銀河戦記/波動編 第一章 Ⅵ 決行の日


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第一章


Ⅵ 決行の日


 決行の日は、六人のシフトが揃って休みの日に決まった。
 自由時間ということで、三々五々に船内をぶらついて、徐々に飛行甲板へと集まるように向かう。
 ケビンは、一人甲板に向かう。
 おもむろに空戦シミュレーターに近づくと、さっそく海賊達が集まってくる。
「今日もまたやるのか?」
「はい。今回は難度Cに挑戦します」
「難度Cだと?」
 目を丸くする海賊。
「ずげえなあ。Cはまだ誰もクリアしたことがないぜ」
「まあ、見ててくださいよ」
「見せてもらおうじゃないか」
 難度Cという声を聞きつけて、どんどん海賊が集まってくる。

 海賊達が、彼の周りを取り囲んで観戦している。
 画面上に例の難敵である赤い奴が近づいてきているが、今度の難度はCなのでさらに動きが激しく予想の付かない動きをしている。
 固唾を飲んで注視する海賊。
 これまで散々な目にあってきただけに、どう対処するかを見極めようとしていたのだ。


 物陰からこっそりと飛行艇に近づく人影。
 甲板にいる海賊達の視線が、ケビンに向いているのを確認して慎重に、飛行艇の乗船口にたどり着いた。
「扉を開けるぞ」
 フレッド・ハミルトンが開錠操作を行うと静かに扉は開いた。
「よし、音を立てないように乗ってくれ」
 乗り込む少年達。
「やったあ! 無事に乗れたぞ!」
 声を上げて喜ぶブルーノ・ホーケン。
「静かに。ここからが正念場だぞ」
 窘めるアレックス。
「配置に着いてくれ」
 事前に打ち合わせしたとおりに配置に着く少年達。
 操舵席に座るマイケル・オヴェット。
「動かせるか?」
 体育会系のブルーノ・ホーケンが確認する。
「大丈夫だよ。俺が習った機体とほぼ同じだ」
 操舵席に着席したマイケル・オヴェット。
 機械好きのフレッド・ハミルトンが端末を操作して、
「機関チェックします。電力系統OK、燃料十分……。行けますよ」
 ブルーノ・ホーケンは、海賊が乗り込んでくるかもしれないので、乗船口付近で待機して排除する構えを取っている。
 料理が得意なジミー・フェネリーは、することがないので成功するように祈っている。
 準備は完了した。
 船長席に座ったアレックスが号令する。
「よし、エンジン始動!」

「何だこの音は?」
「飛行艇だ!」
 甲板上の海賊達が、異変に気付いて飛行艇へと駆け寄る。
 乗船口を開けようとするが、中から完全にロックされている。
「誰だ! 出てこい!」
 乗船口から中に向かって怒鳴り始める。
 
 空戦シミュレーターのそばには、ケビンただ一人。
 すべての視線が飛行艇に集中しているその隙に、ケビンが管理室へと急ぎ足で向かう。
 ここでも海賊たちは、飛行甲板の騒動に対応していた。
「乗り込んだ者は、誰だ?」
「ガキですよ。そのうちの一部が無断で乗り込んだようです」
「無線で呼び出せ!」
「だめです。応答なし」
 その背後で忍び足で目標物へと近づこうとしているケビンだった。
 そして、エアロックを開くスイッチを起動させた。
 警報が鳴り響く。
「何をしているか!」
 気が付き、振り向いてケビンにとびかかる海賊。
 別の一人は、エアロックを停止させようと操作する。
「だめだ。開ききるまでは停止できない」

 甲板内に警報が鳴り響き、驚く海賊達。
「エアロックが開くぞ!」
「全員、退避だ!」
 船内の空気が抜かれていくと同時に、ゆっくりと開いてゆくエアロック。
 あわてて待避所へと駆け出す海賊達。

 飛行艇内。
「ケビンがエアロックの開放に成功したぞ」
 小躍りする少年達。
「ブルーノ、そこはもういいから席に着いてくれ」
「分かった」
 乗船口を見守っていたブルーノが手近な席に着席した。
「準備OKだ!」
 エアロックが最大に開いた。
「よし、発進だ!」
「了解!」
 マイケルがエンジンを吹かすと同時に、操縦桿を引いた。
 ふわりと浮かび上がり、エアロックから宇宙空間へと飛び出す飛行艇。



