難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

原発性肺高血圧症(PPH)/特定疾患情報(公費負担)

認定基準診断・治療指針

1. 原発性肺高血圧症(PPH)とは
原因不明の肺高血圧症を原発性肺高血圧症と言います。心臓とか肺に病気があると肺高血圧といって肺動脈の血圧が高くなりますが、原発性肺高血圧症はこういった心臓とか肺の特別な病気がなくて肺動脈圧が高くなっていきます。肺動脈圧は心臓カテーテル法を行なって測定されますが、肺動脈平均圧は正常者の安静臥位では15mmHgを超えないこと、また年齢を加味しても20mmHgを超えないことが知られています。それで安静時の肺動脈平均圧が25mmHgを超えると肺高血圧症と診断されます。原発性肺高血圧症の診断は、心臓とか肺の病気をすべて除外して、最後に残った肺高血圧症が原発性肺高血圧症ということになります。実際には、心臓とか肺の機能検査を広く行なって診断します。とくに肺高血圧症の確定診断ができたあとは、慢性の血栓塞栓性肺高血圧症を除外するために、肺血流シンチグラムを行なう必要があります。

なお今日では、原発性肺高血圧症の診断は必ずしも心臓カテーテル検査を行なう必要はなく、カラードプラ法を含めた超音波心エコー法による検査を詳しく行なえば正しく診断できるようになりました。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
人口100万当たり年間およそ1〜2人の発症と考えられており、きわめて希な疾患です。ちょっと古くなりますが、昭和50年度から昭和52年度の3年間にわたって行なわれた厚生省特定疾患「原発性肺高血圧症調査研究班」の疫学的調査では、昭和52年で131例の確実例が報告されています。この時の調査では、原発性肺高血圧症の患者さんは、全国各地に均等に分布しており地域差はみられておりません。原因の詳細は不明ですが、ヨーロッパでは食欲抑制薬の服用でこの病気が一時的に増えたことがありますが、わが国ではそのようなことは報告されておりません。

しかし、最近、食欲抑制薬などのわが国で承認されていない薬がインターネットを使って海外から輸入、販売されるケースが増えてきています。この中には、肥満の治療薬であるフェンフルラミンという薬が含まれており、このフェンフルラミンという薬は1973年にアメリカで肥満症の人のための食欲抑制薬として承認されているのですが、3カ月以上の長期内服では、原発性肺高血圧症の発生率が23倍に増加することが知られてきています。現在では、FDA(米国食品医薬品局)は1997年9月以降これらの薬剤の回収を発表し、発売を中止しました。

3. この病気はどのような人に多いのですか
原発性肺高血圧症は成人型と小児型があります。成人原発性肺高血圧症の年齢分布と性差を図1に示しますが、26〜35歳の30歳を中心にピークがみられます。そして、この年齢では圧倒的に女性に多いことがわかります。全体では、男:女比は1:2.6ですが、30歳前後の年齢では男:女比は1:10です。如何なる理由で若年女性に多いのかは全くわかっていません。また、60歳代の高齢では女性の原発性肺高血圧症が多い傾向がみられます。これに対して男性では、とくに好発年齢というものはなく全年齢層にほぼ均等に分布しています。小児を含めた若年では男性に多い傾向がみられます。小児と成人の比較では、表1に示すように、15歳未満の小児の原発性肺高血圧症は、男:女比は3:1で男性に多いことがわかります。これは諸外国の報告と一致する成績です。このように、原発性肺高血圧症は適齢期の女性を襲う疾患としてその対策がきわめて重要になってきています。

4. この病気の原因はわかっているのですか
原発性肺高血圧症では、肺血管収縮を伴う原因不明の肺血管抵抗の上昇が主たる病因ですが、この病気の原因は全くわかっていません。一般に、原発性とか特発性とかの名称がついている病気は原因不明の病気です。原発性肺高血圧症も原因がわからないので原発性という名称がついています。原因のはっきりしない肺高血圧症はほかにもあり、膠原病でみられる膠原病性肺高血圧症や、肝硬変や門脈圧亢進症に伴ってみられる肝門脈性肺高血圧症という病気があります。膠原病性肺高血圧症は自己免疫異常によって起こってくる肺高血圧症なのですが、自己免疫異常があっても必ずしも肺高血圧症が起こってくるわけではなく、肺高血圧症がどういう機序で起こってくるのかは全くわかっていません。一方では、原発性肺高血圧症にも約30%の割合で免疫異常のあることが知られ、最近では原発性肺高血圧症という病気の原因として免疫異常の関与が想定されてきていますが、なおはっきりしたことはわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか
はっきりした遺伝性疾患ではありませんが、家族性に発生する原発性肺高血圧症、あるいは一卵性双子に発生する原発性肺高血圧症が報告されています。最近、食欲抑制薬の長期内服やエイズウイルス感染症で、通常より高頻度で原発性肺高血圧症が発症することが報告されるようになり、免疫遺伝情報の異常が原発性肺高血圧症の発症に関与している可能性が指摘されてきています。

