難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

ウェゲナー肉芽腫症/特定疾患情報(公費負担)

認定基準診断・治療指針

1. ウェゲナー肉芽腫症とは
この病気は、1939年にドイツの病理学者であるWegener博士が、鼻と肺の肉芽腫を認め、同時に全身の血管炎と壊死性半月体糸球体腎炎を示した3剖検例を発表し、世界で初めて独立した疾患として報告されました。そこで、発見者の名前をとってWegener(ウェゲナー)肉芽腫症と呼ばれるようになりました。発熱、全身倦怠感、食欲不振などの炎症を思わせる症状と、鼻、眼、耳、咽喉頭などの上気道および肺、腎の3つの臓器の炎症による症状が、一度にあるいは次々に起こってきます。その原因は、今のところわかっていませんが、全身の血管の炎症による病気(血管炎)の一つで、免疫の異常が病気の成り立ちに重要な役割を果たしています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
頻度:日本全国に600〜800名程の患者さんがいると考えられています。難病の申請をされている方は、670名(平成5年度)ですが、申請をしていない方、医療機関に受診していない方を含めると、この2倍から3倍位の人がこの病気をもっていると推定されています。最近3年間の受療状況は、主に入院の方が6%、通院の方が39%、入院と通院の方が30%いらっしゃいます。

疫学:この病気は、北ヨーロッパの白色人種の人に多いといわれていますが、日本においては地域差などはみられていません。また、特別な環境が病気の発症に関係しているという証拠は見つかっていません。

3. この病気はどのような人に多いのですか
男女比:男女比は1:1で明らかな性差は認められていません。

発症年齢:推定発症年齢は男性30〜60歳代、女性は50〜60歳代が多いようです。

4. この病気の原因はわかっているのですか
原因および病態:はっきりした原因は現在のところわかっていません。最近、この病気の患者さんの多くの方の血液中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)という自己抗体を持っていることがわかってきました。ウェゲナ−肉芽腫症の患者さんには、ANCAの中でもC(PR-3)ANCAという自己抗体が特異的に見出され、病気の発症や進行に深く関わっていることが考えられています。すなわち、C(PR-3)ANCAが、風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の悪害因子を放出し血管炎や肉芽腫を起こすと見なされています。

誘因:上気道の感染をきっかけにこの病気が発病したり、細菌感染により病気が再発したりすることが多く、感染症が病気の増悪因子として注意する必要があります。

5. この病気は遺伝するのですか
欧米では特定の遺伝子(HLA抗原)をもつ人に発症しやすいとの報告がありますが、わが国では特定の遺伝子(HLA抗原)との関連は見出されていません。ただ、この病気を含め自分自身の体の成分に対して免疫が起こる病気(自己免疫病)では、親族に同じ様な病気が多くみられる家系があります。しかし、それがはっきりした遺伝子によるものかどうかは正確にはわかっておりません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
一般的に発熱、食欲不振、倦怠感、体重減少などの全身症状とともに、
1)上気道の症状(膿性鼻漏、鼻出血、難聴、耳漏、耳痛、視力低下、眼充血、眼痛、眼球突出、咽喉頭痛、嗄声など、
2)肺症状(血痰、咳嗽、呼吸困難、肺浸潤など)、2)腎症状(血尿、乏尿、浮腫など)、
3)その他の血管炎を思わせる症状(紫斑、多発性関節痛、多発神経炎など)が起こります。

普通は、1)→2)→3)の順で起こることが多いのですが、必ずしも順番通りではありません。1)、2)、3)のすべての症状がそろう場合を全身型ウェゲナー肉芽腫症、3)を除き1)、2)のいずれか2つ以上の症状を示す場合を限局型ウェゲナー肉芽腫症と呼びます。すなわち、この病気の患者さんはすべての症状が起こるわけではなく、一人一人によってでてくる症状、障害される臓器障害が違うことにも理解を要します。最初は、鼻や耳の病気、あるいは胸の病気を思わせる症状がでて、後で腎臓を含め全身の血管炎による多臓器の症状を呈する場合があり、注意が必要です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
この病気は早期に診断を下し、3つの特徴的な臓器障害である上気道、肺、腎の壊死性肉芽腫性血管炎のなるべく初期に、免疫抑制剤、副腎皮質ステロイド剤を主体とする免疫抑制療法を施行することにより、病気を落ち着いた状態(寛解)へ導くことが可能です。その際、全身型ウェゲナー肉芽腫症と限局型ウェゲナー肉芽腫症で、使用する免疫抑制療法の強さを調整して投与します。

1)免疫抑制剤
サイクロフォスファミド(エンドキサン)、アザチオプリン(イムラン)を通常、体重あたり1〜2mg/kg/日使用します。最近は、メソトレキサートの間歇投与、ミゾリビン(ブレディニン)を使用する例も稀にみられます。治療に抵抗性の場合は、エンドキサンのパルス療法(大量点滴静注療法)を行う場合もあります。

2)副腎皮質ステロイド剤
通常プレドニンの30〜60mg/日大量投与を施行します。治療抵抗性の場合は、ステロイドパルス療法(大量点滴静注療法)を行う場合もあります。

普通は上にあげた免疫抑制剤と副腎皮質ステロイド剤を併用して1ヶ月から2ヶ月大量に投与し、以降徐々に病気の活動性および、血液中のC(PR-3)ANCAの値の推移をみながら、徐々に減量していきます。病気が落ち着いた状態(寛解)になったら、使用している免疫抑制療法を維持し、病気がぶり返さ(再発)ないように長期間(6ヶ月〜5年位)慎重に経過を観察することが必要です。

また、この病気は上気道、肺に二次感染を起こしやすいので、必要によりST合剤(バクタ)の内服、鼻腔、咽頭ネブライザーなどにより細菌感染症に対する対策を十分に行うことも大切です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
病早期にこの病気を診断して、病気による臓器病変の拡がりの少ないうちに、病型別に免疫抑制療法による薬物療法を行うと、病気が完全に落ち着く(寛解)例もみられます。しかし、あまり早く治療を中止すると病気がぶり返す(再発)例もあり、長期間の専門医による経験観察が必要です。この際、この病気の活動を知るめやすとして、血液中のC(PR-3)ANCAの値の推移は、参考になります。一方、進行した例では免疫抑制療法による治療効果が乏しく、腎不全のために血液透析・腹膜灌流の導入を余儀なくされたり、慢性呼吸不全に陥る例もみられます。この病気自身で亡くなられる方は少ないのですが、敗血症や肺感染症、呼吸不全などが原因で亡くなられる方がいらっしゃいます。また、全身症状の落ち着いた後に、鞍鼻や視力障害などの後遺症が残る方もあります。しかし、最近早期に診断して、早期に治療を開始する例が増えるに従い、患者さんの予後は改善してきています。

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