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銀河戦記/波動編 第一章 V 脱走計画

第一章


V 脱走計画


 アッデージ船長のもとに、エヴァン・ケイン少年のことが報告された。
「ほう……。それが本当ならパイロットに欲しいな」
 空戦隊長のロドリゴ・モンタナーリが感心したように話す。
「本当ですよ。我々が苦戦してなかなか撃墜できなかった赤い奴を、いとも簡単に撃ち落としてラスボスの母艦まで撃沈させたんですから。それも初見でですよ」
「そうか、訓練次第ではエースパイロットにもなれるかな」
「もちろんですよ!」 
「しかし、シミュレーターではミスしても死なないが、実戦では死ぬ。例え生き残っても捕虜になれば、海賊は即決裁判死刑だ」
「確かです」
「死の恐怖に打ち勝って、作戦遂行できるかな? まだ子供の彼には、荷が重いのではないか? 奴隷となってもまだ生きていられる方がまだ幸せに近い」
「私が、一人前になるように指導します」
「分かった。考慮しよう」
「ありがとうございます」
 礼を述べて退室するモンタナーリ。
「料理長が人手不足で困っています。甲板長も子供たちが働いてくれるので助かると言っていました。慢性的な船員不足この際、子供たちの中から選抜して仲間に引き抜いてはいかがでしょうか?」
 リナルディ副長が意見具申を述べた。
「海賊の仲間になろうと思うかな?」
「奴隷として売られるよりもいいか、と思うのではないですか?」
「そうかな……。ま、人手不足なのは確かだしな。本命の少年以外は、ジョルダーノ甲板長にまかせよう」
「伝えておきます」


 翌日。
 調理場では、料理長の指示のもと幾人かの少年が調理の手伝いをしていた。
 孤児院育ちで、当番制で日ごろの食事の準備をしていただけに、調理は慣れた手つきだった。
 機関室では、機械好きの少年が配置され、物珍しさに目を輝かせていた。
 何の得意を持ち合わせていないものは、引き続き甲板掃除である。

 その頃、エメラルド色の瞳をした少年アレックスは船長室に呼ばれて、アッデージ船長との三次元チェスの相手をさせられていた。
 アレックスが、広場での海戦ゲームを創作し、試合でも作戦巧者であることを少年達から聞いていたからである。だから三次元チェスの相手になると思ったのである。海賊の中では、船長と勝負できる相手がいなかった。
 チェスのルールを知らなかったアレックスであるが、手ほどきを受け二・三戦すると、見違えるように上手になっていった。
「参った!」
 船長が投了する。
「どういたしまして」
 軽く会釈するアレックス。
「理解が早いな、俺と互角以上に戦えるのは君だけだ」
「ありがとうございます」

 それ以来、事あるごとに好敵手となったアレックスとチェスの対戦をする船長だった。
 船長は、アレックスを例の貴族の息子だと確信しているようだった。
 孤児ゆえに自身の身の上を知らないアレックス、ロスト・シップのことも知らないだろう。だが、何らかの接点を有しているに違いない。深層意識のさらに奥深くに記憶が受け継がれているかもしれない。
 基地に戻ったら、精神医に少年の深層意識の調査を行うつもりだった。
「君はなかなか頭が切れるようだ。俺の補佐役(Assistente)につける」
「アシスタントですか?」
「そうだ。船橋で俺のそばにいてくれ」
「僕がですか?……分かりました」
 海賊船には既に副長がいたが、見習いとして使役することにした。
 少年の才能を、自身の目で見極めるためである。


 数時間後、少年達はそれぞれの船内での受け持ち担当を正式に与えられ、牢を出されて海賊達と同様に六人部屋をあてがわれた。
 アレックスは、部屋の班長に指名された。
 海戦ゲームの創案者であり、大将・監督として采配を振るっていたことは周知のことであったから最適任と判断されたのである。
 アレックス(副長見習い)の他は、
 ゲーム好きのエヴァン・ケイン(パイロット候補生)
 機械好きのフレッド・ハミルトン(機関室部員)
 料理が得意なジミー・フェネリー(厨房課員)
 体育会系のブルーノ・ホーケン(白兵部隊要員)
 乗り物好きのマイケル・オヴェット(操舵見習い)
 の六人だ。