ヒトゲノム解析機構から承認されたPPH 1といわれる遺伝子の同定が要望され、今日までのところ骨形性蛋白受容体をつくる遺伝子の異変が本症を起す遺伝子である可能性が指摘されてきています。しかし、たとえPPH1という遺伝子があっても、遺伝学上の発現率はわずか10〜20%であると言われています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
初発症状を調べた成績では、労作時息切れが最も多く、ついで顔面・下肢の浮腫などの右心不全の徴候、突然の失神などです。肺高血圧症は無症状なので、かなり進行してはじめて、労作時息切れ、労作時呼吸困難などの症状がでてきます。あるいは肺高血圧症から右室が肥大、拡張して右心不全の状態になってはじめて、その症状として下肢、顔面のむくみがでてきます。いずれにせよ、原発性肺高血圧症の病態がほぼ完成して、程度の差はありますが胸部レントゲン検査、心電図検査に変化が現れて、臨床診断ができるできないはべつにして、このように診断可能な状態になってはじめて、自覚症状がでてくるのです。労作時息切れなどの自覚症状がでてくるのは、この病気の自然歴を考えるときすでにかなり進行した状態であるということがいえます。従って、この病気では早期診断ということができません。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
終局的治療として、肺移植あるいは心肺移植がありますが、その生命予後にかんする成績は必ずしも満足すべきものではありません。最近、新しい治療薬ないしは治療法が相次いで開発されてきており、内科的治療法が注目を集めるようになってきています。

今日、原発性肺高血圧症に対して最も進んだ治療法として、PGI2注射製剤(4UA76注)の静脈内持続注入療法があります。このPGI2注射製剤はきわめて有効な薬剤ですが、その使用法に関しては細かい配慮が必要になってきます。

PGI2は2〜10ng/kg/分で持続注入して肺血管拡張作用が期待できますが、治療開始時には体血圧が同時に低下しますので、この点に関する注意を怠ってはなりません。少量から始めて数日かけて徐々に増量するようにします。PGI2の急性効果は、肺血管拡張による心拍出量の増加で、一般に肺動脈圧の低下はないか、ごく軽度の低下を示すにすぎないのですが、肺血管抵抗はほぼ確実に低下します。原発性肺高血圧症の症例への4週間以上の継続投与による慢性効果では、血小板凝集抑制機能とあいまって肺動脈圧の低下が観察されるようになります。このあいだ体血圧が徐々に復旧する兆しがみられて運動能力の改善につながることとなります。慢性効果で運動能力の改善がみられることが明らかになって、QOL(生活の質)の改善を求めて長期持続注入療法が注目を集めるようになってきています。原発性肺高血圧症の患者さんに携帯用小型ポンプを使って社会復帰をめざしたものです。携帯用ポンプ治療は、当初は心肺移植あるいは肺移植へのブリッジ治療としての効果が期待されたものですが、PGI2療法の延命効果が次第に明らかになるにつれて、今日では内科的長期治療法としての地位を確立してきています。

すでに欧米では多数の方がこの治療を受けておられます (41歳、主婦、写真)。3カ月に1回の割合で病院に通院していますが、ほとんど普通の生活ができるといいます。目覚ましいQOLの改善です。

このほか、80ppmのNOを含む吸入気をNOガス吸入装置を使って吸入するNOガス吸入療法とか、PGI2注射製剤をネブライザーでエロソルにして吸入するPGI2エロゾル吸入法などの新しい治療法があります。本症治療に対するbreakthrough(突破口)としてPGI2が導入されて以来、他のPGI2誘導体の開発などこの方面の研究が急速に進んでおり、もっと使い易い皮下注射薬などのPGI2誘導体の開発とかPGI2関連遺伝子の導入による本症治療に関する研究が盛んに行われてきています。そんなわけで、この難治性疾患に対しても将来的には明るい展望が期待できるようになってきました。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
原因不明の肺血管抵抗の上昇が主たる病因で、そのため進行すると右心不全を併発して死亡します。突然死することもあります。原発性肺高血圧症の予後は、古くより、発症すれば2〜10年といわれています。成人原発性肺高血圧症32例を対象にし調べた原発性肺高血圧症の生存曲線を図2に示しておきます。これは成人原発性肺高血圧症の発症時点を起点として法による生存曲線をみたものです。原発性肺高血圧症は無症状で経過するので、労作時息切れなどを主訴として診断されるのは、原発性肺高血圧症の自然歴を考えるときすでに末期に近い状態といわれますが、それでも初発症状を起点とする限りは、発症初期の2〜3年は生存曲線はなだらかです。その時期が過ぎると急激に生存曲線の低下がみられます。原発性肺高血圧症は心臓カテーテル法などで診断されるのですが、その診断の時点を起点としてみた生存曲線を図3に示しておきますが、生存率は急激に低下しています。ほとんどの症例が診断の時点から5年以内に死亡します。なお、診断の時点が発症から死亡までのどの時点であるかということについては、個々の症例で様々ですが全症例を平均してみると、診断の時点は発症から死亡までのちょうKaplan &Meier中間点であることがわかります。ただし、発症からすぐに診断された症例は診断から死亡までの期間は長く、逆に発症から診断までに長期間かかった症例は、診断から死亡までの期間が短い傾向にあることが判明しております。


原発性肺高血圧症の食事・栄養について
食事や栄養について気をつけることはありますか?
原発性肺高血圧症は、いわゆる生活習慣病(成人病)とは違ってとくに食事に気をつけなければいけないということはありません。しかし、定義のところで述べたように、常用している薬物には注意する必要があります。とくに、食欲抑制薬は服用しないようにしてください。原発性肺高血圧症は進行すると心不全を起こしてくる病気なので、過労、ストレスを避けて、食事のときには過剰な水分摂取の制限をすることが必要となります。どうしても塩辛いものをとりすぎると、喉が乾いて水を飲むという悪循環になりますので、食事の時には、減塩食を第一に守ることが必要です。減塩食を守っても、顔がむくんだり、下肢がはれてきたりしたときには、心不全が考えられますので、その時には入院が必要になります。退院後は在宅酸素療法が適応になります。

生活習慣ということでは適齢期女性に多い疾患ですが、妊娠・出産は増悪因子となりますので禁忌(してはならないこと)となっています。


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