第四章・遥か一万年の彼方
Ⅲ
移民局では大騒動が起きていた。
「局長、大変です! ミュータント族に移民船が乗っ取られて宇宙へ逃げられまし
た!」
「なんだと!」
「我々が移民に動くのは当分先のことだと、移民船の管理を疎かにしていたのが徒
(あだ)になりました」
「手薄なところをやられたということか……」
「しかしどうやって銃火器類を手に入れたのでしょうか?」
「まあ、闇取引とかやってた奴らだからな。何とでもなるだろうさ」
「移民船がなくなったのは参りましたね。船の設計図とかも、移民船のコンピュー
ターに記録されていましたから。我々が宇宙に出るには、一から設計をやり直さな
くてはなりません」
「どうせ百年やそこらで、宇宙に行けるような人口じゃないからな。人口を増やし
つつ、地道にペンシルロケットからでも研究していけばいいさ」
「ペンシルロケットですか……V2じゃないんですね」
「宇宙開発予算がないのだよ。今は惑星開拓の方が優先だからな」
「しかたありませんね……」
「ミュータント族だって、新たなる星を見つけられるかさえも未知数だしな。奴ら
が襲い掛かってくるのは、はるか未来のことだろう」
「そのミュータント族は、総勢二百名ほどが移民船に乗り込んだと思われます」
「たったそれだけの人数で、新たなる惑星を求めて旅立ったということなのか?」
「それだけで、国家を起こすことができるのかな?」
「クローニングでもやってどんどん人口増やしていけば何とかなるんじゃないです
か?」
「それで国家を形成できてどうするかな……。宇宙船で乗り込んできて我々の国家
と戦争でもやるか?」
「全員虐げられた恨みを持っていますからね。あり得るんじゃないですか?」
「今後、ミュータント族との戦いに備えて、軍事面を増強させた方がいいのでは?」
「設計図はないが、戦艦などの開発設計を始めるとしよう。何とかなるだろう」
惑星アルデノンは、一万年前の新石器時代。
部落というものが形成されたばかりの発展途上国でしかなかった。
まずは生きていくだけで精一杯で、戦艦開発のこと、ミュータント族のこと、そ
して宇宙のことも次第に忘れられていった。
最初の移民達は次々とこの世を去り、アルデノン生まれ育ちの住民にとって代わ
っていく。
アレックス・ランドールも既にこの世にいない。
五百年後、大気組成のうち酸素11%、二酸化炭素9%となる。
村や町が増え人々の数が増えるに連れて、人々の間に葛藤も増えてゆく。
・コーカソイド(白人種/アーリア、セム、ハム)
・モンゴロイド(黄色人種/漢民族、チベット、ポリネシアなど)
・ネグロイド(黒人種/メラノ・アフリカ、エチオピア、ネグリノ)
などの肌色・民族による違い。
キリスト教・イスラム教などの宗教対立も起こっていた。
多種多様の民族がそれぞれコミュニティを作り、やがて独立国家を形成しはじめ
た。
農耕を営む者の中から、小作と農場主という主従関係が生まれ、さらに荘園主へ
と発展して財を蓄える者が出て、やがて豪族を名乗る身分となってゆく。豪族たち
は、領地を巡って奪い合いの戦争を繰り広げ、さらに豪族を取りまとめて王と成す
者も現れた。
王宮を作り上げ、自分に媚びへつらう者達を貴族として囲い込んだ。
幾度とない戦争・略奪を繰り返しながらも、世界は次第にまとまっていった。
かつての地球人類が一万年掛けて辿った歴史を、再び繰り返すこととなったのだ。
ちなみに地球人口が、一万年前の新石器時代500万人程度から、一億人を越えた
のは西暦元年頃、そして十億人となったのが西暦1800年代である。その後爆発的な
人口増加が始まる。
五千年後、大気組成のうち酸素19%、二酸化炭素1%
ここに至って、初めて宇宙服なしで外を自由に歩けるようになった。
総人口が一億人を超えて、有人宇宙船が宇宙に飛び立つ。
これをもって宇宙世紀元年と呼ぶようになった。
宇宙船が飛べば、次には宇宙ステーションである。
宇宙船で資材を運び、ステーションを組み立ててゆく。
静止軌道上に、地上に繋がる軌道エレベーターが造られ、ステーションはさらに
発展してゆく。
天文台、造船所、宇宙港など再び宇宙へ飛び出す準備が着々と進んでいく。
探索隊が結成されて、惑星探査へと飛び出した。