 それぞれ役割を与えられて任をこなしているが、軍人ならともかく海賊として働くことに違和感を覚えている者も多いようだ。
 強制連行されて逃げ道もないので、仕方なく働いている状況である。
 軍人なら家族にも保障があるし退役すれば恩給も出るが、海賊にはそれがなく逮捕されれば即決裁判死刑が待っている。
 孤児院育ちの者は諦めもつくが、家庭育ちの者は諦められなかったようだ。

「俺たちを連れてきた飛行艇が甲板にあるけど、あれで逃げられないかな」
 マイケル・オヴェットが口を開いた。
「動かせる人がいるのか?」
「俺の親父が恒星間レースの艇長でさ。赤ん坊のころから、親父の隣で運転をみていたから、だいたいのことは分かるし、甲板掃除の際に飛行艇のコクピット見たけど、ほぼ同じだった。だから多分大丈夫だ」
 マイケルは、任せろと胸を張った。
「だとしても、飛行艇は一人では動かせないよ」
「エンジンなら、僕に任せてよ」
 機械好きで、機関部員になっているフレッド・ハミルトンが名乗り出た。
「宇宙に出るには、管理棟からエアロックを開ける操作が必要じゃない? つまり誰かが残ってやらなきゃいけない」
「なら、それは僕がやってやるよ」
 とは、パイロット候補生のエヴァン・ケイン。
「いいのか?」
「ここの居心地がよくってさ。海賊もいいなと思っているから気にすることはない。大目玉を食らうだろうけど、たぶん大丈夫だよ」
 パイロットを欲しがっているからという判断のケインだった。
「しかし、宇宙に出られても、航路が分からなければ迷子だぞ。航続距離も分からない」
「それなら大丈夫。操舵見習いやっているから星図と航路図を覚えているんだ。燃料も近くの有人惑星にたどり着けるだけの分はあると思うよ」
 マイケル・オヴェットが答える。
「なら、後は実行あるのみだな」
 と、班長のアレックスを見つめる。
 他の者も同様に、決断を委ねるように見つめ返してくる。
「僕個人の意見としては反対だけど、皆が賛成なら同意しようと思う」
 アレックスは決断した。
「他の班にも声を掛けるか?」
「いや、心苦しいがやめた方がいい。六名ならともかく、二十数名が同時に行動を起こしたらさすがにばれる」
「分かった」
 決断されたことで、綿密なる作戦行動案が練られることとなった。


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銀河戦記/波動編 第一章 Ⅳ 少年

第一章



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Ⅳ 少年


 海賊船牢屋の中で、暗い表情で座り込んでいる少年たち。
 中には、鉄格子に被りついてわめいている元気な子もいるが……。
「ぼくたち、どうなるの?」
 一人の少年がか弱い声で呟くように尋ねた。
「決まってるよ。ここは海賊船の中、奴隷商人に売られちゃうんだよ」
「いやだよー」
 震えて縮こまる少年たち。
 しばらく沈黙の時間があった。
 やがて足音が近づいてくる。
 モレノ・ジョルダーノだった。
「これから、一人ずつ尋問をはじめる」
 牢の鍵を開けて、中に入り少年たちを見まわしてから、
「よし、おまえからだ」
 と、一人の少年を指さした。
 このような状況でも落ち着いた表情をしている緑色の瞳の少年だ。
 指さされた少年は、黙って立ち上がる。
「よし、俺についてこい」
 別室に案内される少年。
 そこには、凛々しい姿の青年が机を挟んで座っていた。
「始めようか。座ってくれ」
 言われたとおりに対面するように腰かける少年。

