難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

皮膚筋炎及び多発性筋炎/特定疾患情報(公費負担)

認定基準診断・治療診断

1. 多発性筋炎・皮膚筋炎とは
多発性筋炎は筋肉の障害(炎症・変性)により、力が入らなくなったり、疲れやすくなったり、筋肉が痛くなったりすることを基本的な症状とする病気です。また、特徴的な皮膚症状{ゴットロン徴候(手背側の手・指の関節表面の皮が剥けた紫紅色の皮疹)やヘリオトロープ疹(眼瞼部の腫れぼったい紫紅色の皮疹)など}を伴う場合には、皮膚筋炎と呼ばれます。本症は、1863年Wagner がそれまで両上肢の骨膜炎と診断されていた女性の患者さんを検討して、「風邪、梅毒、外傷、などの原因を持たない炎症性筋疾患」であることを見い出したのが最初です。また、Umverrichtは、本症に特徴的な発疹を伴うことが多いことに気づき、皮膚筋炎という病名を提唱しました。しかし、この皮膚症状の有無で筋病変の特徴に差がないため、多発性筋炎・皮膚筋炎の名称で同一疾患として扱われています。その後、本症は強皮症(全身性硬化症)、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群など他の膠原病{体のいたるところの結合組織(いろいろな組織を結び付けているもの)や血管に炎症・変性を起こし、いろいろな臓器に障害をきたす病気}を合併したり、血管の炎症が小児例に見られたり悪性腫瘢√ケ例が成人例に見い出されたり、必ずしもその病像(症状、検査所見など)が一定でないことが明らかになってきました。

多発性筋炎は当初筋肉(骨格筋)だけが障害される疾患と考えられていましたが、肺、心臓、関節、消化管、などの他の臓器障害も合併することがあり、膠原病や自己免疫疾患{自分の身体に対する抗体などを持ち、免疫のアンバランスがその病因と考えられる疾患}の一つに分類されています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
発性筋炎・皮膚筋炎は比較的稀な疾患で、あまり正確にどの位の患者さんがいるのかはわかっていません。日本では、全国疫学調査の結果、1991年の年間推計受療患者数は、多発性筋炎3,000名、皮膚筋炎3,000名でした。年間発病率は人口10万あたり0.2−0.5人、有病率は人口10万あたり約6人(米国における調査では年間100万あたり約5−10人、英国北部での調査では約2.3人)と推定されています。各種調査での発病率・有病率は年々増加傾向にありますが、これは治療法の進歩などによりこの病気で亡くなる患者さんが減少したことに加え、病気に対する知識・情報が高まってきたこと、筋肉の炎症の程度を測定する検査法の進歩により、診断されやすくなったことが関係していると思われます。

3. この病気はどのような人に多いのですか
男女比
多発性筋炎も他の膠原病と同様に、女性の患者さんが多いことがわかっています。統計では男女比率が米国では1:5、我が国では1:2とされています。しかし、小児例では男女差はほとんど認められません。

好発年齢
多発性筋炎は乳幼児から老人まで全ての年代に見られますが、その好発年齢は小児期(5−14歳)に小さなピークと成人期(35−64歳)に大きなピークを持つ2峰性分布を示します。小児期では皮膚筋炎が皮膚症状のない多発性筋炎より多く、成人期では逆に多発性筋炎が多いと報告されています。このことは、小児期と成人期の多発性筋炎の病因の違いがあることを示しています。

また、地理的分布では差が見られませんが、人種については黒人が白人より発症率が高いという報告があります。

4. この病気の原因はわかっているのですか
世界中で数多くの研究が行われていますが、残念ながら、現在のところ未だその原因はわかっていません。免疫の異常(自己免疫異常=自分の身体を細菌やウイルスなどから守る免疫のバランスがくずれて、健康人では認められない、自分の身体に対する抗体などを持つ異常)、ウイルスなどの感染、悪性腫瘍、薬剤の影響、遺伝的要因などが考えられていますが、いまだに確定されていません。多発性筋炎・皮膚筋炎では、他の自己免疫疾患{自分の身体に対する抗体などを持ち、免疫のアンバランスがその病因と考えられる疾患}と合併すること、自己抗体{自分の身体に対する抗体}などを持つこと、自己免疫異常を抑制する薬(副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制薬)で病状が改善することなどから、自己免疫疾患と考えられてきました。しかし、ターゲットとなる病気の原因物質は見つけられていません。最近、免疫異常を起こす引き金として、ウイルス感染が注目されていますが、多発性筋炎の原因ウイルスは今のところ同定されてはいません。

