 しばらく考え込んでいたが、
「分かりました。会ってみる価値はありそうですね」
「決まりだな。惑星サンジェルマンに行く」
 こうしてアレックスと少年達の故郷である惑星サンジェルマン行きが決定された。

 数時間後、海賊基地を離れて惑星サンジェルマンへと向かう二隻の船。
 アムレス号とフォルミダビーレ号。
 速度を上げて、やがて亜空間へと消えた。


第一部 了

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 これまで脇役の扱いだったアレックス。
 第二部では、主人公として活躍を始めます。

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