「私の名前はアントニーノ・アッデージ、この船の船長だ。まずは君の名前を聞こうか」
「アレックスです」
「姓は?」
「ありません。孤児院では姓は養子縁組が決まった時に決まります」
「なるほど、養子親の姓が付けられるわけか」
「それと、成人して孤児院を出る時に、自分で自由に付けられます」
「ところで、君の瞳の色はエメラルド色だね」
「そうですね。惑星サンジェルマンの人々は、青色の瞳がほとんどです」
「虹彩異色症? いや、オッドアイとは違うが、遺伝子病なのだろうな」
「そうらしいです」
「それで、君のご両親は?」
「分かりません。捨て子ですから」
「そうか、分かった。では、君から尋ねることはあるかね?」
「はい。これからの僕たちの処遇です」
「そうだな。金持ちの子供は、身代金を要求するし、孤児院の子供は奴隷商人に売るさ」
「でしょうね」
「しかし、君は落ち着いているな」
「泣きわめいたところで、事態が変わるわけありませんから」
「まあ、そうだな……今日は、こんなところか。牢屋に戻ってもらおうか」
 控えていたジョルダーノに合図を送る船長。
 少年に手錠を掛けて、牢屋へと連れ戻すジョルダーノ。

 数時間後、全員の聴聞が終了したところで、少年達に食事が出された。
 パンとスープとひと切れの肉が出された。
 満腹には程遠いが、空腹を凌ぐには十分だった。
 食事が終わると、ドメニコ・ボノーニが、
「食事が済んだら仕事だ! ただ飯食わすわけにはいかないから、お前らには甲板掃除など働いてもらうぞ」
 というと、掃除道具を各自に手渡した。
 少年それぞれに分担役割を与えて、広い船内甲板掃除を指示した。
 渋々だが、言われたとおりに掃除を始める少年達。
 ここは宇宙の彼方の宇宙船内、外へ逃げ出せるわけもなく、抵抗して印象を悪くすれば奴隷商人に売られるのが早くなるだけである。
「よーし、今日はここまでだ。全員牢屋に戻れ!」
 指示された通りに牢に戻る少年達。

 船内の掃除や後片付け、荷物運び、食堂の給仕などの雑用に、少年達が駆り出される日々が続く。
 今日も甲板掃除していた少年が、片隅で海賊達が騒いでいる場面に注視した。
 戦闘シミュレーションで、空中戦の訓練をしている最中だった。
「やられちまったー!」
 頭を抱えて喚く海賊。
「ドジ! 三分も持たねえのかよ」
「そうは言っても、赤い奴がめっぽう強ええんです。しかも通常の三倍の速さだから」
「どれ、俺にやらせろ!」
 と、先の人を押しのけて筐体に乗り移ったのは、空戦隊長のロドリゴ・モンタナーリだった。
 勢いよく筐体に着席したが、ものの二分で撃墜されてしまった。
 頭を掻きながら降りてくる海賊。
「ほれみたことか。今回のステージは毎回攻撃パターンが変わって難度が高いんですよ」
「ちぇっ」
 舌打ちする海賊。
「ねえ、僕にやらせてよ」
 と少年が声を掛ける。
「なんだと。難しいんだぞ」
「見てたけど、僕なら簡単だよ」
 と愛嬌振りまくように話す少年。
「いいだろう。やってみな」
 降りて席を譲る空戦隊長。
「見ててね」
 そういうと、少年は席に座りシミュレーターを起動した。
 画面には、次々と襲い掛かる敵戦闘機群の攻撃が繰り返される。
 それらをいとも簡単に搔い潜りながら攻撃を加えて撃墜してゆく。
 海賊達が難敵とする赤い戦闘機の出現にも、攻撃を見切りながら反撃する。
 そして、ものの見事にこれを撃墜したのである。
 さらに進撃し続け、ラスボスである敵母艦を目標に捉え、数分で遂に撃沈させて作戦終了、クリアしたのであった。
「す、すごい!」
 いつの間にか集まって来ていた海賊達から驚愕の声があがる。
「おまえ、やるな。パイロットの経験者か?」
 凄腕さに尋ねる海賊。
「まさか、僕はただの学生だよ」
「そうか? 腕前は本職のパイロットだよ」
「実は、シューティングゲームが好きでね。毎日やっているから、こういうのには慣れているんだ」
「なるほど……おまえの名前を聞いておこうか」
「エヴァン・ケインだよ」
「船長が、戦闘機乗りを欲しがっていたんだ。上申しておくよ、OKならパイロットになれて、奴隷商人に売られずに済む」
 その発言に、周りの海賊たちが窘める。
「おい、おい。ゲームと実戦は違うぞ!」
「まあ……それは、船長が決めるさ」



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