死後の世界と民族の神話
バビロニア神話

ギルガメッシュ叙事詩
 世界最古の叙事詩。ウルクの王ギルガメッシュ(Gilgamesh)の功績をうたった古代バビロニアの英雄詩。生と死という永遠の問題をテーマにしたバビロニア神話文学の逸品であり、ウル第3王朝時代(2050〜1950B.C.ごろ)にその原型が作られたものと推定される。
 英雄ギルガメッシュは、ウルクの城壁を建てるのに人民を酷使したので、神々は訴えによって怪物エンキドゥEnkiduを送ったが、戦いを終えた二人は逆に無二の親友となる。彼らは<杉の山>に遠征して怪物クンババを倒し、人々を救った。凱旋したギルガメッシュに女神イシュタルが愛をささやくが、これを拒んだことにより呪いをかけられて相棒のエンキドゥは死んでしまう。彼はこの世に限りがあること、人生のむなしさを悟り、不死の薬草を求めて旅にでる。
 太陽神シャマシュや女神シドゥリは、むなしく放浪する王をあわれんで、永生は神のものであり人間は創造以来死すべき運命にあるのだから、許された間だけ生を楽しめと教える。しかし彼は<聖者の島>に渡って、人間として唯一不死を許されたウトナピシュティムに会って永生の秘密を問う。聖者(バビロニアのノア)は神々のくだした大洪水をいかにまぬかれたかを彼に語り、死を越えるためにはその双生児である眠りを克服せねばならぬと教えるが、彼は7日6夜の不眠の試練に絶えられずに眠ってしまう。聖者は彼を哀れんで大洋の底にある不老不死の薬草のありかを教え、彼は海底に潜ってついに<老人を若くする>薬を手に入れる。彼は故国の人々にもこの幸福をわかつために帰途につくが、泉で水を飲んでいる間にへびに薬を食われてしまう。落胆した彼は、死者に生と死との秘密を聞こうと神々に訴え、冥府の主ネルガル(Nergal)は一夜亡友エンキドゥの霊を彼のもとに送る。エンキドゥの語る冥府は暗黒と塵埃の世界であった。死者は塵を食い溝の水を飲む。故国のために戦死した者だけが清水を飲むことを許され、葬られず祭られない者の亡霊は冥府にも安住できず、街路をさまよって捨てられた残飯をあさらねばならないという。
    ⇒part-5