5. この病気は遺伝するのですか
多発性筋炎・皮膚筋炎の病因は未だ不明ですが、原因不明の他の病気と同様に遺伝的要因も考えられてきました。人種により発症率が異なったり、最近、遺伝因子を表わす白血球の型(Human Leukocyte Antigen:HLA)との関連が研究され、多発性筋炎・皮膚筋炎と相関するHLAの報告もありますが、確定されてはいません。また、多発性筋炎・皮膚筋炎の兄弟間、親子間での発症の報告はありますが、一般的には家族内発症(遺伝関係)は稀です。むしろ家族歴のないことが他の代表的な筋疾患(筋肉を障害する病気)である、進行性筋ジストロフィーなどとの重要な鑑別点の一つと考えられています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

図参照

筋肉の障害による症状(筋力低下)がほとんどの患者さんに認められます。さらに、筋肉以外の症状(内臓などの障害)も認めることがあります。これらの症状は決して全ての症状が起こるのではなく、患者さん一人一人によって症状も障害される臓器も異なります。全く内臓が障害されない、軽症の患者さんもいます。

「筋肉の症状」
大部分の患者さんで、筋肉が障害され、疲れやすくなったり、力が入らなくなったり(筋力低下)します。しかし、緩徐に発症することが多く、はじめは自覚症状のない患者さんもいます。特に、躯幹に近い筋肉が障害されやすいとされています。たとえば、下肢の筋力低下により-「しゃがんだ姿勢から立ち上がるのが困難となる」「風呂に出入りするのがつらい」「バスに乗る時、足が上りにくい」「階段が昇りにくい」などの症状、上肢の筋力低下により-「洗濯物を物干しにかけるのがつらい」「髪がとかせない」「高いところの物をとれない」「手に持ったものが普段より重く感じる」などの症状、頚の筋肉の障害により-「頭を枕から持ち上げられない」などの症状を認めます。物を飲み込むのに必要な筋肉(後咽頭筋)、言葉を話すのに必要な筋肉(構語筋)の障害により-物が飲み込みにくくなったり、鼻声になったりもします。さらに筋障害が強くなりますと、立てなくなったり、ベッド上の生活,車椅子の使用を強いられることもあります。また、筋肉痛を認める場合もあります。自覚的になくても、筋肉を握ったりすると痛む患者さんもいます。

「筋肉以外の症状」
(a)皮膚症状
両側あるいは片側の眼瞼部の紫紅色の腫れぼったい皮疹(ヘリオトロープ疹)、手指関節背面の皮が剥けた紫紅色の皮疹(ゴットロン徴候)、肘や膝などの関節の背面の少し隆起した紫紅色の皮疹が皮膚筋炎に特徴的とされ、これらの皮疹をもっている場合には、皮膚筋炎と診断されます。

(b)関節症状
約30%の患者さんに関節痛・関節炎が認められます。しかし、腫れたり、赤くなったりせず、持続時間も短く、軽症のことが多いと言われています。慢性関節リウマチのように、関節が破壊されたり、変形したりすることは稀です。

(c)レイノー現象(寒冷時に手指が白くなり、ジンジンしびれたりする症状)
約20−30%の患者さんで見られます。しかし、強皮症の患者さんと違い、軽症のことが多いようです。

(d)呼吸器症状
肺に炎症が起こり、咳や息切れ、呼吸困難などの症状を認めることがあります。この肺の炎症は細菌感染などで起こる肺炎とは異なり、間質性肺炎と呼ばれています。胸部レントゲン検査、胸部CT検査で診断されますが、約30−40%に合併しますので、定期的にチェックすることが大切です。

