死後の世界と民族の神話
エジプト神話

オシリス
 Osiris 古代エジプト神話の幽界の王。神々の父ラーの昇天後、エジプトの<良き王>として全国をまわって人民を裁き、神々を拝することと、農耕を教えた。弟セットはこれをねたみ兄を殺して国を奪い、その死体を棺に入れてナイルに流した。棺はシリアのビブロスに漂着してヤナギの木に包まれたまま、その地の王宮の柱にされた。その妹で妻のイシスが苦心してこれを捜しあてエジプトに持ち帰ったが、セットは再びこれを奪って死体を寸断して、全土にまき散らした。イシスはこれを拾い集めて麻布につつんで(最初のミイラ)息を吹き込んで復活させた。その子ホールスは成長して父の仇をうち、復活したオシリスは幽界の王となった。

イシス
 Isis 古代エジプトにおける最高の女神。天の神ヌートと地の神ゲブの娘で、兄のオシリスの妻となり、ホールスを産む。最高神ラーの秘密の名前を知ることによって、神々の最高位についた。大母神としてのイシス崇拝は、バビロニアのイシュタルと同じように、エジプト全土に行われ、早くからシリア、クレタをはじめ、ギリシャやローマにまで伝わった。帝政期のローマにはイシスの神殿が栄え、幼児ホールスを抱くイシスの像は、イエスを抱く聖母マリアの原型といわれる。

マート
 古代エジプトの神<Ma'at>で、 正義、真理、おきての女神。彼女のシンボルはダチョウの羽根で、同時に真理をあらわし、オシリスの審判で人間の魂の秤となっているが、これは地上で最も軽いもので、人間の心はそれよりさらに軽くなければならない(罪によって重くなる)ことを示すという。

死者の書
 古代エジプトにおいて、死者を墓に葬る時、死後の世界における死者の案内書ともいうべき役目をするために、遺体とともに葬った一種の死者の教書。仮の現世から永遠の真の彼岸の世界に安住するにいたる方法や、彼岸に入ったものを脅かすと思われるあらゆる脅威をのがれるための呪文や誓約文がしるされてある。古代エジプト人はこの種の書を<日ごとにあらわれくる書>といい、現今では仮に<死者の書>と学者はよんでいる。第18王朝時代(1567〜1304BC)にほぼ成立し、現在集成されて190章にのぼる。だいたいにおいて、幽界の王であるオシリスの前で、アヌビス神が死者の心臓とマートを天秤にかけている図が描かれている場合が多い。古代エジプト人の来世観を知るための貴重な資料である。
 また挿絵として見る場合、世界最古の美術的作品ともいえる。

アヌビス
 Anubis 古代エジプトの神。死者の魂をオシリスの審判の広間に導く神で、このため<門を開く者>とよばれ、すべての<死者の書>に登場する。幽界の王オシリスの息子であり、墓場の守神とされているが、彼に関する説話の示すごとく、死体をあらすジャッカルの神格化であろうとされている。
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