難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

原発性肺高血圧症(PPH)/診断・治療指針(公費負担)

認定基準特定疾患情報

■概念
肺高血圧症の基礎疾患となりうる心肺疾患がなく、原因不明の高度の 前毛細血管性肺高血圧症を原発性肺高血圧症(PPH)という。

1951年、DresdaleがPPH症例の最初の詳細な報告をして以来、右心カテーテル検査ならびに超音波心エコー法などの非観血的検査法の普及もあり、PPHの報告例も増加してきている。その発生頻度自体は決して多いとはいえないが,比較的若年者に多いこと、及び予後が不良なことから、その診断は臨床的に重要な意味を持っている。

1970年、Wagenvoortらは、51施設において臨床的にPPHと診断さ れた156剖検例についての病理組織学的検討を行い、それらのうち肺動 脈中膜肥厚、内膜の同心円状線維化を認める110症例を肺血管攣縮による原発性肺高血圧症と呼ぴ、1つの疾患単位としうることを明らかにしている。また、WHOでも1973年専門家会議を開き、PPHの診断基準、 概念の統一などに関する報告を行っている。その後我が国においても、昭和50年度より厚生省特定疾患原発性肺高血圧症調査研究班(班長:笹 本浩)が設置され、PPHの診断基準が作成されたことから、一般に PPHの診断はこの調査研究班の診断基準に準じて行われることが多い。しかしながら、肺生検などにより組織学的診断が得られない場合には、臨床的な除外診断に頼らざるを得ないため、1つの疾患単位の診断名と いうよりは、複数の成因よりなる共通の病態を意味している可能性もあり、このことがPPHの臨床経過や予後を始めとして、治療に対する反応性などの多様性をもたらす一因とも考えられている。

■疫学
肺性心の剖検例のうち約1%にPPHが認められたとの報告はあるが、 PPHの正確な発生頻度は不明である。1983年のMcDonnellらの報告では、約40年間での17、901例の剖検例のうちPPHは0.13%に認められ たとしている。我が国において行われた全国調査の成績では、1974年に 65施設より147例が、また1991年には142施設より272例のPPH症例の収集がなされている。しかしながら、本症の診断には右心カテーテル検査による前毛細血管性肺高血圧症の確認が必要であり、本検査が必ずしもすべての施設で行える検査とはいえないことからも、確定診断まで至らない症例も多く存在するものと思われる。

年齢分布は、0歳から70歳代の高齢者まで広くその発症が認められているが、発症のピークは20歳から40歳までの若年者にみられる。男女比 に関しては、小児では明らかな性差が認められないのに対して、成人のPPHは女性に多くみられ、その男女比は1:l.5〜2とされている。

■病因
病因については、これまで多方面から検討されてきているものの、末 だ不明といわざるを得ない。家族性の発症例もみられることから、遺伝的要因も考慮されているが末だ明らかなものは認められていない。また、血管拡張剤に対する反応性がみられることや、病理学的所見として中膜 肥厚などが認められることから、何らかの肺血管攣縮が関与している可能性も示唆されてきたが、原因として明らかとなったものは未だみられていない。

こうした肺血管攣縮及び肺血管内皮の障害もしくは機能異常が、PPH発症の引き金になっている可能性も強く疑われてはいるものの、この血管内皮障害が凝固線溶能の異常から血栓形成を惹き起こしたり、血小板を活性化することにより新たな血管作動性物質の放出をもたらしたりするため、その病態がより複雑なものとなり、病因の究明を困難なものとしている。このほか、PPH症例でも抗核抗体などの自己抗体がしばしば陽性であること、混合性結合組織病(MCTD)に代表される膠原病に伴う肺高血圧症と、若年の女性に多くみられることを始め として、その病態が極めて類似していることなどから、何らかの免疫学的異常の関与が示唆されている。更に、1965年よりスイス、オーストリ ア、ドイツでみられたaminorexに代表される食欲低下剤による肺高血圧症の集団発生や、1981年のスペインにおけるToxic oil syndromeに伴う肺高血圧の発生などからも、何らかの食餌性要因がPPHの病因として関与している可能性も十分考えられる。

■治療
本症の発生の的確な予防法や、病気の進行を阻止し治療する方法は現 時点では確立されていない。一般的注意事項としては、過度の運動、高所への旅行及び滞在は避けるとともに、喫煙及び妊娠も病態を悪化させ るため避けるように指導する。一般的治療としては、組織低酸素血症の 改善及び肺動脈への直接弛緩作用を期待して、長期酸素吸入が試みられている。また、肺高血圧による二次的な血栓形成を防止する目的で、ワルファリン投与などの抗凝固療法が行われている。症状が進行し、右心不全症状をきたした場合には、対症的に安静、塩分制限、利尿剤の投与、更には強心剤の投与にて症状の改善を目指す。

本症の病因の1つに機能的な肺血管攣縮が関与している可能性が考えられることから、各種血管拡張剤による肺血管拡張療法が試みられてい る。このなかで、quality of life(QOL)の改善に加え、予後の改善が 認められたものとして、カルシウム拮抗剤の大量療法とプロスタグランジンI2(PGI2)の持続静注があるが、いずれも循環動態モニター下での投与量の調節が必須である。このほか、最近では一酸化窒素(NO) やPGI2のネブライザー投与といった経気道的肺血管拡張療法も試みられており、今後の治療成績が期待される。欧米においては、内科的治療に反応しない進行例に対しては、心肺もしくは肺移植が試みられ、移植後の生存率の向上もみられている。

■予後
自然軽快例が報告されているものの、ほとんどの症例は進行性であり、予後は極めて不良である。一般に、診断確定からの中間生存期間は2.5〜3年、5年生存率も40%前後とされているが、病気の進行が緩徐なため10年以上生存する症例もしばしば認められる。死因としては、右心不全が約50%と最も多く、このほか突然死も約25%にみられ注意が必要である。


呼吸不全に関する調査研究班から
原発性肺高血圧症(PPH) 研究成果(pdf 21KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

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