(e)心症状
心臓の筋肉が障害され、不整脈を起こしたり、心臓の力が弱ったりすることがあります。

(f)全身症状
その他の膠原病と同様に、発熱(しかし、高熱が出ることはめったにありません)、全身倦怠感、食欲不振、体重減少などを認めることがあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
一般的治療
発症した時(急性期)にはできるだけ安静にし、筋肉に負担をかけないようにすることが大切です。障害された筋肉の温湿布は筋痛の緩和に有効といわれています。身体のこわばり、動作の不自由さ・筋力の回復のために、リハビリテーション、理学療法は重要です。しかし、何時から開始し、どの程度を行うかは難しい問題で、患者さんの病状により様々です。一般的に筋原性酵素(CK値)が薬物療法により低下し正常値に近くなり、筋力が順調に回復していることを確認してから、徐々に開始します。本症では身体の蛋白の分解が亢進していますので、食事は高蛋白、高カロリー食で消化のよいものをとるようにします。

薬物療法
本症の治療は薬物療法が中心となります。主に副腎皮質ステロイド剤(ステロイド)が使用され、効果的です。一般に大量ステロイド療法(体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日)が4−6週間行われ、筋力の回復、検査所見の改善を見ながらゆっくりと(数カ月かけて)、最小必要量(維持量)まで減量されます。急速な減量は再発をきたすことがありますので、慎むべきです。一般に筋力の回復は発病後の治療開始が早いものほど良いとされています。しかし、ステロイドが無効であったり、薬の副作用が著しく出てしまう場合には、免疫抑制剤が投与されることがあります。また、最近これらの治療でも効果が得られない時、γグロブリンの静脈内注射療法の有効な患者さんが報告されていますが、さらに今後の検討が必要です。

副腎皮質ステロイド剤(ステロイド)
副腎皮質から分泌されるホルモンを、化学的に合成して作った薬剤で、その代表的なものがプレドニゾロンです。(私たちの体内では一日5mgのプレドニゾロンに相当する副腎皮質ホルモンが作られています。)炎症を抑える作用が強く、本症の原因と考えられている自己免疫異常も抑え、効果をもたらすと考えられています。このように有効で、多発性筋炎の治療に欠かせない薬剤ですが、副作用(感染症の合併、消化性潰瘍、糖尿病、骨粗鬆症、肥満、多毛、ニキビ、脱力、興奮・抑うつなどの精神症状など)を認めることもあり、慎重な投薬が必要です。

免疫抑制剤
副腎皮質ステロイド剤の効果が不十分であったり、副作用が出現した場合に、免疫抑制剤が使用されることがあります。メトトレキサート(メソトレキセート)、アザチオプリン(イムラン)、シクロホスファミド(エンドキサン)などです。いずれも、原則的にステロイド療法に併用されます。消化器症状、肺線維症、造血障害、肝障害などの副作用に注意して、定期的に血液検査を行う必要があります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
筋炎(筋肉症状)に対するステロイド療法の効果は大多数(75-85%)の患者さんで見られ、日常生活が可能となります。

生命予後は、悪性腫瘍、感染症、心肺合併症{物を飲み込む(嚥下)運動の障害 による誤嚥性肺炎、呼吸筋障害による呼吸不全、心筋障害による心不全など}により左右されます。悪性腫瘍の合併のないものは生命予後は比較的良好で、5年生存率90%、10年生存率80%とされています。しかし,その経過は個々の患者さんにより異なります。現在、一番問題となっているのが肺に炎症を起こし呼吸困難をきたす間質性肺炎、とくにその急激に進行するタイプ(急性間質性肺炎)です。残念ながら、その原因は未だ不明で、治療法も確立されていません。この病態の解明と、有効な治療法の開発が膠原病の治療の中でも最も大きな課題となっています。


情報提供者
研究班名 免疫疾患調査研究班(自己免疫疾患)
情報更新日 平成14年6月1日

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