銀河戦記/波動編 第七章 Ⅱ アーデッジ船長を救え!


第七章


Ⅱ アーデッジ船長を救え!


 アレックス達の傷もほぼ癒えて、施設内を散策していた。
 ここがどこで、ここが何のための施設なのか? まだ説明されていなかった。
 ここにいるのは、一人の女性とロボットだけのようだった。
 生活するうえで不自由なことはなかった。
 食堂に行けば、自動食事給仕機によって、必要なカロリーと栄養が整った食事が食べられるし、TVも観られる。
 折りしも、惑星トランターからの放送が食堂のTVに流されていた。
『……海賊アントニーノ・アーデッジ、共和国にて海賊の限りを尽くして暴れまわった挙句に、帝国内に侵入したところを逮捕されました。軍事裁判にて死刑が決定し、公開処刑されるそうです』
 アーデッジの名前が出たことを驚く少年達。
「トニーが公開処刑!」
 声を出して一番驚いたのはルイーザだった。
 ギャングをして荒らしまわっていた少年時代からの付き合いだったからである。
 公開写真を食い入るように見つめるルイーザ。
 その横顔を見つめながらアレックスがエダに尋ねた。
「ここに船があると言ってましたよね」
「はい。あります」
「その船は動かせるのですか?」
「動かせます」
 動かせると聞いて、他の少年達が乗り出してくる。
「船を、僕達に使わせてください!」
 マイケル・オヴェットが名乗りを上げた。
「どうなさるのですか?」
「船長を助けに行きたいんです!」
 それを聞いて他の者も同調する。
「僕からもお願いします。船長は恩人です。助けたいんです」
 エヴァン・ケインが熱弁する。
 僕も、俺も、少年達がエダに言い寄る。
「ここの責任者はアレックス様です。彼の判断に委ねます」
 とのエダの言葉で、アレックスの方を振り向く一同だった。
「アレックス君、君の意見を聞いてもいいかな」
 ルイーザが代表質問する。
「決まっている。僕が、船の事を切り出したのも、そういうことだよ」
「結論は?」
「もちろん、船長を助けに行く」
「やったあ! いいぞ!」
 小躍りして喜ぶ少年達。
「分かりました。船を出しましょう」
 エダが了承する。
「でも、今まで船を見かけませんでしたが?」
 フレッド・ハミルトンが尋ねる。
「どんな探査電波でも探知できない地下深くに隠してありますから」
「どうりでロストシップとして何世紀にも渡って見つからなかったのですね」
「しかし、錆びたりして動かないということはないのですか?」
「ここの施設が不自由なく使用できているのを見れば理解できると思いますが」
「それはそうですね」
 一同は納得して、一刻も早く船に乗船したいと思っていた。

『コノ小惑星ニ近ヅク艦隊ガアリマス』
 ロビーが警報を鳴らした。
「モニターに映してください」
『モニター、ニ映シマス』
 モニターに投影された艦隊は、ケンタウロス帝国の紋章を艦体に描いたトランター駐留艦隊であった。
「帝国艦隊だ!」



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銀河戦記/波動編 第七章 Ⅰ 包囲

第七章


Ⅰ 包囲


 恒星TRAPPIST-1(トラピスト1)は、太陽系からみずがめ座の方角に約40.5光年の位置にある赤色矮星である。その第四惑星が、かつてのトリスタニア王国の首都星であるトランターである。
 軍事国家ケンタウルス帝国に侵略されて王国は滅び、帝国の直轄領となっていた。
 そんなトラピストにたどり着いたフォルミダビーレ号。
「流石に首都星に近づくのは無理だろうな。回り道してアンツーク星へ向かう」
 迂回してアンツーク星へと舵を切るフォルミダビーレ号。
 だが数時間後だった。
「前方に重力加速度探知しました。ワープアウトしてくる艦があります。その数……30!」
「なんだと!」
 やがて次々と姿を現す艦隊。
「後方にも……囲まれました」
 フォルミダビーレ号の周囲を、ケンタウロス帝国の艦隊が取り囲んでいた。
「敵艦隊より入電、停船せよ」
 レンツォ・ブランド通信士が報告する。
 アーデッジ船長を見つめるオペレーター達だった。
 自分達は、海賊である。
 国際法においては、海賊行為は死刑にあたる。
 ギルドの方針でケンタウロス帝国内では海賊行為を行ってこなかったが、言い訳にはならない。
 だからといって、戦うことも逃げることも不可能だった。
「敵艦より高エネルギー反応あり!」
 次の瞬間、一条のエネルギーが艦を掠め通った。
「ビーム兵器か、威嚇というわけだな」
 船内のオペレーター達に諦めの表情が浮かんでいた。
「しかたないな……停船だ」
 船長の命令で副長が応える。
「機関停止!」

「相手方より、ガスパロの名で通信が入っています」
「ガスパロだと!」
 オペレーター全員が振り向いてブランドを見る。
「繋いでくれ」
 モニターに海賊ギルド頭領のガスパロ・フォガッツィが現れた。
「よお、随分と遠くまで出向いたようだな。まさかそこまでたどり着けるとは思わなかったぜ」
「何が言いたい」
「ここへ来るまで、どれほどの海賊行為を働いた? 共和国側では手配書が出ているぞ。捕まった場合の処遇がどうなるか分かっているな」
「死刑ですな」
「分かっているじゃないか。あくまで共和国側においてだがな、犯罪者引き渡し条例には両国は加盟していないからな。しかし、犯罪は犯罪だ。責任を問われることになるだろう」
 無言のアーデッジ船長に、言葉を続けるガスパロ。
「例のアンツーク星には、今艦隊が派遣されており徹底捜査の上、基地などの形跡があった場合は地下まで及ぶ絨毯爆撃が開始されるそうだ」
「なんだと!」
「まあ、諦めることだな」
 通信は途切れた。

