銀河戦記/波動編 第六章 Ⅵ タルシエンの橋



第六章


Ⅵ タルシエンの橋


 フォルミダビーレ号とアーデッジ船長達は、行方不明となった仲間の消息を確認するために、アンツーク星に向かうべくトリスタニア共和国を航行していた。
 途中に出会う軍艦に対しては、その足の速さを活かして逃げまくり、商船・貨物船とみれば襲い掛かって物資を奪っていった。
 そして関門となるタルシエンの橋へとやってきた。
 タルシエンの橋は、銀河渦状腕『いて・りゅうこつ腕(トリスタニア共和国)』と『オリオン腕(ケンタウロス帝国)』の間を繋ぐ航行可能域のことである。
 だがタルシエンの橋の手前には、共和国軍最強の防衛軍事基地シャイニングがあった。その両脇を固めるように、クリーグ基地、カラカス基地がある。
 それらの基地を横目に通り過ぎるフォルミダビーレ号。
 基地側では、タルシエンの橋を通って侵略してくるケンタウロス帝国の動きを監視していたが、内国後方から接近する一隻の船には注意が疎かになっていたのである。
 何の抵抗もなくタルシエンの橋に突入するフォルミダビーレ号。
「後ろの艦隊は動いているか?」
「いいえ。微動だにしません」
「だろうな。防衛が主任務の基地だから、深追いはしないということだ」
「しかし、帝国側出口が問題です。手ぐすね引いて待ち構えていますよ」
「まあ、たった一隻だから気づかないで見逃してくれるのを祈るだけだ」

 タルシエンの橋を航行するにあたって、ワープ航法は短距離に限定されていた。何せ、両岸国家の戦略上の都合から、航海図が公開されていない上に、空間が安定しておらず、長距離ワープを行うととんでもない場所に飛ばされることもあるからである。
「ワープ完了」
 数度のワープを終えて、タルシエンの橋を五分の一ほど渡った時だった。
 突然、船が大きく震動した。
「どうした?」
 アーデッジ船長が、報告を求める。
「分かりません。確認します」
 リナルディ副長が返答する。
「船が強力な力で引っ張られて流されています」
 答えを出したのは、ウルデリコ・ジェネラーリ航海長だった。
「詳しく教えてくれ」
「重力加速度計によると、前方三万二千光秒に超強力な重力物質があります。光学レーダー観測できないので、おそらくブラックホールかと思われます」
「ブラックホールの重力に引きずられているのか?」
「距離的にはかなり距離が離れているのですが、何せブラックホールですので」
「重力圏から離脱する試案は?」
「只今、計算しているところです」
「早くしてくれよ」
 船がブラックホールに近づくにつれて速度が上昇してゆく。
「前方モニター投影してくれ」
 モニターを確認するアーデッジ船長。
 しかし、まばらに映る恒星の他には何も映ってはいなかった。
 それでも目を凝らして見つめると、宇宙空間の一角に星が全く映り込んでいない箇所があった。
「あそこにブラックホールがあるのか?」
 そこへ航海長がやってきた。
「計算が終了しました。ブラックホールの重力圏から離脱できます」
「よし、やってくれ」
「かしこまりました」
 ブラックホール脱出行が開始された。
「運航コンピューターに、計算されたルートを設定する」
 燃料消費を最低限に、最も船に影響の少ない、最も安全なコースを、最も早く駆け抜けられるルートである。もちろんブラックホールの影響下では、ワープは使えない。
「ルート設定完了!」



解説
 *タルシエンの橋=天の川銀河のいて腕とオリオン腕の間の領域、地球から約
6500光年の位置にある「こぎつね座OBアソシエーション」と呼ばれるフィラメ
ント構造の大質量星形成領域が発見された。

 2022年、大阪府立大学 藤田 真司 研究員、名古屋市科学館 河野 樹人 学芸員、
国立天文台野辺山宇宙電波観測所 西村 淳 特任准教授を中心とする研究グルー
プは、野辺山 45m 電波望遠鏡を用いて、天の川銀河の腕間に位置する大質量星
形成領域「こぎつね座OBアソシエーション」に対する大規模な分子ガス雲の観測
を行いました。
 観測の結果、この領域で長さ100光年にわたる巨大フィラメント状分子ガス雲
の存在を初めて明らかにしました。



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