 やがてフォルミダビーレ号乗員は全員拘束され、船も直近の惑星トランターへと曳航された。
 軍事法廷に連れ出されて即決裁判が行われた。
 被告席に立たされているアーデッジ船長とリナルディ副長以下役職乗員達。
「アントニーノ・アッデージに死刑を言い渡す。その他の乗員は、流刑地にて終身労働の刑に処す」
 消沈する一同だった。
「なお、アントニーノ・アーデッジは国際放映による公開処刑とし、トリタニア宮殿前大広場にて執行されることとする」
 法廷内にどよめきが沸き起こった。

 アーデッジ船長以下フォルミダビーレ号の乗員は、ケンタウロス帝国の庇護下にある海賊ギルドに所属していた。
 ギルドを脱退したことは、帝国にも叛乱の意思ありと判断されたようだ。
 かつて、旧トラピスト星系連合王国が、ケンタウルス帝国に対して抵抗を続けていた。数百年経た現在においても反乱の根はくすぶっている。
 そのためにも、帝国に逆らうものは徹底排除の姿勢を見せつけるためにも公開処刑が行われるのだ。



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銀河戦記/波動編 第六章 Ⅶ パッシブ・レーダー


第六章


Ⅶ パッシブ・レーダー


 ブラックホールを無事に乗り越えて、タルシエンの橋の末端出口にたどり着いたフォルミダビーレ号。
 目前は、オリオン腕に位置するケンタウルス帝国領である。
 出国時よりも入国時の方が難しいのは世の常である。

「タルシエンの橋を出ます」
 ウルデリコ・ジェネラーリ航海長が伝える。
「総員、警戒態勢!」
 帝国艦隊が、どこから出てくるか分からないので、警戒するに越したことはない。
「先進波パッシブ・レーダーを使う」
 敵艦隊の動きを探るために、電磁波などを発する通常のレーダーは逆にこちらの居場所を逆探知されるので、隠密行動の時用のパッシブ・レーダーを使う。 宇宙空間を飛び交っている電磁波が敵艦に当たって反射されて届いたものを探知して敵の居場所を探ることができる。
 惑星上にはどこにでも放送局があり、帝国全土に行き渡らせるために先進波通信(超光速通信)の放送が行われている。その放送局の先進波周波数を利用して、敵の位置を探るのだ。
「この辺りだと、惑星トゥールーズの国営放送局があります」
 通信士のレンツォ・ブランドが調べた。
「よし、そこの周波数にセットしろ」
「了解しました」

 惑星トゥールーズには、タルシエンの橋からの侵略者を撃退するための強大な軍事基地があった。当然、強力なレーダーがタルシエンの橋出口を監視している。
 しかしながら、広大な宇宙を航行するたった一隻の船を探知するのは難しい。仮にレーダーにその影が投影されたとしても、隕石などの漂流物である可能性があるからである。なので、艦隊などの多数の映像を捕らえない限り見過ごされることが多いのだ。
 惑星トゥールーズに近づかないように、迂回しながら航行を続けるフォルミダビーレ号。
「このまま無事に通過できればいいのだがな」
 ふと呟くアーデッジ船長。
 しかし、それは甘い考えだった。
「前方に感あり! 一隻がこちらに向かってきます」
 レーダー手が叫ぶ。
「見つかったか。総員戦闘配備!」
 戦闘配備に動き回る乗員達。
「たった一隻なのを見ると、船か漂流物かを確認するために近づいている可能性があります」
 リナルディ副長が考察する。
「戦っても逃げても、本国に連絡されて追撃捜査がはじまると思われます」
「戦って撃沈などしたら、復習戦だと血眼になって追撃してくるだろうな」
「そうですね。逃げた方が得策ではありますがね」
「敵艦のエンジン部に魚雷一発かまして動きを止めて、その隙に逃げるというのはどうだ?」
「いいですね。それで行きましょう」

 数時間後、両者は対峙した。
「敵艦発見!」
 目前に敵艦が姿を現した。
「コルベット級哨戒艇だな」
「火力はこちらの方が上ですが、速度はあちらが上です」
「相手側より通信が入っています」
「無視だ。魚雷攻撃で返事をしようか」
「了解。魚雷戦用意、目標敵艦後部エンジン部」
 次第に接近する両船。
「第二弾を、敵艦退避運動予測位置に設定」
「設定しました」
 さらに近づく。
「停船せよと言ってます」
「返信は、魚雷発射だ!」
「発射! 続いて十秒後に第二弾発射」
 船首から連続で発射される魚雷。
 第一弾は回避するも、第二弾に被弾炎上してしまう敵艦だった。
「魚雷命中!」
「敵艦、漂流を始めました」
「よし! 脇をすり抜けて戦線離脱する」
 速度を上げて逃走を始めるフォルミダビーレ号だった。



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